プロローグ
どうも、いのりです。
今日から連載を初めていきます。
どうか暖かい目で見てください。
応援お願いします!
とある夏の日の夜。
私はアスト王国にきて初めて体験する一人の夜。
初めて一人の布団。いつも隣には彼がいたのに。
寂しさに耐えかねて、ベランダに飛び出し、星を眺めていた。
その日、世界で初めて……。
後世において〈黙示録〉と呼ばれる異常気象が観測された……。
世界の空は真っ白に染まり……ただ虚空を示した。
人びとは音もなく、ただ白に塗りつぶされていく空を見上げた。
アスト王国の人々の生活に支障はない。
明るい夜に戸惑うが、もう慣れた。
眠れない。そう文句を言う私。
恐ろしいほどに白い空があるだけで、人も家畜も……、私も今の生活に変化はない。
少なくとも、白い空のせいで起こった変化はなかった。
私の愛する人は戦争にいっている。
人族と魔族の戦争に。
魔族である私は少し心苦しくなってしまう。
ついこの間プロポーズしたばかりだ。
その白い空を見ながら私は顔を赤くしている。
それはきっと風も寒さも感じない、この不思議な天気のせいだと誤魔化したい。
彼には「もう少し待ってくれ」と言われてしまったが、彼の顔は嘘偽りなく喜んでくれていた。
私を魔族だと知って笑っていてくれた。
ライバルもいたが、最後は心を押し殺して、私を応援して押し出してくれた。
どのくらい待てばいいのか分からないが、結婚も時間の問題だろう。そう思うと今後の生活を考えてニヤけてしまう。
これからどんな甘い人生が待っているのか。
相手はフリュウさん。
フリュウさんは私の救世主だ。
私が子供のころ、山道で死にかけてるのを助けてくれた。正真正銘の白馬の王子様なのだ。
あの人が死ぬはずがない。
絶対にあり得ない。
今はそう自分に言い聞かせて、彼が帰ってくるのを待つことにする。
今こそ、落ち着いてるものの、戦争にいくと言われた時はもう反対した。
彼が、戦争に行くのは俺の義務なんだ、そう言ったときは「なら私もついていきます」そう言った。
勝てるはずないのに、彼を力ずくで止めようと剣を手にした。
私の振り回す、彼を必死に真似た剣は、一瞬で弾かれて……、抱かれて……、抵抗を断念させられた。
人は愛する人を1度もってしまうと、その人のいない人生を考えて絶望する瞬間がある。
その時はどれだけ安全で、彼の実力を知っているのに、最悪の未来ばかり頭に浮かんで涙ながらに抗議した。
私の渾身の涙を彼はお見通しだったのだろう。
同じ家に住む他の三人の言葉も届かなかったのだから、フリュウさんの譲れないところだったのだろう。
「さすがに、信頼してないとか思われちゃったかな…」
彼がいない世界は嫌だ。でも、彼がいながら拒絶されるのはもっと嫌だ。
頭を撫でられながら「信じてくれよ」とか好きな人に言われたら、言い返せる女性はいないと思っている。
結局、彼に言いくるめられてしまうのだ。
彼はアスト王国の守護兵団の実質的なトップ。
さらに人ではない……。
魔族でもない……。
彼の昔の種族は〈士族〉。
今の彼は、この世界の理を無視した〈神〉様だった。
士族は人族と同じ体のつくりをしているが、あり得ないくらい強い。
子供ですら、生まれて数年すれば人族の上級剣士を越えてしまう。
この国では士族は珍しい。
ひとつの家系しか存在しない。
だが、士族だったと言われても驚くことはなかった。
驚いたのは、本気で神だと言われた時……。
真剣な顔で「俺は神で不老なんだ、結婚しても君が悲しむだけだ」と言われてしまった。
私が子供のころに「俺は人をやめてるからな」と言われたことがあったが、まさか本当だったとは。
プロポーズした後に「俺は〈破壊神〉と契約してるんだ」と言われた。
〈破壊神オニマル〉はこの世界の子供ならば、一度は耳にするお伽噺に出てくる悪魔の名前。
それだけじゃなく「レイティアも、ミコトも、ムラマサも神だよ」と言われた。
私を育ててくれた四人は人間ではなかった。それをその時初めて知った。
彼は不老だ。
神となってから彼の時間はとまっている。
だから、もう少し待ってくれと言われたのかもしれない。
もし私だけが老いていったら。
もし老いていく私を愛することが出来なくなったら。
私だけ老いて、彼のために尽くせなくなってしまう。
彼だけを悲しませてしまう。
同じように時を過ごせないからこそ、私に考える時間を与えたかったのかもしれない。
だが、私は考えを改めるつもりはない。
フリュウさんには悪いけど、老いていく私を愛して欲しい。
ワガママなのは分かってる。でもここまできて引き下がれない。
今さら新しい心の準備をしろなんて、もっと早く気づけたはずなのに。
「私が鈍感なだけだったかな」
思い返せば、彼らは歳をとらなかった。成長していなかった。
だが、身近な人の体の変化には気づかないのが普通だ、毎日見ているのだから、少しの変化くらい見逃してしまう。そういうたぐいだと本気で思っていた。
私自身が、魔族として人族よりも長寿だ。そして成長が遅い。
魔族の寿命は人族の倍以上ある、そして成長にかかる時間も倍以上必要なのだから。
私は変化しない白い空に見飽きて、部屋に戻る。
彼とこの王国に来てからずっと二人で眠った部屋、彼が隣にいないだけでこんなに広いとは、新しい発見をした。
その発見はできたら一生見つけたくなかった。
いつも感じる優しい視線を感じることは出来ないのが不安だった。
普段、彼がいるおかげで掛け布団が足りなくて、少し体が出てしまう。
それを理由に彼に抱きついて寄り添おうとするのだが、今日は布団が余ってしまった。
暖かさは十分感じている。
だが、何か足りない。
フリュウさん力が足りない。
「おやすみフリュウさん」
私はフリュウさんが使っている枕を抱き締めた。
少しだけ安心できる、彼を抱いてる、そんな気にさせてくれるから抱き枕という物が売れるのだろう。
どこかの戦場にいる愛する彼の名前を呟いて眠りについた。
起きたら彼が横にいることを信じて。
~~
朝になった。
彼は帰ってこなかった。
朝起きて隣には誰もいない。
「今日も魔族と戦ってるんだよね……」
彼が戦争に出ていって何回目の朝だろうか。もう覚えていない。
毎日彼がいる夢を見ていたのに……、今日は見なかった。
不安だ。
不安を感じながら、赤い日常用のドレスに着替える。
露出は少なく、ヒラヒラも少ない動きやすいドレスだが、フリュウさんは気に入ってくれている。
帰ってきたときにすぐ最高の出迎えを出来るように。
そう決心して三人の神がいるリビングに向かう。
「おはよー!」
もしかしたらフリュウさんが帰ってきていて食事をしているかもしれない。
私は少し期待をして元気一杯に挨拶する。
「……ああ」
「……おはよう」
「……」
あれ?
空気が重いぞ。全員涙を浮かべている。しかもレイティアは完全に脱力している。
もしや悪い予感が的中したのかと思うと視界が暗くなる。
体から力が抜けていった。
それでも必死に立っている、まだ決まってないんだから。
「マティルダ」
「……はい」
ムラマサが重い国をあけた。
元気をだして私!
まだ希望がある!
ムラマサ!お願いします、いい知らせを!
薄々気づいていた。
どんなに願ってもこの空気を感じれば嫌でも理解させられる。
フリュウさんを誰が口説き落とせるか勝負してたレイティアとミコトの目に光がない。
無表情に涙を流している。
人って本当に受け入れがたいことが起こると感情すらだせないんだなと思っていると、私の頬にも冷たいものが走った。
ああぁぁ……、私もきっと二人と同じ目をしてるに違いない。
「心して聞いてください」
やめて!ムラマサ……、生存本能が私を守ろうとした。
「フリュウさんが」
体の機能が停止していくのが分かる……、だんだんムラマサの言葉が遠くなっている。
視界が暗くなっていく。
体の力が完全になくなって崩れ落ちる。
膝でひっかかって、すぐにペシャリと、糸が切れ壊れた木偶人形のように座った。
「死んだそうです……」
目の前に死神が現れたら、きっとこんな気分なんだろうな。
私のすべてを救ってくれた救世主を私は救えなかった。尽くすことすら許されなかった。幸せにさせることさえ叶わなかった。
意識が可能な限り低下した。
この言葉をまともな私が聞いたらきっと壊れていた。
持てる魔力すべてを使ってこの王国に八つ当たりをしていたはずだ。
それを察した意識が言葉を理解させないようにした。
絶望のみを感じながら、私の意識は闇にのまれた。
~~
誰がどうやって、フリュウさんの死亡を確認したのか。
同じ戦場に立った兵団のメンバーに決まっている。
誰がどうやって、無敵のフリュウさんを殺したのか。
フリュウさんは優しいから、きっと私以外の誰かを守ったんだ。
そもそも戦争なんてなかったんだ。
そんなはずない、これは〈4の魔王〉の発動した魔術、〈黄泉軍〉との戦争だと聞いた。私の聞き間違いではないのだ。
きっと三人で私をからかってるんだ、そうに違いない。もうすぐ「ドッキリ大成功」とか言われんだ。
レイティアやミコトだけならそう思える、あの生真面目なムラマサまでそんなことに参加すると思えない。それに演技であんな地獄の淵を眺めてるような顔をできるはずない。
自問自答を繰り返す。
どんな質問にも私は答えてしまえる。
そのくらいフリュウさんもその仲間は強くて、でも近くで見たら欠点だらけだった。
「マティルダ……」
「……ムラマサ」
ムラマサが無表情を装って部屋に入ってくる。
どうやら気絶した私は部屋の布団に寝かされたらしい。
ムラマサさんは私の感情を加速させないように我慢しているようだけど、顔のあちこちに悲しみを感じられる。
「レイティアからの伝言です」
「はい……」
どうでもよかった。
どうせもうすぐ自殺するんだ。
三人の育ての親には悪いけど、先立つ不幸を許してください。
聞き流すつもりだった。
どうせ死なないでとか、自殺をとめる言葉だと思った。
はっきり言って私はフリュウさんに依存していた。あの人がいない世界にいたいと思えないくらいに。
「フリュウさんを生き返らせます」
「っ!?」
聞き流しても、体が反応した。
どうしてそんなことが出来るのか、それは聞かない。
あの〈創世神〉もこの世の理を無視した神なんだから、きっとすごい魔術を使うんだ。
一気に目に光が差し込んだ。
私の世界が色付いていく。
「本当ですか……」
「本当です」
私の変化に安心したのか、ムラマサから悲しみの感情が消えた。
どうやら、ムラマサから感じられた悲しみは私を見てのことだったらしい。
地獄の淵を見ていた私に同情してのことらしい。
さすがレイティア!
心の底から感謝する。
「この話を誰かに聞かれてはまずい、場所を変えますよ」
「え……はい」
この家でも四人以外に聞く人はいないと思うが、私に決定権はない。
人を甦らせる、まさしく神技だ。
私は体が軽くなっていくのを感じて起き上がり、部屋を出ていくムラマサについていく。
家を出たとき、ムラマサに声をかけられた。
珍しく申し訳なさそうな顔をしていた。
どうしたのか聞くと、さらにムラマサは顔をしかめた。
ムラマサは「ちょっとだけ、フリュウさん以外の男性に抱かれるのを我慢してください」と言って私を抱き抱えた。
「え?」
理解が追い付かなかった。
魔族の私が抵抗しても、神化したムラマサはびくともしない。
背中から漆黒の羽、体に輪郭はない、まさに〈幻翼神〉となったムラマサに抱かれて一緒に空を飛んだ。
どうやらこの状態のムラマサは他人からは認識されないようだ。
こんな姿を王国の人に目撃されていたら羞恥で自殺していたかもしれない。
さすがに自殺は言いすぎたが、そうとうな辱しめになっていたはずだ。
私は何日気絶していたのか……、そういえば聞いていなかった。
ムラマサに抱かれたまま……、何時間たっただろうか。
久しぶりの男性の体は軽かった、ムラマサだからこそだと思うが、男性の体ってこんなに何も感じないものだっただろうか。
やっぱり私はフリュウさんに依存していると思い直される。
海を越えた。
初めて新しい大地に立つ。
魔大陸には何度か行ったことがあるが、あれは地続きになっている。
魔大陸と言っても魔族が住んでるだけで人族が多くすむ大陸と変わらない。国境のようなものだ。
「ここは?」
ムラマサはどこかの屋敷の前に優しく下ろしてくれた。
久しぶりの大地、少しバランスを崩してよろめく。
「和国……、フリュウさんの故郷です」
「ここが?」
山奥の廃墟だった。
周りには同じよう廃墟がいくつかある、大きな塀に囲まれた小さな集落、その中で最も大きな廃墟がフリュウさんの家らしい。
和国は士族が多く住む小さな大陸。だが魔族も人族も他の種族も手を出せないでいる。
今の和国は鎖国という政策をとっている。ムラマサの護衛がなければ今頃八つ裂きにされていたかもしれない。
士族に襲われては私ではどうしようもない。めったなことで怒らない種族だと聞いているが。
「目的はこっちです」
暗い森の中、ムラマサについていく。
少し歩いたら小さな神社に着いた。
フリュウさんの集落からほど近い神社、この集落の守り神なのだろうか。
ムラマサについて神社の中に入っていく。
「あら?遅かったねー」
「ムラマサ、事情話した?」
レイティアとミコトがいた。どうやら私を待っていたらしい。
待ちきれない、といった感じでレイティアは足踏みしている。
「いや……、そんな雰囲気じゃなくてだな」
「ムラマサに襲われるかと思いましたよ」
「……そんなことはっ」
たしかに事情を話すには雰囲気があり得なさすぎた。
私もムラマサに抱かれて身動ぎひとつ出来ない状況、ムラマサも私の心境を察していたらしい、完全なる無言で視線すらあわせてくれなかった。
「よう」
「へ?」
壺から誰かが出てきた。
角をはやした赤い鬼のお面をつけた少年が。
腰には二本の剣をつけている。フリュウさんのスタイルにそっくりだ。
「はじめまして……、になるよな。
俺がオニマルだ」
ずっと隣にいたのに、顔を知らない。
フリュウさんの体内にずっといたのだから仕方ないだろう。
オニマルさんは私のほうに歩いてくる。
体の年齢は十代前半といったところか、背は私より低いのにものすごい圧力を感じる。
「フリュウを生き返らせる……それをお前に知らせておくべきだと思ってな」
「……っ」
息を呑む。
フリュウさんとまた会えるなら、私はどんなことも出来る。
でも、あんまり辛いのはやめてください。
フリュウさんが私を愛せない体になってるとかはやめてほしい。
「時を巻き戻す……、俺らには〈4の魔王〉みたいに死者を操ることは出来んからな、これしかない」
「当然、私たちの時間だけじゃなく、世界全部の時間が巻き戻る」
前半はオニマルさん、後半はレイティアに言われた。
神というのは化物らしい。
こんなことを平然と言ってしまうのだから。
軽く恐怖を覚えてしまう、人々はこういう神に振り回されながら生きていくことになっているのだから。
「記憶は……、事情を知っている者は残るが、知らないと時間と同時に消えていく、フリュウも当然、記憶はなくなる」
「……大丈夫です!」
「そして時間が巻き戻ってるんだ、再びマティルダを愛するとは限らない」
「っ……」
これだ。これが代償なのか。
私を再び選んでくれるか分からない、もし私以外の誰かを選ぶようなことになれば、事情を知ってるからこそ許せないかもしれない。
やはり、最悪の未来を考えてしまう、涙が出そうになる。
「……大丈夫です!」
フリュウさんが生き返るなら、こんなの代償とは言わない。
「またっ……フリュウさんを惚れさせればいいんだから!」
私の全力の気持ちを伝えた。
オニマルさんはうなずいてくれた。
レイティアもミコトもムラマサも、うなずいてくれた。
「ならレイティア頼む」
「これ使うとすっごい力使うんだから、フリュウくんのためならいいけどね」
レイティアは両手を前に出して何かを唱え始めた。
レイティアの両手に光が集まって、小さくなっていく。
「〈時の逆流〉!」
誰も気づかない神のイタズラ。
世界は神に振り回される運命なのだ。
レイティアの最大の魔術により、全ての時間が巻き戻る。
そんな中、すべてを知っていて、時の流れを感じることが出来る私。
今度は失敗しない、愛する人は私が守って見せる。
二回目なら、テストの答えが分かってるようなものだ、間違えたりしない!
私の決意が終わると同時に、すべての光が収まった。
まったく違う人生が幕をあける。
文字数を見ながらの更新にするので、本当に時間がある日、もしくは何日かかけて更新するつもりです。
プロローグこれだけ書くために三日間コツコツ忙しい中で我慢できずに書いてたくらいなので……ペースは期待しないでください。
では、お疲れさまです!
補足説明。
「4の魔王」……魔界を住みかにする魔王の一人。死を司る。
人物を軽く紹介。
*リスポーン、時間を巻き戻して過去になった未来を「前世」とします。
フリュウ
・破壊神と契約した士族。身体年齢は17歳から変わってない。1300年以上生きている。前世はマティルダの婚約者、戦争で死亡した。チート能力「拒絶」を持つ。
マティルダ
・赤髪の魔族。人で例えると9歳ほどの容姿をしている。前世はフリュウの婚約者。
レイティア
・金髪女神の創世神。20歳前半の容姿をしている。時を巻き戻せる。
ミコト
・黒髪和風の龍玉神。20歳前半の容姿をしている。巫女服を常に着用。
ムラマサ
・銀髪男性ぼさぼさ頭の幻翼神。20歳前半の容姿をしている。三人の恋を陰ながらサポートする。