狐の嫁入り
ある1つの話をしよう。
その日は嫌な天気だった。
太陽は顔を覗かせているくせに、雨がかなり降っていた。
バイトで疲れた身体に鞭打ち、何とか自宅まで辿り着こうとした時。
道端にぼろっちい段ボール箱が置いてあった。
箱には、「送ってください」。
訳が分からないが、中に居たのは、小さな幼女だった。
ただ1つ、違う点を挙げるなら、まるで狐のような耳の髪形をしていた所か。
俺は無視することも出来ず、その箱を抱え、家に帰った。
年齢は恐らく3歳前後。
何とか会話が成り立つが、何故あそこに居たのかは、分からないらしい。
そして、彼女が入っていた段ボール箱……。
あの箱は、望むものがいくらでも出てくる、不思議な箱だという。
試しにと出してみたが、替えの服やら、食事、ありとあらゆるものが面白いほど出てくる。
…少し窓の外が騒がしい。
嫌な予感がした俺は、彼女を押し入れに隠し、大人しく座っていた。
それから、5分後。
誰かがドアを激しく叩く音。
そこには、黒いスーツにサングラスをかけた男達が挨拶も無しに入ってきた。
「ちょっと、いきなりなんなっ………!?」
明らかにリーダーだと分かる男は、口を開くなり、こう言い放った。
「宇宙人、匿ってますよねぇ?あれ、私たちに必要なんですよぉ。どこでも自由に雨を降らせる珍しい種族でねぇ、昨日脱走したんですよ。ちょっとばかり協力していただけませんかぁ?」
俺の本能は警鐘を鳴らしている。
「すいません、何の根拠もなく入ってこられてそれは少し筋が通っていないんじゃ無いんでしょうか?この後またバイトなんで、出ていってくださいませんか?」
「…………そうですねぇ、ま、確実な証拠を揃えてまた明日伺います。」
………助かった。だが、これからどうするか…………。
気になるのは、あの箱だ。
……………!
「分かった!」
俺は彼女を椅子に座らせ、こう言った。
「あの箱は何でも届けてくれる=何でも届けられるんだ、だから、お前を親のところに返してやる。」
珍しく、彼女が反論した。
「じゃあ、約束。」
「ああ、いいぞ?」
「また、今度、会って?」
「………分かった。まぁ、お前が良い年になるまで待たないといけないけどな。」
軽く笑いながら彼女に話しかけた。
「ん。じゃあ、その時、ね?」
「そうだな。またその時まで。」
俺は彼女を段ボールに入れ、こう願った。
(彼女の母親の元へ……!)
翌日。
例のスーツの男は来ても何も出来ず、帰っていった。
そこから、さらに一週間。
晴れた空に似合わず、かなり雨が降っている帰り道。
道端に女性が立っていた。
待ち人と思い、すれ違おうとした時。
「もうお忘れですか?」
彼女は笑いながら話しかけてきた。
「ま、まさか………!?」
「えぇ、お久しぶりです。」
自分の星に戻った後、段ボールにある願い事をしながら入ったらしい。
(あの人に結ばれる年になって会えますように。)
そして、彼女との新婚生活は始まった。
ちなみに、嫁入り道具として、あの段ボール箱20箱らしい。
他の誰よりも長生きしている彼女の周りには、老いても子供達が集まっていた。
彼女は決まって同じ話をする。
けれど、子供達はいつ聞いても飽きない。
なぜなら、その話をする彼女の表情は、誰よりも幸せそうだから。
みかんの皮 その2様からテーマを頂き、書かせていただきました。
テーマは何か分かりましたか?
皆様の良き読書ライフが続きますように。