最後の晩餐
4話です。
新しい小説のアイデアが次から次へと出てきます。
少しずつ形に出来ていったらいいなと思います。
大きな展開があるので期待してください!
これが私の過去と手口だ。今まで20人くらいやった。自殺に追い込まれるもの。病気になって死ぬもの。或いは現実との境がなくなり、学校に槍をもって暴れ回った挙句、射殺されたものもいた。そのすべてが私にとって快感だった。
はあ……だがそろそろ手を引くべきかも知れない。雑談サイトでも数は少ないが噂を立てるものが出てきた。
最近は少し業績が落ちてきて、前のように企画を立てられなくなってきている。電車を乗り間違えたり、ぼーっとすることもしばしば。集中力も落ちて、以前のように殺人のことしか頭にない。
だが何度やめようとしても無理だった。体があの時の快感を求めるのだ。人数を増やすたびにもっと強い快感が欲しくなる。
しかし今度こそ抜けられる。アカウント削除の申請を出した。消えるのはあと24時間後、それまでに挨拶をすませて……ん? 新しいフレンド申請だ。それもプレイ時間200時間のベテランだ。こいつは既に依存症かもしれない。だったら18時間もあれば殺れる。
『最後の晩餐』にはちょうどいい。えっとユーザー名は……よし承認。フレンド同士ではチャットが出来る。これをうまく使って殺ってきた。大体の手口に共通していることは、相手を持ち上げて、落とすということだ。
あなたがいなければ、助けて、ありがとうございます、強いですね……
人には認めて貰いたいという欲求が生まれつき備わっている。それらを満たしてやれば、人は簡単に堕ちる。特にこういうベテランは助ける側に回ることがほとんどだ。だから簡単なのだ。
ちなみに私はアカウントをとっかえひっかえしている。これはそのうち2番目に弱いアカウントだ。援軍も自然に頼める。
『あの、まだ始めたばかりで弱いんですよ。どうしてもメインクエストの諸葛孔明(ハード)が倒せなくて、良かったら一緒に行ってもらえませんか?』
『いいよ。ソロでも行けるから、あんたのパーティーは適当でいいし何もしなくていいから。ただし戦利品は全部こっちに送って』
ちょろい。初見の相手なのに敬語を使わない。相手には何もさせない。対価を支払わせる。とても騙しやすい相手だ。8時間もあればいけるな。そして無事クエストクリア。持ち上げながら巣へと誘えば、ほぼ作業終了だ。
『お強いですね。ところでギルド未加入なようですが、良かったらうちのギルドに来てもらえませんか? たぶんマスターも了解してくれると思います。うちまだ弱くて困ってるんですよ。おねがいします!』
来い。
『いいよ。こんなクソゲー、もうやることないしな』
クソゲー? この私が手掛けた最高のゲームをクソゲーだと? 何も分かっちゃいない。ド素人が。
その時、私の中で何かが目を覚ました。獣か悪魔か――こいつは絶対に殺す。削除まで10時間。そうだ、会社を休もう。そうすれば10時間フルに使える。
私の中で異常な速さで計画が形づくられる。私の計画はいつでも美しく、そして完璧なのだ。
『やめないでください! 私たちはあなたの力が必要なんです!』
『はいはい、出しましたよ。マスターによろしく』
せいぜい粋がってればいいさ。あと数時間後には死んでんだからな。
ピコン。 □□さんが加入しました。
カウントダウン開始だ。今日は2回ギルド戦がある。一度目はヒーローにして、二度目は戦犯にする。初戦は5分後だ。
すぐにアカウントを切り替えマスターになる。
『ではいつも通りお願いします。□□さんは戦闘タイプで、技量もわからないので、取り敢えず私の指示通りに』
『あいよ』
鐘の音が開戦を告げる。いつも通り弱いやつを先に行かせ強いやつは様子を見て、援軍状態で落としていく。すると、
『俺行った方が良くないか? 3-c死にそうだぞ? 指示くれないと俺らは動くことも出来ない』
うるせえ。
『お気持ちは分かりますがもう少し見極めましょう。あと2分後には指示出します』
『は? そんなに待ったら負けるに決まってんだろ?』
謀反!!
画面に大きな文字が出た。
基本戦闘タイプは戦略タイプの指示通りにしか動けない。どこを攻めるのか、待機なのか、撤退なのか。だがその指示に従わないで自由に動けるようになる機能が『謀反』だ。
名前の通り自分の拠点さえも襲うことが出来るようになる。だが勝敗はその時所属していたチームの影響を受けるので、使われるのは主にリア友のチームと当たった時、或いは本当にスパイだったか。それに全員に謀反を起こしたことが伝わるため、会議にかけられ除名となるケースが多いのであまり使われない。
畜生、勝手なことを。こいつは殺せないかもしれない。殺し屋は自分に合った獲物を見つけるのが第一ステップだ。だが――
謀反!! 謀反!! 謀反!! む――
呼び水になったかのように、全員が謀反を起こした。各々好きなとこを攻めるが、こちらの拠点を襲うことは無かった。そして――
勝利!! お疲れ様でした
何!? 私の作戦は要らないというのか? 私は怒りに震え、机を叩いた。
『お前の作戦じゃ負けてたよ。V見てみるか?』
Vというのは戦闘の振り返り機能のことだ。単に振り返る以外に、コンピュータがはじき出した最も起こる可能性の高い結末を見ることも可能だ。
まさか……そんなはずがない。自分に言い聞かせるが、手は自然と震えてしまう。抑えようとすればするほど。『予想を見る』を押すと――
敗北……次に備えよう!
そんな。こいつに負けた? 涙で前がにじむ。他のメンバーも馬鹿にしているのだろう。
殺す、殺す、殺す、殺す、コロス、コロス――
私はゲームのタブを閉じ、<謳歌>の管理者ページを呼び出した。すぐに□□のIPアドレスを調べる。そこは学校だった。そうか学生か。今すぐ乗り込んで皆殺しだ。誰が死のうが構わない。私は以前購入していた、密輸されたショットガンと拳銃を一丁ずつ。そしてショットガン用の弾薬を大量に持って家を出た。
拳銃に入っている弾は一発だけだった――
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