とある廃人の話し
2話ですが、1話とはほとんど関係ありません。
ある被害者の体験を描いたものです。
どこかのビルの屋上だろうか? 都会特有の強いビル風が容赦なく吹き荒れていた。空に散らばる星々だったが、下に拡がる無数の明かりのせいで鳴りを潜めてしまう。
一人の男が落胆した表情で、ビルの淵にたって遠くを眺めていた。その様子はまるでこれから飛び下り自殺を図るようだった。
なぜこんなに追い詰められてしまったのだろうか? 男はそんなことを考えながら一歩を踏み出した。
彼の名前は海藤 幸喜。もともとゲームは好きではなかったが、クラスのみんながスマホでゲームをしていて、自分だけがついていけないことがいやだった。最初は現実とのバランスがとれていた。崩れ始めたのは自分の成績不振からだった。
いくら練習してもうまくならない。いくら努力しても授業中は寝てしまう。それが親へと伝わりさらに厳しくされた。それでもゲームの世界だけは彼を怒らなかった。
辛かったね。次頑張れよ。君は一人じゃない。そんな彼を死神は逃さなかった――
『うちのギルドにこない? 無課金の人も多いまったりギルドだよ』
彼はすぐに嵌っていった。現実とはほとんど繋がりがなくなったが、親は何も言わなかった。どうせすぐ飽きるだろう。そんな親の思い虚しく二日前死神に魂を取られた。
ある理由からギルドを追放され、途方に暮れていた。唯一の居場所と思い込んでいた彼には死ぬしかなかった。
一歩踏み込んだとき、したに広がる喧騒の中から笑い声が聞こえた。その時彼は思った。――なんで俺だけがこんな惨めな思いをしなければならないのだろう?
その思いは彼の中で大きくなっていき、ついに彼はビルの淵から身を投げなかった。目には怒りと信念が宿っていた。どうせ死ぬなら最後に暴れてからでも、遅くない。自分を貶めた社会を傷つけてからでもいいではないか。誰も手を差し伸べてくれなかった、社会に。
彼は運送会社に忍び込み、カギを壊してトラックを盗んだ。近くで手に入れたナイフを持って。
彼はトラックを新宿のスクランブル交差点近くまで走らせた。夜では利用者も少ないので朝まで待つことにした。そしてついにその時が来た――
その日は日曜日で特に人が多かった。運よく車の列の先頭につけ、歩行者信号が青になったところを、勢いよく走り出した。
どのくらい走ったのだろうか。気付くと新宿駅の改札口で止まっていた。外は『暴走トラック』のせいでパニックになっている。中はまだ何が起こったのか、知らない人が多いようで、皆興味津々に外を覗いている。
こいつらなら簡単に襲える。手にしたナイフで次々と切り付けていった――
その後海藤がどうなったかを語る必要はないだろう。
読んでいただきありがとうございました。
誤字、感想、ポイントなどお待ちしてます。
最初に書いたものだと、R18指定が必要になりそうでしたので、残酷な表現は極力少なくしました。
次回では死神の手口が語られます。お楽しみに。
あわせて「絶滅」も、お読みいただけたら嬉しいです。本作とは『ほとんど』関係ありませんが、かなりちから入れて書いています。