私勇者だけど従者化しつつある
突然ではあるが、私の身の上を話させて貰おう。
私の名前はメル。メル・ルードヴィッヒ。紅い髪と目が自慢な、華の18歳、女の子。
私は、勇者だ。
勇者といっても、そこらの冒険者と大した変わりはない。しかし、私には勇者としての血と、代々伝わる聖剣、そして王族との繋がりがある。
立場上、冒険者としての権限しかないが、王族という権力の塊からのコネと、血族としての強大な力が私にはあるのだ。
そんなわけで、私は一族の掟に従いその力で国の膿を排除したり、小遣い稼ぎに依頼をこなす毎日を過ごしていた。
一月前まで。
もう一度言おう。私は勇者だ。
そんな私が。何故。
「何故あんな奴の料理なんかしなきゃなんないのよおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
激情を叩きつけるようにして、野菜を刻む。聖剣で。
「主。我これでも聖剣なのだが。包丁ではないのだが」
「わかってるわようっさいわね!」
テレパスで語りかける聖剣を邪険に扱い、今の自分にやるせなさを感じながらそれでも手は止めない。これは今日の自分のご飯でもあるのだ。
量は二人分。切った岩をまな板に、大自然のど真ん中でただひたすらに包丁(聖剣)をふるう。
「っていうかアイツいつ帰ってくんのよお肉ないと完成しないじゃない!」
「なんだかんだで順応しつつあるな、主よ」
最近この包丁が何を言っているのか全くわからない。
喚き声に反応したのか、近くの茂みがガサガサと揺れた。
「ただいまー。なんか叫んでたみたいだけど、呼んだ?」
のそっと、茂みから男が出てきた。タイミングのいい奴である。
もちろん、こいつは例の奴だ。
「呼んでない。お肉は?」
「おー、良い鹿肉が手に入ったぞ。血抜きも終わらせて、さっき解体したからすぐに使ってくれ。ほれ」
奴はひょいっと赤い肉を投げてきた。食材を投げるとは何事だ。
「んじゃ、俺余った肉を燻製してくるわ。出来たら呼んでくれ」
「呼ばないわよ。出来たら置いとくから、冷めないよう祈っとくことね」
「ひでぇなぁ。ま、ぱぱっと済ませてくる」
そう言うと、奴は再び茂みの中に帰っていった。
奴の名はエリア。家と縁を切ったからファミリーネームはないらしい。
今、私はこいつの同行者として依頼をこなしている。
ほんと、どうしてこうなってしまったのか。
溜息を吐きながら、私は鹿肉を切り始めた。
思い出すのも億劫ではあるが、私がこの現状に陥ってしまったのを説明するためには、奴との出会いを話さなければなるまい。
奴と初めて出会ったのは、一月前、私が人探しの依頼を受けていたときのことだ。
人探し、というと漠然としているが、誘拐された人物を探し出し救助してくれ。そう依頼されたといえばこの依頼の細かい内容は大体理解してくれるだろうか。
詳細は大幅に省くが、大詰めのところを話すと、その誘拐された人物はとある盗賊団に捕まっており、見つけたときはちょうど奴隷として売り捌かれる前だった。
私はそのとき、その人物を買って依頼主まで連れて行くか、それとも奴らをぶちころして連れ帰ろうかの二択に悩んでいた。
悩むこと数秒、私はぶちころし確定と裁断した。
そのときだった。奴と出会ったのは。
奴は奴隷として鎖に繋がれており、目標の人物と一緒の檻の中に入れられていた。
目が合った。数秒ほど、とても長く感じるような感覚だった。
夜のような黒い瞳に、引き込まれる様な力を感じた。
はっ、と我に返って自分のすべきことを思い出し、助けないと、と思っていた。
その対象が、目標か奴だったかはもう覚えていない。
一瞬でカタをつける。そう、思っていた。
でも、
「離れてろ」
「え?」
奴がそう言い放った瞬間、
檻が爆発した。
いや、ほんと、死ぬかと思った。
だって、近くにいた盗賊団と奴隷商の人間、全員スプラッタになってたもん。
奴はその後悠々と鎖をぶち壊して、盗賊団の積荷(なぜか無事だった)を漁っていた。鼻歌混じりだった。
私はそのときこう呟いた。なんだこれ。
考えて欲しい。被救済者が勝手にその状況を解決していて、挙句ならず者のような行動をしていた。それに対し救済者である私は煤だらけになりながらただ呆然としていたのだ。
正直誰か助けて欲しかった。
しかし、それだけで終わりじゃなかった。
「おーい、そこの君」
「は、はい?」
「君、ちょっと俺の荷物もってくんね?」
その一言が作った状況が、依頼の終わった今でも続いている。
「クソがッッ!」
「主、女性がそんな言葉を使うのはいかがなものかと思う」
「なんなのよアイツ勇者である私になんて態度よ馬鹿にしてんのああん!?」
「主、立場上冒険者と大した変わりはないと冒頭に言い含めてある」
「っていうかアイツ魔法使いよね?何であんなに活発なのよもっとインテリらしくしてろ!」
「主、それは女なのに男以上の力を持っている自分に跳ね返ってくると思う」
黙ってろ役立たず。
「そもそもなんでアイツあんなに強いのよ!!」
そうなのだ。
冒頭にも言い含めてあるが、私は強い。具体的に言うとどんな最上級術式でも一発じゃやられない程度には強い。
今まで不条理なことは自分の力でねじ伏せてきた。大臣のセクハラも腕力で締め上げた。
それが、どうだ。
簡単に負けた。しかも魔法使いなのに一回も魔法使ってこなかった上に体術で負けた。聖剣の力を使う前に負けた。かれこれ十回以上は負けている。
「チートか!!」
「主、負けた原因は主にあると思う」
「なんでよ」
「なぜなら主は力があるだけで、技術はあやつに劣ってぬおおお折れる折れる折れる!」
ありがたいご指摘どうもサンクス。
「主、正論を言われたからといって八つ当たりするのはいかがなものかと!」
「黙りなさい、そもそもあなたがもっと早い術式展開技術を持ってないのが悪い」
「理不尽すぎる!」
この包丁は中々強い術式刻印が刻まれてあるのだが、発動にやや時間がかかる。発動する直前には奴は既に私を組み伏せているのだ。化け物か。
「はい完成、と。アイツはまだ来ないわね。先に食べちゃおうかしら」
料理は出来たが、流石に燻製するのは時間がかかるらしい。
「……冷めちゃうわね」
折角作ってやったというのに。
「ま、まあ?あんな奴の為にでも、この私が作った料理だし?せっかくだから美味いって言わせて地べたに這い蹲らせてやりたいとこね!」
「主、それは所謂ツンデレというものではないk」
「ごめん、聞こえなかった。え?もう一回言って?」
「なんでもありまぜんんんんんんッ!」
あらやだ、この包丁意外としなるのね。
「ただいまー…って、なにやってんの?」
後ろから聞こえた声にはっとしつつ、取り繕うように私は毅然とした出で立ちで振り返った。
ちょっと煙臭くなって帰ってきた奴は、走ってきたのか少し頬が上気していた。
なんか呆れたような顔されてる。そんな目で私をみるな。
「ただの制裁よ。もう終わったの?燻製ってそんなに早く終わるものだった?」
「いや、まだ終わっちゃいないよ。あと数十分はかかるかな」
「ならなんでここにいるのよ」
「そりゃお前、アレだよ」
よっこいせ、とかいいながら、奴は適当な所に腰をおろして、言う。
「せっかく作ってくれた料理だ。冷ましちゃ勿体無いだろ?」
こいつは、時々よくわからない。
「か…火事になったらどうすんのよ」
「そんときは、アレだ。上級術式で擬似的な雨でも」
「火事如きに上級使うなんて頭おかしいわよ」
「しかし、それが俺クオリティ」
「腐った脳味噌ですこと」
奴に料理を振る舞いながら、軽口を叩き合う。
こいつは嫌な奴だ。自分勝手で、自由奔放で。魔術師のくせにやたら強いし、勇者という立場を足蹴にしてくる。私の事なんか従者を雇ってる程度の認識なのだろう。
でも、何故だろう。
こういう時間は、なんだか嫌いじゃない。
「うん、なんか上達してきたなお前」
「何様よ。感涙に咽びながら媚びなさい」
「誰がするか。そういうのは俺に勝ってからいうんだな」
「素直に美味しいと言えと言ってるのよ」
「そうか。美味しいよ」
「………」
「おい、どうした。褒めたじゃないかよ」
「う、うるさい、うるさい!黙って食べなさい!」
「なんだ理不尽だなぁ……」