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第二章§新緑の従者

 プラスギミックに着くと、案内された部屋で慎也はバッグから何枚かの紙を取り出し、机に広げた。


「『新緑の従者』っての知ってるか」


 単語に聞き覚えはなかったが、慎也が差しだした紙の一部を見ると、それが何かの団体であることはすぐにわかった。

 主旨をまとめると、超能力の発現を目指しているようだ。


「つまり、超能力の研究団体、といったところか」

「その様子じゃ、聞いたことはないみたいだな。一応、三年前に報道もされたことがあるんだが、扱いは大きくなかったから仕方ないか」


 慎也は一枚の紙を指し示す。


「旧ソ連の超能力研究所を主眼に置いている団体で、設立から三十年、この手の団体としてはまあ若い方だ。その超能力研究所が実在しているかどうかまではわからんが、その辺りは今回の話に関係ない。要するに宗教団体と思ってくれていい。設立者がいて、賛同者がいて――信者と言いかえても構わないが、そして子供が超能力開発の研究対象として扱われていた。いや、使われていたといったほうがいいか」

「子供?」

「超能力は子供のほうが発現しやすい、この団体の設立者はそう主張していたようだ。詳しい主張は知らんが、子供の精神が拡散することで世界の法則に影響を与えるんだと」

「続けてくれ」

「この研究というやつは、後に明らかになったことだと、強姦を含む拷問や監禁による洗脳、拷問そのものの訓練ってな感じのものが行われていたらしい。超能力の礎か、そういう趣味の連中の食い物か、そんなところだ。信者が肉体的、あるいは金銭的に食い物にされる。そこまでは、普通の悪徳宗教団体といってもおかしくないんだが――」


 慎也は言葉を止め、一瞬、理解を推し量るような目を博信に向けてきた。


「問題は、この『新緑の従者』が本当に超能力を持つ子供を作りだしてしまったことだ」

「……まさか。与太話だろう」

「オレも最初はそう思った。いや、常識を持っていれば誰だってそう思うだろうよ。ところが、その常識を覆すことが起きた」


 慎也がテーブルに広げてあるうちの一枚を取り、博信の正面へと置いた。

 その紙には警察官三名が調査に入った建物の崩落事故により重体、病院へ搬送された後に死亡したというニュースが書かれていた。


「表沙汰にはなっていないが、実態が発覚する前、警察がこの団体の本部を令状を持って捜査したことがあった。そして『新緑の従者』の本拠地に踏みこんだ警察官三名が、殺された」

「このニュースには事故とあるが。……警察が踏みこんだその日に、偶然にも建物の崩落が起きて警察官が死亡というのも、奇妙な話ではあるが」

「だろうよ。これはニュースとして扱われたぶんだ。普通に考えれば圧力が掛かって放送できなかったってところだ。まさか天下の警察様が民間人に三人も殺害されたなんて、ニュースで取り扱えないだろう。警察官の殺害に間接的とはいえ関わってしまった『新緑の従者』の信者の一人がネット上でリークした情報がある。その信者がリークした内容と画像がこっちだ」


 慎也が引き寄せた新しい用紙には、警察が踏みこんできたこと、そしてその場にいた警察官を子供が殺害したことのあらましが記されてあった。

 執筆者は一般信者の男性であることを冒頭で自称しており、全体を通して悔恨の言葉が多く並べられている。

 その直後に、画像が用意されていた。載っている画像は三枚。『新緑の従者』が根城にしていた建物を撮影したもののようだ。


 一枚目は血と思われるものが放射状に広がっている壁と、それを前に立ちつくす十歳前後の少女の背姿がある。これが警察殺害時の写真のようだ。


 二枚目は中学生ぐらいの少年と、一枚目で背姿をさらしていたと思われる少女が並んで立っていた。

 カメラ目線ではないが、どちらも顔がはっきりと映っている。少年は黒い法衣のようなものを着ており、少女は一枚目の服と同じものを着ている。

 場所は一枚目とは違い、誰かの部屋のようだ。


 最後の写真は、建物の外観だった。大仰な門を写真手前に移しており、そこから図書館のような大きな建物が映っている。

 これが本部といったところだろうか。


 超能力の有無はさておき、『新緑の従者』という超能力を売りにした団体が存在することは間違いないようだ。

 ふと意識を戻すと、先ほどから流れていた音楽が終わっていた。

 慎也が再びリモコンを操作し「五、六曲いれとくか」とつぶやく。


「リークとやらはこれで全部か」

「リークはな」

「なら――」

「わーってる、わーってる。証拠だろ。それだけじゃ、リークを装ったただの宣伝だとも言えるからな。『新緑の従者』に入って金も身体も差しだせば超能力が使えますよってな」


 慎也が博信の言葉をさえぎって紙を差しだしてくると、再び音楽が流れ始めた。

 先ほどの曲とは打って変わって静かな曲だ。


「証拠についてもそうだが……。超能力の真偽と木岐原時雨にはどう関係がある」

「じゃあ簡単に説明をしておくか。その『新緑の従者』は三年前に報道されたと言ったな。それを引き起こしたのが、木岐原時雨だ」

「どういう意味だ」

「『新緑の従者』は木岐原時雨の被害者だ。いや、この場合、被害者と言えるのは運営に関わる人間だけか? まあいい、とにかく木岐原時雨の手によって潰されたものの一つだ」

「……潰されたものの一つ、だと」

「ああ。木岐原時雨という存在が手を下したことによって潰されたものがいくらかある。『新緑の従者』はその一つに過ぎない」

「潰す? 中学生だったんだろう、木岐原時雨はどうやってその団体を潰したんだ」

「真正面から乗り込み、幹部、創立者と思われる人間、多数の信者を殺した。一晩でだ」

「なっ――いや、待て、お前どうやってそれを知ったんだ。未成年者の殺人犯の名前までわかるものか。そもそも、そんなニュースが流れたか」

「それを話すとちょっと長くなるぞ。オレが木岐原時雨っていう男に行き着いたのは、この『新緑の従者』のことが明るみに出たのよりも後のことだ。中二んとき――木岐原時雨が三年のときだな――、とある暴力団幹部が銃撃を受け、殺される事件が起きた。犯人は未成年だった。数十人でチーム、徒党を組んでいろいろとしでかしていた。この事件の後、暴力団とそのチームが抗争になると思われたんだが、そうはならなかった。その直後、どちらも壊滅したからだ」


 慎也は息をつき、喉の渇きを訴えて「やっぱ飲み物頼んでいいか」と聞いてきた。

 許可すると、博信にも注文するように勧めてきたのでオレンジジュースを注文する。

 慎也は備えつけの電話で注文を済ませ、再び博信の向かいへと腰を下ろした。

 書類をテーブルの端へと寄せながら、博信の理解を確かめるようにゆったりと続けた。


「もうわかるだろうが、これをやらかしたのが木岐原時雨だ。奴は中学生の身でありながら、実際的な暴力に対して慣れている集団を潰していた。この件では二つだけだが、他の件もごろごろ出てきたぞ。例を片っ端からあげていこうか?」


 ふいに扉がノックされ、こちらの了解もなしにそのまま開かれる。

 制服姿の男性店員が入ってきた。ジュースをテーブルに置き、颯爽と去っていた。随分手際が良かった。


 オレンジジュースに口をつけ、時間を確認する。

 時刻は午後九時三〇分を回ろうとしている。店に入ってからは四〇分といったところだ。


「前置きが長くなりすぎたな。とにかく、その事件を切欠にオレは木岐原時雨を調べはじめた。詳細については、お前が気になるなら後でメールでまとめて送る」

「そうだな、そうしてくれ」

「で、ある程度遡ったときに『新緑の従者』に行き着いた。潰された経緯は他の団体と似たようなものだが、超能力が存在していたという点が違う。超能力を使った処刑の映像があってな、警察ではずいぶんごたついたらしい」

「よくそんな情報を手に入れたな」

「人の口に戸は立てられないってな。オレが行き着いたときに、事件発覚からさほど時間が空いていないのもよかっただろうが」

「その処刑部屋というやつの詳細は。なぜ超能力に行き着く」

「壁を隔てた状態での、見えない力による圧殺。人数にしてどれぐらい殺されたのかわからんが、実行者は複数の子供。……処刑ってのは建前で、実際のところ、人体実験だったんだろうな。子供が超能力によって大の大人を殺せるか否か、の」

「大した趣味だな」

「超能力はこの場合、『新緑の従者』が作りだした兵器だな。戦力として売り飛ばそうとしていた。てか、出資者との金の出入りから考えると、子供が実際に売買されていたのは間違いない。表向きは売春斡旋みたいな形だったような気がするが」


 大規模な強姦事件、児童売春の斡旋事件。

 そう言われてみると『新緑の従者』という単語がニュースに流れているのを聞いた覚えがあったのかもしれないという気になってくる。


「金回りは良かった、警察すらも武力で抑えることができる兵器があった。そんなものを運営しているんだ、バックには蛇、それこそかなり強い政治的な権力まであったかもしれん。だが、そんな団体でさえも中坊だった木岐原時雨の手によって潰された」


 慎也は言葉を止めてジュースを飲み、長い息をついた。


「さらに警察への通報者は木岐原時雨本人。その主旨は『化け物はこちらで処理した。後は好きにしろ』だと」

「……化け物、ね」

「なかなか笑えるだろう」

「お前自身、その木岐原時雨にまつわる話を持てあましているのか」

「そういうこった。だってな、オレが調べられるだけ調べてわかったことは、木岐原時雨が謎の生き物だってことと、どうやらそれがまったく誰にも怪しまれていないってことなんだよ。警察にすら、だ。まるで存在しない人間の影でも追ってるみたいだぜ」


 アマチュアの慎也ですら行き着いた男に、プロである警察が行き着かないわけがない。

 ならば、そこにはなにかがあるのだ。


「これは――こんな言葉は使いたくないが――超常的な力が働いているとしか思えんよ。木岐原時雨は、確実に常軌を逸している」

「単純に、身体能力としての意味で強いということか」

「それはわからん、弱いというわけではなさそうだが。もっとも大きな問題は、平然と日常生活を送っている、送ることができているってことだ。本来なら、こんなことをしでかせば他所のでかい団体に目をつけられるだろうし、報復だってあるはずだ。だが、それすらもなく、平然と学校に通っている。あまりに、おかしい。こういう、裏を取れない人間に関わるべきではないし、個人的な意見としても一切関わりたくはない」


 しかし、木岐原時雨は昏睡事件にまでその影を見せた。

 慎也は演技がかった手振りで嘆いてみせる。


「そんな人間がオレ達みたいな、汗水たらして社会の為にせっせと働く善良な一般高校生の前に立ちはだかろうとしてるわけだ」

「ドリームキャプチャーがどうの、と言ってたな」

「ああ。『夢を現実にするアイテム』、英単語の直訳なら夢を取りこむ、保存する道具か。意味はよくわからんが、これの使用者が最近、ここら一帯の高校生の間で増えている。実のところ昏睡事件との相関関係ははっきりとわかっていないんだが、昏睡者はドリームキャプチャーを使っていた、というのは確実のようだ」

「それが確実だとわかっているなら、なぜ相関関係を疑う必要があるんだ」

「規模が違いすぎる。ドリームキャプチャーが昏睡に直接関係しているのであれば、もっと大量の昏睡者が出ているはずだ。ドリームキャプチャーが広がっている規模は、ざっと計算したところ、高校一校につき約二十分の一。総数で言えば軽く六百は超えている。しかし、現時点の昏睡者は百にも満たない」

「なるほど。関係があったとしてもまだ何かしら別の要素が加わっているということか」

「そうだ。そして裏に木岐原時雨がいるとなれば、要素がいくらあってもなんらおかしくはない。ドリームキャプチャーの配布の大本は木岐原時雨、奴なんだよ」

「……あれか」


 『夢を現実にするアイテム』という言葉が不意に閃きを引き起こした。

 学校帰りに遭遇した日尾南の生徒から拝借したもの、『夢を現実にする腕輪』とやらだ。今は家に保管してある。


「どうした?」

「その『夢を現実にするアイテム』だが、それは腕輪タイプなのか。こう、装飾の乏しいブレスレットだ」

「腕輪以外にも、ネックレスやアンクレット、ヘアピンなんてのもあるそうだ。使い方は単純、普段、寝るときに至るまで出来るだけ多くの時間身につけておくことらしい」

「おそらく、それの現物らしきものを確保した。家に置いてあるが」

「なに? いや、こっちでも一応ネックレスタイプとブレスレットタイプは手に入れてはいるんだがな。どこで手にしたんだ」

「調査中に遭遇した他校の生徒から拝借した」

「そりゃ、平和的でなによりだ。他所との交流も大事だからな」

 慎也がからかうように笑った。半ば強奪したものであることに気づいたようだ。

「通常、それを手に入れる場合はどうするんだ。値段は」

「タダで配ってるってのもあるし、千円程度で売ってるってのもある。複数のルートを確認したところ、どうやら二次配布、三次配布状態になっているようだな」

「配布経路は」

「手渡しが基本のようだな。売るにしても無料配布にしても、ネットを使えば規模はもっと大きくなっているだろうが、その様子はない。あくまで口コミレベルで広まっている」

「需要はともかくとして、それで安定した供給ができるのか」

「難しいようだな。不定期な上に一度に配られる数もわからず、さらには二次配布者と一口には言ったが、同じ人間がずっとやっているわけでもない。配られ始めたのが九月下旬辺りで、それからずっとその調子で広まってきているようだ」

「で、そこからどうやって木岐原時雨に行き着く」

「大本を辿るのはそれほど難しいことじゃない。表に出てきた二次配布者を監視すればいいだけだ。その結果、行き着いたのが千賀駅のコインロッカーだった。そして、今度はそこを調べた結果、木岐原時雨が現れたというわけだ」

「それがついさっきわかったということか」

「そういうことだ。奴が複数のコインロッカーに接触していることがわかった。仮に木岐原時雨が大本ではなく、裏に誰かがいるのだとしても、昏睡事件の調査において木岐原時雨は不可避の存在だと言っていいはずだ」


 気づくと、音楽は止まっていた。液晶にはランキングのようなものが流れている。


「さて、どうする」


 慎也はそれまでの饒舌を疑問で区切った。

「……」

 木岐原時雨が得体の知れない存在、ともすれば非常に危険な存在であることはわかった。


 そのうえで、昏睡事件の調査を止めるか、否か。

 止めれば、当然報酬はなくなる。依頼者が誰なのかは知らないが、仕事をどこからか拾ってきた慎也からは日毎の調査費用と達成報酬が用意されていると聞いていた。

 達成報酬はかなりの額だということで、慎也と軽く下調べした結果、調査を受けることにしたのだ。


 しかし、ここに来て、ある意味でその報酬に見合ったリスクが見えてきたということになる。

 木岐原の手によって潰された団体が複数あり、さらには死亡、行方不明になった人間もいるという。

 そんな不確定な人間を相手にするというリスクを、ここで背負い込んでも良いのだろうか。


 慎也が持ってきた資料に目を通す。


 『新緑の従者』、死亡した警察官、超能力、チーム、暴力団の壊滅、そして昏睡事件。


 報酬が惜しい、というのは確かにあった。

 同時に、せっかく事件の核心に迫る目処が立ったというのに、ここまで来て放りだすのも癪に障った。


 だが、それよりも、強く動機を焚きつけるものがあった。


 日常に紛れこんでいる、人間の姿をしながらも異質な存在感を撒き散らす男。

 それはまるで朽ちた歴史を残しながら今もなお世界に謎を残し続けている古代文明の跡のようだった。

 博信の好奇心は、木岐原時雨を追いつめたいと感じていた。


「調査は続ける。同時に、木岐原時雨の監視も行う」


 博信が告げると、慎也は神妙に頷いた。


「今回のことを抜きにしても、アレの動向を探っておくに越したことはない。だが、そうなると……」


 監視は対象に近づきやすい人間が実行することになる。

 そして、この件には他校の生徒である慎也と、木岐原時雨と同校である博信しか絡んでいなかった。

 必然、役回りは決まってくる。


「問題ない」

「いいのか?」

「俺から言いだしたことだ。そのつもりで監視すると言った」

「方法は考えてるのか。相手が相手だ、慎重に行ったほうがいいと思うが」

「木岐原時雨は少し前にクラブ活動を始めている。他の部員はまだいないようだ」

「クラブ活動だぁ? いや、まあ、おかしくはないのかね。何か、学校で活動することの意図があるのかもしれん。てか、まさかそこに入るつもりかよ」

「それが一番自然だろう」

「つっても、一人で部活は成り立つのか。よくそんなのが通るもんだな」

「うちは設立に関しては緩いんだ。ただ、学期の中間、期末の審査で設立者を除いて最低四人以上の部員を確保、活動内容を報告しなければ即廃部ということになっている。このままいけば、奴のクラブは今学期の期末の審査で廃部になるのは間違いないだろう」

「なるほど。それは都合がいいな」

「ああ。自然に近づくこともでき、離れるのも簡単だ」

「学期末のその審査ってのは、正確にはいつなんだ」

「試験前に書類を提出、試験後に生徒会が審査を行い、可否を決めるという形だったはずだ。クラブとしての活動は休日を除いて、実質あと十日程度か」

「十日、十日か……。監視の成果が得られるかどうかは微妙だが、危険性は低いな」

「成果がなければ、その後また手段を考えればいい。すぐに実行可能という点は大きい」

「んだな。じゃ、それでいくか。頼むぜ、相棒」

「誰が相棒だ」

「おいおい、つれないこと言うなよ。お前は腕が立つからな、頼りにしてるんだぜ」

「お前の信頼など知ったことか。仕事は仕事でこなす、それだけだ」

「なんにせよ、くれぐれも気をつけろよ。緊急時の連絡先はいつものやつな」

「……おい、方針が決まったところで、そろそろ時間じゃないのか」


 ちょうどそのとき、室内に設置されている電話が鳴った。

 慎也が受け取り、対応する。残り時間が五分になったという連絡のようだった。


「想像以上に時間食ったな。まあ、もうひとつの話はすぐ終わるんだが」


 言いながら、慎也はベージュ色のショルダーバッグを差しだしてきた。


「つうわけで、ほい」

「なんだこれは」

「お前に渡すもんがあるって言ったろ。うちの制服だ。サイズは俺に合わせてるが、お前とは似たような背丈だし大丈夫だろう。多少の丈のズレは勘弁してくれ。で、これがお前の学生手帳な」

「制服と学生手帳? こんなものを用意して、なんのつもりだ」


 バッグをそのままテーブルの上に放置し、学生手帳を受け取る。

 慎也が通っている雛橋大学付属高等学校の手帳だった。開いてみると、名前欄には『渡辺博嗣』と書かれている。

 博信が手帳を確認したのを見て、慎也は親指をぐっと立てながら爽やかに言ってのけた。


「これ着て、今週末の土曜日に合コンだ。喜べ、相手は明上学院のお嬢様だ」


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