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二章(2):遭遇

 暗闇の中を、出口へと向かって歩く。

 後ろには尚人。手元で作業しながら歩いている。

 全く、器用なヤツだな。

「………?」

 立ち止まる。

「ふごっ!? 痛った~。輝はん、急に止まらんといてや」

 音。聞いたことの無い、音が聞こえる。

「おい、尚人。何か、変な音がしないか?」

「んー? そう言われてみると、かすかやけど、前の方からなんか音が聞こえとるな」

「何の音だ?」

「そんなん、わいに聞かれてもわからへんやろ? とりあえず、人がおるんやろな。 ま、行って、確かめてみよか」

「お、おい!? 行くって、ここにいる人間は、皆敵だろ!? わざわざ、そんなトコに行く必要無いだろ? 第一、見つかったら、俺達が牢にいないのがバレることになるんだぞ」

「輝はんにしては、至極全うな意見やな。けど、わいらが脱走してるのは、もうバレとるって考えるのが普通や」

「どうしてだ?」

「さっき調べたんやけど、ここの建物な、ごっついっぱい監視カメラが設置されてあるで。それだけの警備の中、バレへんように行動するんは無理っちゅーもんや」

「けど、わざわざこっちから見つかるような真似しなくてもいいだろ?」

「この付近に、わいと輝はんは捕まっとった。この事実が意味するトコは、何や?」

「!? まさか、俺達の他にも、捕まってるヤツがいるってことか!?」

「当たりや。その可能性は、大いにある。そいつが仲間になるかは、ともかくとしてな。そやから、ある意味、これは博打みたいなモンやけど、賭けてみる価値はあるで」

「わかった。なら、行ってみようぜ」

「さすが輝はん、話のわかる人や」



 コツ、コツ。

 コンクリートの地面が、足音を反射させる。

 さっき聞こえた、奇怪な音。

 それはまだ、続いている。いや、どんどん大きく、近くなってきている。

 コツ、コツ。

 二つの足音。

 輝はんと、わい。

 前方から足音が、もう一つ重なった。

「……ちっ!」

 足音の主を見て、輝はんが身構える。

 何かの構えだろうか。しっくり来るものがあった。

 いや、今は、違うことに気をつけへんとな。

 青の制服。

 誰がどう見ても、警備員やな。

 そやけど。

「おかしいな。全く戦う気が無い。まるで、操られた子供と同じ::?」

「何かフラフラしてて、眼の焦点も合ってへん。輝はん、ここはもう少し様子を見るんや」

 警備員はわいらに眼もくれずに、ある牢の前で立ち止まる。

 そして、牢の脇に設置された装置に指を押し当て、眼を別の装置に押し当てた。

「何してるんだ?」

「指紋と、網膜照合や」

 照合が終わると、次はまた別の装置に指を触れていく。

 そして、カードを取り出し、一線を描いた。

「何や、捕まえたヤツを移動させるんかい。そやけど、なら、なんでわいらを見つけても、無視したんや……?」

 電子音と共に、金属の外れる音が響く。

 奇怪な音も、同時に止んだ。

「クス、ご苦労様ですね。あとは、貴方の持っているカードキーをいただきましょうか」

 扉を開けながら、男が出てくる。

 長髪で、全身、黒のコートで身を包んでいる。

 顔や声からすると、わいらと、たいして年は変わらないようだ。

 警備員が、ためらうことなく、カードを差し出す。男はそれを受け取り、笑みを浮かべた。

「お、おい。何かアイツ、ヤバくないか?」

「何や、輝はん。見かけによらず、怖がりやな。ま、わいも突っ込みどころは満載やけど」

 そやけど、わいも、輝はんと同意見や。

 目の前の男は、何かある。

「もう、貴方の役目は終わりました。最後に、私を楽しませてから逝きなさい」

 また、奇怪な音が響く。

 警備員は拳銃を手にし、頭へとその銃口を向けた。

「「!!」」

 発砲。

 煙硝と血が混ざった匂いと共に、警備員が倒れる。

「クス。ゴミの処分も、大変ですね」

「おい、てめぇ!!」

 輝はんが、我慢出来ずに飛び出す。

「どういうつもりだ? いくら何でも、そいつを殺すことは無かった。お前は、人殺しかっ!!」

 男が、笑みを浮かべながら、こちらを見た。

「人殺し。良い響きですね。貴方達も、そこの死体と同じ運命を辿りたいですか?」

「この野郎っ!」

「まあまあ、お二人さん。そう、かっかせんと。わいは、陣野尚人。こっちの人は、名取輝はん。あんたも、捕まったくちなんやろ?」

「クス。まあ、そういうことになりますね」

「なら、一緒に、ここから脱出せえへんか? 協力しても、損は無いと思うで?」

「私は、雨宮司と申します。協力の話ですが、お断りしましょう。私は足手まといを持つほど、お人よしではありませんからね」

「おい、俺達が足手まといだと。お前の方こそ、俺達の足手まといになるのは、目に見えてるけどな」

 不意に、奇怪な音が響く。

「ぐっ、なんだ!? 体が、言うことを聞かない!?」

「クス。今、貴方は死ぬのも生きるのも、私の自由に出来るのですよ?」

「くそ。これは、お前の仕業か!?」

「二人とも、止めんかいっ!!」

「「!!」」

「何で、敵でもないわいらが対立せなあかんのや! つまらんことやってる場合やないやろ! もっと、冷静にならんか!!」

 輝はんの硬直が解ける。

「確かに、大人気無かったですね、子供に合わせる必要はありませんでしたよ」

「……ふん。俺も、こんなヤツに構うことは無かったがな」

 司はんが黒衣を翻し、歩き出す。

「おい、どこに行く気だ?」

「貴方達には関係の無いことです。一人、殺しておかなければいけない男がいましてね」

「もう一度だけ、聞くで。わいらと、一緒にいかへんか?」

「遠慮しておきましょう。どうやら、私は、輝君とは合わないようだ。私一人で、行かせてもらいましょう」

 そう言うと、司はんは、闇に溶けていった。

「………ち。あの司とかいうヤツ、覚えとけよ」

「それにしても、わいらの他にも、やっぱり電磁波の効かない子供がおったんやなあ」

「あんなヤツは、御免だがな」

「まあまあ、そう言わんと。ただ、何やろな、あの音の力」

「確かにな」

「とりあえず、まずはここを出よか」

「おう。だが、もっと他の子供を捜さなくてもいいのか?」

「司はんみたいのが、ごっつおられてもなあ……」

「……同感だな」



「まだ、カメラは復旧しないようだな、沼丘?」

 少し、怒気を含んだ声で、お父さんが尋ねた。

 う。

 お父さんが、怒ってる。

「も、申し訳ありません、総理。何ぶん、私はこういう分野は不得手でして……」

 作業をしながら、沼丘さんが焦った様子で答える。

「言い訳は結構。聞こえませんでしたか? 先生は、早く直せと言っているのですよ」

「はい、わかりました(ぷちって死ねっ、ぷちって)」

「もういい、阿武隈。ふん、杉原さえいれば、このような事態にもならなかったのだがな」

「左様でございますね。やはり、杉原の死は大きいものでしたな」

「あの…?」

「どうしますか、先生?」

「構わん」

「かしこまりました。ではどうぞ、奏坊ちゃん」

「……はい。ええと、杉原さんってこの研究所の元所長さんでしたよね。どうして、死んでしまったのですか?」

「事故死だよ、奏君」

「何の、事故だったのですか?」

「杉原は帰宅途中、車を運転していて橋の欄干から転落、即死したんだ。体内から大量のアルコールが検出されたことから、飲酒運転による事故死だと見られている」

「そう、だったのですか……」

「そして、今現在、私がこの国立電子工学研究所の所長なんだよ」

 沼丘さんが、得意そうに胸を張る。阿武隈さんが、その尻を蹴り上げた。

「ふぐっ!?」

「あなたは口を動かすよりも先に、手を動かしなさい」

「……でも、杉原さんが亡くなってしまって、僕は悲しいです、本当に良くしてもらいましたから」

「そういえば、杉原は、奏坊ちゃんには甘かったですね」

「はい。杉原さんは確か、お酒などは飲まなかったはずです。飲酒運転で死んだなんて、正直、僕には信じられません」

 お父さんが、低い声で笑った。

 今まで聞いたことのないような、冷たい笑い声だった。

「クク、杉原が本当に事故死だと思うのか? 奏」

「え? どういうことですか?」

「ヤツの死は、事故死ではない。ヤツの車のブレーキは、効かないように、細工がされていた。そして、事故死に見せかけるために、アルコールが体内に残っているという、偽の診断カルテが作られていた」

「どうして、お父さんが、そんなこと知って……」

 まさか。

「まさか、そんな……」

「杉原を始末したのは、この私だ」

「!!」

 嘘だと言って欲しい。

 だって、お父さんが、あの杉原さんを殺しただなんて。

 お父さんと杉原さんは、仲がよかったはずだ。

 長い付き合いだと、阿武隈さんから聞いたことがある。

 それなのに。

「そんなことって……」

 沼丘さんが、驚きの声を上げる。

「しかし、どうして!? 杉原は当時、この研究所の所長。殺してしまえば、総理の進める計画が頓挫することは十分に考えられたはず。なのに、何故!?」

「その理由を言うには、まず、この計画がいかにして始まったか言わねばなるまい」

 そこでお父さんは、一旦、言葉を切った。

「ヤツ、杉原と出会ったのは、大学の時だった。杉原は電子工学を専攻していた。その時の研究理論が、今の、この計画の基礎となっている」

「じゃ、杉原さんは、技術や才能を見込まれて、お父さんの元に?」

 お父さんの口元が、かすかに歪む。

「違うな。あの頃のヤツの心の奥には、私と同じ志があった。それが、杉原と私の生きる意味。存在価値、そのものだったのだ」

「それが電磁波による、未成年者の管理………」

「フ、そんな生易しいものではない。世界の全ての犯罪者の断罪、駆逐、抹殺。完全なる正義、だ」

 陶酔した眼で、お父さんが遠くを見つめていた。

「杉原も私も、凶悪犯罪で家族を失っていた。そんな身の上からか、私達はすぐに、意気投合した。そこにもう一人、同じように家族を失った男が、加わった」

 お父さんが、また言葉を切った。昔を、思い出しているのかもしれない。

「その三人が、同じ理想の元に集い、人の用意が整った。あとは、場所と、時」

「私が先生の秘書となったのは、その頃でしたかな」

 阿武隈さんが、昔を懐かしむように言う。

「私は議員の権限を利用し、この国立電子工学研究所を設立し、私達の野望の本拠とした。こうして、場所は出来上がった。そして、私は総理となり、今まさに、その時も動いた」

「そして、計画は実行されたわけですな」

 考えていた様子の沼丘さんが、お父さんに聞く。

「計画が完成した今、杉原の利用価値は、もう無いと?」

「いや。ヤツにはまだまだ、やってもらうことは多くあった」

「では、何故?」

「裏切り。杉原はこの計画を進めていく中で、己の行いに迷いを持った。迷いは人を弱くこそすれ、強くはしない。そして、あまつさえヤツは、私に計画の中止と、この計画から抜けることを言い出した」

「最後の最後に、杉原は、先生の下から離れたわけですな」

「そうだ。杉原が抜ければ、それに続く科学者達も多くいただろう。計画を止めないためにも、杉原の死は、必要なことだった」

「そんな……」

 あの、優しい杉原さんが、そんな思いを抱いていたなんて……。

「昔話は、ここで終わりだ。阿武隈、少年達の血液サンプルの解析は済んだのか?」

「申し訳ございません。もう少々、時間がかかるようです」

「ならば、仕方ないな。沼丘、機械の復旧を急げ。杉原のようになりたくはなかろう?」

「し、承知しました!!」

 沼丘さんが、慌しく部屋から出て行く。

「ふん、使えんヤツだ。玄蔵、入れ」

 ドアが開いて、見知らぬ男の人が入ってくる。年は、お父さんより少し上といったところだ。髪に、白いものが微かに見える。

「呼んだか、鬼村?」

「例のモノは準備できたか?」

「ああ、今からここで起動させよう。ただし……」

 そこで、玄蔵という人は、お父さんに耳打ちする。

「!? 杉原め、やってくれるな。仕方ない、まずは試す。それから対処していくしかあるまい」

「た、大変です、総理!!」

 ドアを蹴破る勢いで沼丘さんが戻ってきた。

「落ち着け、沼丘。何があった?」

「そ、それが。警備の者の報告によると、地下に収監していた少年三人が脱走。今現在、出口に向かっているとの報告が」

「まさか。寝言も、休み休み言いなさい。どうして、あの最先端の技術で造られた牢が、子供に破られるなどと」

「ほ、本当ですっ!! 私も、最初は疑いましたが、何でも一つは力づくで壊されており、もう一つはおそらく爆薬で、もう一つには目立った形跡すらありませんでしたが、警備員の死体があったとのことでした」

「もし、それが事実だとしたら、相当厄介なことになりますね。先生、いかがしましょう?」

「すぐに、その少年達を追え。見つけ次第、捕縛。建物から逃げられないように、出口を固めろ。決して、外に出すな。必ず、少年達は生きて捕らえろ。あの者達には、まだ利用価値があるのだからな」

 お父さんの顔が、笑みに歪んだ。


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