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一章(2):捕縛

 あれから、二日後。

 また僕は、モップで廊下の掃除をしていた。

 一昨日の、三人の会話が耳から離れなかった。

 子供を支配する。

 そんなことが、許されるのかな?

 確かに、少年犯罪、いや、子供達の素行は、年々ひどくなっている気がする。

 大人の人達が子供を操り、大人しくさせたいと思う気持ちも、実情を知る僕には理解できる。

 だとしても。

「奏坊ちゃん、モップを持ってボケッとつっ立ってるのは、誰でもできますよ? 掃除でもしたらどうです?」

 そこで、不意に思考が途切れた。

 気がつくと、前方からお父さんと阿武隈さんが、一昨日のように歩いてくる。僕は道をあけ、二人に一礼した。

「お、おはようございま……」

「阿武隈、行くぞ」

「ヒヒ、かしこまりました」

「………」

 二人は、またあの部屋に入っていった。

 一昨日のことに、関係のある話だろうか。

 そう思って、また僕はこっそりとドアを開け、三人の会話に耳を澄ました。

「何の用だ、沼丘。計画は問題なく実現した。そのことで私は忙しい。お前のために、割ける時間など無いのだ」

「それが、……一つ、問題が起こりまして。そのことで総理のご指示を仰ぎたいと思い、来ていただいたのです」

「早くも問題が起こるとは。全く、あなたは役立たずですね。しかも、ご自分で対処できないとは。……ミミズ以下ですね」

「申し訳ございません……(猫に噛まれて死ねっ!)」

「して、その問題とは何だ?」

「はい、私の口から聞いていただくよりも、実際に見ていただいた方が、わかりやすいかと思います」

 そう言って、沼丘さんはリモコンのボタンを押し、巨大なディスプレイに画像を映した。

 街の、映像。山奥や海岸の映像もあった。

 極秘で設置した隠しカメラの映像なのだろう。

 総理大臣という権力を利用して据え付けたと聞いている。

 その映像のほぼ全てに、子供達が映されていた。

 画面が、切り替わる。

 子供達の写真が、一枚一枚、画像を切り替えながら映し出されていく。

 皆、顔には生気がなく、眼は虚ろだった。

 これが、電磁波の影響を受けた子供達か。

「問題なのは、この写真の少年です」

 画面が切り替わり、一人の少年の写真が映し出される。

 顔は自信に満ちていて、何か強い決意を秘めたようでもある。

「この少年が、どうかしたのですか?」

 わからない、といった顔の阿武隈さんの横で、お父さんが眉間に深くしわを刻んでいる。

「これは、電磁波が放射された後の映像なのだろう? 違うか、沼丘」

「総理の仰る通りです。調査いたしましたところ、この少年の名前は、名取輝。十八才で養子であること以外、特別なところは何も見当たりませんでした。そしてこの少年に、電磁波は効かなかった」

「!? そんな馬鹿なことが。一体、どうしてこのようなことが起こったのです?」

「それが、原因が突き止められないのです。私達の研究は完璧なはずでした。それは、総理もご存知のはずだと思います。しかし、事実として、電磁波の効かない子供たちが存在している」

「この少年の他にも、電磁波の効かない子供は存在するのか?」

「はい。おそらく、この少年も含め、五人。奏君も、その一人かと思われます」

「……あの奏お坊ちゃんもとなると、ますますわかりませんね。ともかく、危険な存在であることは間違い無いようですが」

「引き続き、その五人の少年達の監視を続けろ。そして、何がなんでも、電磁波無効化の原因を突き止めろ。私は、これからその少年達の逮捕を警察に要請する。その後、この研究所に護送することも含めてな。阿武隈はすぐにその少年達を調べあげ、原因を究明しろ」

「では、原因が判明した後の少年たちの処遇は、いかがいたしましょうか?」

「愚問だな、沼丘」

「? 私には、わかりかねますが……?」

「皆殺しだ」

 お父さんが不敵に笑った。

 ゾクッと、寒気が背筋を走った。



 何かが、おかしい。

 いつもの教室。いつもの風景。

 これといって、変わったことは何もない。

 何だ? 一体、何が違う?

 くそっ! 考えても考えても、わからない。

「おい。何か、最近おかしくないか?」

 思い切って、隣のヤツに尋ねてみる。

「いや、特に何も。どうしたんだよ? 輝」

 どうかしちまったのはお前の方だ。

 いや、お前ら全員と言った方が正しいな。

 見た感じ、お前ら、生きてるって感じがしないんだよ。

 あの日からだ。琴乃が、頭痛を訴えた日。

 あの日から、確かに何かが変わった。

「席につけ。授業を始めるぞ」

 変わったのは生徒だけじゃない、教師もだ。

「よし、この問題を解いてみろ」

 クラスメイトの名前が呼ばれた。あちゃ、こりゃ無理だな。確かアイツ、無類の勉強嫌いじゃなかったか?

「わかりません」

 やっぱりな。

 アイツに聞く方も聞く方だと思ったりするがな。わからないのは、猿が見ても明らかだからな。

 突然、教師が黒板消しを片手に、その生徒に歩み寄った。

 そして、白粉のついた黒板消しを、思いきりその生徒の顔面にこすりつける。

「お前のような馬鹿は、こうしてやらなければ反省しないからな。この能無しが!」

 その生徒は抵抗すること無く、されるがままだ。

 おいおい、ただ問題が解けないぐらいで、それはやりすぎだろ? ていうか、抵抗しろよ。もっと言えば誰か止めろ。

「貴様らは、能無しの屑なんだよ、黙って俺の授業を聞いていればいいんだ!!」

 くそ。もう我慢の限界だ。

「おい、待てよ。いくら何でもやりすぎだ。その辺にしとけよ」

「ん? 貴様。この俺に説教する気なのか。いい度胸だな!」

 その教師が、俺に向かって拳を繰り出してくる。

 軽くそれをかわしながら、教師の腕を両手で掴む。

 そのまま、力任せに背負い投げた。行き先は、黒板だ。

 木の裂ける音を響かせながら、教師が頭から黒板に突っ込む。

「一丁上がりっと」

 二度、手を叩いたところで、ちょうどチャイムが鳴った。

 そのまま、逃げるように(ま、実際逃げてるわけだが)教室を後にする。

「待たせたな、琴乃」

「……ううん、待ってないよ」

「そうか」

「………」

 会話が続かない。

 いつもなら、もっと色々話すはずなんだけどな。

 やはり、何かが変だ。

 家に帰ると、テレビでは、夕方のニュースがやっていた。見るともなしに、なんとなく耳を傾ける。

「内閣府は先月、青少年管理法を定めていたことを今日の記者会見で発表しました」

 男のアナウンサーが、何やら話している。

「この法律は、年々悪質化する少年犯罪に対して定められたもので、二十歳以下の青少年達を対象とし、特定の年齢層の脳にのみ影響を及ぼす電磁波によって青少年を管理し、犯罪の撲滅を図ることを目的とする法律です」

「!?」

 何だよ、それ。

 そんなことが、許されるのか?

 しかも、国の政策でやるなんて。

「それでは、鬼村内閣総理大臣のインタビューをご覧ください」

 そこで一旦、画面が切り替わる。

 次に出てきたのは、ずっしりした体型の、いかにも悪どいことやって稼いでる風の男だった。

「この法律には賛成出来ない方々も、いることでしょう。しかし、最近の青少年の素行には眼も当てられない。今まで私達は、それを、やれ子供の人権だの、やれ自主性の尊重だので見て見ぬふりをしてきた。それでは、一向に社会は良くなりません。前と比べて、最近はどうですか? ここ数日間でさえも、青少年の犯罪は全く起こっておりません。この法律は皆さんに安心という福祉を提供しているのです」

 そこで、インタビューは途切れた。

 今の話が事実なら、これまでのことに、全て合点がいく。

 フザケんな。んなことが、許されてたまるか。

 だが、妙だな。

 なんで俺だけ、その電磁波とやらの影響を受けてないんだ?

 やめた。

 考えるより、まず行動だ。

 皆を、琴乃を、元に戻さないとな。

 こういう場合、大本を叩いた方が良いよな。

 よし。とりあえず、あの鬼村とかいう総理大臣に会いに行こう。

 国会に行けば、会えるはずだ。家からは、そんなに遠くはない。今から行けば、会えるだろう。

 無理やりにでも、会ってやる。

 家を出た。夕暮れに染まる街の中を歩いていく。

 不意に、後ろに気配を感じた。

「………十、二十。いや、もっといるか」

 つけられている。

 試しに、歩行速度を落としてみた。

 後ろの気配達も、それに合わせて歩行速度を緩めてくる。

 気配の読み方は、空手で、嫌というほど学んだ。

 相手が動く時の気、静から動へと転じる時の気を、感じ取らなければいけなかったからだ。

 今では俺は、空手はおろか、剣道、柔道、その他ほとんどの武術で、有段者となっている。

「撒くか」

 不意に、駆け出した。追っている奴らも、俺に続いて走り出した。

 大通りから、人気の無い路地へと曲がる。

 そこで立ち止まり、来た方向に振り向いて構えを取った。

 逃げると見せかけて、ここで片付けてやる。

 気配。

 来た。

 警察官。

 腕を掴み、胴体ごと、後続の警察官達に投げつけた。駆けつけてきた後続の警官数名が、その巻き添えに遭う。

 けど、何で警察が俺を追うんだ? 

 一応、犯罪らしいことはやってきて無いつもりなんだが。まあ、少しだけ、自信が無いが。

 囲まれた。

 とっさに、囲みの甘いところを狙って突破する。

 埒があかないと思ってか、警官達は、懐からスタンガンを取り出した。

 ふう、拳銃じゃなくてほっとしたぜ。

 ていうか、何で拳銃じゃなくて、スタンガンなんだ?

 ま、わからないが、とりあえず、この場は気絶ぐらいで済みそうだな。

 もちろん、そんなヘマはやらないが。

 近場の一人が、俺にスタンガンを差し向ける。

 身をかがめてそれを避け、伸び上がりと同時に、顎に思い切り、掌底を叩き込んだ。

 警官。宙を舞う。他の警察官達は、それを見て、気後れしたようだ。攻撃の手が、止まる。

「そこまでだ、少年」

 暗がりから、声。

 警察官と対峙しながら、そこに眼を向ける。

 腰に、刀を差した男。穏やかそうな顔だ。

 だが、間違いなく武術の心得がある。立ち振る舞いに、それが出ていた。

「無駄な抵抗は止めて、我々と共に来い。さもなくば、お前の大事な者が傷つくことになる」

 男は、指で何やら合図を送った。

 するとすぐ、一人の女が警察官に連れられてきた。

 男が刀を抜き、その女の首筋にあてた。

「!? 琴乃! どうして、お前がここに!?」

「………兄さん、もう止めて。大人しく、この人達の言うことを聞いて欲しいの」

「お前ら、汚ねえぞ! 俺の妹を、操りやがって!」

「君が、黙って我々に協力してくれれば、君の妹の身の安全は保障する。私が、誓おう」

「はん! 刀つきつけて、脅してるヤツが言う台詞かよ!」

「ならば、仕方ない。君の妹の血を見ることになるが、それでも構わないな?」

 琴乃の首筋。一筋の血が伝う。

「くそっ! ……わかった、お前らに協力してやるよ。どこへなりと行ってやる。だから、琴乃をそれ以上傷つけるな!」

「協力、感謝する。捕まえろ」

 背中に、鋭い痛みが走った。

 徐々に遠のいていく意識の中で、琴乃の顔が浮かんだ。

 じっと、俺を見ている。

 笑いかけようと、した。

 笑いかけられは、しなかった。



「いいですね? 一億をこの口座に振込みなさい。そして、その後は自殺するのです。自殺の仕方は、そうですね、焼身自殺が良いでしょう。自分の家に火を点けて、家族もろとも心中しなさい。私が関わったことの一切の証拠は消しておくように。わかりましたか?」

 中年の男が、便座に座ったままコクリとうなずく。

 やり手の証券会社の社長だ。

 ぼんやりした表情で、虚空を見つめている。

「クス。こうして見てみると、最近の子供達と何ら変わりませんね」

 用事は済んだ。

 もう、ここにいる必要は無い。

 トイレの扉を開け、バーに戻った。

 カウンターに座った巧が、私に話しかけようとした。それを無視し、店を出る。

 夜の歓声が木霊する繁華街に出ると、巧が慌てて追ってきた。

「おい、待てって、司。あんなトコでやらなきゃならなかったことは謝る。だけど、あそこしか、あの社長に接触する場所が無かったんだぜ?」

「言い訳は、聞きたくありませんね。貴方は、私が潔癖症であることを知っているはずですよ」

 黒手袋を外し、新しい物を身につける。

 巧が苦笑混じりにため息をつき、言う。

「ああ。汚れとか、汚い場所は駄目なくせに、血だけは平気なんだよな。まったく、奇妙な潔癖症だ」

「死にたいのですか、巧? あの社長と同じ死に方で」

「いいや。俺はまだ生きていたいね。今回は、本当にすまなかった。次回は、もっと清潔な場でやれるよう善処する」

「善処では駄目ですね。必ず、です」

「わかった、そうしよう」

「今回の報酬は、後日、貴方の口座に振り込んでおきましょう。では、さようなら」

 漆黒の色を浮かべたロングコートを翻し、巧に背を向け、ゆっくりと歩き出す。

「ああ、さよならだな、司!」

 振り返る。

 衝撃。

 頭が、揺れた。

 視界が、霞んでくる。

 視界の隅に、割れたウイスキーのボトルを持った巧が、立っていた。

 笑っている。

 裏切られましたか。

 いつか、こんなことが起きると、思ってはいましたが。

 クス。つくづく、私らしい死に方ですね。死なずに生きていたら、巧に生きてきたことを後悔させてあげましょう。

「………貴方の元に、逝けるかもしれませんね」

 そこで、意識が途切れた。



 眼を開けた。

 何も、見えない。

 見えなくとも、良かった。

 見るに値するものなど、この世界には存在しない。

 また、眼を閉じた。静かに、自分の中に降りていく。大きな何かと、意識をつなぎ合わせようとする。

 探るかのように、ゆっくりと、土を擦る足音が聞こえてきた。

 五人。男。

 肩に乗っていた夕凪が、身構えたのがわかる。

「我を、捕らえに来たのだろう?」

 言葉を省く。

 男達の足が止まり、我の言葉に驚いたのがわかった。

「!? ………さて、何の話だ? 我々は、山道で迷っただけだ。出来れば、道を教えてもらいたい」

 先頭の男が答えた。夕凪が、我に語りかける。

(あの男が、まとめ役のようだな)

「……我には、見えぬがな」

 先頭の男に語りかけた。

「……そのような嘘をつかずとも、我には見える。行き先は、国立電子工学研究所なのだろう?」

「な、何故、それを!? ……お前は、危険だな。おい、少し、大人しくさせろ」

 空気が殺気立った。それを感じ、夕凪が風に舞う。

(少々、懲らしめていいのだろう? 聖)

「ああ。しかし、やりすぎるな」

 夕凪が、中空から男達めがけて、勢いよく襲い掛かる。

「痛て! くそ、この鷹めっ!」

 男達が、拳銃を夕凪に向かって乱射する。

 夕凪は滑空しながら、それを避け、鍵爪で男達の頭部を掴み、引き倒していく。

 幾度かそれを繰り返し、数分の闘争が終末を告げると、四人の男が、地面に転がっていた。血は出ているが、死んではいない。

「その辺にしておけ、夕凪。我は、行く」

 上空を滑空していた夕凪が、我の肩に止まる。

(そうか。ならば、私もついていこう。人間以外の話し相手も、必要だろう?)

「フ、そうだな。共に、行くか」

(珍しいこともあるものだ。聖が、自分から人間に関わろうとはな)

「……この者達を追い払ったとしても、また新しい者達が来る。凶悪な兵器と共にな。我は、汝の居場所を、汚い人間の手で汚されたくはないのだ」

(人間のためではなく、あくまで、私のためか。まあ、それも良いだろう。行こう)

まとめ役の男に告いだ。

「……さて、我の道案内をしろ。汝らの薄汚い心と、語り合うつもりはない。吐き気しか、しないのでな」

 先頭をきって歩みだす。行く先は、見えていた。

「………一度、動き出した時は止まらない。行き着いた先に見出すのは、希望か、それとも……」



「何や、これ。ホンマに、こないなことが……?」

 言葉が続かない。

 わいはパソコンの画面を見ながら、絶句するしかなかった。

 青少年管理法やて?

 よくも、こんなけったいな法律がまかり通ったもんや。

「そやけど、妙やな? 何で、わいがその電磁波とやらの影響を受けてへんのや?」

 嫌な予感がビンビンするで。こういう時のわいの勘は、天気予報と違って、よく当たるんや。

 突然、家のドアの蹴破られる音が響いた。

 慌しい足音が駆けてくる。

 瞬時に、わいは全てを悟った。

 わいは素早く、お手製の小型パソコンを持ち、愛用の拳銃を机の引き出しに探す。

「!? 無い! なんで無いんや。確か、いつも、ここに入れといてるはずや!」

 そうこうしている間にも、足音はどんどんわいの部屋に迫ってきていた。

 おそらく、警察やな。わいを捕まえるつもりなんやろ。

 最悪、この場で殺されるかもしれへん。

 だったら。

「はは、奥の手や。こんな時のために準備しといて、正解やったわ」

 パソコンのキーボードを、高速で打つ。

 それにしても、わいの拳銃、どこにいったんや?

 まさか、一人で歩き出すわけは無いやろうし。

 ああ、何となくやけど、わかったで。

 もっともここで、その真相を探る時間は無さそうやけどな。

「これで、良し。時間は、……そうやな、三十秒後でちょうどええやろ」

 エンターキーを叩く。

 パソコンの画面に、カウントダウンの秒数が示された。

 さて、わいは早く、安全なトコに非難せな。

 わいは部屋の床の取っ手を開け、体を潜り込ませる。

 降りた先は、薄暗いトンネルの中。

 昔、工事を中断したトンネルだ。地上に抜ける出口も、しっかり作ってある。

 偶然見つけた、地下道だった。今まで、一度も使ったことは無い。

 まさか、ホンマに使うことになるなんてな。

「もうすぐやな。………あと、三秒」

 わいの部屋のドアが蹴破られる音が聞こえた。

 あちゃー、タイミング悪いな、あんさん方。

 ま、運命とでも割り切ってや。

 三、二、一……。

 爆発音と共に、地面が揺れた。わいの出てきた出口からは、どす黒い黒煙が漏れ出している。

「南無」

 堪忍な。

 せやけど、まだ、わいは捕まるわけにはいかんのや。

 一つ、気になることがあるんやからな。

 出口が見えてくる。

 もうすぐや、もうすぐ。

 地上に出た。光が眩しい。眼が眩み、何も見えなかった。

 色が、戻る。多数の警官と無数の銃口が、わいの眼に映った。

「!?」

 なんで、この出口がわかったんや。

 ここは、わい以外、知らない秘密の抜け道やのに。

「陣野尚人! 少年管理法と公務執行妨害、並びに器物損壊、殺人の容疑で逮捕する!!」

 ち、今のわいは、武器を持っとらん。

 しかも、逃げ道もあらへん。

 こういう時は。

「しゃあないな。大人しく捕まってやるわ。早よ、逮捕しいや」

 大人しく捕まるに限る。

 無駄な抵抗は、つまらん怪我のもとやからな。

「よし、確保しろ!」

 手錠が、両手にかけられた。

 見とけや。

 わいは、こんなんで簡単に終わらへんぞ。

 わいの中で、一つの疑問が確信に変わったんやからな。

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