表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

六章(1):漆黒

 ノイズが、消えた。

「クス。どうやら、うまくいったようですね」

 尚人君が、電磁波を止めたのだろう。今は、周囲全ての音が、はっきりと聞こえてくる。

「……おや?」

 屋上からのノイズは、消えた。代わりに、屋上から、何か別の音が聞こえてくる。

「……何やら、不穏な音、ですね」

 気になる音。人間の音だ。だが、どこかに違和感もある。

「行って、みますか」

 階段を上っていく。上の階に、同じように階段を上っていく輝君の姿が見えた。

「よう、司。無事だったみたいだな」

 気配で気づいたらしい。足を止めて、待っていた。

「ま、お前があんなトコでくたばるとは、思って無かったけどな」

「クス。妹さんは、置いてきたのですか?」

 輝君が驚き、顔を背けた。顔が、一瞬で赤く染まった。

「ま、まあな」

 深く突っ込まないほうがいいだろう。これ以上やると、暴れ出しそうな音だ。

「そうですか。それで、輝君は、何故ここに?」

 まだ少し赤い顔をしながら、輝君が言う。

「屋上に、妙な気配を感じてな。気になって、来てみたんだ」

「そうでしたか。私も、屋上から気になる音が聞こえましてね。来てみたのですよ。ところで、聖君を見かけませんでしたか?」

「俺と別れた後は、見てないな。気配も、感じられない。というか、アイツの気配は、読めないんだが。音も、聞こえないのか?」

「私も、聖君の音だけは、なかなか聞こえません。何故か、聞こえづらい」

 間違いなく、近くにはいる。だが、ノイズが消えた今でも、居場所を特定するほどに、聞き取ることは出来ない。

「まあ、そのうち現れるでしょう。いなくなったというわけでもありませんし」

「そうだな。上に尚人がいる。アイツなら、聖の居場所もわかるかもな」

「ええ。行ってみましょう」

 尚人君の音は、屋上付近から、聞こえてくる。おそらく、八十階。ただ、そこで留まっている。それが、少し気にかかった。

 階段を、上っていく。時々、倒れた子供の姿が見えた。音は聞こえているから、死んではいない。電磁波の影響が切れて、一時的に気絶しているだけだろう。

「完全に、覚醒したのですね」

 隣の輝君に話しかける。

「ああ」

「真っ直ぐでうるさい音が、更にうるさくなりました」

「誉めてんのか、それ?」

「ええ。これ以上無いくらいに、ね」

「お前の場合、誉めてんのか皮肉ってんのか、いまいちよくわからんな」

「皮肉です」

「やっぱりかっ!?」

 そんな風に話しながら、八十階へと着く。妙な音は、さっきより大きくなっている。

「ふう、厄介だぜ」

「クス。そのようですね」

 所々の壁が、何かにえぐられたようになっていた。戦闘の音も、はっきりと聞こえてくる。

「奏、だな」

「尚人君もいるようです。戦闘中のようですね」

 ふと、駆ける足音が近づいてくる。

 左。尚人君が駆けてくる。

 こちらには、まだ気づいていない。手には、二挺の拳銃が握られていた。

 その先、少し気弱そうな顔をした少年。奏という少年だったか。手には闇。

 それが、尚人君に向かって勢いよく放たれる。

 尚人君。闇に向かって、何十発も撃つ。銃弾は、闇の中に吸い込まれ、消えた。効果は、全く無いようだった。

 闇が体に当たる直前、右にかわして黒球を避けた。避けたところの地面が、闇に飲み込まれていく。

「!? 輝はんと司はん!?」

 こちらに気づいたようだ。切迫した表情を向ける。

 尚人君が、物陰に走りこむ。

 輝君と私も、それに続いた。奏君からは、ちょうど死角の位置になる。

「急がんと、大変なことになる! 鬼村は、普通の人間を、ETにしようとしとる。わいらから取った、血を使ってな!」

 輝君が驚く。それを横目で見ながら、言う。

「なるほど。屋上から聞こえた異質な音は、それでしたか。人間のようで、人間では無い。まだ、完全にETになりきれていないのでしょう」

 尚人君が、指を噛みながら、言う。

「マズイで。さっきから、わいはここで、奏はんに足止めさせられとるんや。何で、今更、時間稼ぎするのかと思っとったが、やっぱりもう、鬼村はET化に成功したんやな。そんで、完全にETとなるまでの時間を、わいらをここで止めることで、稼ごうとしてるんやろな」

「クス。間違いないでしょう。人外の音は、さっきよりも大きくなっています」

「お、おい。普通の人間のET化って、マジかよ!?」

「マジもマジ、大マジや。しかも、わいら三人から取った三人分の血や。それを使えば、とんでもない能力が発現する可能性もある」

「うわ……。電磁波を止めて、終わったんじゃないのか……」

「怖いのですか?」

 そう言うと、輝君が、不敵な笑みを浮かべた。何か、楽しんでいるような笑みにも見える。

「怖い? この俺がか? 冗談言うな。琴乃を攫ったヤツだ。ギタギタにしてやろうと思ってた。俺は、先に行くぜ」

 そう言うと、輝君は腰の刀を抜いて、飛び出していった。

「あ、輝はん!? まだ、奏はんがいるんやで!?」

「クス、大丈夫ですよ。今の、輝君なら」

「いくら、完全に覚醒した言うても、奏はんの能力に、勝てるんやろか?」

 尚人君は、まだ不安そうな顔をしている。ずっとやりあっていたのだ。無理も無い。

 二つの音が、近づいていく。



 駆けた。

 屋上への階段。見えた。

 正面。男が、立っていた。

 立ち止まる。

「止まってください。残念ですが、ここは通せません」

 奏。手には、闇。

 黒球の射程の範囲内。だが、気にしなかった。

「どうしても、か?」

 奏を、睨む。奏も、睨み返してくる。

 良い表情だな。

「どうしても、です」

「父親の、命令か?」

「いえ。僕は、僕自身の意思で、ここにいるのです。お父さんの、ために」

 手の中の闇が、大きくなっている。上半身ぐらいは、一瞬で消し飛ばせそうだ。

「お前の父親は、間違っている。お前も、それはわかっているはずだ」

「良いんです。例え、お父さんが間違っているとしても、僕は、僕自身の居場所を、守らなくてはならない。あなた方と、同じように」

「父親の隣だけが、お前の居場所じゃないだろ? お前は、居場所を作ることを、恐れているだけだ。俺も、そうだった」

「あなたが?」

「そうだ。俺は、孤児として捨てられて、心が冷たくなっていた。誰も俺のことなど、助けてはくれない。誰も俺のことなど、気づいてはくれない。俺の居場所など、どこにも無い。そう、諦めかけていたんだ」

「……そうですか」

「それを、一人の女の子が、琴乃が、俺に、居場所を与えてくれた。家族という、温かい居場所をな」

「僕には、お父さんしか、いない」

「居場所なら、俺達が作ってやるよ」

「!? あなた方が?」

「そうだ。だから、一人で悲しむな」

「僕は……」

 闇が、また大きくなった。

「僕は、一人なんかじゃない!!」

 闇。放たれる。

 凄まじい速さで、こちらに向かってくる。

 構えた。

 斬魔刀。

 想いを、込めた。

「はああっ!!」

 黒球を縦一閃、両断した。

 俺の両側の地面が、闇に飲み込まれていく。

 残った地面の上に、立っていた。

「!? そ、そんな……。僕の、力が……」

「今のお前じゃ、俺は消せない。お前の想いは、俺の想いを、消せない」

「くっ……」

 歩き出す。

 奏。うなだれている。殺気はもう、感じられない。

 横を、通り抜けた。

 尚人と司も、後に続いていく。

「行かせてもらう。お前の父親が何を考えているかは知らないが、俺達は、それを止めに行かなくちゃならない。止めたかったら、来い。いつでも、相手になってやる」

 奏を背にして、歩き出す。

 追ってくる様子は無い。

 ゆっくりと、屋上への階段を、上っていった。



 夜が、明けようとしている。

 何度、この空を見ただろうか。

 三人で、こうしてよく、明け頃の空を眺めたものだ。

 玄蔵と、杉原。

 もうその二人も、隣にはいない。

 どこで、こうなってしまったのだろうか。

 かつて、道を同じくしていた、友。

 家族を、少年犯罪で、失っていた。

 その点で、三人は確かに、つながっていたのだ。

「ククク、皮肉なものだな」

 杉原は死に、玄蔵は裏切った。

 もう、私しかいない。

 野望とは、こんなものだろうか。

 形を持つにつれ、一人になっていく。

 寂しさは、無かった。ただ、心の中に、乾いた風が吹き抜けているだけだ。

 鼓動が一度、跳ねた。

 さっきから、ひどく胸がざわついている。心地良かった。娘を失ってから、ざわつくことすら、無かったのだ。

「優奈、そこから、お父さんが見えるかい?」

 娘に、呼びかけた。

「お父さんは、世界を変える。もう、優奈が死んでしまうような世界には、させないからね」

 返事は、無い。風の声が、聞こえるだけだ。

「見ていておくれ、優奈」

 もう一度だけ、呼びかけた。

 声は、風の中に、消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ