四章(2):覚悟
眼を閉じて、座っていた。
シスターの微笑んだ顔が、浮かんだ。周りには子供達。自分も、いた。
眼を閉じたまま、懐からハーモニカを取り出す。
あの光景には、これが必要だ。
ハーモニカを口に当て、吹く。シスターのよく吹いた曲を、吹いた。
電磁波や世界など、どうでも良かった。
ただ、私からあの光景を奪った巧は、殺す。
殺して、私も死ぬ。
そうでなければ、救われないではないか。
シスターも、奪われた命も、奪った命も。
しかし心に、違う思いも生まれていた。
生きたい。
生きて、確かめたい。
命を捨ててまで、シスターは私に、何かを託した。
それを確かめずに、死んでいいのか。
答えはまだ、出てはいない。
揺れていた。
一曲、吹き終わった。
眼を、開けた。
「良い、曲だな」
「輝君、ですか」
真っ直ぐな音だった。双子だと、さっき聞いた。
惹かれる音だったのは、だからかもしれない。
「俺が、兄貴だ」
笑いながら、そんなことを言った。
「クス。それも、良いかもしれませんね」
「よし、じゃ、お前が弟だな。さっそく、焼きそばパン買って……」
「お断りですね」
「早っ!?」
「輝君が、菓子パンでも買いに行きますか?」
ハーモニカを口にあてる。
慌てた顔で、輝君は首を横に振った。
「くそっ。お前には一つ、貸しがあるんだからな」
「その言葉は、そっくりそのまま、輝君に返しますよ」
笑いあった。しばらく笑いあった後、輝君が言う。
「良い曲だった」
「シスターが、よく吹いてくれたのですよ」
「孤児院を作ったのは、元の孤児院を再建したかったからか?」
「おや、聞いていたのですね。何の反応も見せなかった時だったのに」
「一応な」
「ええ。輝君の言う通りです。その時の孤児は、全員死んでしまいましたが、孤児が余りにも辛い扱いをされているのを、見かねてしまいましてね」
「孤児の気持ちは、わかるってわけか」
「まあ、そういうことです」
「お前が死んだら、その孤児達は、どうなるんだ?」
輝君を見た。
真顔だった。心のどこかが、動いたような気がした。
「また、孤児になるでしょうね。私一人の資金で、運営されていますから」
「それで、良いのか?」
また、輝君を見た。
真っ直ぐな眼。この眼は、苦手だ。
「さっき、お前はハーモニカを吹いてた。それを見て、お前から聞いてたシスターの姿が、ダブって見えた。俺の想像に過ぎないけどな。そして、お前は昔の孤児院を再建し、孤児を育てている」
「何が、言いたいのですか?」
「お前の中に、シスターは生きてる」
「……シスターは、死にましたよ」
「全てを託す相手に、シスターは、お前を選んだ。命がけでお前を守り、身代わりになった。そして、ハーモニカを、孤児院を託したんじゃねえかな」
「考えすぎですよ」
「じゃ、なんでお前は、孤児院を再建したんだ? シスターの殺された思い出のある、孤児院を」
「それは……」
「シスターがお前に託した想いは、届いた。そして、お前の中で、その想いは、今も生きつづけてる。託された想いを捨てて死んでいくことは、シスターを裏切ることにはならないのか?」
「しかし、私は、数えきれないほどの命を、奪った」
「抱えていけよ。その命も、想いも。抱え切れなかった時が、お前の死ぬ時だ」
「クス。全く。真っ直ぐすぎますよ、貴方は」
「真っ直ぐすぎるのは、昔からだ」
「妹さんと、会ってからですか?」
「まあ、そうだな」
輝君が、照れたように笑う。
「貴方の妹さんへの想いに、私が名前を付けてあげましょうか?」
思わず、言ってしまっていた。
何か、したかった。
輝君が少し笑って、言った。
「遠慮しておく。正直、まだ迷ってる。だが、やっぱり、自分の想いの名前ぐらい、自分でつけないとな。届くと、いいんだがな」
そう言うと、輝君は立ちあがり、歩き出した。
「貴方の想いは、届きますよ」
輝君は振り向かず、片手を挙げて、答えた。
司と話し終えた後、ずっと考えていた。
自分の出生には、かなり驚いた。
いや、誰だって驚くだろう。
ある日突然、自分を捨てた親が出てきて、実は人間じゃありませんでしたなんて、受け入れられるはずが無いのだ。
電磁波のことも、わかった。
だが、世界を救うということ。そんなこと、考えられなかった。
そんなことより、琴乃を救いたかった。
それが結果として、世界を救うということだ。
世界とか子供とかは、琴乃を救うついでだ。俺にとっては、それだけの意味しか持たない。
まだ、揺れていた。
わからない、といった方が良いのかもしれない。
「駄目なヤツだな、俺は」
斬魔刀。抜いた。刀身が、白光を照り返す。
斬りたかった。どうしようもない自分を、斬り倒したかった。
虚空に、自分を浮べた。
斬る。
何度も、斬る。
それでも、迷った顔の自分が、浮かんできた。
「……斬れぬのか?」
「!?」
いつの間にか、聖が背後に立っていた。
気配が全く感じられなかった。
心がわかる。司にも、そんなところがあった。
だから、問いかけ自体は、慣れていた。
「ああ。斬りたくて、仕方がないんだけどな」
聖が、手を突き出してくる。
貸せ、ということなのだろう。
「……斬魔刀、か」
刀身を見ながら、何度か振った。
「言っておくが、そいつは、俺以外には使えないぜ」
「……それは、どうであろうな」
聖は、近くにあった机に斬魔刀を二度、振り下ろした。
少しして、机が、音を立てて崩れた。
きれいに、三つに斬られている。
「お前、俺の刀が使えるのか!?」
「我が打った刀だ。汝が十五の時、送った」
「お前が作った刀かよっ!?」
「そうだ。汝は、この刀の力を、半分しか引き出せていない。完全に覚醒していないのだから、無理もないがな」
「半分?」
「汝は、この刀は何でも斬ることが出来ると思っているのだろう?」
「あ、ああ。違うのか?」
「半分だと言っただろう。汝は、刀は、斬れるものだと思っている」
「そりゃ、刀は斬れるもんだろ」
「この刀においては、違う。……持て」
聖は懐から紙を取り出し、俺に持たせた。
折り紙ほどの大きさで、三枚あった。
「三枚を重ねて、両端を持ち、まっすぐに張れ。今、我が三枚の紙のうち、重なった中の二枚目だけを斬る、一枚目と三枚目は斬らずにな」
「おいおい、それはさすがに無理だろ。どうしたって、三枚同時に斬ることになる」
聖はそれには答えず、斬魔刀を上段に構える。何か、集中しているようだった。
刀が、振り下ろされた。
静かな動きだった。さりげない動きだが、恐ろしく剣速が早い。風が、頬を打った。
持った紙を見る。
何も、変化は無いように思える。
両端に力を込め、引っ張ってみた。全て斬れたならば、二つに離れるはずだ。
紙に抵抗があった。
斬られていない、ということだ。
だが刀の切っ先が紙に入り、斬り抜いたのは見ている。
だとすれば、斬られているはずなのだ。
一枚目を、取ってみる。斬られた様子は無い。
驚いた。
二枚目は、見事に二つに斬られていた。
三枚目は、傷一つついていない。
「これは、手品か?」
「違う。汝を斬っても、同じようなことができる」
「驚いたな。これが、斬魔刀の、本当の力なのか?」
聖は頷いて、言った。
「そうだ。この刀は、全てを斬ることの出来る刀なのではない。使う者の、望んだものを斬ることが出来る刀なのだ」
「だから、一枚目と三枚目の紙は斬らないで、二枚目だけ斬れたってわけか」
「斬ることが出来るのは、モノだけではない。心や事象、眼に見えぬものまでも、望めば、斬れる」
「!? 電磁波の影響もか!?」
「斬れるだろう。汝が完全に覚醒しなければ、それも無理な話だが」
「文字通り、全てを斬ることができるんだな」
「しかし、一度斬ったモノは、斬ったままだ。直すことは、出来ん」
「俺の斬りたいものが、斬れる。そいつがわかっただけで、十分だ。後は、俺がETとして完全に覚醒すればいいんだろ?」
聖から、斬魔刀を受け取る。
さっそく、さっきの紙を斬ってみることにした。集中し、刀を一直線に振りおろす。
三枚全部が、斬れた。
「くそ。まだ、駄目か」
「望まぬモノまで、斬らぬようにすることだ、魔旋風」
どきりと、した。
声のする方に振り向く。
聖の姿は、どこにも無かった。
暗がりを、歩いていた。
時々、切れかかった明かりが明滅していた。
もうすぐ、扉が見えるはずだ。
そこに、少年達がいる。
四人。
僕一人で、ET四人と戦わなくてはならない。援護に割ける人数は、いなかった。
勝ち目があるのかは、深く考えなかった。自分で言い出したことだ。少しでも、お父さんの役に立てればいい。
生まれてすぐ、お父さんの養子になった。
本当の親は、知らない。お父さんに聞いても、教えてくれなかった。捨てられたのだ、と言われた。
お父さんは、厳しかった。
いつも、お父さんの期待を裏切った。
だから、また捨てられてしまうと思った。でも、捨てられはしなかった。
捨てられてしまうのが、怖かった。
居場所を無くすのが、ただ、怖かった。だから、お父さんがくれた居場所を守る。
居場所をくれたお父さん。その役に、立たなくてはいけないのだ。
力を、持った。
ETとして覚醒した。
今の僕には、力がある。
その力で、僕は、僕の居場所を守る。
居場所を奪おうとする全てのモノを、消滅させる。
お父さんの思想は、正しいとは言えない。それでも、お父さんは僕に居場所を与えてくれた。
間違っていたとしても、僕にとってお父さんは、絶対の存在なのだ。
それでいいのかと、言われた。
輝という少年にだ。
それで、いい。
お父さんは、僕にとっての唯一の居場所だから。
だから、それを失いたくない。
居場所を失えば、僕は一人になる。
一人ぼっちに、なりたくない。
僕は、僕の居場所を守るんだ。
そう、それで。
「悪いわけ、無いじゃないか……」
扉の前に立つ。右手に、闇が広がった。
「……虚しいのか、虚無星?」
「!?」
声。
背後。
振り向く。
振り向きざまに、闇を放った。
闇が、全てを飲み込んでいく。
「……覚醒はしている、か」
同じ声。また背中からだった。
闇を、放った。
命中する寸前で、姿が消えた。
「……今の汝では、我は倒せぬぞ」
また背中から、声が聞こえた。力は、使わなかった。
使うとしたら、もっと隙のある時だ。そうでなければ、捉えられないだろう。
振り向く。
男が、立っていた。
少年。
見たことの無い少年だった。多分、脱走を手助けした少年だろう。
飛んでいた鷹が、肩に乗る。
法衣に、鷹匠の装備を付けている。目を覆っている布と合わせると、妙に似合っていた。
「あなたも、ET、ですか?」
「……神眼隠者」
(この男の名は、八神聖。私は、夕凪だ)
知っていた。監視カメラで、一瞬見た。
「鷹。夕凪さんは、話せるのですね」
(私の声は、ETにしか、聞こえん)
聖さんが扉を見ながら言った。
「……ここは退け、虚無星」
「出来ません。僕は、あなた方の敵です。あなた方を、倒さなくてはならない」
闇が、生まれた。
「……居場所を失うのが、それほど怖いのか?」
「!?」
心を読まれた。
そうか。
これが、聖さんの力。
だから僕の考えていることを読んで、攻撃を避けた。
「怖くは、ありません」
「……いや、お前は恐れているのだ。居場所を失い、一人になることに。一人で、生きていくことに」
「違うっ!」
闇を解き放つ。
聖さんの姿が一瞬消え、また同じ場所に立っていた。
「人は皆、結局は一人だ。孤独でもある。孤独だから、友を、恋人を、家族を持つ。人と、つながりたいからだ」
「僕には、お父さんがいる」
「……ではなぜ、お前は、そんなに孤独なのだ? お前の心は、孤独だと、必死に叫んでいるぞ」
「………」
認められたかった。
お父さんに、認められたかった。
認められたことなど、一度も無かった。
それでも、認められたかったのだ。
頭を、撫でてもらいたかった。他の誰かが、そうしているのを、見たことがあった。
あの光景を見た時、胸によぎった思いは、寂しさではなかったのか。
わからない。
わかりたくなど、ない。
わかってしまったら、僕は孤独になる。
僕は、一人きりになる。
「お前は、一人きりでは無いぞ」
「……どういう、ことですか?」
「兄弟が、いる。あと、父親も」
「!?」
「ETは全員、元は一人の男と一人の女の生殖細胞を利用して、創られたものだ。遺伝子で見れば、人間にあらざる者だが」
「だから、兄弟だと? それでも、他人です」
「産みの親が、杉原だと言ってもか?」
「!?」
あの、杉原さんが。
そうか。
だからか。
だから、あんなに優しかったのか。
戦う気は、無くなってしまっていた。
混乱しているのかもしれない。
聖さんに背を向け、来た道を歩き出す。
「今は、退きます。ですが、いずれ……」
「虚無星」
立ち止まる。
「杉浦は、ETに、電磁波を止めて欲しいと、託した。自分の過ちを、正して欲しいとな。その想いにどう応えるかは、汝次第だ」
「僕は……」
何か、言おうとした。
言葉は、何も出てこない。
無言のまま、また、歩き出した。
部屋を出た。
外の監視カメラに、気になるものが映っていた。
二挺の銃。腰に挿す。ベルトは、このために改造してある。
初めは、ハッキングがきっかけだった。
暇つぶしのつもりで首相の個人情報を見て、捕まり、親父と戦い、負けた。
だが、聖はんに助けられ、自分が人間ではないことを知り、果ては今の社会に喧嘩を売ろうとしている。
「ずいぶん、大げさなことになっとるなあ……」
歩きながら、呟いた。
どうするか決めろと言われたが、やるつもりだった。
首謀者の一人は、親父なのだ。それを止められるのは、自分しかいない。
ドアのロックを解除し、外に出た。
薄暗い廊下。
この建物の電灯は、かなり暗い。加えて、今は真夜中だった。
角を曲がった。
男が一人、煙草を燻らせながら、佇んでいた。
「ここは、禁煙やで」
「わしだけ、特別だ」
殺気は無かった。警戒した様子も無い。ここで戦う気はないのだろう。
「何しに、来たんや?」
親父が煙草を口に当て、吸った。灰が、赤く光った。
鼻から、ゆっくりと煙を吐き出す。
「吸ってみるか?」
質問に答える気は無いらしい。多少イラついたが、耐えた。
「ああ」
親父が箱を差し出す。
煙草。一本だけ、出ていた。それを抜き取り、くわえる。
「お前には、強いかもしれんな」
少し笑いながら、親父が左手で風除けを作り、右手でライターの蓋を開けた。金属の透き通る音が鳴る。
親父が二度、ライターをこすった。二度目で、音と共に炎が点った。すぐに、目の前の煙草から煙が出る。
吸って、鼻から煙を逃がす。
「うまいな」
「ふん、意地を張りおって。味もわからんくせに」
「子供扱いすんなや。もう、十七や」
「わしから見れば、まだまだ子供だな」
しばらく、無言だった。静かだ。煙を吐き出す音以外、何も聞こえない。
「人間や、無いそうや」
「……そうか」
ちらと、親父を見た。
表情に、変化は無い。
「驚かないんやな」
親父が、煙草を軽く揺らした。灰が、何か別のもののように、地面に落ちた。
「……そんな気が、していた」
「はは。そりゃ、驚かないわけや」
「人間で無いところで、お前がわしのクソ息子なのは、何も変わらん」
「………」
煙が眼に染みる。そういうことにしよう、と思った。
またしばらく、無言でいた。
煙草は、もう短くなっている。
親父が、口を開いた。
「一度だけ、言っておく」
そう言った親父の眼は、本気だった。
「逃げろ。今ならまだ、引き返せる」
わいも、親父を見た。本気なのだ。
「嫌やな。親父達は、間違っとる。間違っとる限り、わいは、戦う」
親父が、ため息をつくように、煙を吐いた。
「頑固者だな」
「あんたに、似たんや」
「ふん。そうか」
親父が立ち上がる。吸殻を、足で踏み消した。
「殺しあうことになる。容赦は、せん」
わいも、座ったまま、吸殻を踏み消す。
「望むとこや」
立ち上がり、親父に背を向けて、歩き出した。
「尚人」
振り向いた。
何か、投げられた。
顔の前で、それを受ける。
紙の箱。中に、銀色のライターも入っていた。
「煙草……?」
「お前に、くれてやる」
親父が背を向け、歩き出す。
姿はすぐに、暗闇へと消えた。
「………」
箱から一本取り出して、くわえる。
ライター。
うまく、点かなかった。何度かこすって、ようやく火が点いた。煙草に近づけると、すぐに煙が出てきた。
大きく吸って、吐いた。
「……不味い、な」
夕凪が、飛んでいた。ぼんやりと、それを眺めていた。
五人のET。国立電子工学研究所。
やっと、ここまできた。
長い、旅だった。
ずっと、歩いてきたような気がする。
だが、もうすぐだ。
もうすぐ、我の望みが叶う。
手を挙げた。気づいた夕凪が、滑空してくる。そのまま、我の腕に止まる。
腰の皮袋から、干し肉を与えた。兎の肉だ。あっさりしていて、味は鳥肉に似ていた。
(だいぶ、乗り気なのだな)
「……そんなことは無い」
(人間に関わろうとしなかった聖が、変わるものだ)
「……我は、変わっておらぬ」
(ふ、そんなことはわかっている。もともと、お前が持っていたものだ。それが、あの者達と関わっていく中で、また、現れてきたのだろう)
夕凪が、他の三人を見る。皆、自分の道具の手入れをしていた。
(皆、やる気のようだな)
「……そのようだ」
少しずれていた眼帯を、直す。
何でも見通すことのできる、眼。
心、過去、現在、未来、知識、その他全てのことを見通す、眼。
それが、我に与えられた力だった。
生まれた時から、すでに我は、完全に覚醒していた。
それで、我の生み出された意味も、我の使命も、すぐに理解した。
そして、孤児として、社会に出た。
何でも、わかった。だから、一人で生きていくのに、さほど苦労はしなかった。
ただ、銀の瞳は、人に気持ち悪がられた。
そして、人の心が読めた。読んで、先に結論を言ってしまうのだ。
そんな我を、人は恐れ、忌避した。
人の波の中で、我は、孤独だった。
だから、人から逃げるようにして、山に入った。
両眼を、潰そうとした。そうすれば、能力は消滅するからだ。
だが、決心はつかなかった。
そんな中で、夕凪に出会った。
鷹だった。
どうということもない、鷹。
なのに、何故か、心が読めなかった。心だけではない。過去や未来も、見えなかった。
一つだけ、見えたことがあった。
自分の未来を見たら、見えた。
見えて、しまった。
その頃すでに、我と夕凪は、友になっていた。
心の読めない、唯一の存在。
言葉が全部、信じられた。読めないからこそ、信じられた。思っていることの真逆を言う人間が、多すぎたのだ。
初めて、友が出来た。
我は、孤独では無くなっていた。
夕凪を、見た。脚で、首を掻いていた。夕凪の癖だ。
(この戦い、勝てるのか?)
掻き終わった後、夕凪が聞いてきた。
「……わからぬ」
(聖に、わからぬことなどあるまい?)
「未来など、容易く変わる。………いや、変わるべきなのだ」
(このままでは負ける、ということか?)
「わからぬ。未来を読むことは、しばらく前から、禁じた」
(しばらくとは、どれほど前からなのだ?)
「くどいぞ、夕凪。我の使命は、ETを戦わせることだ。勝たせるまでは、入っておらん」
(それでも、勝たせるつもりなのだろう?)
「我は……」
(私は、勝って欲しいがな。彼らの作る世界を、見てみたくはないか?)
夕凪が笑いながら、飛び立つ。
笑っているのがわかるのは多分、自分だけだろう。笑っても、夕凪の顔に、ほとんど変化は無い。
「……必ず、見せる」
夕凪を見ながら、そう呟いた。




