本当のカタチ
「ん…」
「お目覚めですか?」
看護婦の声が聞こえる。
そう、ここは病院だ。
僕が目を覚ましたということは手術は無事成功したのだろうか?
「今、先生を呼んできますね」
看護婦はパタパタと足音を立てながら病室を出て行った。
その後ろ姿を見送った僕は天井を見上げた。
本当のカタチ
作:大柳 朱
「気分はどうかな?」
三十代半ばの男性医師が声をかけてきた。
「まだわかりません…ただ…自ら望んだとはいえ下半身がまだ落ち着きませんね…」
「そうだろうね…まぁこれから慣れていけばいいさ」
「はい…」
僕は不動春樹…いやもぅ不動千春か。
僕は性転換手術を受けた。
性別が変わったのだから“僕”は変か。
私にしよう。
私には好きな人がいる。
幼い頃に過ごした田舎で出会った男の子、石動謙也君のことが。
性転換手術が自由にできるようになったこの時代において私は思い切って手術を受けた。
あれから一週間で私は退院した。
「ちはる~♪」
姉の美春が抱きついてきた。
「ね、姉さん…離して」
「え~!?せっかくの妹誕生に読んこんじゃいけないの?」
「えと…そうじゃないけど…人前だし…」
「はいはい、わかったわよ。とりあえず家に帰りましょ」
私は姉さんの車に乗り込んだ。
「ちはるさ~今でも謙也くんのこと好きなの?」
「あ、当たり前じゃない!じゃなきゃここまでしないわ!」
「はいはい、怒らない怒らない」
私は謙也くんが好きなんだからここまでしたのよ!
そのあとはたわいのない話をした。
気が付けば自宅についており、玄関の扉を開けた。
「あら、お帰り。美春、千春♪」
「…ただいま」
優しく迎えてくれた母さんに気が付けば抱きついていた。
「ど、どうしたの?」
「ぐず…ごめんなさい…私…」
「いいのよ。入院するときにも言ったわよね?全然気にしてないって」
「ありがとう…」
私は母さんの胸の中で思いっきり泣いた。
夏休みは学生たちは再び学校に通いだす。
私も例外ではなく、学校に通うのであった。
「おはよう」
隣の席の三原さんが話しかけてきた。
「お、おはようございます…」
「何?どうしたの?そんなに縮こまって」
「い、いえ…」
入学当初から女と偽っている私は既に“不動千春”と学校側にクラスメイトに認識されている。
性同一障害に需要ができた現世において学校側は私が男であったことを知っている。
“トランス法”が制定されてもう十年になるだろうか?
おかげで私は日本での性転換手術、戸籍の改訂が容易にできた。
性同一性障害と判断された私は入学当初から不動千春でいられたというわけだ。
つまり、今回の手術は病気の治療といえば言い訳になるるのだ。
「ちはるさ~夏休みはどこかいったの?」
「どこにも…」
「本当にどうしたの?前みたいにさ~」
「そう…見える?」
「見える」
「体調でも悪いの?」
「そうかも…」
「保健室行っとく?」
「行こうかな…」
私は保健室へ行くことにした。
「失礼します…」
「あら、いらっしゃい♪」
保険医の相良先生が迎えてくれた。
私は夏休みに手術を受けたことを打ち明けた。
「そう…受けたのね…」
「でも、まだ実感がわかないんです…女の子になった実感が」
相良先生は私をそっと抱き寄せた。
「大丈夫よ…堂々としていれば。あなたは美しいもの。誰も元男なんて気づかないわ」
「ほんと…に?」
「信じられない?」
「い…いえ…」
「じゃあ昔話をしましょうか…」
相良先生は何かを思い出すかのような仕草をしながら語りだした。
今から五年前、一人の少年がいた。
少年は病院の窓口でただずんでいた。
「こ、これから…検査してもらうんだ…しっかりしなきゃ…」
「芦田さ~ん、5番にお入りください」
十分ほど経ったところで少年が呼ばれた。
中に入ると40代前半の男性医師がいた。
「はじめまして、持田です」
「よ、よろしくお願いします…」
「ここは心療内科だけど…どうしたのかな?」
「僕…心と体が一致していないんです…わ、私は…自分が本当は女であると感じるんです…」
「そうか…自覚症状から見ると…性同一性障害とみるんだけど…例えばどのような時に感じるのかな?」
「いつもです…私は今の姿が許せない…小さいころから女の子の格好の方が落ち着きました。
私はどうしたらいいのでしょうか?」
「君のご両親は知っているのかな?」
「まだ…うちあけていません…」
「君の将来に関わることだ。しっかり話し合ってみてくれ。
もし…手術をうけるのなら“トランス法”に基づいて君の戸籍・肉体を女性にすることができるから…」
「はい…」
「私としては…君の望むようにしたらいいと思うよ」
持田医師は少年に優しく微笑み手を振り送り出した。
その晩、少年は両親にうちあけた。
「本当…なの?」
「うん…本当…」
「どういうことかわかっているのか?」
「わかってる…でも…僕は…私は女の体を手に入れたい!!」
「本気…なのか?」
「うん…」
家族三人での家族会議。
少年の告白を聞いた母親は涙した。
「ごめんなさい…」
「なぜ謝る?」
「だ、だって…言い出しといてなんなんだけど…父さんと母さんを悲しませたから…」
「お前こそ…辛かったんじゃないか?」
「え!?」
父親は少年の頭にポンっと手を置きそっと撫でた。
「うん…うん…」
やがて泣き止んだ母親も口を開いた。
「辛かったのね…」
「母さん…」
「いいのよ…貴方の自由にして」
「で、でも…」
「お金の心配をしているの?」
「そ、それもそうだけど…私は親不孝者だなぁと…」
母親は微笑み少年を抱きしめた。
「なにも気にしなくていいのよ。あなたの…満ちゃんの幸せが第一なんだから」
母親の頬を一筋の涙が流れたことを満は気がつかなかった。
翌日、芦田親子は病院へと赴いた。
「はじめまして、持田です」
「母です」
「父です」
「満さんから話は聞きましたね?」
「「はい…」」
「では…あなたがたはどうお考えですか?」
「満の思うとおりに…」
「みちるちゃんの苦しみを…なくしてあげたいわ…」
「わかりました。では…これを」
持田医師は“トランス法”についての資料を取り出した。
「これは?」
「トランス法…今から五年前に新たに作られた法律です。
“トランス法とは、性同一性障害者を対象とした法律である。
性同一性患者にも保険がきくものとし、金銭的に国がある程度保証するものとする。
国内での背転換手術を治療として行うことができる。
また、社会的問題において保証する“
つまり、戸籍上も女性にできます。それからこれを」
持田医師はさらに別の資料をとりだした。
“性転換手術
男性が女性に性別を転換する場合、以下の処置を行う。
1、一カ月間の薬物投与による遺伝子の組み換え
2、患者の細胞、遺伝子を素に子宮、卵巣を人口培養する
3、男性器の切除、女性器の形成。ならびに人口子宮、卵巣の移植
4、一週間のリハビリ
「これにより、将来子孫を残すことも可能です」
「…わかりました。満を…よろしくおねがいします」
「お願いします…」
「はい。では、薬物投与は今日から行います。
一日二種類の薬物を飲んでいただきます。満さん、いいね?」
「はい!」
「いい返事だ。まず、エストロゲン。
これは女性ホルモンだ。男性にも多少は存在するが足りない。だからこれは君の人口子宮、卵巣が安定するまで飲んでもらうよ。
それから、DTS。デオキシ・トランスセクシャルの略で遺伝子組み換えの薬だ。今回はⅠ型を使う。これにより男性遺伝子を女性遺伝子に組み替えられる。
毎日寝る前に飲むんだ。いいね?」
「はい!」
「よろしい。
では、今日は以上です。
週に一度経過を見るためにお子さんを来させてください」
「わかりました」
それから二ヶ月が過ぎ、満は女性の体を手に入れた。
そして満は高校を無事、いじめもなく卒業し看護学校に進学し、卒業。
「現在は母の旧姓・相良に苗字を変えて保険医をしているというわけ」
「…驚きました」
「私もあなたみたいに入学時から女っていっとけばよかったかしら?そしたら恋もできたのに。
ま、いいわ。これからだもの。それより…どう?私の昔は?」
「私の質問の答えになってません…」
「あら?ごめんないさいね。ま、いいじゃない♪
それにね…言わなきゃいいのよ。だって…私たちの本当のカタチはこれだもの」
相良先生が輝いて見えた。
伸ばされたその手を私はつかみ、暗闇から引き上げられた感じがした。
時が経つのは早いもので、私は高校を卒業した。
大学に進学した。
今日は大学の入学式である。
「はぁ…迷っちゃったな…」
大学の敷地が広いせいか迷ってしまった。
「どうしよう…。あ!人がいる!」
太陽に向かって右手を伸ばしている青年がいた。
「あの…すみません」
私の声を聞いた青年が振り向いた。
「「あ!君は…」」
終わり
●あとがき●
皆さんこんにちは、大柳 朱です。
今回は性同一性障害をモチーフに書いてみました。
いかんせん知識がないので自分の想像でしか書けません。すみません…。
こんな私ですが、これからも作品を読んでください。
PS.
これまでの作品にコメントをくれたみなさん、ありがうございました。