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第六話「誘拐」


アポロンの膝の上で、アイナはちんまりと座っていた。

彼女達の座る位置はリビングの壁際、外側からはその存在を確認できない位置である。

何かから隠れている――と言うよりも、何かからアイナを隠しているのは間違いない。

そしてその何かと言うのも、こんな自分に山中のフェンネル宅を尋ねて来た訪問者に違いない。

「あの、アポロンさん……」

頭の中で状況を整理し終えたアイナが口を開くが、アポロンは目の下――恐らくは口元――に指を当てた。

静かに、というジェスチャーである。

アイナは仕方なく頷き、アポロンのがっしりとした胸に背中を預けた。

少しすれば、客も去るだろう。その後でフェンネルに話を聞けばいい。

身に覚えがない。フェンネルの言葉に腹を立てる自分と、胸をなでおろす自分がいた。




どん、どん。


「やかましいわ、開いておるぞ」

玄関のランプに火を入れたフェンネルは、普段と変わらぬ口調で玄関に言った。

扉が開き、夜風がフェンネルの薄い金髪を揺らした。


扉の奥には三人のエルフがいた。

まず簡素な布服に身を包んだエルフが二人。扉から離れた位置に立っていて、顔や性別の委細はわからない。

そして扉を開けて玄関に入ってきた男。

ぼんやりとした明かりに照らされた顔は不自然なまでに整っており、うなじで束ねた銀髪は長いが薄い。

そこまでなら典型的なエルフなのだが、違うのは背が高いことだ。170センチ近いフェンネルより頭一つ大きい。

しかしその長身に似合わず、かなり痩せているようだった。

ゆったりとした衣服でごまかしてはいるが、骨と皮数歩手前といった体付きをしているのが指や頬のこけ具合からわかる。


「久しいのお、オニバス。十五年ぶりか?」

「たかだか十五年で何を言う。時の感じ方まで人間に冒されたか」

切れ長の瞳がやや俯瞰気味にフェンネルを睨む。敵意を隠そうともしていない。

「相変わらず嫌われているようじゃの。私はおんしのことを可愛く思ってるんじゃがなあ」

「お前に好かれていると思っただけで虫唾が走る」

「そんな、にべもない。で、用件は何じゃ?」

「人間をかくまっているだろう。出せ」

「何のことじゃ?」

フェンネルはおどけたように肩をすくめた。男――オニバスの細い目がさらに細まる。

「冗談はいい。お前のところに人間の少女が一人住んでいるのは調べさせた」

「ほう?少女に間違われるとはの。私もまだまだ若いようじゃな」

「耳が髪に隠れてしまう少女とエルフを間違えるほど、里の者は馬鹿ではない」

「なるほどの。じゃが、私がかくまっているという証拠はどこにある?

 ふもとの人間が山遊びに来ていただけかも知れんぞ?」

「お前のゴーレムと楽しそうに笑い合える人間が、エルフを嫌う集落にいるものか」

「すべて調査済みというわけか。ひょっとしてストーキングに興味があるのかの?」

にこりと微笑むフェンネルであったが、オニバスの表情は緩まなかった。

敵意のためでもあるが、もともとこの男は冗談の通じないクソ真面目な気質であることをフェンネルは知っていた。

でなければ嫌うエルフのもとに堂々と正面から「人間をよこせ」などと乗り込むような真似はするまい。


「認めるならば、少女を渡せ」

「いんや?そんな女の子のことは知らんのお」

「しらを切るか」

「そんなこと言ったっての……知らないものは知らないんじゃ。ここにいないしの。

 いない人間を出したりはできんじゃろ?」

オニバスの表情が軽く歪んだ。

「……いないことを証明できるか?」

「そんな義務は私にはないの。おんしこそ、ここに私以外の女の子がいることを証明できるか?」

歪んだ表情のまましばしフェンネルと睨み合い、やがて一歩後ろに下がる。

「邪魔をした」

「なんじゃ、帰るのか? なんなら菓子でも食っていかんか」

「断る」

背を向けて歩き出すオニバスに微笑を浮かべるフェンネル。

皮肉っぽさはない。あざ笑っていると言うより、オニバスの不器用さに苦笑しているような笑顔だった。

「おんしもぶきっちょな奴じゃな。そういうところが好きなんじゃがの……

 人間を恨むのはわかるが、それにとらわれるでないぞ」

「お前に何がわかる」

「わかるとも。おんしと違って、私はあの時を実際に生きているのじゃからな。もう過ぎたことじゃ」

フェンネルはランプの光を弱めつつ、足を止めたオニバスに言う。

「恨むな、とは言わん。じゃが、それにとらわれるな。

 おんしにはクロノガルデニアのエルフを導く大役があるじゃろう。

 間違いなく、おんしにしかできんことじゃぞ?」

「……言われるまでもない。俺は」

背を向けたままオニバスは肩越しに言った。

「俺は楽園を取り戻す。必ず」

強い決意のこもった口調であり、決意を新たにするような口調であった。

一転して悲しげな表情になったフェンネルを振り返らずに歩き去る。扉はきちんと閉めていった。




リビングにフェンネルが戻ると、アイナが弾かれたように近寄ってきた。

「フェンネルさん、大丈夫ですか?」

「何がじゃ? ぴんぴんしておるが。とりあえず」

「あ、いや、私が原因みたいでしたし、何だか仲の悪そうな相手みたいでしたし……」

「おんしが気にすることではないぞ。

 タイミングが悪かったから会うのはめんどかったが、奴のことは嫌いじゃないしの」

「そうなんですか?」

「うむ。アポロン、ご苦労じゃったな」

その言葉にアポロンがのそりと立ち上がった。

フェンネルの普段通りの様子に安心するアイナ。胸のつかえが取れた気分であった。

「で、船が燃やされたと言う話じゃが……詳しく聞かせてくれんかの?」

「あ、はい。では明日にでも」

「今じゃなくて良いのか?」

「大丈夫です。何だか安心したら眠くなってしまいましたし」

事実であった。自分のことで言い争いになるかもしれない状況は、あまり気分の良いものではない。

解放されたところに狩りの疲れが押し寄せてきたのだろう。まぶたが重かった。

「わかった、おやすみ」

「おやすみなさい。アポロンさんもおやすみなさい」

アイナが二階へと上がっていく足音を聞きつつ、フェンネルはふと思い出したように手を打った。

「おお、アポロン!おんし、洗い物終わったのに何を起きとるか。さっさと寝よ」

その言葉にアポロンは理不尽そうに両手を振り上げたが、次の瞬間がらがらと崩れた。






夜風に吹かれて里への道を歩いていると、背中から付き添いの男が声をかけてくる。

「大丈夫でしたか、長老」

「問題はない。すまんな、毎度馬鹿正直な手を取ってしまう」

「いえ、長老の決断ならば」

付き添いの男は力強くそう言ってくれた。

この者だけではない。里の者は皆、自分を長老、長老と慕ってくれている。

彼らに安住の地を与えなくてはならない。そしてそれは、クロノガルデニアではない。

そのために何を躊躇することがあろうか。

オニバスは拳を握り締める。あの少女さえいれば計画は完成するのだ。

「……すまん。場合によっては、連中と戦わざるを得なくなるかもしれん」

「問題ありません」

「もとより、俺達は戦士ですから。戦ってなんぼですよ」

一人は頷き、一人は陽気に細い腕で力こぶを作る。

「ありがとう」

計画は迅速に実行する必要がある。遅れれば、それだけ里の皆の命が尽きていく。

何としてでもあの少女を手に入れ、この手に楽園を取り戻すのだ。エルフの未来のために。





いつもより起きるのが遅かったのは、疲れのせいか。

目を覚ました頃には日もすっかり高く昇っており、フェンネルは朝食を済ませて狩りに出てしまっていた。

自分はまだ傷が痛むのに、元気なことだ。

船について話す機会が失われたのは不満だったが、別に夕食の席で話しても問題はない。

「今日は釣れませんね」

水面に釣り糸をたらしていたアイナは、隣のアポロンにそう声をかけた。アポロンも頷いてくれる。

「やっぱり、時間を変えると釣れないんでしょうか?」

アポロンの頭は傾いだ。わからない、ということなのだろう。

しかし魚を釣るには時間帯が重要らしいから、寝坊してしまった今日の釣果は期待できなさそうだ。

「ごめんなさい、寝坊しちゃって」

アイナの謝罪に、アポロンは気にするなと首を振る。なんとなく言いたいことはわかるようになってきたが

会話ができるようになるまでは二百年だ。フェンネルはそう言っていた。

一度、まともに言葉を交わしてみたいものだが。そんなことを思いつつ、流れる水を眺める。

「何と言うか、落ちつきますね」

首をひねられるのにも構わず、アイナは言った。

生活の手伝いの中でも、とくに釣りをしているときが一番楽しい。

釣れなくとも、たとえ流れていく川を見ているだけでも心が落ちつく気がした。釣りは楽しい。


ちゃぷんっ。


「あ、跳ねた……」

魚が跳ねたようだ。水音を聞きつけたアイナがそちらを向くと、

「……え」

水柱が立っていた。

文字通り水の柱である。液体のままの水が柱になることなどありえないが、

実際に円柱の形を取って川から一本そびえ立っているのだ。高さはアポロン二人が肩車をしても届かない。

現実離れした光景にぽかんと固まってしまったアイナの前で

水柱はろくろ回しに失敗した粘土のようにうねり、アイナに向かって倒れ込んできた。


がしいいいいっ!!!


悲鳴をあげることすら許されない。倒れ込んできた水柱は、普段とは一転して素早く動いたアポロンの

岩のようにごつごつした――否、岩の両腕に抱き止められていた。

どういう原理で固まり形を成しているのか、水柱は捕まえられた蛇のようにアポロンの腕の中で暴れ回る。

しかしその抵抗もむなしく、水柱はだんだんとアポロンの腕に締め上げられ、弾けた。


ぱしゅうううっ!!


飛び散った水分が霧となってアポロンを黒く染め、アイナの全身を湿らせる。

呆然とするアイナの視界の端で再び水が立ち上がり、弾け、無数の弾丸となって彼女に迫るが

その顔面を殴り飛ばそうかという勢いで突き出されたアポロンの腕に当たり、アイナは無傷だった。

アポロンの腕に穿たれた無数の穴から、血のように水が滴り落ちる。

「アポロンさんっ!?」

いきなり傷だらけになったアポロンにアイナが駆け寄るが、アポロンは「問題ない」とばかりに首を横に振る。

ほっとしたのもつかの間、鼓膜に穴が開くかと心配してしまうような可聴ぎりぎりの超高音が響いた。


きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ……!


幾重にもハーモニーを奏でる高音にアイナが腰のメイスを引き抜き、アポロンが身構えた。

たまにしか聞かないが、この音は忘れようがない。

「魔法……!」

つぶやいたアイナと背中合わせのアポロンを取り囲むように、崖の上から人影が飛び降りて来る。

普通に飛び降りたら間違いなく死ぬ高さであるが、その人影の耳は大きく尖っていた。エルフだ。

以前フェンネルに教えてもらった魔法の中に『重力操作』というのがあった。それで着地の衝撃を和らげたのだろう。

「あいつが長老の言っていた女だな」

「殺すな。あの少女が生きていることが計画実行の最低条件だ」

「わーってるよ。問題はあのゴーレムのほうだな、どうする?」

「全員でかかるぞ。魔法で女の子を巻き込むなよ」

自分達を取り囲むエルフのほとんどが男だった。手にはフェンネルのバスタードソードと同じように

かなり細身の武器を持ち、反対側の手は魔法を使うためか空けている。

「行くぞ!」

その声を合図に、エルフの男達が走り出す。



かっ。


矢は見当違いの方向にすっ飛び、若い木の幹をえぐった音を立てる。

驚いた野ウサギが裸足で逃げ出した。無論、矢を放ったのはフェンネルである。

いつもなら下手なくせに膝をばしばし叩いて悔しがるのだが、今日は何故か神妙な面持ちで固まっていた。

「……なんじゃ?」

弓の弦でデタラメな曲を奏でつつ、屈み込んでいた体を起こす。

しばし虚空を見つめ、だんだんと柳眉を歪めていき、やがて唐突に叫んだ。

「――おのれ、あの若造!気付いておったのか!」

フェンネルは走り出した。弓を放り捨て、ペース配分をこれっぽっちも考えない全力疾走で突っ走る。

小枝や硬い葉が肌のあちこちを傷付けたが、フェンネルはまるで頓着していなかった。

「アイナ……っ!」




男達の会話が聞こえていたから、自分に魔法が飛んでくることはないと思っていた。

しかしそれは、アポロンへと魔法の攻撃が集中するということでもあった。


きゅぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼんっ!!!


顔の前で両腕を交差させて男エルフ達の放つ無数の火玉を受け止め、一歩一歩距離を縮めるアポロン。

間合いが詰まったと見るや、普段の微笑ましくのろい動きからは想像もつかない速さでエルフの襟首を掴み

別のエルフへと叩きつけ、折り重なったところを容赦なく踏みつける。エルフ二人が血の泡を吹いた。

「聞いてないぞ……化け物にだって限度があるだろっ!」

エルフの一人が叫びつつ左手を高速で動かしたかと思えば

さらさらと流れていた水面が波打ち、先ほどの水柱が四本まとめて立ち上がる。

それぞれ右手、右足、左手、左足に絡みついてアポロンの動きを封じようとするが、


ぶちっ……ぶちっ……びち、ぶちぃぃっ!!


アポロンは駄々をこねるようにそれを引き千切り、魔法をかけた張本人の頭を鷲掴みにして河原の石へ叩きつけた。

白目を剥いて気絶したエルフを胸の前で解放し、握った拳を地面すれすれに振るって

今まさに魔法を唱えようとしていたエルフの膝小僧へ裏拳を決める。両膝が砕けただろうか。

数十人のエルフから魔法攻撃を受け続けてなお互角以上の戦いを繰り広げるアポロンに

アイナはいつかも感じた戦慄を呼び起こされていた。

アポロンと出会って間もない頃はいつも思っていた、彼の大きく頑健な体が本気で戦いに使用されたときの力。

考えてただけで震えを覚えたものだがしかし、

その力が自分を守るために振るわれるとなれば、これほど頼りになる味方もいない。

何故この者達が自分を狙うのかはわからないが、どうにかして振り切らなければならないのは明白だ。

エルフの魔法がアポロンに集中している今なら、そのチャンスはある。

「……ぇええええいっ!!」


ごっ――!!


アポロンの阿修羅のごとき暴れっぷりに半ば目を奪われていたエルフを選び、その向こう脛をメイスで思いきりぶっ叩く。

泣き叫んで崩れ落ちたその者の脳天に強烈な打撃を一発、一撃で昏倒させた。

「くそ、人間の子供が……!」

歯ぎしりしつつ剣を振りかぶったエルフの前に立ち、打ち下ろしてくる刃をメイスの柄で受け止める。

フェンネルとの稽古でわかっていたことだが、エルフは人間の考えている以上に非力なのだ。

いかに鍛えているとはいえ女、しかも子供であるアイナにすら打ち負けてしまうほどに。


がきっ!


まさかアイナに武術の心得があるとはエルフも思っていなかったのだろう、

眉間の少し上で止められてしまった剣に驚愕の表情を浮かべていた。その隙を逃さずに

アイナは思いきりつま先を蹴り上げた。そこに急所があるのは、エルフの男も人間の男も変わらないようだ。

股間を蹴り潰されてその場にへたり込んだエルフの横っ面を殴り飛ばし、

号外をばらまく新聞売りのようにエルフ達を次々放り捨てていたアポロンへと叫ぶ。

「逃げましょう、アポロンさん!乗せてください!」

アポロンは頷き、アイナの方へと走り出した。アイナもまた追いかけてくるエルフを警戒しつつ、アポロンへと駆け寄る。

そして二人は唐突にその足を止めてしまった。アイナの頬を冷や汗が流れ落ちる。

「……何、これ……?」

アイナとアポロンとを隔てるように、ばちばちと火花を散らす半透明の壁が立ち塞がっていた。

それは二人の接触を避けるためというよりは単純にアポロンを閉じ込めるためだけに作られていたようで、

壁は立方体を成してアポロンを囲っていた。半透明の監獄の中、身動きが取れなくなってしまっている。

ためらいがちにアポロンが手を突き出すが、


――ばちいっ!!


一際大きく火花が散っただけだった。触れたものは弾かれてしまうらしい。石の指先から煙が上がっている。

「伏兵……!」

アイナが崖の上を見上げると、上にはまだ十数名のエルフがいるのが見えた。こちらは女性が多いようだ。

男のエルフが直接戦闘で時間を稼ぎ、その隙に女のエルフがこの檻を作り出す魔法を発動させたらしい。

どうすればいいのだろう。いかに敵が魔法を使ってこないとはいえ、この人数を一人で相手にできるはずがない。

頼みの綱のアポロンは身動きが取れない状況だ。

「どうすれば……

必死に頭を回転させるアイナの周囲に、地面から噴き上がるように白い気体が立ち込める。

火事場の煙のように濃いミルク色の霧がアイナの視界を完全に奪った、

思わず短い悲鳴をあげたのと同時に掴まれる、メイスを持った右腕。

「あ!?」

首筋を強く叩かれた感じを覚えたのを最後に、アイナの意識は闇に落ちた。




オニバスは腕の中で気を失った少女を抱き抱えつつ、左手を動かした。

風に吹かれるより早く霧が晴れ、檻の中でもがくアポロンと大なり小なり傷付いたエルフ達が視界に現れる。

「やりましたね、長老!」

「ああ。皆のおかげだ、ありがとう」

疲れたような笑顔を見せたオニバスは、名も知らぬアイナを抱っこしたままアポロンへと近寄る。

アポロンは普段の温厚さが嘘のように暴れていた。

檻に触れて四肢を焦がしながらもなお、その動きは弱まる気配を見せない。

「……あまり長い間お前を閉じ込めておくことは、我々にはできん」

友を奪われた怒りに狂う石人形に、オニバスの低く押し殺された声はどこまで聞こえていたのだろうか。

地面の石を踏み砕き、無我夢中で体を動かすアポロンへ、右手の細い指がかざされる。

「砕けろ、ゴーレム!」


きゅぼぼぼぼぼぼぼぼぼんっ!!!


オニバスの指が残像を引きずって複雑に動き回ると

檻の中の狭い空間に突如として火の玉が浮かんだ。

火の玉からさらに小さい火の玉――否、弾がいくつも分かれ、アポロンの頭部へと特攻をしかける。

弾はアポロンの目となっていた宝石を粉々に粉砕した。

アポロンだったものはただの石になり、足元の砕けた石に混じった。

「……急ぐぞ。俺は計画の準備を進める」

「あのゴーレムは」

「核が破壊されれば、ゴーレムの復活はできん。放っておけ。

 お前達は負傷した者を助けて、この娘を適当に見張っていてくれ」

「任せてください」

走り去る比較的傷の浅かったエルフを見送り、オニバスは額の汗をぬぐった。

エルフ達は遠慮なしに大怪我をさせられてはいるものの、かろうじて死んではいないようだ。手加減してくれたのだろうか。

「見上げたゴーレムだが……仕留めた俺に同情する資格はないか」

腕のアイナを改めて抱き直し、オニバスは歩き出す。




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