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第十一話「胎動」


某日早朝、ウィナリス。

その存在に最初に気付いたのは、海に面した小さな村の住民だった。

朝とは言えまだ薄暗い中、いそいそと漁の準備を始めていた男達が、誰からともなく海を指差して騒ぐ。

「おい、ありゃなんだ?」

海面が輝いているのだ。海の中でランプが光っているかのように、揺れる水面が光を放っている。

ときおり発光する習性のある生物がやってきたりすることはあるものの

今はそんな時期ではなかったし、その光り方も違っていた。

「なんだなんだ、何かいるのか?」

そう言って波止場から海を覗き込んだ男を、光り輝く巨大な手が掴んだ。


ざばあっ――


「へ……」

間抜けな声を上げた男は、一瞬で握り潰された。そのままの形で残っている足先と頭を除けば、ハンバーグの材料のようである。

手の持ち主――小山のように海水を盛り上がらせて立ち上がったのは、見上げるような一つ目の巨人だった。

何故か右足と左腕がついていない分、ひどく長い右腕を杖代わりに突いてバランスを取り

大人が十人肩車をして頭に手が届くかという巨体から、潮臭い水を滴らせて仁王立ちしている。

全身が油のようにゆらゆら揺れる七色に輝いていた。海面の発光は、この巨人が潜っていたからに違いない。

ウィナリスの人間は、この巨人の名を忘れて久しい。

「フランネルは、どこだ?」

一つ目で人間達を見下ろした巨人がたどたどしい発音で言の葉を紡ぐも

それを聞いている人間など一人としていない。漁師達は我先にと逃げ出してしまっていた。

「フランネルは、どこだ?」

先ほどよりも大きな声で巨人は叫び、片足でバランスを取りながら拳を振り上げた。そして下ろす。


――ごっ……ずうううううんっ!!!


叩き付けた拳は猟師を数人まとめて赤く潰し、自らの体を大きく傾がせた。

無様とも取れる姿勢で頭から倒れ込んだ巨人の巨体が、波止場に係留されていた漁船を押し潰す。

舗装された港にもたれかかってうつ伏せに倒れていた巨人は、顔だけを前に向けて叫んだ。

「フランネルは、どこだ!?」

怒声が空気を震わせ、寝坊していた海鳥を強引に覚醒させた。

飛び立っていく鳥の影を浮き彫りにするように、七色の一つ目巨人は立ち上がる。






彼女らしくもない慌てた足取りでタラップを駆け下りたアイナは

目の前に広がる町並みを正面に見据え、少しだけ涙のにじんだ瞳をこすった。

ウィナリスは一つの国家ではなく、自治都市の集まりだ。移動や商売こそ自由なものの、互いの政治には不干渉を貫いている。

そんな都市の中でも一番の繁栄を誇っているのがこの港町『スタルト』だった。

広い外海を正面に臨み、主な収入源は漁と貿易。

大陸との安定した交易ルートを築いている数少ない都市の一つである。収入に比例して、文化レベルも高い。

「ほー……ここがアイナの故郷か。海が近い」

潮の香りが苦手なフェンネルが唇を尖らせた。背中では白いローブにくるまったアポロンが、船員に奇妙な目で見られている。

「我慢してくださいよ。大丈夫です、港を離れれば気にならなくなります」

「そいつは助かる。それじゃ、まずはどこに行くんじゃ?」

「もちろん、二ヵ月ぶりの我が家です」

アイナがにこりと微笑んだ。


町を行き交う人々の好機の視線は、耳を隠したエルフであるフェンネルの美貌と

アポロンの奇怪な出で立ち、そして巨体に向いていた。

そんな個性的な二人と一緒に歩いているアイナまでもが好機の視線の対象となり、少し居心地が悪い。

「アポロンさんの格好、もう少しどうにかならなかったんですか?」

「これ以上はどうにもならんわ」

人間の数に目を奪われているフェンネルが、町のあちこちを見渡しながら言った。

「しかし意外じゃの。最悪、アポロンの正体がばれて一悶着という展開も覚悟しておったんじゃが」

「アポロンさんの体付きが変だからって、いちいち追求してくる他人はいませんよ」

「じゃがの、エルフとゴーレムはこの島を潰しかけたんじゃぞ」

「四百年も経てば、どんな戦争も昔話になります。

 ゴーレムの存在に至っては知られてすらいませんよ、私達はもって百年なんですから」

「当時を知る人間は存在せぬわけか。おんしら、嫌になったりせんか?」

「何がです?」

「生まれた瞬間に宣告されたようなもんじゃろ。『あなたは、あと百年しか生きられません』」

フェンネルが面白そうに語り、アイナが苦笑した。

「私なら気が狂いそうじゃな、余命が百年なんて」

「私に言わせれば、二千年も生きろと言われるほうが気の狂いそうな事態です」

「なあに、おんしなら大丈夫じゃ」

「どういう意味ですか……あ、見えてきましたよ」

アイナが指差したのは、二頭立ての馬車が二台並べるほどの幅の広い橋だった。


「スタルト川にかかる橋です。他にもいくつかあります」

「川があるのかの?こんな街中に?」

「正確には、物品を輸送するための船が通る運河なんですけどね。

 本流の名前を取って、そのままスタルト川と呼ばれています」

「ほう……」

フェンネルは小走りに橋へと向かうと、欄干の下を覗いてみた。

アイナの言う通り緩やかな流れに浮かべられた小船が、大きな箱をいくつか積んで運河を下っていく。

船の端に立った船頭が小器用に長い棒を操り、水底をつついて速度と方向を調整していた。

「ずいぶん幅があるの。これで運河か」

「本流はこれの三倍くらいありますよ。この川のおかげで、スタルトは水には困りません」

「ほお、そいつはぜひ見てみたいのお」

「私の家の前を通ってますよ、そのとき見せますね……フェンネルさん、すっかり観光モードですね」

「実際、観光じゃからの。おいアポロン、おんしもよく見とけ」

言われたアポロンが同じように欄干から運河を覗く。肩を並べる二人の様子が微笑ましくて、アイナは静かに笑顔を作った。

この二人とずっと一緒にいたい。できればここで暮らしたいが、ここがウィナリスである限りそれは無理だろう。

ならば、この二人の旅についていくしかない。しかしそれもフェンネルに禁じられるはずだ。

「……」

しばらくして、アイナは考えるのをやめた。今はこの瞬間を楽しむことにする。



「あれが、私の家です」

アイナが指し示した建物を、フェンネルとアポロンが感心したように――アポロンの表情は変わらないが――眺めた。

雄大なスタルト川を背に建つ屋敷は、町で見かけたその他の屋敷と比べれば規模が小さいものの

それでも小柄さゆえの造詣の見事さがあり、品格を感じさせるたたずまいをしていた。

赤いとんがった屋根と赤レンガで組まれた屋敷は、さながら王族の城のミニチュア版のようである。

「ずいぶん人里離れたところにあるんじゃな?」

「せめて町外れって言ってくださいよ。……父は広い交遊をしない人なので。

 本人が言うには、にぎやかなのは戦場で飽きたと」

「そう言えば、元は傭兵だったんじゃったな。今は仕事何やっとるんじゃ?」

「町の自警団の訓練をしています。有事になれば団員のほとんどを指揮する権限があるそうです」

「ほお」

相づちを打ちながら屋敷の概観を見ていたフェンネルだったが、隣のアイナがそわそわしているのを見て

「じゃあ、中に入れてくれるかの?」

「あ、はい」

気を利かせてアイナをうながした。いつかはフェンネル達と暮らしたいと言ったこともあったが

アイナは十四歳の少女である。生まれ育った家を前にすれば、家族も恋しくなるだろう。父しかいないと言っていたが。

いそいそと歩いていくアイナの背中を追い、フェンネルはやや唐突に言った。

「あ、しまった」

「どうしました?」

「……いや、なんでもないわ。もう遅いからの、気にせんでいい。

 それより、おんしの家族は今家にいるのか?」

「あ、はい、軍事教練が終われば、父は家の机で仕事をしていますから」

「そうか、なら顔を見せてやれ。心配しとる……というか、もう死んでおると思っておるかも知れんぞ?」

「そうですね。下手をすれば、自分の墓参りに行けそうです」

苦笑するアイナに笑顔を返しつつ、彼女に聞こえないだけの声量でフェンネルは言った。

アイナには聞こえていないが、アポロンには聞こえている。

「……まずったかの。オレガノが相手では、バレるのではないか?

 私の顔は割れておるし、運良く気付かれなくともおんしがおっては」

アポロンはローブの中で静かに首を横に振る。

「なるようになれ、か。確かに他に選択肢はないが……まずいのお」

フェンネルは舌打ちし、運悪くそれをアイナに聞きつけられた。

どうしたのかと問いかける少女を適当にあしらいつつ、遠い目をするフェンネル。

「のお、母さん。面倒なことを押し付けてくれたもんじゃな。楽しいがの」



そっとドアを押し開けると、ちょうどそこを清楚な衣装に身を包んだメイドが通るところだった。

「ただいま帰りました」

恐る恐る、といった様子でアイナが口を開く。

体は半分扉に隠れたままだった。メイドはアイナを見つけ、しばらく硬直した後、みるみる顔を崩していく。

「あ、アイナ様!?ご無事で!」

あっという間に泣き顔になったメイドが駆け寄ってきた。

その甲高い悲鳴を聞きつけたのか、なんだなんだと屋敷のあちこちから使用人達がやってきて

アイナの顔を見るなり、何らかの形で感極まりながら群がって来る。

アイナ自身も目の端に涙を溜めていた。使用人の視界には入っていないフェンネルがぼそりとつぶやく。

「泣いても良いと思うがの?」

「父に会うまではこらえておこうと思います」

「やはりおんしはテクニシャンじゃな」

頷くフェンネルの脇をすり抜け、アイナは使用人の輪の中に飛び込んでいった。

成り上がりの家の出身で、友達が少なかったと聞く。だとすれば話し相手は家の中の人間だけだったに違いない。

久々に再会した仲間達との会話の中アイナが見せていた笑顔は、フェンネルやアポロンには見せたことのないそれだった。

「寂しいか?」

フェンネルがからかうように言うと、アポロンは彼女の細い背中をローブ越しに小突いた。『馬鹿なことを言うな』とでも言っているようだ。

「……あ、そちらの方々は?」

ひとしきり騒いでいた屋敷の人間は、しばらくしてアイナの後ろに立っている二人に気がついた。

フェンネルもアポロンも普段の態度を崩さず、アイナだけが「ほら来た」という顔をした。たらり、と冷や汗が頬をつたう。

「ああ、この人達は……ええと」

「大丈夫よ、アイナ。初めまして、フェリシアと言います。

 こちらは兄のイプシロンです」

しどろもどろになるアイナをごくごく自然に背中へと押しやり、フェンネルは恭しく礼をした。

いつもの気安いへらへらとした雰囲気は微塵もない。その変貌ぶりにアイナは愕然とする。

「フェリシアさんと……イプシロン、さん、ですか?

 兄君さんは、その、えーと……」

「いえ、いいのです。――この身の丈を見てもらえればわかると思いますが

 兄は昔から体が大きく、顔付きも恐ろしげでありました。

 そのため、皆をいたずらに怖がらせないよう、このような格好をしています。お許しください」

「ああ、いえ……そういうことなら」

皆は顔を見合わせながらも頷いていた。どんな理由であれ、納得させてしまえば勝ちだ。

使用人達の隙を見て、フェンネルがビッと親指を立てる。当然のようにアポロンが親指を立て返した。

「しかし、無口な方ですなー」

「それが、兄は声も雷が鳴るかのごとき大きなものでして」

年齢からくるのだろうフェンネルの説得力とアポロンの圧倒的な体格がなければ信じてもらえない

果てしなく嘘くさい説明を適当に聞き流していたアイナの目に、玄関から遠ざかった位置に立つ男が映る。

「……」

アイナの目がみるみる潤んでいった。



どうも玄関が騒がしい。が、それもそのはずだと納得する。

「アイナ? アイナか?」

オレガノ・コンフリーは使用人達に囲まれている娘の姿を見、思わず走り寄っていた。

短く刈り込んだ濃い茶の髪とヒゲ、がっしりした肉体が貴族らしくなかったが、元傭兵らしくはある。

腰に下げていた剣も実戦本位の無骨なものだった。衣装がそれなりに豪華であるゆえ、かなり浮いている。

「お父様ぁっ!!」

呼ぶまでもなく抱きついてきた娘を厚い胸に受け止め、オレガノは何も言わずにその頭を撫でた。

予定の日にも帰って来なかった客船、その航路にエルフの領海が含まれていたから心配だったのだが

アイナはこうして無事に帰ってきた。父親として何よりの幸せである。

「お父様……お父様……」

「……良く無事でいてくれたな」

「はい……怖かったです……船が襲われて、みんな焼かれて……」

「詳しい話は後で聞こう。良かった、本当に良かった」

涙を流しながら父の顔を見上げたアイナが、泣いたまま意地悪な笑顔を浮かべてみせる。

「使用人さんほどに、喜んではくれないんじゃないですか?」

娘の笑顔を真正面から受け止めたオレガノもまた、悪戯な微笑みを浮かべて言う。

「俺はエルフの領海を生き残った男だぞ? お前が死んだなど、これっぽっちだって信じていなかったさ」

大きく頷くアイナを優しく抱きながら、未だ人込みの消えない玄関に目を移す。

「あの方達は――」

そして絶句した。言葉を失った父を、アポロンの巨体に驚いたものだと取ったアイナが説明する。

「ああ、私を助けてくれたフェン……フェリシアさんと、イプシロンさんです。

 ええと……イプシロンさんのほうはたまたまあんなに大きく生まれてしまった方でして、でも優しい人です」

「……ん、知っているよ」

どうしてもしどろもどろになってしまうアイナの説明に、オレガノは笑って頷いた。

その言葉の意味を計りかねたアイナだったが、

「お前を助けてくれ、なおかつここまで連れて来てくれたんだ。優しくないわけがないさ」

それで納得した。オレガノは自分が金持ちであることを自覚していないふしがあるから、

アイナが貴族だと知って向こうが金をふっかけてくるという思考は働かないようである。

「挨拶をしてこよう、お前は久しぶりの部屋でも見てきたらどうだ?」

微笑を浮かべるオレガノに促され、自室へと向かうアイナ。

彼が実際に考えていたことは、アイナの予測の範疇を超えていたが。



「さあ、もういいだろう。仕事に戻るんだ」

手を打ち鳴らしたオレガノの声に弾かれるように、使用人達がわらわらと散っていく。

残されたフェンネルとアポロンに――警戒を隠さない歩法で――近寄ったオレガノは、友好的な笑みを作りながら言った。

「コンフリー家当主、オレガノ・コンフリーです。この度は娘が大変お世話になりました」

フェンネルもまた微笑みながら、差し出された手を握り返す。アポロンも軽く頭を下げていた。

「フェリシアと、兄のイプシロンです。――なんて偽りは、おんしには必要ないかの?」

オレガノの右手を離したフェンネルの極上の笑顔が、ふいに残虐な色を持った。

宝石のような瞳に浮かんでいたのは明らかな激情であった、

しかしそれは怨恨と称するには何か邪悪さの足りない、例えるなら嫉妬の延長上とでもするべき複雑なものだ。

「しかし老けたのお、オレガノ。十五年前はなかなかの美男子だったおんしが、

 今やヒゲの良く似合う紳士となっておるとはな」

「そういうお前は本当に何も変わらないな、フェンネル。まさかお前とここで再会することになるとは思わなかったよ」

言いながらオレガノは指摘された顎ヒゲを指でしごいた。

アイナと同じ色をした瞳が放つのは緊張、そしてわずかばかりの恐怖の光である。

歴戦の傭兵である彼の腕を持ってしてさえ倒せないほど、フェンネルは強いのだ。

しかも彼女の後ろにはアポロンが控えている。ローブの中からくぐもった音――石の擦れる音、アポロンが拳を握った音は

『フェンネルに手を出すなら、即座に殴り潰す』という彼からの警告だった。

この二人の性格と実力を、オレガノは十分に心得ている。やや低い声で言葉を紡いだ。


「……俺を殺しに来たのか?」

フェンネルもアポロンも――後者は当然だが――何も言わなかった。

「俺はどうなっても構わないが……だが、せめてアイナがこの家を――いや、財産を継ぐまでは待ってもらえないか?

 あいつが一人前になって、一人で生きていけるようになるまでは待ってくれ」

「安心せい。おんしを殺すつもりがあったら、十五年前にそうしておるわ。

 おんしを恨んではおらんよ、安心してアイナを育てれば良い」

「なら、目的は何だ?アイナか?あいつに手を出すことは絶対に許さんぞ」

「そう喧嘩腰になるでない、本当に他意はないんじゃ。私はアイナを届けに来た……それだけじゃよ」

そんでもって、しばらくはここに泊めてほしいんじゃがなー、とけたけた笑うフェンネル。オレガノは深くため息をついた。

「断ると言ったら?」

「アイナとの約束じゃ、おんしが駄目と言うならアイナに頼む」

「……安心してくれ、そんな必要はない。部屋を用意させるから、好きに使うといい」

「さっすがオレガノじゃ、話がわかるのお!」

フェンネルがオレガノの肩をべしべし叩き、オレガノが力なく笑う。

アポロンに向かっておどけたように肩をすくめた後、背中越しにフェンネルを見やった。

「――アイナに」

「うん?」

「アイナに、本当のことは話したのか?」

「まさか。たかだか十四歳の小娘に話す真実ではなかろうよ」

「そうだな。……面倒は重なるようだ」

オレガノは頷き、億劫そうに旅荷物を抱え上げるフェンネルと

反射的に手を貸そうとし、素肌をさらすことを恐れて思い留まるアポロンを一瞥して天井を見上げる。フェンネルのバンダナに包まれた耳がぴこんと動いた。

「なんじゃ?面倒とは失礼じゃな、娘を連れて来てやったと言うに。何かあったのか」

「ああ、とびっきりの面倒を処理しきれずに困っていたんだよ。

 ――アイナがお前に助けられていたなら、もう一ヵ月くらいは向こうで一緒に暮らして欲しかったものだ。贅沢だがな」

「何だと言うんじゃ?久しぶりに戦争か?」

「それならば、もう少し話は楽だったさ。

 ……何だか知らないが、七色に輝く巨人が島の反対側から現れて

 通り道にある集落や都市を潰しつつ、一直線にスタルトを目指しているんだそうだ。

 他の都市からの早馬が言うところによると、隻腕に片足、おまけに一つ目の大巨人で」

アポロンを顎で指し、オレガノは吐き捨てた。

「腕が長くて足が短い、ちょうどそこのゴーレムに酷似した体形をしてるらしい」

「何じゃと……?」

フェンネルが目を剥く。


伝承でもそう伝えられていたし、彼女自身、四百年前に実際に見たのだから間違いない。

全身が七色に輝き、一つ目で、立っていて地に手がつくほど腕が長く、逆に足は短い大巨人。

それらはすべて、かつてウィナリスを壊滅寸前に追いやった戦闘用ゴーレム――ミスリルの外観に一致していたのだ。



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