プロローグ
どうしてですか、母さん。
あなたはあの日、はっきりと言いました。
私とあなたは母娘ではないと。赤の他人同士なのだと。
あなたと私は別の道を選んだのです。
他人なのです。食い合う仲なのです。もう頼りにされる筋合いはないのです。
わかっていたはずでしょう。私などより、ずっと。
わからないはずはないのです。
そんなこともわからないで、どうして私と別れるような真似ができるでしょうか。
あなたは、もうこの世にはいないでしょう。
しかしそれならば、天から見守るくらいのことはしてくれても良いのではないですか?
『恋は盲目』とはよく言ったものです。
娘を守るという他者に任せられない重役を、あなたは他人任せにするつもりなのですか?
娘に課せられる過酷な運命を予想しておきながら、結局は知らん顔をするのですか?
どうなのですか、母さん。
いいでしょう。
あなたが何を考えているのかは知りませんが、いずれは知ることができる。この場はそう信じておきます。
少々腹は立ちますが、今はあなたの思う通りに動いてあげましょう。
実のところ私も、少なからず日常を退屈に思っていたところです。
願わくばこれが、凡百のそれよりはずっと面白い物語の始まりであることを祈っています。