さあ、好きにさせてもらおうか
「さあて、そこの愚者どもはどう始末つけてもらおうか」
私が向けた視線の先。
そこにはこの断罪パーティーを行ったがために、自分たちの世界が一転してしまった。
国王以下彼らの父親たちは罪人として、異世界人である私に跪いて頭まで下げて恭順の意を表している。
彼らの今後もまた操られて服従させられる日々が待っている。
それ相応の愚行を働いたがために与えられる罰であり、過不足はないだろう。
当然だ。
「自分たちの幸福のためにマドンナの人生を踏み躙ろうとしたんだ。
自分の輝かしい人生を土足で踏み荒らされる屈辱はどうだい?
まあ、他人様の娘さんを踏み台にしないと輝けない時点でお前らは模造品だと証明したんだけどな」
悔しそうな目を向けてくるものの、下手なことは言えない。
言ったが最後、レーベンによって自我を奪われて操られるのだから。
すでに彼らの仲間で愛すべき女がレーベンによって拘束されている。
自我を封じられず、身体の自由は声も含めて奪われているのだ。
彼らはそんな女を囲んで座っている。
……いや、座らされている。
「お前らが我が身を捨ててでも愛した女だろ?
一緒に座ってな」
そう言った私に同意するように「従うように」とレーベンが命じた結果、逃げ出すことも出来ずにこの場で固められて放置されていたのだ。
「この者たちはどうしますか?」
「いらん」
レーベンの言葉を切り捨てる。
それに「私は!」と叫んだ国王の愚息の声はひと睨みで途切れる。
「本来、公爵家は王家のスペア。
王家に不幸があり空席となった王太子の座は公爵家により穴埋めされる。
この世界では違うのか?」
「いえ、その通りにございます」
「女性の当主、王太子は?」
「それは……」
「長子継承に変更した方がいいでしょ。
男子継承でも賢ければいいさ。
しかし、愚行で国を傾けることも厭わないこんなバカが次期国王とか、バカを諌めず悪事に手を貸す側近なんて、国民に悪いと思わんの?
国王は『そんな者を王太子に指名して申し訳ない』って、一派は『こんな愚か者を担ぎ上げたがために傲慢に育って』って。
側近の親どもも『諫言を吐けず甘言を吐く愚者に育てた結果』を恥じれ。
それらに対して、本来なら死をもって償うほどの大罪だろ」
レーベンはバカ王太子たちに視線を向けて深く頷く。
「たしかに。
彼らは国民の上に立ち国民を導く国父や、国内外の交渉に立つ顔として相応しくはないでしょうね」
「農役夫となり国のために働いた方が役に立つだろうね」
青ざめる王太子ども。
しかし彼らにレーベンは命ずる、「いまこの時をもって、お前たちの身分を剥奪し農奴となり国に奉仕するように」と。
すでに名を告げられ操られていた彼らはその場で「仰せのままに」と従う意思を見せる。
自我は封じられていないため悔しそうではある。
身分が剥奪されて農奴、農業に従事する奴隷に堕とされたため従うしかないのだろう。
それにしても私は農民を望んだにもかかわらず奴隷に堕とすとは。
彼らも私ではなくレーベンに憎しみの目を向けているから理解しているのだろう。
ところで……
「マドンナの親はどうしている?」
娘が断罪の槍玉にあげられているのを黙っているのか?
「公爵は外交で隣国から戻っている途中です」
「鬼の居ぬ間に、普通なら『洗濯』なんだけどな」
ちらりと農奴となった彼らに視線を送る。
「兵どもが夢の跡。
栄枯盛衰。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
驕れる人も久しからず、唯春の夜の夢の如し。
猛き者もつひには滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ」
「それは、いったい……」と言いかけたレーベンが言葉を切る。
その口から「栄枯盛衰」の言葉がもれる。
この世界は漢字ではないだろう(名前が横文字だから)。
それでも言葉から意味を読み取ろうとしている。
どれも『栄えていたものが滅びる』ことを指している。
それに気づいたのは、出荷を免れた人々。
彼らは「猛き者もつひには滅びぬ」から理解したようだ。
うん、賢い、賢い。
理解した彼らの視線は、そのまま自然にこの会場で一番低い立場の農奴たちに集中する。
私の言葉を体現した彼らはいい象徴となるだろう。
あ……眠くなってきた。
この国の改革が終わりを迎えるからか。
「マドンナ!!」
心配そうな顔の男性が大きく開いた観音開きの扉の前に立っている。
その後ろで、両手を膝に当てて屈んだ状態で呼吸を整えている青年は兄か弟か。
その姿を視界に捉えると、ホッと安心した感情が胸を占めて涙が溢れそうになる。
ああ、マドンナにとって家族は頼れる存在なんだね。
じゃあ、仕上げを済ませて交代しよう。
「いまこれより、王家は彼ら公爵家に引き継がれるものとする!」
「「「はっ!」」」
いっせいに膝をついて恭順の意を表す。
その姿に父親と青年が目を見開く。
「あとはお願いね」
ふわっと気持ちが軽くなり、私の意識はマドンナの身体から離れていく。
父親が駆け寄り、倒れかけた娘の身体が床につく前に抱きしめていた。
ああ、座ってあげれば良かったな。
意識が戻ったらしいマドンナが空に昇っていく私に右手を伸ばし、父親と青年がその先にいる私を見上げている。
「ありがとう! ありがとうございました!」
必死にお礼を伝える声に頬がゆるむ。
微笑んで手を振った、「これからも前を向いて生きて」と。
完全に意識が途切れる直前にちゃんと届いたよ、「はい!!」という強い決意の涙声が。




