そもそもの話
「それでー」
私の声に大半が身体を小さく振るわせて目線を向けてくる。
何人か、目尻が濡れているね。
「婚約者と恋人の意味を取り違えているバカの反省はあとで勝手にどうぞ」
視線を隣に向けた人たち。
その問題は、各家庭でやってなさいって。
「私、っていうかこの身体の主がしたことなんだけど~」
おお、おお。
浮気相手はキッと睨んできたけど、浮気王子たちは目線を合わせようとはしないね。
自分たちの愚かさが少しは理解できたのかな?
「婚約者の浮気相手を殴る、蹴るって当然の権利じゃない?
だいたいマドンナは『公爵令嬢』でしょ。
だったら…………目下の女だけでなく、基本の教育と礼儀作法を怠ったか失敗したことの責任を取らせる意味で一族郎党皆殺しにしても許される立場だよね。
浮気相手が王子だろうと、本人の立場は伯爵令嬢でヤってることは下の下。
そこらの破落戸と何らかわらんし。
もちろん、浮気した王子らが公爵令嬢の報復に口を出す権限はないよ。
……たとえ殺されたとしても、責める権限すらない。
それはお前が『婚約を解消してから付き合う』という初歩の初歩で道理を重んじる手順を省いたがために生じた結果なんだからさ」
息をのむ音が聞こえた、それも複数の場所から。
ようやく気づいたのだろう。
いまこの場にいる人たちの中で『公爵令嬢』より身分の高い者がどれだけいるのかを。
そして、その高貴な身分に、自分たちは当てはまらず。
浮気者たちに加担した加害者の立場に甘んじて立っているという事実を。
視線をレーベンに向けると、彼もようやく好好爺然をやめていた。
当然だ、レーベンもまた『加担者』なのだ。
王子の浮気を正当化するような言葉を並べて私に説明したのだから。
「この国の国教って浮気推奨?」
「いえ、違います」
「えー!
だって、さんざん王子の浮気を正当化してたじゃん。
だからマドンナが衆目の集まるこの場で一方的に痛めつけられても傷つけられてもさ、神は加害者らをその尊大なる御心で許される。
アンタのその口がそう言ったじゃん。
それって神が連中の浮気を認めるどころか、『やれーやれー、もっと浮気しろー! ほかの男にも女にも手を出せー!』って応援してるってことでしょ」
それとも神の名を騙って好き放題してるってことかー?
と聞こえるような呟きを放つ。
静まり返っている独擅場で、いまは私が主役。
私に与えられた反論の場なため、主導権は私にある。
そして私は『この世界の人物ではない』のだから、貴族の枠に閉じ込められて言いたいことも言えないという無情な縛りはない。
しかし、目の前のレーベンは私を懐柔しようと禁断の言葉を放った。
「王子のなされることですので……」
「王子なら何をしてもいい?
だったら公爵令嬢であるマドンナだって…………何をしても許される、よね?
でもさ、王子の浮気相手の身分は?
伯爵令嬢って公爵令嬢より下だよね?
ってことは、さ。
マドンナが生かすも殺すも問題はないってことだよね。
『王子の浮気』という許されざる罪に加担した共犯者なのだから」
「私たちの愛は罪ではない!」
浮気王子が声を張り上げる。
しかし、私がレーベンから視線を向けただけで口を閉ざして喉を鳴らす。
「正しい手順を踏まず、理性で考えることを放棄して快楽に身を委ね。
下半身の求める欲求に忠実な行動をとった結果、道理を無視してこんな茶番劇を開いているくせに」
最後にプッと笑われたことが屈辱だったのか、王子の顔が赤黒くなる。
取り巻きの顔は赤かったり青かったり。
「お前の掲げる『真実の愛』という妄想劇は、お前ひとりで演じることは出来ないんだよ。
相手がいて成り立つものだ。
しかし、たったひとりの婚約者も大切に出来ない奴ならさ、今後も異性に目移りして不特定多数の相手に思いを向けるんだろうねー。
それこそ『真実の愛』という免罪符を掲げてさ。
新たな『真実の愛』を語り、古びた『真実の愛』を捨てる」
そして、と言いつつ周囲を見回す。
「お前らが舞台を整えなければ、こんな大衆演劇でも恥ずかしくて開幕すらされない演目は上演されなかった。
…………恥を知れ!!」
ただの目撃者、王子の断罪に立ち会った『証言者』。
そのつもりだった自分たちが演者として立っている事実に漸く気付いた。
さらに「正当性はどちらにあるのか」を第三者の目から指摘されて返す言葉も出ない。
この夜会という名の断罪劇を『大衆演劇以下』と一蹴されて…………
「なんとも愚かな」
誰かの意思のない言葉が波紋のように会場に広がっていく。
態々声に出さずとも、皆一様に思っているのだろう。
…………主役を演じる王子を含めて。




