異世界?
何やら喚いている男性の声で、ふと我に返った。
同時に目の前の状況が理解できず。
「今北産業、説明ぷりーず」
「「「…………は?」」」
それまでの騒ぎはどこへやら。
シンと静まり返った人たちを見まわすと、誰もが驚愕な表情を見せている。
どれだけの人数がこの場にいるのか、それはわからない。
ざっと見でも数十人、100人以上いるのだろうか。
「今北産業、状況説明ぷりーず」
私のもう一度の『おねがい』に、右前方の人垣が左右に分かれて、高齢の男性が静かに出てきた。
真っ白な衣装に、紫を基調とした布を両肩に掛けている。
ゲームやアニメで見た司祭などという立場の、神殿のお偉いさんだろうか。
「失礼。あなたのお名前は?」
「…………『人に尋ねる前に自ら名乗れ』。礼儀作法でそう習わなかったの?」
私の言葉に目を見開いた高齢男性は、すぐに表情を崩して好好爺然となった。
「すまなかったね。わたしはレーベン、見たとおり国教の教皇をやっておる」
「見たとおり」なんて言われてもわかるわけないだろ。
自分の知識と常識だけで物事を判断するバカが。
まあ、とりあえず……挨拶されたから返そう。
「私はマドンナ」
とはいえ、実名を名乗るほど愚かではない。
日本には古くから〈言霊〉と呼ばれるものがある。
名を掴まれて操られるのだ。
出てきた彼は「国教の教皇」と名乗った。
ということは、言霊やそれに似た方法を知っている可能性がある。
そして、いま名乗った私の偽名はある意味間違いではない。
ゲームなどのアカウントで使い続けている名前だからだ。
数人がニヤリという表情を見せた。
この騒動が落ち着いたら、名前で操ろうとでもいうのか。
…………魂を縛られる気はこれっぽっちもないけどね。
レーベンと名乗った教皇は、簡潔に説明をしてくれた。
まず、私というかこの身体の本来の持ち主は公爵家の令嬢だそうだ。
名前は『マドンナ』、私のアカウント名と同じだ。
その関係から私が憑依した可能性が高いと推察できる。
転生じゃなく憑依だと考えたのは、私に『本物のマドンナの記憶が一切ない』からだ。
異世界ジャンルによくあるじゃん、今生の記憶が少しずつ戻ってきて状況が把握できるって。
それが一切起きてないんだよねー。
そして現在の状況なんだけど……
マドンナの婚約者が目の前の王子。
その王子が腰に手を回している女が浮気相手。
その背後に立っているのは王子の腰巾着。
ええ、ええ。
よくある「真実の愛に目覚めちゃったボクちん、愛する人と一緒になりたいから婚約者を排除しちゃうんだー」の真っ最中だったらしい。
「はあ? 浮気を正当化してるのかよ、クズだな」
私の言葉に「なんだと!」と目を吊り上げて喚く(他称)王子。
「婚約者がいながら浮気しておいて『ボクちんが正しいんだもん』じゃねえ!
お前らがどんなに美化しようと、浮気は浮気だ!
この下半身頭脳生命体!」
そう怒鳴り返したら浮気相手と取り巻きがショックを受けた表情を見せた。
「え?
まさか自分たちは正しくて浮気される側が悪い、などと思ってるの?
マジで?
あらら~。
あなたたちのその考えが正しいのなら、あなたたちの父親はいったい誰なのかしらね~?」
母親は間違いなく出産しているんだからホンモノでしょう。
だけど、父親の方はどう?
「ああ、この国は母親が産んだ子がその家の子として認められるんだ。
そうだよね~。
だって『浮気された父親が悪い』って…………たった今、キミタチがそう証言したんだもんね~」
青ざめる周囲の男性諸君。
いやいや、ちゃんと信頼し合っている相手なら大丈夫でしょう?
……あれ?
心当たりがありすぎるから青ざめているのか。
「父親と同じ瞳や髪の色、父親の兄弟、親族。
そういう人を選べば、浮気し放題!
いやぁ、すっっごぉぉぉく…………爛れまくった関係だねー。
イトコやハトコで結婚と言いながら、実は母親違いのきょうだいだったりして~。
あ、赤の他人だと思っていたけど、一夜の関係で出来た子って可能性もあるんだ。
そりゃ、そうだよね~。
婚約者がいるのに別の女に手を出すとか、婚約者がいるのを知ってて言い寄るとか。
そんな節操なしが一人だけで満足できるわけがないじゃん。
一人の女性を複数人の男性で共有してるとか、その逆もまた然り。
って、考えただけで…………マジでキモ!
キモすぎる!!」
汚いものを見るような視線を王子らに向ける。
私にとってコイツらは『マジでキモい関係選手権』にエントリーしている代表選手。
キモさでいったら文句なしで一等賞。
間違いなし!
あーあ。
王子たちが顔を見合わせてから、王子の腕にピッタリくっついている浮気相手に視線を向けているわ。
浮気相手はその視線の意味がわかっていないようだけど。
あ、そっかー。
彼らはそういう関係だったんだ。
納得したけどね、それだけでは終わらないよ。




