第3話 中原百合の場合。(後編)
「さあ、また来年がんばろうね。あ、二郎は中ちゃん送っていくこと!」
今年最後のこども食堂が終わった。
そして、最後に一姫さんが、軽くパスをくれた。
「二郎くん、車ないから私が乗せていけばいいかな?」
「すみません……」
いやいや。気にしない気にしない。
「あ、以前ごちそうします、と言ってたのに全然ごちそうしてないんで、僕出しますんで、ごはんいかがです?」
「わー、ありがと。じゃ、どこに行く?」
うん。お誘いはきちんと受けておこう。
「そうねえ。お肉かなあ。あ、ことことキッチンって知ってる? オムライスのお店。あそこに行きたい」
「承知しました。仰せのままに」
私たちは車でお店へと移動した。
窓際の席。クリスマスが近いこともあって、周りは割とカップルが多い。
逆にカップルが多すぎて、雰囲気がアレすぎるかな、という気もする。
二郎くん、困ったりしないかな。
ちょっとおしゃべりは他愛ない方向にした方がいいかも。じゃあNGSの話題で行こうか。
「ねえ、フリューガルドって、何でこんなに出ないの?」
「レア武器っていいましてね」
「結局、フリューか出る前に、ファーから乗り換えないといけないんだよね」
「そうですね。ドレドスケイル溜まったと思うんで、メレクあたりで着実に。テスアでもいいんだけど、法術系はデメリット付ですからね。タクトだだたら、メレクの方が使いやすいかと」
ちらちらと見る。
何か、ちょっとテンパってる?
「どうしたの?」
「いや、あの、その……」
うーん。
今日はちょっと無理かな。
雑談から入るよりも、きっちりとクリスマスムードで行った方がよかったか。
うーん。これは、私から話したほうがいいのかなあ。
悩んでるのを見てるのは、可愛いんだけどなあ。
頼りになる二郎くんがお隠れになってしまった。
それから数日後。
一姫さんから、メッセージがやってきた。
「二郎が勇気を出すみたい。ちょっとログインしてくれないかな?」
勇気?
「わかりました。ログインします」
そして、ログインすると、すぐにウィスパーチャットがやってきた。
「リテム撮影推奨002のステージで待っててくれないかな。二郎を行かせるので」
私はリテム撮影推奨002へとブロック移動して、ステージへ向けて飛ぶ。
ふと見ると、何かやたら人が多い。
「ちょこころね」のオレンジの色のアイコンや「おれんじぺこ」のアイコン。
それだけじゃない。
トナカイコスチュームの一団。
何か光る文字で「ガンバレ」とか書いてある。
え、何が始まるの?
すると、リテムシティの入り口の方から、トナカイが飛んできた。
ホワイトハウスのキャラ名は二郎くんだ。
そして、私の前に降り立つ。
実にドヤァとした顔。
いや、もちろんそういうキャラなんだから仕方ないのだけど。
ああ。
わかった。
一姫さんの仕込みか。
何かで、ちょっと追いつめて、ステージを用意したのだろう。
二郎くんががんばれるステージを。
うーん。
恥ずかしいぞ。
要は、ここで告白してくれるんだよね。
いや、二人きりの時でいいんだけどさ。
でも、この間、無理だったか。
うん。
じゃあ、ちょっとだけ我慢しよう。
「しーろーちゃ」
「しーろーちゃ」
しろちゃコール。
みんな、ここで公開チャットで告白しろと言ってるのだ。
うん、これは逃げられない。
「しーろーちゃ」
「しーろーちゃ」
「みんな静かに! チャットが流れる!」
一姫さんがトゲ付きで叫んだ。
そして、あたりが静まりかえる。
白いトナカイはドヤァという顔で立っていた。
多分、いろいろ考えてるんだろうなあ。
じゃあ、ちょっと。
「ホワイトハウスさん」
白チャットの吹き出し。
「私もちょっと恥ずかしいんだけどね」
その刹那。
「好きになりました! 僕とつきあってください!」
うん。ありがとう。
「はい。よろしくお願いします」
その瞬間、チャットやスタンプが飛び交った。
「88888888888」
「おめでとうーー!」
リテム撮影推奨002は大騒ぎになってしまった。
みんなが寄ってきて、お祝いしてくれた。
花びらを巻く人、クラッカーを鳴らす人。
そりゃあもう大騒ぎさ。
「すみません。大騒ぎになってしまって」
と、二郎くん。
「祝ってもらえるのは嬉しいよ」
ディズニーランドでプロポーズとかすると、こういう感じになるんだろうなあ。
そして、大騒ぎの中、いきなりアナウンス。
「緊急警報発令。リテムリージョンで、高エネルギー反応を確認しました。現在状況を確認中です。アークス各員は出撃の準備をお願いします」
「ソウラス来たーーー」
「この勢いで行くぞー」
一姫さんからパーティー要請が来たので、そのまま受ける。
「さ、ソウラスがご祝儀でフリューガルドくれるかもね!」
「おー!」
そして、待機エリアへ行くと、二人のキャラクター。
パグパグさん、ロレーパさん。
たしか、こども食堂の佐々木さんご夫婦だ。
一度、一姫さんが紹介してくれた。
「さあ、五人ソウラス、行ってみよー」
と、一姫さん。
「五人?」
これは二郎くん。
二郎くん、イマイチ戦闘への情熱が足りない、というかキャラクタークリエイトとかクリエイティブスペースに情熱を傾けすぎなんだよね。
あの独特なキャラ付けも含めて。
まあ、それも可愛いのですけど。
「はい、何とか行けるでしょ」
「じゃ、こども食堂スタッフパーティーで行ってみようか!」
「あ、こっちで名乗るのは初めてだよね。栄養士の佐々木です。じろーくん」
「あ、くらたミートの佐々木です。よろしく」
あれ?
初めて……なの?
「ええええええええっ!」
「あれ? 知らなかった……、の? 一姫さん、二郎くんは佐々木さんたちのチームにいるって」
無言の二郎くんに一姫さんが被せる。
「さー、行くよー。ソウラスぶっ飛ばしましょう!」
ゲームって面白い。
現実世界が、ログインすることでちょっと姿を変える。
いつも会っている人たちが少し違った姿で。
でも、やっぱりいつもと変わらない、その人たちで。
オンラインゲームって楽しい。
私たちは、そんなゲームで遊んでいる。
中原さんのエピソードは、周囲の影響で、オンラインゲームを始めてしまう人のお話です。
まあ、間章はそんなお話という位置づけです。
さて、これにて一旦おしまいです。
ゲームのサービスはまだまだ続いているので、ひょっとしたら続きも書くかもですが。
とりあえずは。
これでおしまいでございます。




