第15話 お悩み相談。
はあ。
ため息をつく。
フレンドリストにぺんたはいない。
ログインしていない、という意味だ。
オフラインメンバーにはちゃんといる。
僕はどうしよう。
とりあえず、「おれんじぺこ」に移った方がいいのだろうか。いやいや、どんな理由だよ。それ。
ダメだ。
どうしても気にしてしまう。
人を好きになるということは、こういうことなのかなあ。
ふと気づくと、目の前でゆみみさんがジャンプしていた。
あ。
しばらくジャンプした後、一礼。
メイドさん御用達のルコットポーズ3のご挨拶。
「あ、すみません。ボーっとしてましたとな」
と、チムチャで返す。
「あ、お見かけしたので、ご挨拶、と思いまして」
「ありがとなー」
すると、ウィスパーチャットがやってきた。
「最近、何か元気のない感じがするのですけど」
え?
「そんな風に見えます?」
「はい。ログインしてるけど、放置してること多い気がして」
あちゃー。外からはそう見えるのか。
「お仕事か何かでお悩みですか? それとも勉強?」
あー、どちらでもないのだよなあ。
「あ、私、社会人です。ちょっと最近、人間関係で悩むことが多くて」
「そうでしたか。でも、せっかくログインしたのだから、どっぷり浸かって遊んだ方がいいですよ。いろいろ割り切るためにも」
「いやあ。ちょっと割り切りにくいんですよね」
「そうですか。ホワイトハウスさんは結婚してらっしゃいます? お子さんとかいらっしゃいます?」
ぶっ。
思わず吹いた。
「あ、いや、プライバシー探ろうとか、そういうのではなく。家族の悩みだと、なかなか割り切れないですよね、と」
「ゆみみさんはご家族いるんですか?」
「はい。妻と娘と、あと孫ですかね」
まご?
孫?
「あ、あの、結構なお年ということですよね」
「そうですね。多分最年長」
「昔からゲームお好きだったんてすか?」
「いいえ。全然」
は?
え、意味がわからん。
「じゃあ、どうして?」
「弟がいたんですよ」
うん? どういうこと?
「弟が好きだったんですよ。このゲーム」
「はあ」
「亡くなりまして」
「え?」
「弟が親しくしていた方がいらっしゃいまして。弟の気持ちが知りたかったら、弟の世界を覗いてみるといい、と言われました。そして、その方が預かっていた弟のパソコンを譲り受けました」
えええ?
「そして、娘にいろいろ教えてもらいながら、そのパソコンの中のゲームを始めてみました。弟の使っていたキャラクターを使って。初めてパグさんにお会いしたときは驚かれましたよ」
「そして、いろいろ教えてもらいました。弟が好きだったメイドについても」
はあ。たしかにメイドと言えばゆみみさんだ。
「英国の女性使用人がフランスで性産業の衣装になっていたことは知っていましたが、それが現代日本で、しかもサブカル分野で流行っているというのは、面白いですね」
はあ。
「娘の知り合いにメイド喫茶に連れていってもらったりもしました」
ヲイ。
「そうしてみて、少しだけ弟のことがわかった気がするのです。知っているつもりでも全然知らなかった。見ているものが全然違ったのだと。そして、弟は、こんな人たちに囲まれて笑っていたのだと。そう思うと、やめられなくなってしまいました」
いやあ、お孫さんまでいるお年でNGSなのか。
それはそれですごいな。
「一歩踏み出してみるといいですよ」
「え?」
「考えれば考えるほどわからなくなる。だからやってみればいいのです。その方がきっといいことが起きますよ。私も初ログインまで一週間かかりました。けど、今じゃこの通り」
あ、励まされてるんだ。僕は。
一歩踏み出す。
簡単で、そして難しいこと。
「リアルだと、なかなか助けてくれる人がいないかもしれませんが、よく周りを見て話してみるといいのですよ。きっと、誰かが助けてくれますし、少し勇気も出てきますよ」
目の前のメイドさんの姿とはかけ離れた言葉。
でも。
ちょっとだけ背中を押された気がした。
ちょっとだけだけど、勇気が産まれた。
先日、91歳の方の訃報が流れてきたのですが。
ずっとヴァナ・ディール(ファイナルファンタジー11の世界)で遊ばれていた古参プレイヤーだったとか。
オンラインが高齢者の居場所になっていくのは、結構幸せなことでもある気がします。
もっともNGSの場合アクションなので、なかなか難しいですかね? でも、アクションしてないプレイヤーもたくさんいるからなあ。




