14 深まっていく
落ち葉が敷き詰められた中庭は、足を踏みしめるたびに乾いた音を立てた。
木々はすっかり赤と金に染まり、空の青さを際立たせる。
季節は進み、学園はどこを見ても秋の深まりを隠しようがなかった。
「エドワード様!」
その彩りの中を、変わらぬ声が駆け抜ける。
振り返るよりも先に、マリアベル・ド・クラウディアが風をまとって駆け寄ってくる。
いつもと変わらない、真っ直ぐで屈託のない笑顔。
「今日もごきげんよう! 本当にお会いできて嬉しいです!」
「……ごきげんよう、クラウディア嬢」
季節が移ろっても、彼女は変わらない。
真っ直ぐで、飾らず、ひたすら正面から突撃してくる。
それを受け止めるエドワードも、以前のように表情を曇らせることはなくなっていた。
(……私は、彼女の声を待つようになったのだろうか)
ふと、自覚が胸を刺す。
以前なら「困った存在」だと自分に言い聞かせ、どうかわすかばかり考えていた。
だが今は、廊下を歩くとき、中庭を横切るとき――
無意識に、彼女の姿を探している。
彼女が声をかけてくる前から、足音に耳を澄ませている自分がいる。
それに気付くたびに、エドワードは小さく息を呑んだ。
マリアベルは紅葉の下で立ち止まり、枝を見上げて言った。
「秋って素敵ですね。景色が日に日に変わっていって、でもエドワード様は変わらずそこにいてくださる」
「……変わらず、か」
「はい! その変わらなさが、とても安心するんです」
彼女は言い切り、頬をほんのり赤くして微笑んだ。
秋の空気が冷たくなるにつれ、その言葉は胸に温かさを灯す。
エドワードはわずかに目を伏せ、紅葉を仰いだ。
(変わらないのは彼女の方だ……だが、私の方は確かに変わり始めている)
突撃を受け止めるのは義務や責任ではなくなっている。
心のどこかで、その無邪気さを待ち望んでいる自分。
探してしまう視線。
気付かれぬように隠しながらも、もう否定できない事実。
マリアベルがふと振り返り、彼と視線を合わせた。
「……今日も、お話しできて嬉しいです」
彼女の笑顔は、秋の陽射しよりも温かかった。
エドワードは短く頷きながら、心の中で答えていた。
(私も、同じだ)
言葉にはしない。
けれど秋が深まるたび、彼の心もまた、彼女へと深まっていくのだった。