1恋の始まり
学園の大広間。
煌びやかなシャンデリアの下、貴族の子弟たちが談笑しながら席を並べていた。
その中央、ひときわ目を引く存在がいた。
エドワード・フォン・グランツ。
侯爵家の長男にして、容姿も家柄も誰もが羨む完璧な青年。
金糸のような髪と涼やかな瞳は、ただ座っているだけで周囲の空気を支配していた。
彼の周囲には常に数人の令嬢たちが集まり、声をかけるたびに彼は柔らかく笑い、丁寧に断っている。
「女性を傷付けないように断る」
それが彼のモットーだと噂で聞いていた。
(……なら、何度ぶつかっても大丈夫。引かれることはないはずよ)
マリアベル・ド・クラウディアは胸いっぱいに息を吸い込み、軽やかに彼へと歩み寄った。
周囲の視線が「誰?」と集まる。
けれど気にしない。彼女はただ真っ直ぐに進んだ。
「エドワード様!」
ぱっと笑顔を咲かせ、彼の目の前に立つ。
金の瞳がわずかに驚き、すぐに静かな表情に戻る。
「……クラウディア伯爵家の次女……でしたね。ごきげんよう」
その声は澄んでいて、耳に心地よい。
胸の鼓動が高鳴るのを抑えながら、マリアベルは真正面から言葉を放った。
「ごきげんよう! わたし、あなたのことが大好きです!」
広間の空気が凍った。
ざわめきが一瞬にして消え、誰もが息を呑む。
周囲の令嬢たちが驚きに顔を見合わせる中、マリアベルはさらに畳みかけた。
「顔が素敵で! 頭も良くて! 性格も優しくて! 家柄も申し分ない!
――だから、どうしても伝えたかったんです!」
エドワードはしばし沈黙し、やがて困ったように微笑んだ。
「……お言葉はありがたいですが、私の立場を考えれば……」
「お断りですね? 承知しました!」
にっこりと笑い、すぐに一礼するマリアベル。
そして心の中で小さく呟いた。
(断られても、また会いに行く。だって、わたしは………)
その笑顔は、誰よりも無邪気で真剣だった。
エドワードはその表情に、一瞬だけ言葉を失った。