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生徒会の女王様  作者: 沙伊
春の球技大会!
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春の球技大会!―試合編―1




 歓声が響き渡る。

 中等部の人間がほぼ全員集まっているため、歓声はかなりの大きさだ。

「あー、何か耳痛ぇ」

 ずきずき痛む鼓膜を何とかしたいと思いつつ、雪彦はクラスの試合を眺めていた。

 ちょうどキリナが動いたところで、打ち込まれたボールを間髪入れずに打ち返すという離れ業をやってのけていた。

(……初戦から何やっとんだ、あいつは)

 見る限り全く協調性が取れていない。取れてないのに点を取ってる。しかもコート内に三秒以上ボールがあった試しが無い。

「あらあら……うちのクラス、負け決定ね」

 隣の毒島は苦笑を浮かべた。

「さすが女王……最強伝説更新ね」

「それ本人に言うなよ。調子乗るから」

 雪彦はそう念を押しておき、男子の方を振り返った。

 相手は同じ三年だが、なかなかいい勝負をしている。

 点数は……こちらが有利か。


 ピピィィィッ


 ホイッスルが鳴り響いた。

 まだ試合から十分も経っていない。しかも点数は十五対零。

「……我が生徒ながら恐ろしいな」

 雪彦は額を押さえた。

「先生、勝ったー。一回戦突破♪」

 キリナが手を振って近付いてきた。

 雪彦はさっと身構える。予想通り、キリナがいきなり殴りかかっていた。

 雪彦は腕でそれを受け止め、弾き返す。

「ちっ」

「舌打ちすんな」

 雪彦はしびれる腕をぶらぶら振った。

「素直に攻撃を受ければよかったのに」

「受けられるか!」

 雪彦は思わず言い返す。


 ピピィィィッ


 再びホイッスルが鳴り響いた。

「お、あっちも勝ったか」

 戻ってきた男子達に、雪彦は笑いかけた。

 笑い返したりやたらテンションが上がっている男子達の中でただ一人、違うことをする奴が。

「キリナさぁぁぁん! 勝ちましぶふぅっ」

 キリナへ突っ込もうとした陸は蹴りの餌食となった。

「十五対七ね。まぁまぁだけど、まだまだだ」

 陸を踏みつけながらキリナは男子達をじろりと睨んだ。

「勝つなら圧倒的に勝て! 乱暴だろうと獣的でも完全勝利をもぎ取れ!!」


『は、はい!』


 男子達だけでなく、女子達まで声をそろえて答える。

(さすが生徒会の女王。統治力の凄いこと)

 雪彦ははぁ、と息をついた。

「はい、移動しろー。次二年の試合だからな」

「せんせー、球技大会って勝ったら何かもらえるん?」

 クラスの一人、西宮亜依(ニシミヤ アイ)が尋ねてきた。

 大阪から来たらしい彼女は、関西弁を使うマイペースな生徒である。

 セミロングの黒髪に褐色の瞳で、身長はクラス内ではもっとも高かった。顔立ちは平凡だが、他の女子より頭一つ分高いため、身長で覚えられているふしがある。

「ん? そうだなぁ……優勝したら都市内の店一ヶ月タダ券がもらえるな。去年までは無かったのに」


『おおぉぉぉぉ!?』


 全員歓声を上げた。

「……ちょっと春樹クン。今説明した? 事前に話すよう言われてたじゃない」

「悪ぃ……心労の元がな……」

 雪彦はキリナを見た。

 キリナは素知らぬ顔で陸を踏み続けている。

「って待て待て! いい加減足どけてやれっ」

「えー」

「えーじゃない! だいたい二年の試合始まるって言ってるだろっ」

「そーそー」

 誰かが背後から声をかけた。

「芽衣! 悪ぃ、すぐ移動するな」

 雪彦は慌ててキリナの背中を押した。

 何が気に入らなかったのか、腹に一発入れられたが。



 試合を見ていると、生徒会役員のいるクラスは圧倒的だった。

 二年四組の女子は芽衣がそのつど指示を出して的確に動いているし、二年三組は炎神、硝哉、鷹雄のチームワークが絶妙だ。

「強敵だなぁ。やっぱ男子は捨てるか」


『ひどっ!』


 男子の大合唱に、雪彦は肩をすくめる。

「しゃぁねぇだろ。言っとくが男子が優勝したら男子だけ、女子が優勝したら女子だけだからな」

 更なるブーイング。

 最初は無視していた雪彦だったが、女子まで加わりさすがに耐えきれずに叫んだ。

「うるせぇな! 文句言うぐらいなら勝つ努力しろ!!」

 生徒達は文句がありそうな顔のまま「はーい」と答えた。

「大変そうですね」

 くすくすと笑う声に、雪彦は顔を上げた。

「炎神、終わったのか」

「ええ。勝ちました」

 誇らしげに笑う炎神に、女子生徒がきゃあきゃあ黄色い声を上げる。一方男子達は気に入らないというような顔をした。

「キリリィン、せんせー。勝ってきたよーん♪」

 芽衣も戻って来てVサインを向けていた。

「ん、でかした♪」

「とぉぜん! 決勝キリリンと戦うんだもん♪」

 互いに抱き付いて笑顔を浮かべるキリナと芽衣。生徒会では見慣れた光景だったが他の生徒、特に男子達には目の保養だったらしい。


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?』


 男子達が周りの喧騒に負けないぐらいの歓声を上げた。

 美少女と美少女がくっつき合うのがいいのだろうか。雪彦にはよく解らない。

「何か楽しそうだな」

 新たな人物登場に、雪彦は振り返った。

「邦久。高校の方終わったのか?」

「おう」

 雪彦は右手を上げて頷く。

「秋人が恐ろしいぐらいの快進撃を見せてな……男子は試合前に棄権した」

「……ご愁傷様」

 雪彦はそう言うしかなかった。

「女子は?」

「ついさっき決勝が終わったとこだ。うちのクラスの勝ち」

「へぇ」

 雪彦は軽い拍手を送った。

「おめでとさん」

「ありがとう。そうそう。秋人と時雨、見に来てるぞ」

 何気無い一言にあっそうと返しかけた雪彦は……邦久を再度見た。

「……今何て?」

「だから高等部生徒会長と副会長が来てる」


『……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』


 全員(キリナ除く)驚きの声を上げた。


   ―――


 体育館の二階部分にある観客席。そこに座っている二人組は酷く目立っていた。

 一つは、中等部の生徒が多い中でその二人だけ高等部の制服を来ている点。

 そしてもう一つは、二人が目を見張るほどの美男美女という点だ。

 青年の方は黒髪を短く切り、鋭い鷹のような赤茶色の瞳をしている。精悍な顔立ちには厳しい表情を浮かべていた。

 美女の方も青年と同じ黒髪、しかし少し灰色がかっていて膝上まで伸びている。瞳は灰色で、凛とした美貌に男子陣は目を向けずにはいられない。

「けっ。うるせぇな、中等部の連中はハエか何か」

 青年――十間秋人は悪態をついた。

 いきなりの見下し発言に、少女――鮫島時雨はため息をつく。

「そんなこと言うなよ。みんな楽しんでんだからよぉ」

 見た目にそぐわぬ乱暴な口調だが、声音は秋人より優しい。

「ふん、あいかわらず餓鬼には甘ぇな」

「あんたが厳し過ぎんだよ! ったく」

 時雨はまたため息をついた。

「……ま、お手並み拝見と行こうじゃねぇか」

 時雨の言葉に、秋人もコートを見つめた。

「中等部の生徒会長の実力がいかほどか、か」

 秋人はにやりと唇を歪めた。



 そして幾つもの試合を経て――

 決勝戦が始まる。




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