春の球技大会!―練習編―
更新遅れてしまいました……
一週間以内にするつもりだったのに……
墨原学園の制服について説明すると、墨原学園の制服は他校と違い、ブレザーでもなければ学ランとセーラー服でもない。
正確に言えば幼等部と初等部は学ランとセーラー服服であるが、中等部と高等部は別である。
中等部と高等部は色以外では同じで、細部も同一だ。
中は白いシャツで、男子はネクタイ、女子は細いリボンで首元を飾っている。
上着は詰襟で、前を少し開ける形で首元をベルト一本で留めており、左二の腕に墨原学園の校章が描かれていた。
下はズボンとスカートだが、どちらもすそにラインが一本入っている。ちなみに中等部は銀、高等部は金だ。
生徒会役員はさらに肩に金色の紐をかけており、中等部高等部共に生徒会長は二本かかっていた。
しかし、体操服は他校と変わらない。むしろ、古いタイプかもしれない。
何しろ……
「何でうちの体操服は女子ブルマなわけ?」
キリナはさらされた素足を組ながら呟いた。
「……その質問に俺は答えられないが、一つ言っとく」
雪彦はキリナを見上げた。
「いい加減……木から降りてこおぉぉぉい!」
「え~」
木の枝に小さなヒップを乗せたキリナは唇を尖らせた。
「人を見下ろすのって気分いいのに」
「アホかあぁぁぁ!」
あいかわらずのドS発言に、雪彦はツッコまずにはいられない。
「だいたいおまえ、どうやってそこまで登ったんだよ!」
「ハシゴ創った」
「創んな、んなもんっ」
雪彦が叫ぶと、キリナははぁ、とため息をついて立ち上がった。
「せんせー、どくなよー」
「は? ……ってうおぉぉぉ!?」
いきなりキリナが飛び降りた。しかも、雪彦めがけて。
当然ながら、雪彦はべしゃっと下敷きになる。
「うん。着地成功」
「俺はマットじゃねぇよ!」
下敷きになりながらも雪彦は叫ぶ。いい加減喉が痛くなってきた。
「ったく。どけって! 練習行くぞっ」
「はぁい」
素直に降りてくれたので、雪彦はさっさと立ち上がった。
中等部の競技はバレーボールだ。なので、練習は中等部用の体育館ですることになる。
現在は放課後なので部活動をする生徒もいる。なので、練習は反対側ですることになった。
とりあえず今日は女子だけで、雪彦が担任の一組と、毒島美和子が担任の二組の合同練習だ。
「悪ぃ、毒島。こっちに合わせてもらって」
雪彦が言うと、毒島はクスッと笑った。
「いいわよ、別に。こっちも練習したかったしね」
茶色のロングストレートヘア、目鼻立ちがくっきりした顔、女性として完璧なスタイル……厳めしい名字のわりには、目を見張るほどの美人だった。
名字のせいで妙なイメージを持たれがちの毒島だが、本人はクールだが優しい女性である。
「それにしても、まさか黒鳥さんを参加させるとはね。やるじゃない」
「いやー、その代わり一ヶ月間メシおごることになってさ」
雪彦はため息をついた。もう今月、いや今日で何度目か。
コートの中で少女達はボールを追いかけ、打ち上げる。その中にはキリナもおり、ちょうどスパイクを決めたところだった。
「やっぱり『ファースト』を抜きにしても凄い運動神経よね」
「だよな。あれがもっとまともな方向に向いてくれればなぁ」
「そんなことありません! キリナさんはあれでいいんですっ」
「そうかなぁ……ん?」
雪彦は毒島と顔を見合わせ、右手側に目をやった。
「……何でいるんだ、階堂」
雪彦は隣で当たり前のように立つ少年――階堂 陸を見つめた。
長い黒髪を首の後ろで束ね、藍色の瞳を半眼にしている。人形のように整った顔に今はうっとりとした表情を浮かべていた。
陸は雪彦の声など聞こえてないようで、一心不乱にキリナを見つめている。
気のせいか……鼻息が荒いような。
「……あんたのとこの美形君よね。何あれ?」
「うん、まぁ……あれだ。キリナが原因でな、それで……その……」
何と言えばいいのやら。なんせ陸は……
「キリナさぁぁぁん! 愛してますーーー!!」
雪彦は前めのりに倒れかかった。
コート内の女子の動きが止まる。全員の目がキリナに向いた。
「……何でいる? 階堂 陸」
キリナの声がマイナス十度ぐらいになった。
「いやですねぇ、キリナさん。僕はキリナさんのいるところ、例え火の中水の中……ガハァッ!」
陸の顔面にキリナの飛び膝蹴りがクリーンヒットした。
向こうで練習していたバスケ部員の間を通り抜け、向こう側の壁まで飛ばされる。
壁に激突して倒れた陸を、全員が青ざめた顔で見、次いでキリナを見た。
「お、おいキリナ! 何もそこまでしなくても……」
雪彦がいさめると、キリナはふんっと鼻を鳴らした。
「どうせ大したダメージ受けてないよ。あれで『サード』なんだから」
「そうだけど……いやだがな」
「……フ、フフフフ」
陸が起き上がった。不気味な笑い声付きで。
「フフフフフ……この程度で僕は諦めませんよ」
誰もが陸に不快なものを見るかのような目を向けた。
鼻にモロだったために鼻血を出し、気持ち悪い笑みを浮かべる姿は見るものを恐怖させる。顔がイケメンなだけに色々残念だった。
「この蹴りで……僕は諦めません。むしろ!」
ぐっと陸の拳に力が込もった。
「もっと蹴られたい!」
『……』
全員陸からできる限り離れた。
「何かもう……あいつ末期だな」
雪彦はそう言うしかない。
ふと視界の隅にキリナを見付け、そっちを見ると。
「ボクは嫌がる相手をいじめるのが好きなんだよな」
両手にマシンガンを持っていた。
「な、なん、何でっ」
「能力で創った」
「だから創んなぁぁ!」
雪彦の絶叫も届かず、キリナは引き金を引いた。
ドパパパパパパパパッ
鉛弾――ではなく、BB弾が発射される。
「痛っ。いたたた!」
陸は頭を抱えた。弾の軌道から外れればいいのに、それをしないのは彼の性質ゆえか。
「……めちゃくちゃだな、もう」
雪彦は疲れたように呟いた。
―――
「アハハハハ! 何だよそれ」
雪彦の向かい側に座った青年教師、鮫島邦久は笑い声を上げた。
艶やかな黒い髪に灰色の瞳、白過ぎる肌は彼が純粋な日本人ではないことをしめしている。顔も鼻筋が通った美形だ。
「それでバレーの練習はほとんどできず、おまけに黒鳥を連れてきたと」
雪彦の隣に座ってハンバーグを食べるキリナを見て、おかしそうに片目をつむった。
学園都市内にあるファミレス。そこで雪彦、キリナ、邦久は夕飯を取っていた。
何で学園内にファミレスが? と最初は疑問だったが、今では慣れてしまっている。
「そうなんだよなぁ……。つうかキリナ、おごりだからって高いもん頼むな!」
「追加しようかなー」
「だぁぁ! 止めろっ」
まるでコントのようなやりとりに、邦久はまた笑った。
「ハハ。ところで、バレーの試合、勝てそうか?」
「こいつががんばってくれたら女子はな」
「報酬分は働くよ」
「おごりって報酬なのかよ!」
雪彦はツッコミつつも話を元に戻す。
「ただ男子はなぁ……二年の三組には炎神達がいるし」
「あぁ。副会長達か」
邦久は納得したように頷く。
「うちには階堂がいるが……一人だからなぁ。それに信用できるかどうか」
雪彦は額を押さえてため息をついた。
「そっちはどうだ? 高校はバスケだろ」
「ん? あぁ。男子は無理だな。三年には秋人がいるから」
「あぁ……高等部生徒会長か」
雪彦は高等部生徒会長、十間秋人の顔を思い浮かべた。
……できれば思い出したくない。
雪彦は頭をぶんぶん振って「女子は?」と尋ねた。
「女子はおまえのクラス楽勝だろ? おまえの妹いるし」
「時雨のことか」
邦久はふっと笑った。
「あいつはよくクラスを引っ張ってくれてる。副会長なのは伊達じゃないからな」
「おい自慢になってる、自慢にっ」
教師二人が話に盛り上がっていると、キリナは突然立ち上がった。
無視されてキレたか!? と雪彦は身構えたが、どうやら違ったらしい。
「ごちそうさま、先生。勘定、よろしく♪」
鞄を取り、颯爽と店を後にする。堂々とした態度に圧倒されてしまう。
「……はぁぁ。嵐が去った……」
雪彦がため息をついていると、邦久は「ん?」と声を上げた。
「どうしたんだよ」
「いや……皿が増えてねーか?」
「は……?」
雪彦は机の上を見た。
雪彦と邦久が食べていたパスタの皿、キリナが食べていたハンバーグの鉄板、そしてクリームやフルーツソースがついたガラスのグラス。
……ガラスのグラス?
「あ、あいつ追加しやがったな!?」
雪彦は思わず立ち上がった。
「あ……これ、一番高いスペシャルパフェ。千円する」
メニューを確認した邦久が呟く。
「……っ」
「落ち込むな。割り勘してやるから」
邦久は雪彦の肩をぽんと叩いた。
そして四月が終わり――
球技大会が始まる。