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生徒会の女王様  作者: 沙伊
中等部生徒会
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書記・風間 硝哉




 学園内にある繁華街。雪彦は見回りで普段着を着て来ていた。

 教員としての仕事の時はシャツにズボン、パーカーを着てるのであまり変わらないのだが。

 たが仕事中はアクセサリー類は付けられない。ピアスも不可だ。

 それに比べ、学園内の街を見回る際は好きな格好をしていい。

 服装にこだわる雪彦は機嫌よく歩いていた。


 この学園都市内で、大概の物は手に入る。服や本も外に出ずとも買えるし、バイトなども可能だ。

 つまり、墨原学園は生徒と教師の集合都市と言える。


 ぶらぶら歩いていた雪彦は、見覚えのある金髪が向こうから来るのを見付けた。

「あ、硝哉(ショウヤ)じゃねーか」

「あ゛? ……んだよ、先生かよ」

 風間(カザマ)硝哉は不機嫌そうに顔をしかめた。

 金色に染めた長めの髪を首の後ろで束ね、茶褐色の瞳を吊り上げている。整った顔立ちだが、表情のせいで不良に見えた。

 制服の右肩にかかった金色の紐が、彼の役職を示しているのだが。

「こんなとこで何してんだ? 見回りかよ」

 硝哉の問いに、雪彦は頷いた。

「おまえは? ……て、よく見たら怪我してんじゃねーか」

 雪彦は彼の手や白い頬に付けられた傷を見て目を丸くした。

「あー……絡まれたんだよ、不良によぉ。気に入らねーってさ」

「おまえ……そんな頭してるからだぞ」

 雪彦は硝哉の髪を指差した。

 墨原学園は服装や髪型には特に制約が無いため皆自由にしてるが、硝哉の髪は明らかに不良達を挑発してしまうだろう。

「しゃーねーだろ。気に入ってんだからよ」

 硝哉はポケットに手を突っ込んで、明確な反抗態度を取った。

 別に彼は雪彦に刃向かおうという意図はなく、たんに癖なのだ。

 知っているので特に起こることもなく、雪彦は「気を付けろよ」と忠告した。

「そういや、珍しいな。この辺歩いてて制服なんて」

 雪彦のセリフに、硝哉は片眉を上げた。

「会長なんざ、ほぼ毎日制服じゃんかよ。休みでも」

「ん、まぁ……あいつは特殊だから、な」

 雪彦は曖昧に笑った。

 キリナは自分が受け持ってるクラスの生徒であるため、他の生徒会役員よりよく知っている。

 彼女はこの学校に特に愛着があるわけでもないのに、なぜか常に制服なのだ。

 本人曰く、「気に入ってるから」だそうだ。

 まぁ確かにこの学校の制服はかなりかっこいいデザインなので、解らなくはないが。

「学校の用事か何かか?」

 雪彦が尋ねると、硝哉は首を横に振った。

「違う。学校帰りに……」


「硝哉君!」


 少年の声に、二人は振り返った。

 見覚えのある栗色の髪の少年がこちらに走ってくる。

「お、炎神か」

「あれ、春樹先生?」

 少年――炎神はパチパチと目を瞬いた。

「会ったの?」

「はい」

 硝哉はパッと頭を下げた。

「目的の物、買えましたか?」

「うん。ごめんね、付き合わせて」

 炎神が申しわけ無さそうに言うと、硝哉は「滅相もない!」と慌てた。

 脇で見ていた雪彦は頭をかく。

「相変わらずだなぁ、その主従ごっこ」

「ごっこじゃねぇ、俺は炎神さんに仕えてんだよ」

 硝哉はぎろっと雪彦を睨んだ。


 硝哉の風間家は、炎神の月陰家に仕えている。

 月陰家は日本経済を担う大富豪で、墨原学園の創設者の血筋である。

 墨原学園は日本政府が力を入れている施設のため、国の管理下にある。

 その総監督が月陰家の役目である。

そして風間家は、月陰家の補助をする役目を持っており、墨原学園を運営するのにも一役買っている。

 その二つの家から異能者が出たのはある意味皮肉だが。


 雪彦ははいはいと言わんばかりに苦笑した。

「んじゃ、俺は見回り再開するわ。じゃあな、主従コンビ」

「あ、はい。また明日」

「……けっ」

 それぞれの挨拶をして、三人はその場を後にした。


   ―――


「暇」


 キリナの言葉に、雪彦はビクゥッと肩を震わせた。

 この言葉を聞いて、ろくなことがあった試しがない。

 恐る恐る振り返ると、不機嫌オーラ全開で執務机に座ったキリナが見えた。

「暇、暇、暇! どうして最近平和なんだよっ」

「キリリン~、平和が一番だよぉ」

 紅茶を淹れてきた芽衣が言った。

 そういう仕事は確か庶務の役目のはずなのだが、本人が楽しんでやってるので注意したことはない。

「演劇部の衣装騒ぎからまだ一週間しか経ってないじゃん。我慢、我慢だよ~」

「でもねぇ……あ、そうだ」

 キリナはふと顔を上げた。

「風間硝哉は? 彼の能力はなかなかどうして楽しいんだけど」

「あれで楽しいって思えるのはおまえだけだ」

 雪彦は頭を押さえた。

「だって楽しいじゃない。彼の能力にひっかかった先生が」

「俺で遊ぶ気だったのか!?」

 また始まった口論に、芽衣はため息をついた。

「今日も平和だよね~。ね、エアル」

「ヘイワ、ヘイワ」

 二人を放置して人形のエアルと話し始めた芽衣は、生徒会室のドアが開いたことで顔を上げた。

「あり? ショウちゃんじゃん。どしたの、そのカッコ」

 芽衣の言葉に、雪彦とキリナは口論を止めた。

「……傷だらけだね」

「また不良に絡まれたのか!?」

 ボロボロの硝哉に、全員が驚く。

「……迷い猫相手にしてたらいきなりボコられて、『ファースト』と『セカンド』で撃退したけどよぉ」

 鼻血の跡がある鼻下を手の甲でぬぐい、抱えていた猫を下ろす。

「こいつ巻き込む可能性があるから『サード』能力は使えなかったしよ」

「かっわいー猫だぁ!」

 白い猫を見て芽衣はきゃっきゃと騒いだ。

「……炎神さんは?」

 硝哉の言葉に、雪彦は「さぁ」と肩をすくめた。

「たまにふらぁっといなくなるからな、あいつ」

「エンちゃんなら大丈夫っしょ。無理しないもん」

 猫と遊び始めた芽衣はきゃらっと笑った。

「そうか……ならいい」

 硝哉はほっと息をついて救急箱を取りに生徒会室の奥へ行った。

「何であいつ、炎神がいること気にかけてんだ?」

 雪彦は首を傾げた。

「……ふぅん?」

 キリナはにんまり笑った。

 また何か企んでんな、と雪彦は顔をしかめた。

「……悪ぃ、また出る」

 顔や手にバンソウコウを付けた硝哉は再び生徒会室を出ようとした。

「待ちなよ」

 キリナは立ち上がって硝哉を引き留めた。

「ボクを連れていきなよ」

「はぁ? 何言ってんだよ、会長」

 硝哉は目を瞬いた。

「別に。ただ面白そうだからねぇ」

 キリナは含み笑いをした。

「キ、キリナ! ちょい待て……」

「あ、大丈夫。暴れはしないから」

「『は』って何だ、『は』って!」

 雪彦が怒鳴るのもスルーして、キリナは硝哉の背中を押した。

「おい、キリナ!」

 雪彦が大声を上げるも、キリナと硝哉はそのまま出ていった。

 残されたのは、雪彦と芽衣だけである。

「……」

「ドンマイ、先生」

 芽衣はポンと雪彦の肩を叩いた。


   ―――


 墨原学園の不良達は幾つかのグループに分かれている。

 大概が『ファースト』、高くても『セカンド』だ。『サード』はいない。

『サード』の人間は学園内で優遇されてるため、グレることが少ないのだ。

 で、その不良グループの一つのたまり場に来たキリナと硝哉は、目の前の男達を見つめた。

 学園都市内の裏通りで、人通りも少ないし溜まりやすいのだろう。

「何だ、おまえら」

 不良の一人がぎろりと二人を睨んだ。

「……本当に会長は手を出さねーんだよな」

「勿論♪ 見てて楽しいからねぇ、君の能力は」

 笑顔のキリナに、硝哉はため息をつく。

「はあぁ。ただの意趣返しだから一人がよかったのによぉ」

 ぽりぽり頭をかいて、すっと前に出る。

「おい。昨日といい、今日といい、俺に何の恨みあんだよ」

「恨みだぁ? はっ。そんな頭してお偉い生徒会役員なんざしてる時点でムカつくんだよ! それで頭いいなんておかしいだろっ」

 不良達の逆恨みまがいのセリフに、キリナは鼻で笑った。

「ゴミはろくなこと考えないねぇ。やっぱクズはどこまで行ってもクズか」

「んだとこのアマ!」

 一人が叫び、別の不良があっ、と声を上げた。

「こ、この女! 中等部の生徒会長だっ」

 キリナの肩を指差し、その不良はガタガタ震えた。

「あ、あの空手部潰したっていう生徒会長!?」

「マジかよっ!」

 ざわめく不良達に、キリナは両手を上げた。

「ボクは戦わないよ。おまえ達が倒されるとこ見るだけ」

「ハァ? こんな弱っちぃ奴にかよ」

 不良達はげらげら笑った。

「『ファースト』も『セカンド』も大したことなかったぜ」

「どうせ『サード』も大したことねぇんだろ」

 笑う不良達に、硝哉は冷たい目で見つめた。

「解ってねぇな、てめぇら」

 硝哉は前髪をかき上げた。

「もう俺の『サード』能力は発動してるんだぜ」


 バァァンッ


 不良達の背後の木箱が爆発した。

 不良達が驚きで固まる。キリナはその様子を見てくすっと笑った。

「俺の能力、教えてやるよ」

 硝哉は不良達を睨み付けた。

「俺の能力、『遊戯の罠(トラップゲーム)』は仕込みを入れた場所を爆発させる能力なんだよ」

「し、仕込み……!?」

「これでも手先が器用なんでなぁ、話してる間に仕込ませてもらったぜ!」

 硝哉は更に前に出る。

「言っとくが、一つだけじゃねぇ」

 パチンと硝哉の長く細い指が鳴った。


 ボボボボボボンッ


 不良達の足元で小規模の爆発が起きた。

「うわっ、うわぁ!」

 不良達が悲鳴を上げた。当然だろう。どこが爆発するかわからないのだから。

「ウフフフ、やっぱり面白いや」

 キリナは口元に笑みを浮かべた。

「人のあわてふためく姿が見れる♪」

「……相変わらず性格悪ぃな、会長」

 硝哉はあきれ顔を浮かべた後、へたり込む不良達に「おい」と声をかけた。

「まぁ俺がむかつくのはしゃぁねぇや。けどよ」

 硝哉は目に力を入れた。

「俺のせいで炎神さんに迷惑かけるわけにはいかねぇんだよ! 二度と俺に関わんなっ」

 文句あるかっ、と言わんばかりの硝哉の表情に、不良達は涙目で何度も頷いた。

 硝哉はふんと鼻を鳴らして不良達に背を向けようとして――足を止めた。

「あ、忘れてた」

 パチンと指が鳴らされる。


 バァァンッ


 不良達の足元が爆発し、地面がえぐれた。

「ひぃぃぃぃぃぃ!」

「じゃぁな」

 硝哉は今度こそ不良達に背を向けた。

「いやぁ、楽しませてもらったよ」

「ケッ……」

 硝哉は大いに顔をしかめた。


   ―――


 硝哉は困り顔になっていた。

「怪我大丈夫? 何ともない? 消毒した?」

 炎神は硝哉を見上げて尋ねた。身長は硝哉の方が高いのでどうしてもそうなる。

「大丈夫です。その……野良猫にひっかかれただけなんで」

「そうそう。エンちゃん心配性~」

 芽衣がエアルを抱えながら言った。

「だって友達だよ。心配するよ」

「そ、そんな……」

 硝哉の顔が少し赤くなった。

「硝哉、顔赤いぜ。照れてんのか?」

 雪彦のからかいに、硝哉は更に赤くなった。

「フフフ。意外と照れ屋なんだよな、彼」

 猫と遊んでいたキリナは唇に笑みを浮かべた。

「ニャア」

「君もそう思う?」

 キリナは猫と一緒にソファーにごろんと横になった。

 雪彦達はまだ硝哉をいじっている。いや、炎神だけはかばってるが。

「あれでうちの書記なんだよ。世の中面白いよね」

 でも……と、キリナは横目で雪彦を見た。

「ボクが一番面白いと思ってるのは、春樹先生なんだよな」

 そう言って、キリナは意味深に笑ったのだった。






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