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生徒会の女王様  作者: 沙伊
激動の文化祭!
27/29

普通な異能者達




 薙切は探していた。

 誰を? 茉莉をである。

 先程会計の茉莉しかできない仕事を見付け、自分の仕事を終わらせて探しに出たのである。

「会長も副会長もいないし、つかこれ庶務の仕事だろ。犬塚先輩マジどこ行ったんだよ」

 ぶつくさ文句を言いながら、しかし茉莉に会う口実ができたので嬉しそうな薙切。

 しかし、それはすぐ吹っ飛ぶことになる。

「あんたさぁ、赤井薙切だよな」

 呼び止められ、薙切は振り返った。

「そうだけど……誰?」

 いたのは、見覚えの無い少女だった。

 髪を薄茶に染め、高等部の制服を思いきり着崩している。豊満な胸元など谷間が見えていた。

 それに顔を赤らめるような神経を薙切は持っていないが、しかし、彼女は自分に何の用だろう。

「見ての通り俺忙しいんだけど。手短にな」

「勿論。あいさつだけにするさ」

 そう言って――少女はナイフを取り出した。

「……はい?」

 なぜそこで、ナイフが出てくる?

「名乗るのが遅れたな。あたしは身加島季安羅(ミカシマ キアラ)。異常な常人で、一般的な異端者だ」

 そして少女は――身加島 季安羅は。

「さようなら、よろしくな、赤井書記」

 ナイフを容赦無く振り下ろす。


   ―――


 一体どこから現れたというんだろう。

 その男――蘭湯根(アララギ ユネ)は、キリナと秋人の前に突如現れた。

 隠れていたのか? いやしかし隠れるところなどどこにも無い。

 天井から降りてきたわけでもない。彼は気付いたら当たり前のように立っていた。

 まさか、本当に気が付かなかったのか。

 自分が、自分達が。

 こんな間近な人間に――?

「解ったかい?」

 月陰 玄英はにっこり笑った。

「これが、彼らの力だよ」

「……わけが、解らないんだけど」

 キリナは眉をしかめた。

 一体何が、どう異能なのだろう。異常ではあるが――

「だから、精神がだよ」

 玄英は笑顔を絶やさず肩をすくめた。

「君達、蘭君と向き合ってどう思う?」

「どうって……」

 二人は再度湯根を見つめた。

 黒髪だ。女みたいに長い髪を、結わずそのままに背中に流している。顔立ちはいい方だろう。

 しかしそれ以外に、突出した特徴は……

「……」

 あった。目に見えるものではないが、確かに。

 雰囲気だ。彼の雰囲気が、あまりに異常だった。

 気持ち悪い。言うべき言葉はそれにつきた。

 向かい合ってるだけで、こうして目を合わせているだけで、なぜだか彼から離れたくなるのだ。

 どす黒い何か、汚濁のような何か、それらをまとってるかのようだった。

 もしかして、自分達が彼を認識できなかったのもそれが理由ではないか。

 あまりに気持ち悪い存在感。

 関わりたくなくて、見たくなくて。 自然と、彼から目をそらしていたのではないか――!

「気付いたようだね」

 玄英は笑みを深めた。

「そう。彼らは何かを生み出すわけでも、何かを壊すわけでもない。ただ逸脱した人格ゆえに影響を与えるんだよ」

 異能者ではない異能者。

 ――そういうことか。

 つまり彼らは常人でありながら、異常な内面により異能者と呼ぶべき存在なのだ。

 能力(ちから)が無くとも、影響を及ぼす。

 それが、彼らなのか。

 ……しかし、それが彼の気持ち悪さに何の関係があるのだろう。

 その場にいるだけで他人に影響を与える人間なんて、ごまんといる。

 だが、彼のこの異様な気持ち悪さは?

「不思議がっているね」

 湯根は楽しそうに笑った。

 その笑顔自体はごく普通のものだ。しかし、そこからも気持ち悪さがにじみ出ている。

「そうだなぁ、例えば君、可愛い猫見たらどう思う?」

「どうって……可愛いなぁって思うけど」

 キリナは珍しくどもりながら答えた。

「だよねぇ。でもさ、僕はそう思えないんだよ」

 湯根は笑ったまま肩をすくめた。

「だってあんなのただの毛むくじゃらの肉の塊だろ。猫だけでなく、地上の生物全部そう思えるよ」

「……」

「人間だってそうさ。喋って服着た肉の塊さ。生物全て、ただの肉の塊なんだよ」

「……」

 キリナは思う。

 自分も正直、人を人として見ないことがあるが、彼の場合、動物全てを生物として見ていない。

 いや、見ていないどころか――

 生物として認めていないのではないか。

 ――なるほど、精神破綻者、か。

「理解はしました。しかし彼が異能者とはやはり思えないのですが」

 キリナはていねいに、しかし悪意をにじませて言った。

「まぁ気持ちは解るよ」

 玄英はうんうんと頷いた。

「正直彼らを口で説明するのは難しいが……まぁ彼らは異能者と言うより異常者かな」

「異常者……」

「我々は彼らを『フォース』と呼ぶことにした」

『ファースト』。異能者が最初に手に入れる身体的異能。

『セカンド』。異能者が二番目に手に入れる超能力的異能。

『サード』。異能者が三番目に手に入れる独特的異能。

 そして『フォース』、四番目とは。

「精神的異能、か」

 秋人は呻くように呟いた。

「話は……それだけですか」

「あぁ、そうだよ。ちなみに蘭君は君と同じ学年だ」

 玄英は秋人にそう笑いかけ、キリナにも目を向けた。

「今のところZ組は十人だ。その中には君と同い年もいるから仲良くしたまえ」

「……はい」

 キリナは投げやりに言うと、踵を返して扉までさっさと歩いていった。

「あぁ、そうだ」

 と、玄英は思い出したように声を上げた。

「黒鳥君、君の兄は元気かね?」

「……さぁ?」

 キリナは吐き捨てるように言うと、学園長室を出ていった。



「兄がいるんですか」

 秋人は少し驚いて玄英に尋ねた。

 キリナに兄がいるなどと、初耳である。

「あぁ。黒鳥ナオトと言ってね……少しばかり特殊な異能の持ち主だったんだ」

 玄英は昔を思い出すように目を細めた。

「この学園に通ってたんだ。中高と生徒会長をしていた」

「……ちなみに能力は?」

 おそらくキリナと似たような能力だろうと思いながら、秋人は再度尋ねた。

 湯根のことは、もはや視界の外である。

「あぁ。彼の能力名は『暴食王(ベルゼブブ)』。その詳細は――」


   ―――


 ナイフが床をうがった。

「っ……」

 足元をかすめたナイフを見、薙切は顔をひきつらせる。

 回避したからいいもののこの女、脳天を狙ってきた――!

「~~~っ、てんめぇ! 殺す気か!」

「殺す気だよ」

 愚問だったようだった。

「つうかさ、何で避けるわけ?」

 逆に問う季安羅。いや、訊きたいのはこっちなんだが。

「避けるに決まってるだろ。当たったら死ぬじゃねーか」

「あ、そういやそうだな」

 今気付いたというように手を叩く季安羅。ナイフは持ったままである。

 薙切はじりじりと、彼女との距離を取っていた。

 何だかよく解らないがこの女はやばい。

 一緒にいてはいけない。これ以上関わってはいけない。

 だいたい何でこんな奴はびこってるんだ。風紀委員はどうした。

 ずらずらとそういう考えが頭の中を流れていく。混乱の一歩手前だった。

「まぁいいや。どうでもいいや。おまえ殺せりゃそれでいいや」

 季安羅はナイフをぶんぶん振りながらにぃぃ、と笑った。

 怖い。めちゃくちゃ怖い。

「あんた個人に恨みはねーが、さっさと故人になってもらうぜ」

「っ……」

 再び振り下ろされるナイフ。薙切は身体の方向を転換して走り出した。

 つまり、逃走である。

「逃がすかっ」

 季安羅も追いかけてきたようである。

 後ろを見ると、意外にも足はそんなに速くないらしかった。どんどん引き離されていく。

(妙だな……『ファースト』ならもっと速いはずなのに)

 薙切は首を傾げながらも逃げられそうなのでそのまま差を広げていった。



 廊下の角を曲がったところで、薙切は誰かにぶつかった。

「ってぇ……って、おまえ」

「あ……どうも」

 ぶつかった人物――階堂陸は頭を軽く下げた。

「どうしたんですか? 慌てたみたいですけど……」

「あ、あぁうん。ちょーっとやばい奴が……て」

 薙切ははたと気付いた。

「おまえって風紀委員長だよな」

「は、はい」

「今ちょっとやばい奴が……」

 その時だった。


「やばい奴って、僕と同じ顔の人ですか?」


 背後から声がかかった。

 季安羅と似たような声だが――これは、男か?

「危ない!」

 突然陸が叫び、薙切の腕を引っ張った。

 陸の方へ倒れ込む薙切。その後ろで、ひゅんっという何かを斬り裂く音が聞こえた。

 薙切は振り返り、その人物を見る。

 少年だった。制服をきっちり着込んだ、中等部の男子である。

 しかしその顔は、あの身加島季安羅と酷似していた。

 ナイフを持つ姿など、そっくりである。

「って、いいぃぃ!?」

 薙切は顔をひきつらせた。

「あぁ、外してしまったか。まぁ当てるつもりではないですが」

「よく言いますよ! 今完っ全脳天狙ってたじゃないですか!!」

 陸が薙切を支えながら叫び声を上げた。

「はぁ、まぁ。一応許可もらってるんですが」

「誰に、何の許可ですか!?」

「誰かに、何かをですよ」

 と、男子生徒は頭を下げた。

「自己紹介がまだでした。身加島 季留亜(キルア)です。姉がご迷惑をかけました」

 そして顔を上げる。

「そして僕も、これから貴方方にご迷惑をかけます」

 ナイフの刃が、鈍く光った。






 何だか最近この小説の路線が変わってきてるような……

 基本はコメディな学園ファンタジーなはずなんですが。

 次回はもっと明るく書きたいです……では!



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