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生徒会の女王様  作者: 沙伊
激動の文化祭!
26/29

生徒会と能力同好会




 炎によって、部屋全体が明るくなった。

 まるで炎神自身が電灯になったかのようである。

 そうして浮かび上がったのは、他とあまり変わらない様子の教室と、一人の少女だった。

 金髪碧眼の美少女である。確かに墨原学園の制服をきているため、生徒だというのは嘘では無いだろう。

 しかし、炎神はその顔に見覚えは無い。

 外国人の生徒なのだから目立って有名になろうに、どうして……?

「見たこと無いって顔ね」

「……はい、まぁ」

 特に隠すことではないので頷く。

 少女ふむ、と唸った。

「まぁあの時会ったのは教師だけだからねー。近くにあの女もいたけど、あの女は店の中にいたし」

「教師? あの女?」

 硝哉が眉をひそめた。が、すぐ切り替える。

「……まぁいい。桐島、あいつ以外に人はいるか?」

「いや……いないな」

『観察する鏡』を発動させた鷹雄は首を振った。

「やだなぁ。そう警戒しないでよ。私達は生徒会転覆狙ってるけど、貴方達個人には敵意無いもの」

「信用すると思うかよ」

 硝哉は少女をぎろりと睨んだ。しかし、少女はどこ吹く風である。

「怖いなぁ。怖いから」

 少女の手から、何かが飛び出した。

「即逃げる!」


 ボフンッ


 辺りが煙に包まれた。

「え、煙幕!?」

 固まる炎神達の耳に、少女の声が響く。

「アハハ! 今回は顔見せだけだからさ。じゃあねー」

 がらり、と窓が開く音がした。

 同時に入ってきていた風で煙が晴れる。しかし――少女の姿はどこにも無かった。

「に、逃げたのか……?」

 炎神はしばらく室内を見渡していたが、やがて炎をすっぱり消した。

「……一体何だったんだろう、さっきの人」

「転校生が来たなんて話、聞いてませんね」

 硝哉は舌打ちをもらしながら前に進み出た。

「どうしますか? 追いかけます?」

「うぅん……きっともう隠れるなり何なりしてるだろうから、見付けるのは骨が折れるだろうし」

 炎神は長いため息をついた。酷く疲れたため息である。

「とりあえず春樹先生に報告しよう」


   ―――


「フィリシア・フェリシアか……俺も聞いたこと無いな。Z組なんてものが新設されたなんて話も無いぞ」

「そうですか……あの、ところで」

 生徒会室にて、報告を終えたところで炎神は雪彦に尋ねた。

「何があったんですか?」


 視線を上に向けながら。


 別にこれは雪彦と炎神の身長差を表しての表現ではない。文字通り、雪彦は炎神達の頭上にいるのである。

 生徒会室は他の教室とは違い、広さはそれなりにある。

 それは天井にも言えることで、雪彦は身長が百八十以上あるのだが、その二倍の高さに天井があるのである。

 そして雪彦は、そこから逆さまに吊り下げられていた。しかも全身鎖でぐるぐる巻きにされ、さながらサナギのようである。

 身体の面積が二倍になるほどの量と長さの鎖に縛られているのに意識を保っているのは、もはや瞠目すべき自体だった。

 ただ、限界は近かったようである。

「あ、頭に血が登ってきた。やばいやばいやばいやばい。あ、目の前が真っ白に。何これ。俺今日命日? 何かデカイ川が」

「硝哉君、鷹雄、春樹先生下ろすよ!」

 色んな意味で――際どいところで、雪彦は救出された。



「あぁ、危なかった……」

 雪彦は胸を撫で下ろした。

 腕は長く縛られていたせいでしびれて動かないため、精神的だが。

 鬱血しているところが、我ながら痛々しかった。

「放置プレイでも命に別状の無いものにしてほしいよな……危うく境界線越えるとこだったぜ」

「境界線以外のものも越えそうでしたけど」

 炎神は雪彦の腕を見てうわっ、と声を上げた。

 こんな状態で放置されて、普通なら怒り狂うのに何とも冷静な雪彦である。

 ……単に疲れただけだが。

 それに、怒る以外の反応――喜ぶ者も、この学園にいる。

 あの、ある意味キリナと相性抜群な被虐趣味の先輩を思い出し、二年の三人は暗くなる。

 今更ながら、彼が風紀委員長でいいのだろうか。

 何だか彼の性質自体が風紀を乱しそうだが。

「……まぁキリナのことはひとまず置いとくとしてだ」

 雪彦はようやくしびれが消えた腕を振りながら肩をすくめた。

「とりあえずその能力同好会って奴らのこと、俺なりに調べてみるよ。それまで、そのフィリシアって娘には接触しない方がいい」

「何で?」

 鷹雄に訊かれ、雪彦は顔をしかめる。

「相手が何者であれ、この学園にいる以上は異能者なんだ。『ファースト』であれ『セカンド』であれ『サード』であれ、無闇にぶつかるのは危険過ぎる」

「確かに、少なくともあのボールの攻撃を考えるに、フィリシアって奴は『セカンド』だろうしな」

 硝哉も頷き、雪彦に同意する。

「……とりあえず、今は文化祭の準備ですね」

 炎神の言葉に、いっせいに現実を見据える四人。

 視線を向けた執務机には、溜まりに溜まった仕事の束が山積みにされていた。


   ―――


「何で君がいる」

「こっちの台詞だ」

「こんなところで顔を合わせるなんて、ボクはついてない」

「不本意だが同意する。何で鉢合わせしなきゃならねぇんだ」

「邪魔だ。どけ」

「遮るな。どけ」

「ボクは学園長に用がある」

「俺も学園長に用がある」

「……」

「……」


 学園長室にて、中高生徒会長の押し問答、終了。


 黒鳥キリナと十間秋人は学園長室に呼び出されていた。

 お互い呼ばれた理由は解らない。用があるということだが、一体何なんだろうか。

 ここで睨み合いをしていても意味が無いのは解っているので(普段からそうしてほしいものである)、二人は牽制し合いながら学園長室に入った。

 入ると目に付くのは、奥の執務机に座る老人――墨原学園学園長、月陰玄英だ。

 正直な話、キリナも秋人もこの老人が嫌いだった。

 いや、二人に限った話ではない。この学園内の生徒、いや、教師、いやいや、異能者達ほとんどが、彼を嫌悪していた。

 なぜなら彼は異能者の研究者であり――異能者を研究の道具としてしか見ていないからだ。

 異能者はこの学園に入るまで人として扱われず、化物扱いされていた者が多い。

 そんな彼らにとって異能者が大半のこの学園都市は、大切な居場所なのである。

 そのトップがそんな人間なのだ。嫌われるのも無理は無い。

 彼の血縁者である炎神や、緑化委員長の月陰空が生徒の中で重要な地位にいられるのは、ただただ二人の人望が高いがゆえだ。

 そうでなければ、なれるどころか誰も彼らに近付こうとすらしなかったろう。

「やぁやぁ、よく来たね」

 そんな自分の人望の無さを彼は知っているんだろうか――玄英はキリナと秋人を迎え入れた。

「学園長、我々を呼んだわけを話していただきたい」

 秋人がそう切り出すと、玄英は「まぁそうせかすな」と笑った。

 下卑た笑いだ、とキリナは内心で蔑む。相手が学園長でなければ口にして、更に殴っていたろう。

 それにこの老人とは、できる限り接したくなかった。

「お茶でもどうかね」


『結構です』


 二人の声がそろった。会長二人は不快げな顔で互いを睨む。

「あはは、そうかい。では、話をしようか」

 玄英は組んだ両手の上に顎を乗せた。

「実はね、最近新しくクラスを新設させたんだ」

「……」

「そこに入る生徒は少々変わった連中でね、彼らは異能を持たない異能者なんだ」

「……は?」

 キリナは眉をひそめた。

 異能を持たない異能者など、いるはずがない。

 異能を持つからこそ自分達は異能者と呼ばれる。

 異能を持たない異能者など、いるはずがない。

「いや、何というかね……君達を身体的な異能者と呼ぶなら、彼らは精神的な異能者なんだよ」

「つまり……外部に影響を及ぼすのではなく、内部――それこそ精神に影響を及ぼす異能者、と?」

 秋人の説明に、玄英は頷く。

「そう。つまり君達が身体の異常を持つなら、彼らは精神の異常を持つんだよ」

「つまり、精神破綻者と?」

 異常という言葉にキリナはぴくりと眉を動かしたが、声にはおくびにも出さなかった。

「そう。例えば強い、強過ぎる精神を持つとか。勿論それだけで異能者とは言わないが、しかし」

 玄英はそこで「いや」と首を振った。

「これは接してみないと解らない。だから」

「……?」

「実際に接してみてくれ」

 その言葉と同時に、キリナと秋人の目の前に一人の青年が現れた。

 何の前触れも無く、何の予告も無く。

「え、えぇ!?」

 さながら――出現したかのように。

「高等部二年Z組、蘭湯根(アララギ ユネ)だ! よろしく頼むよ、お二人さん」

 蘭 湯根は、現れた。






 お久しぶりです! 久しぶりの投稿です!!

 なのに短いです。すみません。

 前回同様、ちょっと雰囲気を変えてみました。しばらくこれが続きます。

 では、次回!



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