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生徒会の女王様  作者: 沙伊
中等部生徒会
2/29

副会長・月陰 炎神

 主人公より目立っちゃいました……







 静まり返った教室。その中で、雪彦の声が響く。

「だからこの文が現してるのは、前文に繋がるんだ。更に……」

 電子黒板に更に書き込もうとして、雪彦は手を止めた。


 キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴った。途端に教室内の生徒達が騒ぎだす。

「おーい、言っとくけどなぁ、明後日漢字テストだぞ。この評論の」

 とたんに嫌そうなどよめきが起きた。

「できなかったら居残りな。部活でも言いわけになんねぇぞ」

 雪彦は教材をまとめて小脇に抱えた。

 そのまま出ていこうとして、後ろから引き止められた。

「春樹先生」

「あぁ、炎神(エンジン)か」

 雪彦は振り返った。

 月陰(ツキカゲ)炎神がこちらに歩み寄ってくるところだった。

 栗色のふわふわした髪、髪と同色の大きな瞳で、中性的な整った顔立ちをしている。

 制服の右肩には、一本の金色の紐がかかっていた。

「何だ、授業の質問か?」

「いえ、生徒会のことです」

 炎神はにこっと感じよく笑った。

「そっか。今日来るのか、生徒会室」

 雪彦が尋ねると、炎神は首を横に振った。

「いえ。今日は用があって。だから会長に来れないと言っておいてほしくって」

「なるほどな。解った、伝えとく」

 雪彦は頷き、今度こそ教室を出ていった。

「先生と何話してたの?」

「生徒会のことだよ」

「そっか。炎神君、副会長だもんね」

 教室を離れる際、そんな話が聞こえてきた。


   ―――


「ふぅん。今日、副会長、来ないんだ」

 キリナは紅茶をすすりながら答えた。

「用事って、やっぱり学園長絡みかな」

「だろな」

 雪彦は肩をすくめた。

「……月陰 炎神、二年C組、出席番号十四番。学園長の甥」

「あぁ」

「……甥はともかく、学園長は嫌い。あのクソジジィ」

 ボソッと黒い言葉が吐き出された。

「おまっ……んなこと表で言うなよっ」

「言わない。ジジイが死ぬ時、耳元で囁いてやる」

「どっちにしろ駄目だっての!」

 雪彦の叱責にもキリナは聞こえないフリをした。

 どこから取り出したのか、チョコクッキーをパクついている。

「理事長絡みだといいこと無いからねぇ」

 キリナはぽつりと言った。

「ま、副会長のことだから、大丈夫でしょ。ボクには関係無いし」

 キリナの無責任な言葉に、雪彦は顔をしかめた。

「おまえなぁ、マジで何かあったらどうするんだ」

「知らない。むしろ暇潰しにもってこいじゃないか」

 ニヤッとキリナの唇の端が持ち上がった。

「弱い奴を踏み潰す快感は、かなりいいもんだからね」

「……そのドS思考を何とかしろよ」

 雪彦は頭痛がしてきた。

 胃薬と頭痛薬が欲しい。キリナといたら、いつかぶっ倒れる。

(はあぁぁ。炎神がいたらなぁ)

 常に笑みをたたえ、暴走しがちなキリナをやんわりと抑える炎神。

 彼がいなかったら、生徒会はただの暴力団みたいな集まりになってたに違いない。

(早く帰ってきてくれよ~、炎神)

 雪彦ははぁ、とため息をついた。


   ―――


 墨原学園の深奥にある学園長室。炎神はそこにいた。

「生徒会にはなれたかね」

 墨原学園学園長、月陰 玄英(ゲンエイ)はにっこり笑った。

 白髪に白い口髭、シワだらけの顔が笑っても、愛想笑いにもならなかった。

(伯父様には悪いけど、正直苦手なんだよなぁ)

 玄英の前に突っ立った炎神は不快な気分を抑え込んだ。

 別に炎神は、老人に嫌悪感を覚えているわけではない。

 今は亡き祖父母のことは大好きだったし、老人の昔話を聞くのは楽しい。

 ただ、この伯父の、何かを企んでいるような濁った目が苦手なのだ。

「慣れました。会長以外はみんな同級生だし」

 炎神がそう言えば、玄英は満足そうに頷く。

「そうかそうか。これからも頑張りなさい」

 玄英は細い目で炎神の目を覗き込む。

 炎神は背筋を逆撫でされるような、そんな寒気を感じた。

「おまえには、やってもらわねばならないことがあるからね」

(やってもらわねばならないこと?)

 炎神は意味が解らず首を傾げた。

「いずれ解る。もう行っていいぞ」

「あ、はい。じゃ、失礼します」

 炎神は頭を下げて、学園長室を出ていった。



「ハァ~。やっぱ苦手だなぁ」

 学園内の繁華街を歩きながら、炎神はため息をついた。

(父さんと兄弟とはとても思えないや)

 といっても、父と伯父は腹違いでしかも一回り違うのだから、似てなくて当然か。

「やっぱ生徒会に顔だそうかな……ん?」

 炎神の視界に、見るからに怪しい人物が映った。

 黒いスーツの上に灰色のコートを着て、サングラスをかけている男だ。三十代ぐらいに見える。

(何? あの不審者ですって全身で言ってるみたいな人)

 炎神は大きな目を瞬いた。

 通りを外れ、裏道を行こうとする姿は、明らかにおかしい。

 炎神は一瞬迷ったが、男を尾行することにした。

 足音を極力立てないように歩き、気配を消す。

(俺も俺で、不審者みたいだなぁ)

 内心で苦笑しつつ、炎神は男を一定の距離を保って追いかけた。

 しばらく歩き、完全に人通りが耐えた場所で、男は止まった。

 じめじめした場所で、学園内にこんな場所があるのかと炎神は驚く。

 しばらく物陰に隠れて様子をうかがっていると、反対方向から別の男が現れた。

 複数いる。緑の制服を見る限り、どうやら高等部のようだ。

(何だ……? そもそも学園内に外部者は入れないはず。てことは)

 とんでもないことに気付き、炎神は呆然とする。

 だがすぐ気を引き締め、男達のやり取りを見つめた。

 遠いので何を言ってるかは解らないが、何か渡している。

 白い袋と、数枚の紙幣だ。

「――! まさかっ」

 炎神は驚愕して身じろぎした。その際に、近くの積み重なった木箱にぶつかる。

 ガタガタと木箱が倒れた。

「!? 誰だっ」

「っげ、やばっ!」

 炎神はだっと走り出した。

 追いかけてくる気配がするが、気にしてられない。

 そのまま全速力でその場を後にした。


   ―――


「は!? 麻薬密売!?」

 雪彦はプリントを廊下に取り落とした。

「だ、大丈夫ですか?」

 炎神はプリントを慌ててかき集める雪彦を手伝った。

「マジでか? この学園内で?」

「間違いありませんよ。遠目でしたけど、多分。違ったとしても、いいもんじゃないでしょ」

「確かに、な……。金が絡んでるみてーだし」

 雪彦は顔をしかめた。

 昨日の空手部といい、大丈夫だろうか、この学園の治安は。

「だが証拠が無ぇ。しかも教師絡みだ。言っても信じてもらえるかどうか……」

「だったら」

 集めたプリントを雪彦に渡し、炎神は真剣な顔付きで提案した。

「現場を押さえたらどうですか? それなら言いわけできなくなる」

「それは……そうだが」

 雪彦は頭をかいた。

「だが、次にどこで密売するか解らねぇんだぜ。どう押さえるんだよ」

 雪彦が言えば、炎神はニッと笑った。

「俺が『サード』なのを忘れてません? 俺の『セカンド』能力はテレパシーですよ」

 雪彦は首を傾げかけたが、すぐピンときた。

「心を読んで、次の密売場所を突き止めたのか!」

 雪彦は思わず唸る。

 いい意味で抜け目が無い。しかもちゃんと教師に報告する。

(キリナもこんなんだったら……いや、地球が崩壊しても無理か)

 雪彦はそこまで考え、キリナには教えないでおこうと思った。またややこしいことになるからだ。

 がしがし頭をかいた後、「で、どこだ?」と尋ねる。

 炎神は一つ頷いて口を開いた。

「高等部棟の校舎裏です」


   ―――


 日が傾き始め、影がじわじわと広がっていく。

 高等部校舎の裏で集まっているいかにも怪しい集団に、雪彦は声をかけた。

「おまえら、そこで何してんだ?」

 高等部制服を着た肩がビクッと震える。

 その中で唯一、スーツ姿の男が前に進み出た。

「こ、これは春樹先生。中等部教師の君がなぜここに?」

幸宮(ユキミヤ)先生……」

 雪彦は男――幸宮に鋭い目線を向けた。

「貴方こそ、こんなところで何をしてるんです? 不良生徒を集めて」

「それは……その……」

 しどろもどろの幸宮に、雪彦の後ろにいた炎神は静かに言った。

「幸宮先生、俺見ましたよ。貴方が麻薬をさばくところ」

「――!」

「今も持ってるんじゃないですか? 自家栽培の麻薬」

 炎神はいつもの穏和な雰囲気を引っ込めて、厳しい態度を向ける。

「生物学教師の貴方なら、授業に使うと言って麻薬の原料を作ることは可能です。研究室もあるから、そこで作ってたんだ」

「ち、違う! わ、私は」

「おいおい、幸宮先生よぉ」

 突然高等部生徒が前にしゃしゃり出てきた。

「こんな餓鬼にいいように言われてんじゃねぇよ」

 よく見れば、全員鉄棒やら金属バットやらを持っている。

 不良のあるべき姿みたいな武器に、雪彦は頭が痛くなる。

(学園の治安はどうなってんだよ、マジで。風紀委員は何やってんだ)

 しかし、炎神は動じた様子はなかった。

 細い身体を震わせることもなく、こちらに目だけを向ける。

「すみません、いいでしょうか。手加減はするんで」

 言いたいことは何となく解った。問題は、許可できるか否か。

 こちらから行かなくても攻撃されそうだし、ここで逃げては証拠は手に入らない。

 まぁ、炎神は無茶はしないだろうということで、頷いてやった。

 炎神は申しわけなさそうに笑うと、前に向き直った。

「よし。行くか」

 炎神はだんっと地面を蹴った。

 一気に五メートル跳ぶ大ジャンプに、全員目を剥く。

 不良達が驚愕してる間に、炎神は群れの中心に降り立って右足を旋回させた。

 一気に二人の不良が蹴り飛ばされる。

 ここで不良達が動き出した。

 各々の武器を振り上げ、炎神に突っ込む。

 炎神は軽々とそれらをよけ、どんどん立っている男達の数を減らしていく。

 一分足らずで、十数人の男達は地面に伏していた。

「……さて、先生」

 炎神は幸宮をちろっと睨んだ。

「手荒な真似はしたくはありません。大人しく……」


 ヒュヒュヒュンッ


 幸宮の手から、透明な刃が噴出された。

 幸宮の能力だ。当たれば重傷だろう。


 だがそれは……当たらなかった。


「なっ……」

 幸宮の目が見開かれる。

 当然だろう、炎神の身体から発生する炎で、刃が溶かされたのだから。

「俺の力は『炎帝(フレイム・エンペラー)』と言います。解るように、火を操る能力です」

 炎をまとった炎神はニコッと笑った。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。中等部生徒会副会長、月陰 炎神といいます。よろしく」

 炎神の笑顔は、全く陰りが無かった。


   ―――


 雪彦はキリナに追い詰められていた。

「昨日、麻薬所持で教師と生徒数人が捕まったんだけど、何か知らない?」

「知らねーって!」

 昨日のことを言うわけにもいかず、雪彦はしらを切る。

「ふん……まぁいい。でも、ボクが暴きたかったな」

「暴いてどうするんだ?」

 一応尋ねてみる。

「土下座させて私は犬ですって言わせて首輪付けて学園中を四つん這いで回らせる」

 ……聞くんじゃなかった。

「ん~、悔しいな。暴れたかったのに」

「おまえ、また俺の心労増やす気かー!」

 雪彦がぎゃあぎゃあ言ってると、生徒会室に炎神が入ってきた。

「こんにちはー……って、どうしたんですか?」

「別に。春樹先生をどういじめて遊ぼうかなって考えてただけ」

「キリナてめぇぇぇぇ!」

 絶叫と笑い声が響き渡る。

 今日も生徒会は平和であった。






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