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生徒会の女王様  作者: 沙伊
生徒会の夏期合宿!
19/29

生徒会の夏期合宿!―二日目―





 雪彦は昨日の疲れが取れてなかった。疲れたまま、朝食を摂っていた。

「大丈夫ですか? 何か顔色悪いですけど……」

 向かいに座った炎神が心配そうに尋ねてくれた。

「大丈夫大丈夫……」

「……そうには見えませんけど」

 炎神は眉根を寄せた。

「そういう炎神はどうだ?」

「俺は一応……でも鷹雄はトラウマっぽいです」

「……だろうな」

 思わず冷や汗をかく雪彦。本当にトラウマになったらヤバいのでは?

「そういやまだみんな起きてねーな」

 雪彦は辺りを見渡した。

 ホテルの一角にあるレストランである。生徒会が泊まったこのホテルはレストランが幾つかあり、その内の一つを貸し切りにしたため、二人以外には誰もいない。

 だが、そう時間経過を待たずに、空間は二人から五人になった。

「あ、雪彦先生に炎神」

 時雨は入ってきてすぐ、こちらに声をかけてくれた。後ろには秋人と茉莉がいるのだが……何やら火花が散ってるような。

「な、なぁ。あの二人、一体どうしたんだ?」

 雪彦が声をひそめて尋ねると、時雨は後ろを見、眉尻を下げた。

「朝からあんな感じで……。学校でも、俺がいるとああなっちまうんだ」

 つまり密かに時雨争奪戦が始まってるということか。

 当の本人は、そのことに全く気付いてないが。

 時雨はやれやれと首を振り、雪彦と炎神から少し離れた机に着いた。

 雪彦が秋人と茉莉を見ると、二人は更に火花をバチバチさせていた。周りに引火しそうである。

 ……小さな攻防戦の末、秋人が時雨の隣に座った。

「茉莉……? どうかしたか?」

「何もっ」

 向かいに座った不機嫌な親友に、時雨は戸惑う。まさか理由が自分に関連するものとは思ってない。

「……? まぁいいか。ところで先生、今日の予定は?」

 運ばれてきた朝食に手を着けながら尋ねる時雨に、雪彦は頷きを返す。

「あぁ。今日は朝食後にちょろっと会議して、で、昼食食べた後は自由。近くに繁華街とかあるから買い物行くなりなんなりしていいぜ」

「じゃ、後で出かけよ、時雨!」

 先手必勝とばかりに茉莉が素早く口を開いた。時雨はその早さに面食らいながらも「おう」と答える。

 出遅れたであろう秋人は憮然としていたが。

(何か面白いなぁ、この三人)

 雪彦が思っていると、炎神がため息をついた。

「面白いって思ってるでしょ、先生」

「え゛……」

 ぎくりとする雪彦。時雨、秋人、茉莉は首を傾げた。


   ―――


「あ゛ー、疲れた……。何であの二人飽きずに毎回ケンカを……」

 雪彦は昼食も取らずに、ホテルの部屋のベッドに転がっていた。

 会議中、またキリナと秋人がバトルし出したのだ。

 時雨のおかげですぐ鎮静化できたが、その後も一触即発状態だったため、昨日の今日で心労二倍になってしまった。

「はぁ……ここなら少しはのんびりできると思ったんだけどな……甘かったか」

 涙目でため息をつく雪彦である。大人の男のそんな姿。情けないを通り越して若干キモいところがあった。

 しばらく「あ゛ー」とか「う゛ー」とか呻いていると、ドアがノックされた。

 鍵があるんだから邦久ではあるまい。第一あいつは出かけたのだ。

 なら生徒の誰かだろう。そう思ってドアを開けた。


 ……で、すぐさま閉めた。


 いや、閉めようとしたのだが何やら固い塊をドアに挟み込まれ、閉められなくなった。

 ぎちぎちと閉め潰そうとするが、ドアは全く微動だにしない。それどころか、向こう側から力が入り始めた。

「人の顔見るなり何閉めてんのさ!」

「うるせぇ! 誰のせいで疲れてると思ってんだっ」

「ほほぉ。その疲れた身体で」

 押される力が一気に強くなった。

「ボクに勝てると思ってんの!」


 ドガアァァァァァッ


 吹っ飛ばされた。ドアごと吹っ飛ばされた。

 奥にあるソファー近くまで飛ばされ、雪彦は伸びてしまう。

「ふふん。このボクに対抗するからだよ。……先生? おーい、せぇんせぇー」

 気絶した雪彦からドアをどかし、そうなった要因――キリナはつんつんと彼の頬をつついた。

 反応無し。軽く蹴ってみる。やっぱり反応無し。

「……」

 キリナは能力を使って鉄製のハンマーを創り出し、地面を蹴った。

 そこでちょうど目を覚ました雪彦は、迫ってくるハンマーを目にする。

「……どぅわっ!?」

 雪彦は転げながらその攻撃を避けた。

「何しやがる!」

「いや、起こそうと」

「起きる前に昇天しとるわ!」

「いいじゃない。それもまた一興で」

「一興どころか0.5興にもなってないっての!」

 雪彦は立ち上がりながら怒鳴った。

「だいたいおまえは何でいつもいつも俺をそう攻撃しようとする!?」

「楽しいから♪」

「どこがじゃー!」

 雪彦はもうわけが解らなくなってきた。

「まぁそれは置いといて」

「置いとくな」

「買い物行かない?」

「どういう流れでそこに行く!?」

 雪彦は顎が落ちてしまった。

「だいたい芽衣はどうした?」

「寝てる」

 キリナはぷぅっと膨れた。

「だからしかたなく、本当にしょうがないから寂しい青年に声をかけてあげたんじゃないか」

「寂しい言うな!」

 雪彦は肩を怒らせた。事実だったりするので否定できないのが哀しい。

「まぁそれより行くよ」

「ちょ、待てよ! つかアクセとか付けさせてくれたって」

「んなもんいらんでしょ」

「気持ち的に違うんだよ!」

 雪彦は腕を引っ張られながら叫んだ。

 その後もわいわいと言い合いをしたが、結局雪彦が押し負けたのである。


   ―――


 雪彦はため息をついた。

 キリナと出かけたはいいが、さっきから荷物持ち扱いなのである。

 合宿に来たところは自然が多いわりに意外と都心に近く、服や何やら買うのもできてしまうのだ。

 で、キリナがその服を買うたびに、雪彦の荷物は増えるのである。キリナの能力名であり、あだ名である女王の単語が頭によぎった。

「なぁ、これじゃ俺、おまえのしもべみたいじゃないか?」

「え? ボクはそのつもりだけど?」

「教師を何だと思ってんだ!?」

 もう何件目か解らないブティック店の前で、雪彦はへたり込みそうになった。

 こいつは一体どこから金を出しているのか。さっきからカードしか使ってない。

 しかし買い物をする姿を見ていると、やはりキリナも女の子だなぁと実感する雪彦である。

 今だって、黒に白いレースが付けられたフェミニンなワンピースを着ており、制服時のキリッとした雰囲気が薄れている。

 ドSだろうと異能者だろうと、やはりキリナは十五歳の女の子なのだ。それを確認できただけでも、今日は充分かもしれない。

 何が充分かは、自分でもよく解らなかったが。

「キリナ、俺ここで待っとくわ」

「えぇ?」

「おまえに振り回されて俺がどんだけしんどい思いしてると思ってんだ。待っててやるからほら、行ってこい」

「……はいはい」

 キリナはしぶしぶといった感じで店内に入っていった。

 雪彦は荷物の紙袋を置き、ふー……と長い息をついた。さわやかな青空の下で、何とも似つかわしくない光景である。

 周りは楽しそうにショッピングにいそしんでいるのに、だ。

「あー、もう。俺だって買い物楽しみてーよ」

 石畳の舗道に座り込みそうになった時――


「大丈夫ですか?」


 声をかけられた雪彦は顔を上げ、眉をひそめた。

 目の前に、少女が立っていた。しかもただの少女ではなく、金髪碧眼の外国人美少女なのである。

 そんな彼女に日本語で声をかけられたのだから、雪彦は不可思議に思ったのだ。

「えっと……大丈夫だ」

 とりあえずそう返すと、少女はほっとしたように微笑んだ。

「よかった。疲れてらっしゃるみたいだから心配したんです」

「はぁ……」

 雪彦はそう言うしかなかった。

 キリナと同い年に見えるが、どうも妙だ。

 大人っぽ過ぎるし、変な印象だ。

 そんな雪彦の戸惑いなど知らないだろう少女は、キリナが入った店の中を覗き込んだ。

「あれ、妹さんですか?」

「え? いや、違うよ。俺の生徒」

 雪彦が言うと、少女はそうですかとだけ呟き、ぺこっと頭を下げた。

「では、私はこれで。さよなら。気を付けてくださいね」

「あ、あぁ」

 雪彦は頷きながら、遠ざかっていく小さな背中を見つめた。

(……何だったんだ?)

 雪彦が頭をかいていると、ふと陰が差した。

 顔を上げると、男が数人。気が付けば囲まれていた。

「よぉにいちゃん。金貸してくんねぇ?」

 ……典型的なカツアゲだった。

「あいにくあんま持ってねぇよ」

 雪彦が両手を上げると、男の一人が眉をひそめた。

「にしては随分買ってんなぁ」

「俺のじゃ……」


 ドガアァッ


 ない、と雪彦が言う前に、その男が吹っ飛んだ。

「何してんのそこのゴミ! 通行の邪魔邪魔」

 キリナだった。キリナが、男に飛び蹴りを喰らわしたのだった。

 いきなり仲間を倒されて呆然としていた男達は、半瞬遅れていきり立つ。

「何してんだこの餓鬼ぃ!」

「女だからって容赦しねぇぞ!」

「痛い目見せてやる!」

 男達は雪彦が止める間も無くキリナに突っ込んだ。

 キリナは最初に来た男の拳をさばき、男のみぞうちに右膝を入れた。

 悶絶する男を蹴り飛ばし、二人目共々地面に転がす。

 三人目は側頭部に回し蹴りを喰らわし、店の壁に叩き付けた。

 四人目五人目がたたらを踏んでるうちにキリナは二人の間合いに入り、それぞれ拳と蹴りを喰らわした。

 数秒のうちに、五人のむさい男達を倒してしまった。しかもワンピースで。

「ふん。この程度、ちょろいちょろい」

「このアホオォォォォォォォォォォォォォォォォォ! 何一般人に手ぇ出してんだっ」

 雪彦は絶叫した。すでに周りから多大な視線を浴びており、何やらひそひそ言われてる始末である。

「ここ学園の外だぞ! 学園と同じようにしたら駄目だろ!!」

「ぷぅ」

「ぷぅ、じゃねぇよ!」

 雪彦はキリナの手をひっ掴み、荷物を持ってその場を後にした。



 建物の陰でことの顛末を眺めていた金髪碧眼少女は、遠ざかる二つの背中を見つめていた。

「なるほど黒鳥 キリナに春樹 雪彦、ねぇ。確かに計画に必要だわ」

 でも、と少女はぐっと顔を歪めた。せっかくの美貌が台無しである。

「気に入らないわ、あの女」

 ぎりりっと爪を噛み、少女はキリナを睨み続けた。






 二日目でした! 夏関係無い……

 謎の美少女、その正体は!? 状態ですね。

 つ、次こそは夏関係あるようにします!

 でわ! 感想などお待ちしております!!



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