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生徒会の女王様  作者: 沙伊
生徒会の日常
17/29

期末テスト





 硝哉ははっきり言って、面倒事が嫌いだ。

 特に、無自覚に人に迷惑をかけてる人間が一番嫌いだ。

「なぁ、ここ教えてくんねぇ?」


 ……こいつがまさに、いい例である。



 中間テスト本番である。生徒達は熱心に教科書を見ているが、硝哉としてはそれが理解できない。

 直前で覚える単語などたかがしれてる。

 そんなことをするくらいなら、朝でまだ寝ぼけているだろう頭を動かす努力をした方がいい。

 そんな理由から、硝哉はテスト前にクイズ本やらそういうたぐいの本を読むことにしていた。

 それをこいつは……桐島 鷹雄は遠慮無く邪魔するのである。


「あのな、それぐらい自分で考えろよ」

 硝哉がいらいらとそう返せば、鷹雄はえー、と残念そうに返す。

「いいじゃんかよ。風間本読んでんじゃん。今回乗りきらないと、俺、合宿行けないし」

「知るか」

 硝哉はにべもなく返した。

 第一、鷹雄が来なくても硝哉は一向に困らない。むしろうるさいのがいなくてせいせいする。

(しかし……今無視してたら、うるさ過ぎて俺がテストに集中できん)

 硝哉は迷った末、勉強を手伝うことにした。



 教室に入った炎神は、硝哉と鷹雄を見付けて首を傾げた。

 何だか硝哉が怒っているような。気のせいだろうか?

「どうしたの?」

 とりあえず近付き、硝哉に話しかける。

 硝哉は眉間にしわを寄せたまま、机に突っ伏している鷹雄を指差した。

「こいつが! 俺の言ったことを全く理解しないんですよ」

「あぁ……そういうこと」

 炎神はため息をついて頷いた。

「もうほっといたら? あれだけさんざんやったんだから、あとは運と鷹雄の理解力しだいでしょ」

 けだるげに手を振れば、鷹雄が顔を上げて抗議してきた。

「そう言うなよ! 俺マジでキリナさんと合宿行きたいんだから」

「動機不純だな!」

 炎神はツッコんだ。

「だって生徒会だけだぜ。ここは階堂先輩に差を付けるチャンスじゃねーか!」

「差をつけるも何も……」

 言いかけ、炎神は口をつぐんだ。

 前の扉から担任が入ってきたのだ。

「はい、席着きなさい! 勉強はもうおしまいよ」

 炎神達の担任、代嶋夢乃(カエジマ ユメノ)はてきぱきと指示を出した。

 しかし、中学生がそう簡単に指示に従うはずもなく、教室中はきゃあきゃあわいわいと騒がしいままだった。

 代嶋の表情が変わる。眼鏡の奥にあるつり上がった細い目がキラリと光った。

 出るかな、と少し笑って炎神が見守っていると、代嶋は教卓を叩き、大声で怒鳴った。


「静かにするザマス!」


 教室全体が静まり返った。

 一拍間を置いて広がったのは……爆笑である。

 それを受けて代嶋は満足げに一つ頷き、もう一度座るよう生徒達を促した。今度は生徒達は従う。

 自分の方に注意を向け、話を聞かせる。そのために、代嶋はよく皆を笑わせるようなことを言うのだった。

 それにしても……

「リ、リアルにザマスって……ザマス……ぶふっ」

「わ、笑うな桐島。お、俺まで……うぐぐ」

「キャラおかしいっ……キャラッ……」

 順に鷹雄、硝哉、炎神である。

 普段真面目な代嶋だけに、ギャグの威力が半端無いのだ。事実、彼ら以外にも笑いの収まらない者がいる。

 とはないえ、まさかそのままでいるわけにはいかないので、三人はそれぞれの席に着き、ふでばこを取り出した。


   ―――


(そろそろ……終盤)

 一人の男子生徒が心の中で呟いた。

 名も無き男子生徒は、ゆるゆると息を吐く。さっきまで気を張っていたのだ。

(やっぱりバレないように『セカンド』のテレパシーを使うのは気を使うな)

 彼はシャーペンを置き、答案用紙を眺めた。

 書かれた解答は自分で考えて出したものではない。このクラスにいる秀才達のものだ。

(『セカンド』で複数の奴らから解答を『教えて』もらう。楽でいいぜ)

 顔がにやつかないように気を付けつつも、やはり笑いは完全に止まりそうにない。

 これなら赤点を取ることはないし、上位に行くことも可能だ。

(ただ……学年一位の頭には手を出せねぇんだよな)

 彼はちらりと、一列隔てて右横にいる風間 硝哉を見た。

 彼は見た目に反してかなり頭がいい。常に学年一位をキープしているほどだ。

 だが彼は『サード』で、しかも生徒会の書記だ。へたをすればやってることがバレかねない。

 生徒会メンバーは要注意人物。学園に住む人々の共通意識だった。

 それに彼には、生徒会に関わりたくない理由があった。

(だからテレパシーは普通の奴……『ファースト』のみだ。ちとキツいが、まぁいいだろう)

 彼は机に突っ伏し、残りの時間で惰眠をむさぼり始めた。



 鷹雄は違和感を覚えていた。

(何だ、この感じ……誰かが能力を使ってる?)

 テスト中に能力を使うことは禁じられている。特にテレパシー能力を持つ『セカンド』は警戒せねばならない。

 炎神のような真面目な奴はいい。というか、ほとんどの生徒は真面目だからテストを受けてるのだ。

 だが、中には単位が欲しくてテストを受け、いい成績を得るために異能を使ってカンニングを行う奴がいるのだ。

 もしこのクラスの中にそういう奴がいるなら、即刻犯人を見つけねばならない。

(でもなぁ……俺の『セカンド』は念動力だし、『サード』は目立つしなー)

 カンニングをしている奴を見つけるために能力を使って自分がカンニングの犯人になっては世話無い。

(とりあえずこの時間はほっといて、休み時間になったら炎神と風間に話そう)

 そう思っている内にチャイムが鳴った。

 解答用紙を回収し終わると、真っ先に炎神の元へ行く。

「炎神、ちょっと」

「……やっぱり鷹雄も気付いたんだね」

 炎神は顔をしかめて頷いた。

「誰だろうね、やってるの」

「やっぱセコい奴だろ。カ……」

「言ったらバレるぞ」

 いきなり後ろから叩かれた。大した威力は無かったが、驚くのには充分だった。

「っと。何すんだよ、風間!」

「うかつに喋ったら次からやらなくなって見付けられねぇだろ」

「そうじゃなくて!」

 鷹雄は真剣な表情で、

「覚えてた単語忘れるだろ!」

「どんだけ頭すかすかなんだよ!」

 背中叩いたぐらいで忘れるなんて、世界広しと言えどこいつぐらいだろう。

「でさ、どうする? 俺の能力で見付けるか?」

「いや……相手はおそらくテレパシー。こちらのやることに勘づいてブロックかけるかも」

 炎神の言葉を受け、硝哉は顔を上げた。

「炎神さんがテレパシーを使って探るというのは?」

「でも、相手はそれも想定してるだろうし」

「だからですよ」

 硝哉は珍しく唇の端を持ち上げた。

「それに、炎神さんが読むのは犯人の心じゃありません」

「じゃ、誰の?」

 炎神が首を傾げると硝哉は『作戦』を話し始めた……


   ―――


 彼は前の時間と同じように能力を駆使してのカンニングを行っていた。

(くくっ、順調順調)

 毎年毎年やっていることだが、考えずも答えが解るというのは気分がいい。

 無論、全問正解では怪しまれるため幾つか間違い解答も織り混ぜなければならない。

 それは面倒だが、いい点を得るためにはしょうがない。

 彼は全部を埋め終えると、また机に突っ伏した――


 ドガアァァンッ


 教室の外から弾けとぶような音が聞こえてきた。

 教室内が騒然となり、悲鳴まで上がる。

「な、何だ!?」

 彼もまた例外ではなく、思わず立ち上がって廊下の方を見た。

 煙が上がっているようで、先程の音が気のせいでは無いことが解る。

 しかし、なぜか火薬の臭いがしない。爆発物なら、それぐらい臭ってもいいはずなのに。


「また君か」


 背後からかけられた声に、彼は飛び上がった。

「この間の盗聴機といい……こりないね、影山 健君」

「ふ、副会長……」

 彼――影山は顔をひきつらせた。

「な、何で解って……」

「ガードはちゃんとしてたみたいだけどね。やっぱり驚いたら気を使ってても解けちゃうよね」

「うぅっ……」

 影山は立ち上がり、後ずさった。

「君の作戦通りだね、硝哉君」

 炎神は後ろに立つ硝哉に笑いかけた。

「て、てめえの作戦かよ、風間!」

「ハッ、こう見えて頭脳労働は専門中の専門でな」

「まぁ発見したのは俺だけど」

 鷹雄がひょっこり顔を出した。

(桐島が俺を見つけた? じゃあ月陰は誰にテレパシーを……)


「全くこりねぇな」


 全然別方向から声が聞こえてきた。

 ぎぎっと振り返ると、教師が一人入ってきた。

「春樹先生、呼び出してすみません」

 炎神はにこっと雪彦に笑いかけた。

「いや、いいよ。しかし影山……またおまえか」

 雪彦はため息をついてかつかつ近付いてきた。

「この様子だと、さっきの爆発は硝哉だな? ったくぱかぱかと能力を使いやがっておまえらは……」

 あきれたのかまたため息。しかし、影山の前まで来ると厳しい表情を浮かべていた。

「テストやり直しだけじゃ済まねぇぞ。おそらく今までもやってたはずだからな」

「あ、う……」

 影山の額に汗がだらだらと流れ出た。

(月陰が呼んだのはこいつだったのかよ! マズイッ)

 無駄と解りつつ、影山は立ち上がって走り出した。

「あ、待て!」

 雪彦の手をかいくぐり、影山は教室を飛び出した。

(ヤベェヤベェヤベェ! どうすりゃいい、どうすりゃ……)

 前回のこともある。退学にはならないにしてもどんな罰を受けるか解ったもんじゃない。

 チャイムが鳴る音も影山の耳には入らず、しゃにむに廊下を駆け抜ける。

 階段にさしかかったところで、誰かにぶつかった。

 女子生徒だったようだが、体格で勝っていたはずの影山の方が倒れてしまう。

「ってぇ。だ、誰、だ……」

 怒鳴ろうとして身体を起こした影山は、凍り付いた。

「んん? 君どっかで会わなかった?」


 ぶつかったのは、最強ドS生徒会長、黒鳥 キリナだった。


「誰だっけなぁ? あまり顔を会わせない格下はすぐ忘れちゃうし……」

 彼女らしいセリフを口にし、なぜか腹を踏みつけてくる。

「ぐぇっ、何を……」

「でも廊下走ってたよね? 誰かから逃げてたよね? 悪人面してるよね?」

 最後をわけの解らない言葉でしめ、キリナは黒い鞭を持った。

「つまり……粛正対象だよね♪」

 浮かんだ笑顔は、鞭と同じぐらい黒かった。


   ―――


 後日、影山は身体中ぼろぼろで再テストを受けた。

 更なるトラウマでも植え付けられたのかガタガタのブルブルで、テストは凄惨な結果だった。

 またずっと能力を使ってカンニングをしていたことも認め、罰としてトイレ掃除一年間、高校卒業まで居残りすることとなった。

 その上悪夢まで見るようになったそうだが……それはまた別の話である。






 影山再登場。扱いやすいやられキャラです(笑)

 硝哉のテスト直前で勉強しないで頭を動かすという発想は沙伊も同じです。直前って覚えてもすぐ忘れちゃうんで頭を動かそうという考えに至りました。

 ちなみに硝哉はクイズ本ですが沙伊は小説書いて頭を動かしてます(どうでもいい

 次から夏休み合宿編です。まぁ合宿と言っても生徒会メンバーを遊ばすだけなんですが……

 高校生徒会の会計、書記、庶務も登場するのでお楽しみに! まぁあまり期待せず……(どっちだ



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