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生徒会の女王様  作者: 沙伊
生徒会の日常
16/29

生徒会式勉強法




 日曜日である。学園都市とはいえ、休日に校舎にいる人間と言えば教師ぐらいで、生徒は誰一人としていない。早朝であればなおさらだ。

 しかし、今日は例外だった。



「じゃ、準備はいい?」

 いつもの生徒会室。休日だというのに制服姿のキリナは、同じく制服姿の生徒会メンバーの顔を順に見渡した。

「じゃ、始めるよ」

 キリナはバンッと長机を叩いた。正確には、机の上の教科書を。

「第一回、生徒会式勉強会!」


『おぉー』


 ……返事を返したのは炎神と芽衣のみである。

 硝哉はめんどくさそうにソファーに身体を沈めているし、鷹雄は顔を緊張で歪めている。これを始めるきっかけを作った人物なのに、どうも乗り気では無いようだ。


 テストが近い中、生徒会はある問題を抱えていた。

 鷹雄である。

 キリナは学年一の秀才だし、炎神はいつも授業を真面目に受け、復習もしているため問題無い。

 硝哉と芽衣は元々勉強はできる方なので、こちらも大丈夫だ。

 しかし、鷹雄だけはヤバイ。

 何せこいつは、徹夜一ヶ月しても常に赤点ギリギリの成績なのだ。

 今回に至ってはテスト自体忘れていたため、全く勉強してない。英単語や漢字も一つも思い出せない状態だ。

 鷹雄が悲惨な点数を取っては、生徒会の威信にも関わる。

 なので、テスト一週間前にして勉強会が開かれたのであった。

 生徒会室なのは、単にここが一番広くて騒いでも大丈夫だからである。雪彦の許可も取ってある(無理矢理)。



「じゃ、担当科目を言うね」

 キリナはまず自分を指差した。

「ボクは国語」

 次に炎神、次いで芽衣を指差す。

「副会長は社会、芽衣は英語」

 最後に硝哉。

「書記が数学。理科は全員でカバーしよう」

 理科だけ全員でかかるのは、理科が得意な者がいないからだ。

「まずはボク担当の国語だけど、どこまで行った?」

「えっと……」

「今は古文の竹取物語です」

 キリナの質問に考え込む鷹雄に代わり、炎神が答えた。

「大丈夫なの? 範囲まで忘れちゃってるなんて」

 芽衣が心配そうに尋ねた。

「絶対無理。俺もう赤点でいいや……」

「君が赤点取ったら、ボクに迷惑がかかるんだけど」

「頑張ります!」

 切り替えは早かった。切り替えだけは。

「あいかわらず会長には忠実だな……まぁやる気が出るならいいか」

 硝哉がぽつりと呟いた。


   ―――


 最初は順調だった。

 キリナは「竹取物語は最初だけでも暗記した方がいい」と言うので、鷹雄は竹取物語の文を記憶し、空でも思い出せるようになった。

 記憶力が悪いわけじゃないので、当然だろうが。

 問題はである。


「だーかーらー、『今は昔』の口語訳はそうじゃないって!」

 つまってた。

 口語訳がしょっぱなからけっつまずいてた。

「大体口語訳は現代文に置き換えてるんだよ。『今は昔』なんて現代文無いでしょ!」

 さしものキリナもツッコまずにはいられないらしい。

 だが無理も無い。

 こんな、ちょっとでも古文を習っていたら解るようなことを解らないんだから。

 仲間内の言葉もあきれを含んでいる。

「この『よろずの如く』って、色々って意味でよろず屋じゃないよ……」

「ここの『けり』なんて口語訳に付いちゃってるしぃ」

「『野山に混じりて』は山で隠れながらって意味じゃねぇよ」

 次々指摘される問題点。鷹雄は沈むしかない。

「最初っからこれか……何かペナルティ付けた方がいいな」

「ペ、ペナルティ?」

 キリナの言葉に、鷹雄の顔がひきつる。嫌な予感がしたらしい。

「そうだな……一つ問題を間違えるたび」

 キリナの手に、でかい鉄球が付いた手錠が握られる。顔にはにっこり笑顔が。

「この重りを腕に付けるっていうのは? 勉強しながら♪」

「嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 鷹雄は絶叫した。

「ちょ、ペナルティつうかそれイジメじゃ」

「うん。せいぜい苦しみながら勉強するといい♪」

「嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 二度目。今度は目に涙が浮かんでいた。

「んなことで勉強できるわけないじゃないですか! キリナさんと手錠で繋がるってなら萌えますけどっ」

「何プレイだ」

 驚愕のあまり変なセリフを口走り、硝哉にツッコまれる。いや、意外と素だったかもしれないけれど。

「さっそく一つー♪」

「ちょっ、やめ……ギャー! 両腕!?」


 ……この騒ぎはその後十分続いた。


   ―――


「失礼しまーす。……っとぉ。何だ、この死臭漂う部屋は」

 資料片手に生徒会室に入ってきた時雨は、目を丸くした。

 ちなみに彼女が所属する高等部生徒会の部屋は別にある。

 彼女がこんな発言をしたのも無理は無い。

 机の上にもたれるようにして倒れている鷹雄を見たからだ。

 精根尽き果てた、というか枯れ果てた顔は蝿が飛んでいてもおかしくない。そして両手首には一つ十キロ以上はありそうな鉄球が二十個。……総じて二百キロはあるだろう。

 これを死体と呼ばずして何とする? と言いたくなる状態だった。

「あ。やあ、鮫島高等部生徒会副会長」

 時雨に気付いたキリナは、のんびり紅茶を飲みながら挨拶をした。

 他の生徒会メンバーは、微妙な顔をして時雨を見返している。

「えっと……何してたんだ?」

 とりあえず、といった感じで時雨が質問した。

「見たら解るだろ。勉強会」

「どこをどう見たら勉強会!?」

 驚く時雨に、炎神と芽衣が説明を始める。

 最後まで聞いた時雨は、憐憫の目で鷹雄を見た。

「哀れと言えば哀れだし……自業自得と言えば自業自得……」

 時雨の言葉に炎神は乾いた笑いを浮かべ、芽衣は「にゅー」と唸った。

「で、鮫島先輩は何の用だよ」

 硝哉が手持ちぶさたに携帯をいじりながら尋ねた。

 不遜な態度に怒るわけでもなく、時雨が「そうだ」と思い出したように顔を上げた。

「今回の期末終わったら夏休みだろ。で、夏休み終わったら生徒会で合宿しようと」

「却下」

 キリナの返事は光の速さ並に速かった。

「えー、でもこれ毎年恒例だぜ」

「嫌なものは嫌」

 時雨の声も効果無し。キリナはそっぽを向く。

「ん~……」

 時雨は少し考えた後、ぽつんと呟いた。


「秋人と同じこと言ってる」


「は? 何言ってんの?」

 キリナは物凄い勢いで振り返った。

「だってそうじゃねぇか。あいつも嫌って駄々こねてたしぃ。二人して餓鬼っぽーい」

「……フッ」

 キリナは立ち上がった。紅茶のカップは持ったままだ。

「誰があの馬鹿暴君と一緒だって? 行くよ。毎年恒例だし、ボクは大人だからね」


 あっさり陥落したー!!


 生徒会メンバーは心の中で拍手を送った。

 さすがあの暴君の手綱を握っているだけあって人の扱いに長けている。

 単にキリナが単純なだけかもしれないけど。

「じゃ、決定。雪彦先生には俺から話通しとくから」

 時雨はそういって踵を返そうとした。

「あ、そうだ」

 時雨はふと立ち止まって鷹雄に声をかけた。

「赤点取ったら補修で合宿来れなくなるから頑張れよー!」

「……りょ、了解ッス」

 鷹雄、生存確認。

 時雨は満足げに頷くと、今度こそ生徒会室を出ていった。

「よーし、ボクは寝る」


『えぇ!?』


 炎神、芽衣、硝哉はキリナの発言に驚いてしまった。

「おい、会長。勉強は?」

「飽きた」

「飽きたのかよ!?」

 硝哉はガーンとショックを受けた。ついでに魂を手離しかけてた鷹雄も現実に戻ってくるぐらいショックを受けた。

「どーせ、国語これ以上叩き込んでも意味無いよ。春樹先生の責任ってことで終わらせよ」

「担任兼顧問に責任丸投げしちゃった!」

 炎神の顎が落ちた。

「眠いから寝る。おやすみ。ま、頑張りたければ頑張れば?」

 そう言って、キリナはソファーに横になって目を閉じた。すぐさま規則正しい寝息が聞こえてくる。

「あやや……あいかわらずの自由人。……ん? タカタカ、どうしたの?」

 芽衣が鷹雄を見ると、彼は生き返った顔でキリナを見つめていた。

 はっきり言って……キモい。

「キリナさんが励ましてくれた……キリナさんが俺を……」


『いや、絶対違うだろ』


 三人のツッコミは、鷹雄の耳には届かなかった。






 中間テストはどうしたとかツッコまないでください。めんどくさかったんです(オイコラ

 次はテスト編です。動き無いだろって思われる方もいらっしゃるかと思いますが、大丈夫、動きあります。

 テストで点数稼ごうとした馬鹿がやるカの付くあれが出てきますから。

 生徒会メンバーがやるんじゃありませんよ。ちなみに私も当然やったことありません。もししたら全教科零点になりますから。

 では次回!



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