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生徒会の女王様  作者: 沙伊
生徒会の日常
14/29

副会長のある一日





 日曜日の昼下がり。七月の序盤であるため日差しがやたらきつい学園都市中を、月陰空(ツキカゲ ソラ)星川海斗(ホシカワ カイト)は歩いていた。

 空の腕には茶色い紙袋が抱えられており、海斗に至っては両手が紙袋で塞がっている。

 休みであるため、二人共私服だった。

「随分買い込んじゃいましたね」

「だな」

 空と海斗は短いやりとりを交わす。

「しかし空。学食とかがあんだから、わざわざ自分で作らなくてもいいんじゃねぇのか?」

 海斗が言うと、空はいいえと首を振る。

「いつ独り立ちしなければならないか解りませんし……自炊ぐらいできなければ」

「はいはい。今度は何を作りてぇんだ?」

「和風パスタを……。熱いので冷製にしようと思ってます」

 無邪気に笑う空に、海斗は「頑張れよ」とエールを送る。

 そこでふと顔を上げ、足を止めた。

「どうかしましたか?」

 空に尋ねられ、海斗は顎で前方を指した。

 女子学生達に人気の、ファンシーな雰囲気のブティック店。そこから、二人の学生が出てきた。

 一人は可愛らしい笑顔をした、中学生ぐらいの少女。ショートカットの茶色い髪が、よく似合っている。そしてもう一人は。

「炎神君?」

 空の声に、片割れの少年は足を止め、振り返った。

「あ、空さん。それに星川先生も」

 こぼれた言葉は、少々間の抜けた感じだった。



「へえ。委員会の買い出しと、食材の調達に……」

 炎神は空と海斗の顔を見比べた。

 そんな彼の後ろでは、少女――佐々木優子(ササキ ユウコ)がにこにこと笑いながら立っている。

「そうなんです。炎神君は、どうしてこちらに?」

 空は首を傾げて尋ねた。

「優子ちゃんの買い物に付き合ってたんだ。買いたいアクセサリーがあるって。ね」

「うん」

 優子は笑顔のまま頷いた。

 その様子は、笑顔プラス二人の容姿のせいで実に微笑ましい。しかし海斗は、大人であるためかついつい二人のことを邪推してしまう。

「日曜日に女の子と出かけるたぁ、何だ? 付き合ってんのか、おまえら」

「海斗先生……」

 空がとがめるような声を出す。しかし炎神と優子の頬がピンクになったことで、目を丸くした。

「え……本当に付き合ってるの?」

「う、うぅん! 違うよ。ね、優子ちゃん!」

「う、うん。私達、そんな関係じゃありません!」

 二人は否定するが、焦り具合からして、何かしらの感情を互いに抱いているのは間違いないだろう。

「じゃ、じゃあ私帰るから! また明日ね、炎神君っ」

「う、うん。また明日!」

 慌ててその場を去る優子を、炎神は手を振って送った。

 彼女の姿が見えなくなると、くるりと振り返って海斗を睨む。

「変なこと言わないでくださいよ! 本当に俺達何も無いんですから」

「へいへい。そういうことにしとくよ」

「しとくっていうか、そうなんですって」

 炎神はふくれっ面になった。

「悪ぃって。アイスおごるからよ。空も、ほら」

「はい!」

 海斗の提案により、三人はアイス屋に直行することにした。


   ―――


「をっ?」

 雪彦は向かいから歩いてくる三人組に、思わず足を止めた。

「炎神に月陰、それに星川先生」

「あ、どうも、春樹先生」

 炎神がペコッと頭を下げた。

「どうしたんだ、三人で」

「たまたま買い物の時に会ったんだよ」

 答えたのは海斗だ。

「で、アイスおごるって話になったからこっちに来たんだ」

「あぁ……この辺り、菓子とかそういう店が多いですもんね」

 雪彦は納得した。

「あの、春樹先生は佐々木 優子さんをご存知ですか?」

 空が尋ねてきた。

「ん? あぁ」

「もしかして彼女、佐々木 治雄(ハルオ)図書委員長の妹さんでは?」

 空の質問に、雪彦はあっさり首肯する。

「あぁ。何だ、知らなかったのか」

「はい」

 空は細い顎を引いた。

「まぁ、想像つかないよな。あの神経質な図書委員長とにこにこな女子生徒が兄妹だなんてな」

「俺も初めて知った時、びっくりしましたからね」

 炎神も同意した。

「へぇぇ。あの可愛い娘とあの佐々木がねぇ」

 海斗も意外そうな顔をする。

 それほど似てない。佐々木 治雄と佐々木 優子の両名は。

「……っと。アイス買いに来たんだよな」

 海斗は思い出したように近くのアイス屋に歩み寄り、財布を取り出そうとした。


「おい、そこの先公よぉ」


 呼び止められた。

 ずらりと並んだ、十数名の不良らしき学生によって。

 一方、声をかけられた海斗はぐるりと辺りを見渡し、たっぷり一分かけてようやく「俺のことか?」と首を傾げた。

「気付くのおせーよ!」

「どんだけ時間かけてんだよ!」

「普通そこまでかかるか!?」

 さしもの不良達も、ツッコまざるをえなかった。

 実を言うと海斗は、相手の殺気には少々鈍いところがある。

 かといって、弱いわけではないのだが。

 むしろ強い部類に入ると思う。

「で、何の用だよ」

 海斗は面倒臭そうに不良達に尋ねた。

「正確にはそこの月陰姓の二人なんだけどよ」

 不良の一人が炎神と空の方を指差した。

「私達に用……ってことは」

「学園長がらみだね」

 月陰一族。

 彼らが墨原学園の発展に貢献し、今なお学園長として学園のために働き続けていることは、生徒達の間では周知の事実である。

 そしてその姓を持つ――つまり、学園長との関係を直接的に持つのは、二人だけだ。

 もっとも、姓を持たないだけで月陰家と関係を持つ者は何人もいたりするのだが。

「あの……つかぬことをうかがいますが」

 空がおずおずと尋ねた。

「もしかして、親のお金をみつげとか、学校の裏事情を教えろとか、そんなことを考えてるんですか?」

「おう。話が早くて助かる」

「……」

 炎神と空は顔を見合わせた。

 二人の顔は、あきれに彩られている。

(この二人は、前々から言われてたな、同じこと)

 雪彦は思う。

 この二人は、こういう輩に色々言われることが多い。

 生徒会の顧問だから、炎神に対する生徒達の対応はすぐ耳に入る。

 炎神がどういう目で見られているかを知れば、空がどういう目で見られているかも解る。

 正直それは、あまり楽観視できるようなものではない。

 しかし炎神と空は……それをものともしなかった。

 歯牙にもかけなかった、という方が正しいかもしれない。

「悪いんですけど、俺達そういう気は無いんですよ」

「そうです。そういうことに、あまり興味も無いし」

 炎神と空はあっさり断った。

 しかし不良達は諦めなかった。

 教師である雪彦と海斗をも気にせず、交渉を続ける。

「そう言わずにさぁ」

「悪い話じゃねぇよ?」

「なぁ」

 不良達は二人に歩み寄った。

 その内の一人が、なれなれしく空の肩に触れる。


 バシィィンッ


 それを炎神は、払いのけた。

「な、何をっ」

「空さんになれなれしく触らないでください」

 あくまで淡々と、炎神は不良達に言い放った。

 とたん、さっきまで友好的だった不良達の顔が歪んでいく。

「てめぇ……俺達に歯向かう気か!?」

「中等部生徒会の副会長だからなめんじゃねぇ!」

「チビのくせしてよぉっ」

 あっと雪彦が息を飲んだが、もう遅い。

 炎神はすでに、『チビ』と言った不良を殴り飛ばしていた。

 五メートルは吹っ飛ぶ不良。他の不良共は、あまりの驚きに口を開閉させて一声も上げなかった。

「誰がチビだって……? 言ってみろよ」

 返事無し。それも当然で、地面に転がった不良は白眼を剥いて気絶している。

(つうかあれ、生きてんのか?)

 雪彦がそう思ってしまいそうな状態の不良だった。

「貴方達もアイツと思ってるんですか? 思ってますよね。だって同類なんですから」

 炎神の手に炎が灯る。というか、灯るどころか空気が燃えてる気が……

「大丈夫ですよ、殺しはしません。でも、動けなくなることは覚悟しててくださいね」

 雪彦は止められないと悟った。

 炎神が、完全に黒モードに入ったからだ。

「二度とそんな口叩けないよう、焼き潰してくれるわ!」

 炎神が炎をまとって走り出す。

 その姿はまさに、鬼神の如し。

 その結果は……火を見るよりあきらかだった。



 呆然とその様子を見ていた雪彦の肩に、軽い負荷がかかった。

 そちらを見れば、微妙に青ざめた海斗の姿が。

「春樹先生よぉ」

「はい?」

「もしかしてあんたのとこで一番厄介なの、女王じゃなくてあいつじゃねぇの?」「……」

 否定できない雪彦だった。


 初夏の日が輝く空の下。

 身も凍るような不良達の悲鳴が響く。



 その様子を、遠くで見ていた者がいた。

「ふぅん。学園長の言った通り」

『彼女』は暴れ狂う炎神を見つめ、ほくそ笑んだ。

「使えそうね、あの坊や」






 主人公が一切出てこない……いいんでしょうか、これ(汗)

 とりあえず、炎神の一日でした。最後に出てきた女性は後々の伏線ですが、今は気にしなくていいです。

 空と海斗先生の能力は、まぁ後に明かすので(多分)、お楽しみに!

 では、感想などお待ちしております。



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