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生徒会の女王様  作者: 沙伊
生徒会の日常
13/29

生徒会長と風紀委員長、プールにて




 六月の終わり頃――つまり、梅雨の終わり頃。墨原学園にとってはプール開きの日である。

 もっとも、わざわざ梅雨の終盤を選ばなくともいいのだが。なにせ墨原学園のプールは、室内プールなのである。


「プールだと担任も参加しなくちゃならないってのがめんどくせーな」

 雪彦はため息をついた。普段のラフな格好ではなく、黒いボクサーパンツ型の水着に白のパーカを着ている。

 彼が立っているのはプールサイド。目の前のプールでは、生徒が自由に泳いでいた。

「くおらあぁぁぁぁぁぁ! ちゃんと指示通りに動けえぇぇぇぇ!!」

 隣で中高体育担当の教師であり、体育委員の顧問である樹沢洋一(ミキザワ ヨウイチ)が叫んだ。

 あまりの大音量に、雪彦の耳の中でびぃぃぃぃんという音が響く。

「ちょっと樹沢先生。声のトーンもうちょっと落してくださいな」

 そう言ったのは毒島だ。当たり前だが、彼女も水着である。胸元から覗く谷間がまぶしい。

 なぜ彼女がいるかというと、体育が二つのクラスでする合同授業だからである。

「しかしですな、毒島先生。生徒は全然教師の話を聞いていないんですよ」

 樹沢は顔をしかめた。

「プール開きでハイになってるんでしょう。やっぱまだまだ子供だ」

 雪彦はやれやれと首を横に振った。そんな彼の顔に、水がかけられる。

「ぶふっ。だ、誰だ! んな真似するのはっ」

 大体予想付くけどっ、と心の中で呟いて辺りを見渡せば、予想通りというか、なんというか。

「ぼうっとしてる春樹先生が悪い」

 プールの中からキリナがせせら笑った。

「おまえな~。餓鬼かよ! 十五にもなって水かけとかっ」

「まだ十四だも~ん。んでもって餓鬼だも~ん」

「屁理屈言うなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ふいっとそっぽを向くキリナに、雪彦は怒鳴り声を上げた。

「いいですね……春樹先生は」

 いつの間にか、陸が泳ぎ寄ってきた。端正な顔に、恨めしそうな表情が浮かんでいる。

「は……何言ってんだ、おまえ」

 今のところでうらやましがるとこあったか? 顔をしかめていると、陸は暑苦しい顔で叫んだ。


「キリナさんに無条件でいじめてもらえるじゃないですか!」


 ……そういやこいつはそういう奴だった。

 雪彦と樹沢は脱力し、毒島は口を押さえて肩を震わせた。

 精神科にでも行ってこい! と叫びたくなるが、嘆かわしい、これで正常なのである。

 何でこんな趣味に目覚めてしまったんだろう。本当に残念な男である。

「いいポジションですねー、まったぶほおぉ!」

 陸が水に押し流された。

 正確には、キリナの持つ小型スクリューが起こす波によってである。

 しかも陸以外にも複数の男子が押し流された。

「キ、キリナァァァ! だから無闇に『創造女王』の能力使うなぁっ。陸以外の奴も巻き込まれてるし!」

「ぷぅ」

「ほっぺふくらましても駄目だっての!」

 雪彦が全力でしかると、キリナは不承不承という感じでスクリューを消した。

 プールの波が止まる。中にいた生徒は全員目を回していた。

「……静かになったが、授業どころじゃなくなったな」

 樹沢の言葉に、雪彦と毒島は頷く。

「っの~、おい! 生徒会長!!」

 男子の一人が声を荒げてキリナを睨んだ。

「さっきから好き勝手やりやがって! 女王だか何だか知らねぇが、こっちは迷惑してんだよっ」

 どうも怒りで怖いもの知らずになったようである。

 他の男子も「そうだ、そうだ!」と盛り上げていた。全員同じことを思っていたらしい。

 その中に女子が参加しないのは、キリナ側に付いているからである。意外とキリナは、女子にあこがれの的にされているのだ。

「何よ男子! 黒鳥さんの水着姿に鼻の下伸びてたくせに!」

「ちょっと目ぇ回したぐらいで、女の子に寄ってたかって怒るなんてサイテー!」

 あげくに女子が言い返しを始める。プールに似つかわしくない殺気が漂い始めた。

「お、おいやべぇぞ、これ……」

「止めるべきなんだけど……どっちも味方しかねるわね」

 雪彦と毒島は顔を見合わせた。

「樹沢先生、何とかしてくれませんか」

「な、何とかって言われても……」

 樹沢が返答に困っているうちに、女子と男子の闘気が大きくなる。

 ここにいるのは、程度の違いこそあれ全員異能者だ。

『サード』はキリナと陸だけだが、『セカンド』は過半数を占めている。

 このままだと、プールが半壊しかねない。

「大体何だよ、女王って! 何様のつもりだよっ」

 男子の一人が叫んだ。

「そもそも女子が生徒会長って間違ってるよな。普段エラそーだけど、どうせ大したことねぇんだろ」

「そうそう! 『サード』だからってエラいって勘違いすんじゃねーよ!」

 雪彦はマズい、と思った。

 こんなことを言われて、キリナがキレないはずが無い。

 雪彦は慌てて止めようとして――キリナがプールから出でいるのに気付いた。

「……」

「何?」

「いや……珍しく怒らないなと思って」

「ボクの代わりに怒る奴がいるからね」

 キリナはふあぁ、とあくびを漏らした。

「代わりに怒る奴って……あぁ、陸か」

 雪彦は納得する。

 ……そういえばあいつはどうしたんだろう。

 雪彦はプール内を見渡した。

「あ、いた」

 雪彦の目がプールの中心で止まる。

 陸は、一番危ない男子と女子が向かい合ってる間にいた。

「おい、陸! おまえ俺らの味方しろよっ」

 男子は阿呆にも、陸を味方に付けようとした。

 普通なら、キリナを罵る側になど行くわけがないと解るのに。

 雪彦は救いようがなくなって額を押さえた。

「……君達、キリナさんに対してなんという口の聞き方してるんですか」

 陸がドスの聞いた声を出した。男子達は凍り付く。

「キリナさんを馬鹿にするなど……百億年早いんですよ!」

 陸は右手を上げた。その手の平から、何匹もの蝶が飛び出していく。

 紫色の羽をした蝶だ。模様は無く、一匹一匹が拳ほどの大きさだった。

「あーあ……『サード』発動させやがった」

 雪彦は今度は両目を押さえた。

「あれ……どういう能力だ?」

「階堂 陸の能力名は『幻影の中の蝶(ミラージュ・バタフライ)』と言って」

 樹沢の言葉に、キリナが答えた。

「その名のように幻覚を見せる。彼が出したあの蝶を見たもの全てにね」

 キリナは水泳帽を脱いでニヤッと笑った。

「馬鹿だねー、アイツら。彼を怒らせるなんて。アイツドMだけど、性格はえげつないよ♪」

 言ってる間に、男子達の周りに変化が起きた。

 いつの間にか、彼らの周りに無数の蜂がたかっていたのだ。

 しかも、蜜蜂などの小さな蜂ではない。

 大きさからしておそらく、雀蜂かその辺りだ。

 つまりその攻撃は……とんでもなく痛い。

「え、え、マジ……?」

「ちょ、陸?」

 男子達は青ざめて後ずさるが、もう遅い。

「どこまでも深く反省しなさい!」

 陸がそう言ったとたん、蜂達は男子達に襲いかかった。


『ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 男子達の絶叫が、室内プールに響き渡った。


   ―――


「すみませんでした」


 制服に着替えた陸は土下座した。

 陸の能力の餌食になった男子達は、医務室に行っている。

 所詮は幻覚。肉体的な怪我は無いのだが、精神的なショックは大きい。

 土下座したまま動かない陸を、雪彦は顔をしかめて見下ろしていた。

「うん、土下座までしなくてもいいぞ。反省してるならそれでいいから。……つーかよ」

 雪彦はキリナを指差した。

「おまえ何で階堂の背中踏んでんだよ!」

 土下座した陸。その背に、キリナは当然のように右足を乗せていた。

「えーと……お仕置き?」

「満面の笑みで言うなあぁぁぁぁぁ!」

「いいんです、春樹先生!」

 キリナに踏みつけられながら、陸は顔を上げた。頬になぜか朱が差している。

「僕はキリナさんにこうされるのが……最上の喜びなんです!!」

「精神科行け!」

 即座にそう返し、雪彦はキリナの頭を軽く小突く。

「ほら、どいてやれ」

「どかなきゃ駄目なの?」

「当たり前だ!」

「……はぁい」

 キリナは意外と素直に足をどけた。

 何か条件をふっかけられるかと思っていた雪彦は、とりあえずほっと安堵する。

 しかしすぐさま表情を引き締めて口を開いた。

「ったく。大体こいつが謝ってんのは、おまえのせいなんだぞ!」

「ボク知らなぁい♪」

「おまっ、殴るぞ!」

「やれるもんならやってみな~」

 雪彦の怒鳴り声を、キリナはぬらりくらりとすりぬけた。

 雪彦は無駄かと思いつつも、キリナに説教する。

 キリナがうんざりした表情を浮かべつつも、その瞳はじっと雪彦の顔を見つめているのに気付いたのは……端から見ていた陸だけだであった。






 プール開きでした。

 キリナがスクリュー使ったのは、右往左往するクラスメイトを見たかったからです。我ながらドSな理由考えちゃったな……

 沙伊はプールは小学校以来入ってないです。だから中学や高校のプールでは何をするか解らないんですが……大丈夫ですよね。今回授業風景出てないし(多分)

 変なとこがあったら感想で教えてください。


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