EP1
「撃て撃て撃て!!」
ジョール曹長が声の限りそう命じる。
ようやく路地の行き止まりへと追い詰めた。
弾幕を張ればそう易々と転移はできまい。
ウーシアの運用はいずれ限界を迎えるだろう。
「ぐ、、がぁ、、、、、、、軍になんて、、、入らない、、、、絶対に!!」
男が呻く。
銃弾は確かに彼の方へと飛んでいるのに傷一つない。
___ウーシア適合者。
連邦政府がヴィンセンラードという1人の男によって統一され、レガロ帝国となった翌年。
『夜明けの青』と呼ばれる革新の力が発見された。
まさに示し合わせたとしか思えないタイミングで、帝国の基盤を盤石なものにした。
「_____消えた」
1人の兵士が呆気に取られて放心する。
「馬鹿が!上だ!」
先ほどまで銃弾を浴びせられていた男が、次の瞬間には空高くにいる。
まるで鳥のように、だが、それは飛んだ訳ではない。
転移だ。
ウーシアと名付けられたその力は、視認した空間を自由に、かつ瞬間的に移動することができる。
超人的な、そして驚くべき人間の可能性。
隊の者たちが皆、銃口を空に向ける。
「駄目だ!それでは、、、、」
まるであざ笑うかのように、銃声が鳴るとともにまたその男の姿が消える。
そして、
「____私は、軍には入らないっ!!!」
空を仰ぎ見ていた兵士、その正面に奴はいた。
そしてがら空きになった顔面を思い切り殴る。
だが、普段から鍛えている軍人と民間市民ではその殴打は決定的とならない。
それでも、男は吠える。
「私は誰も殺したくないんだ!六年前のアラン帝国との戦争で何人死んだ!?こちらにはウーシアがあると言って、それを信じた軍人が何人、新海の底に沈んだ!?私の弟も、帝国に、、、皇帝に騙されて死んだんだ!!」
その言葉に、部下たちがいきり立つ。
皇帝への不敬。
それは軍人にとって、最も許しがたい行為だ。
「____お前っ!!」
誰かがそう叫んだとき、
「親父、、、、?おい、、、いったいこれ、、、なんなんだよ、、、」
少年の声に、ジョール曹長も他の兵士も振り向く。
「ユーネ!逃げろ!」
路地に追い詰めた男が、兵士たちの群れを超えて、その少年の元に転移する。
これまで、男は他の人間に銃弾が逸れるのを恐れ、通り側への転移は行っていなかった。
「ま、待て!撃つな!」
ジョール曹長の声は遅く、人知を超えた転移の恐ろしさに鋭敏になっていた兵士たちは、突然目の前に現れた男に向かって銃を放ってしまった。
「________________がぁっ!」
これまで銃弾をウーシアの力で転移させていた男。
だが、少年をかばう様に立った彼の体から、血が流れ落ちる。
銃弾の一部が、転移の網を搔い潜って命中した。
「、、、親父?なんだよこれ、、、お前ら、なんでだよ、、、親父が何したっていうんだよ!!」
幼い、十二、三と思われる少年が、蹲る父の背中を抱くようにして咆哮する。
まだ体も小さく、父の体を支えるには足りない。
どさりと、少年の前で男は横倒れになる。
「おい、親父!親父!!」
「____ユーネ、、、ユーネ、、、大丈夫だ、大丈夫。お前は、、、生きたいように生きろ、、、誰のためでもなく、、、自分の、自分の心に聞いて。探すことを、諦めずに生きろ。自分を探すことを、やめるな」
男の声は、徐々にか細く、そして静寂が彼の口を閉ざした。
少年は、しかし、泣かなかった。
ただひたすら、こちらを、向けられた銃口の先を見るように、ずっと睨んでいた。