11.
テオドア様は一歩、また一歩と通路の入り口に近づいていく。剣の柄を握る手には力がこもり、わずかに白くなっているのが見えた。
そして、通路の奥から、ゆっくりと何かが姿を現した。
それは、人間ではなかった。 けれど、人のような縦長の形をした黒い影のようなものが、ゆらゆらと揺れている。
目のような赤い光が二つ、闇の中で不気味に瞬いている。まるで霧が形を成したような、定まらない輪郭。その存在自体が、この地下室の空気を一瞬で重くした。
その影は近寄ってくるではないのに、私に何かを伝えようとしている気がした。
「ハル様、そこから動かないで」
テオドア様の声は、まるで刃のように鋭かった。
私は息を止めた。手に持った本が、なぜか急に熱を帯び始めた気がした。
二つの赤い光から目が離せない。
チカチカと瞬く赤。
私は魅入られるように、その光から目が離せない。
自分が呼吸しているのかも分からない。
深海に囚われたように、頭にモヤがかかって、夢の中にいるようなフワフワとした感覚になる。
次の瞬間。
身体に衝撃が走り、身体がぐらりと傾く。
地震のように大きな得体の知れない衝撃。
瞬きをする暇もなく、私は意識は闇に落ちる。
その刹那、確かに何かが聞こえた。声だった。
遠く、微かに響くその声は、テオドア様のものなのか、それとも別の何かなのか。
判別する間もなく、私は完全に意識を手放した。