第9話 聖女の決意と差し出す体、そして剣さんの覚悟の輝き
~今日のでたらめは「覚悟の肌触り」?~
翌朝、俺たちは新たな街を目指し、
再び旅路についた。
リリアーナは、昨夜の俺との会話の後、
どこか吹っ切れたような表情を見せていた。
まだ顔を赤くすることは多いが、
その瞳の奥には、
以前よりも強い光が宿っている。
心拍数は安定し、羞恥値も穏やかだ。
俺への信頼が、確実に深まっているのがわかる。
聖女の心に、俺の存在が確かに刻まれている。
しかし、魔族の脅威は、
俺たちの旅路に容赦なく立ちはだかった。
これまで以上に強力な魔物の群れが、
街道を塞ぐように現れたんだ。
その数も、その禍々しいオーラも、
尋常ではなかった。
地平線が見えないほどの魔物が、
唸り声を上げながら迫ってくる。
明らかに、これまでの雑魚とは違う。
まるで、俺たちの力を試すかのように、
待ち構えていたかのような配置だ。
魔族の幹部クラスが、
裏で糸を引いているような気配さえ感じる。
「っ……これは……!
これまでとは、規模が違いますわ……!」
リリアーナの声が、かすかに震えた。
その顔には、再び焦りの色が浮かぶ。
白い肌に、冷や汗が滲んでいるのがわかる。
彼女はすぐに聖なる力を最大限に引き出そうとするが、
魔物の数が多すぎた。
次々と放たれる聖なる光が、
魔物を薙ぎ払うが、
その速度を上回る勢いで、
新たな魔物が湧き出てくる。
彼女の魔力が、目に見えて消耗していく。
光の魔法陣が、
微かに揺らぎ、その輝きが弱まるのがわかる。
俺はリリアーナの隣に立つ。
彼女の肩に、そっと手を置いた。
その体温が、俺の手に伝わる。
「大丈夫だ、聖女様。
俺がいるだろ?
お前は一人じゃない。
いつだって俺が隣にいる。
この手は、お前を守るためにあるんだ」
俺は力強く、彼女の背中を支えるように言った。
その言葉に、リリアーナの体が
ピクッと反応したのがわかった。
彼女の瞳が、僅かに俺を見る。
「で、ですが……わたくしの力が、
これでは……っ」
リリアーナは、唇を噛み締め、
悔しそうに俯いた。
その瞳には、聖女としての誇りと、
現在の力の限界に対する、
深い絶望の色が宿っていた。
彼女は、まるで自分の無力さを
嘆いているかのように見えた。
その表情は、今にも泣き出しそうだった。
俺は彼女の肩に置いた手に、
少しだけ力を込める。
「聖女様、この戦いで、全てを出し切るんだ。
迷いは捨てるんだ。
お前は、この世界を救う聖女だろ?
最高の聖女として、
全てを俺に預けてみろ」
俺は、まっすぐ彼女の瞳を見つめた。
その目には、迷いを断ち切り、
究極の覚悟を促す、
強い意志を込めた。
俺の声には、迷いは一切ない。
ただひたすらに、彼女を信じ、
導こうとする、俺の魂が込められていた。
リリアーナの瞳が、俺の言葉を受けて、
大きく見開かれる。
その奥で、何かが決壊するような、
そんな激しい感情の波が生まれた。
その顔には、羞恥と葛藤、
そして究極の覚悟が混じり合う。
心拍数は暴走、羞恥値は赤色。
だが、その羞恥を乗り越えるかのように、
彼女の瞳には、かつてないほどの
強い光が宿っていくのが見えた。
それは、彼女の聖女としての使命と、
俺への信頼が、一つになった輝きだった。
彼女は、ふぅ、と長い息を吐いた。
その吐息は、彼女が全ての迷いを捨てた証拠だ。
そして、震える声で、しかしはっきりと、
その覚悟を口にした。
「……お願い、私に触れて……」
その言葉が、俺の耳に届いた瞬間、
世界が、スローモーションになった。
リリアーナが、自ら俺に体を差し出したのだ。
これまでの彼女からは想像もできない言葉だ。
彼女は、聖女としての矜持、
全ての羞恥心を乗り越え、
俺のデタラメ理論を受け入れたのだ。
その声には、一切の迷いがなく、
ただひたすらに、俺を信じる心が込められていた。
彼女の体は、まだ小刻みに震えている。
だが、それはもう、恐怖から来る震えではない。
全てを俺に委ねる、純粋な覚悟の震えだ。
その瞳には、強い光が宿っていた。
それは、迷いを捨て、
全てを俺に委ねるという、
清らかで、そして熱い、究極の覚悟の輝きだった。
心拍数は平時の3倍を突破、羞恥値は限界突破。
しかし、その数字の奥には、
俺への揺るぎない信頼と、
世界を救うという聖女としての使命感が、
確かに存在していた。
その覚悟が、俺の心を熱くする。
「聖女様……」
俺は、その覚悟を真正面から受け止めた。
これまでの悪ふざけは、
この瞬間のための布石だった。
俺は彼女の、その震える体を、
そっと引き寄せた。
「ああ、分かった。
お前の覚悟、確かに受け取った。
俺が、その全てを力に変えてやる」
俺はそう言うと、彼女の腰に手を回した。
薄いローブ越しにも、
彼女の肌の温もりと、
柔らかな曲線が伝わってくる。
その密着感が、俺の魔力をさらに高めていく。
その瞬間、剣さんも聖女の決意に呼応するように、
これまで以上に力強く輝きを放ち始めた。
その光は、俺とリリアーナを包み込むように広がり、
そして、鋭く、周囲の魔物を威圧する。
剣さんの光は、まるで怒り、
魔物を薙ぎ払うかのように、空気を震わせた。
その光は、リリアーナの覚悟を祝福し、
俺の力を最大に引き出す。
剣さんの輝きが、俺たちの周りを、
守護するように旋回している。
「お前たちの心臓の鼓動が、俺の魔力のリズム──
さあ、その鼓動を俺に預けろ!!」
俺は高らかに叫んだ。
リリアーナの震える体温が、
俺の体へと伝わってくる。
彼女の鼓動が、俺の心臓とシンクロする。
俺のデタラメ理論は、
この聖女の覚悟によって、
さらに高みへと昇華される。
これが、運命のデタラメ理論だ!
俺の身体から、再び光の剣が生成される。
だが、その光は、これまでの比ではない。
リリアーナの覚悟の「肌触り」が、
俺の魔力を臨界点へと押し上げたのだ。
それは、世界を断ち切るほどの輝きだった。
無数の光の剣が、まるで雨のように空から降り注ぎ、
迫りくる魔物の群れを、瞬く間に焼き払っていく。
魔物の悲鳴が、夜の闇に吸い込まれるように消えていった。
地面が揺れ、空気が焦げ付く匂いがする。
リリアーナは、俺の腕の中で、
目を閉じ、深く息を吐いていた。
その表情は、達成感と、
そしてわずかな羞恥に染まっていた。
彼女の体は、まだ微かに震えている。
だが、それはもう、恐怖や不安から来る震えではない。
全てを出し切った後の、
心地よい震えなのだろう。
俺の腕の中で、彼女の小さな体が
安堵に身を委ねているのがわかる。
俺は彼女の髪をそっと撫でる。
その柔らかな髪が、指の間をすり抜ける。
「よくやったな、聖女様。
お前は本当に、最高の聖女だ」
リリアーナは、ゆっくりと目を開け、
俺を見上げた。
その瞳には、今まで見たことのない、
清らかで、そして熱い光が宿っていた。
俺への絶対的な信頼と、
そして、秘めたる恋心が、
その光の中に見て取れた。
その視線に、俺の心臓も熱くなる。
魔物の死骸が広がる荒野に、
俺とリリアーナ、そして剣さんの光だけが残っていた。
剣さんは、俺たちの周りをゆらゆらと旋回し、
まるで満足げに輝いている。
聖女の決意は、世界の光となり、
俺の力をさらなる次元へと押し上げたのだ。
俺たちは、確かに世界を救う一歩を踏み出した。
そして、二人の絆は、
誰にも解けないほどに深まった。