2-5 不自然な誕生日
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
翌土曜日。
学校が終わり、ひむかはひいかと一緒に、徒歩5分のところにある東子と朝子の家に向かおうとするが……。
「まだだいぶ時間早いよね。 ちょっと寄り道してく?」 ひむかが提案する。
「うん、いいよ。 で、どこに寄るの?」
「今読んでる小説、もうすぐ読み終えそうなんだーー。 本屋さんに……でも、ひいちゃん、退屈しちゃうかな……」 自分の好きな事に、ひいかを付き合わせるのも……と思い、他の場所を考えようと、ひむかが思案を巡らせていると、 「ううん、いいよーー。 ひむちゃんに付き合う!」 と、ひいかが明るく返してくれる。
「ホントにいいの?! ありがとう、ひいちゃん」
本屋は学校から東に10分ほど歩いたところにあるから、東子と朝子の家とは違う方角になるけど、1時間以上時間を潰すのには格好の場所だろう。
「ひむちゃん、朝待ち合わせてるガゼボで、冒険ものの小説を読んで、ひいかを待っててくれてるんだよね。 そのお話、面白いのかな?」
「うん! 勇者さま御一行が、悪者の親玉を倒して、平和が訪れました~~、って喜んでたら、もっと上の親玉が出てきて、世界がまた闇に包まれちゃった……ってところ。 おめでとう! って思ってたのに、ぬか喜びしちゃったよ」 と、ひいかに読書の進行状況を語るひむか。
「へぇ~~、冒険、まだまだ続くんだね~~。 勇者さま御一行も苦労が絶えないんだねぇ~~」 ひいかは、小説の中で悪戦苦闘する彼らに同情するようにつぶやく。
ひむかが買った続編の表紙には、西洋風のお城を見上げて颯爽と立つ4人の姿が、ローアングルで描かれているのだった。
東子と朝子の家に二人が着くと、彼女たちの母親らしき女性に出迎えられる。
「今日は娘たちの誕生日会に来てくれて、ありがとうね。 大したおもてなしは出来ないかもしれないけど、どうぞ、楽しんでいってね」
「はい! こちらこそ、お招きいただいて嬉しいです! どうぞ、よろしくお願いします!!」 深々と腰を折って挨拶するひむか……ひいかもそれに倣う。
会場となるリビングには、既に制服姿のクラスメイトたちがみんな集まっていた。
「あっ! ひむかちゃんに、ひいかちゃん! 来てくれてありがとう!! 席は決まってないから、好きなとこ、選んでね」 東子が目ざとく二人を見付けて声をかける。
(立食だったら、席順、あってないようなもんだね) ひむかは、取り敢えず空いている場所に向かうと、祐子と浩史と相席になる。
「それでは、娘たちの誕生日会を始めます。 私は母親の真唯です。 では、娘たちから開会の挨拶を……」 指名され、前に歩み出る、制服姿の東子と朝子。
「今日はクラスメイトみんなに祝ってもらえて、妹共々、すごく幸せです。 どうか、楽しんでいってください。 私たちが一生懸命考えたプレゼントも用意してるので、楽しみにしてください。 じゃぁ、グラスを手に持って、乾杯しましょう」 東子の立派なスピーチのあと、グラスが一斉に掲げられる。
「かんぱーーーーーーい!!」 「「かんぱーーーーーーい!!」」 チーン、チーンとグラスを重ね合う音がリビング中にこだまする。
宴もたけなわ。
ひむかのところに、双子の二人が回ってくる。
「ひむかちゃん、どう? お母さんお手製のショートケーキ、イケてるかな?」 東子が首を軽くかしげながら尋ねる。
「うん! すごく美味しい!! きっと腕前はプロだよ、東子ちゃんと朝子ちゃんのお母さん」 ひむかは、ほっぺが落ちそう、っていうアクションをとりつつ、テンションが上がっている。
「良かったぁ~~。 それ聞いたらお母さん、絶対喜ぶよ~~。 でもでも、この後にデザートもあるからね。 ちょっとお腹空けといてね」 東子がひむかと話す横で、朝子がニコニコしている。
「大丈夫、デザートは別腹だから~~」 そんなひむかの女子満開な発言に、 「そっかぁ~~、そうだよね~~」 東子は大笑いし、その様子を横から見てた朝子もニコニコしている。
「ところで……」 急に東子が声のトーンを下げて切り出す。
「えっ?! 何、東子ちゃん」 急に低い声に変えて話しかけてきたことに、びっくりするひむか。
「折角の機会だし、みんなの誕生日を聞いて回ってるんだけど……ひむかちゃんは何日なの?」
「私? 5月31日だよ。 早い方だよね、きっと」 ひむかはあっけらかんと答えたつもりだけど、東子も朝子もそれを聞いて……驚いた表情のまま固まっている。
「えっ?! 私の誕生日、そんなにおかしい、かな??」
「……あっ! ごめんごめん。 最後に聞いたのがひむかちゃんだったんだけど、ちょっとびっくりしたことがあって……後で発表するよ」 そう言い残し、二人は別のテーブルに移っていく。
「えっ? えっ??」 ひむかは疑問符一杯の表情で、二人の後ろ姿を見送った。
デザートを食べ終え、場の雰囲気が落ち着いた頃合いで、東子と朝子が閉会の挨拶を始める。
「今日は私たちにとって、最高の想い出になりました。 祝ってくれて、ありがとう。 これからも仲良くしてくれると嬉しいな」 東子がそう言い終わると、深々と二人揃って頭を下げる。
「ところで、最後に……さっき、私たち、みなさんの誕生日を聞いて回ったんだけど、凄く不自然なことに気付いたの。 ここでみんなの誕生日、発表してもいいかな?」
誰一人、反対するものはいなかった……と言うよりも、一体どんな不自然なことがあったんだろう、と興味津々に聞き耳を立てている。
きゆりちゃん:4月28日
浩史君:4月23日
俊明君:4月2日
智子ちゃん:5月5日
紀洋君:5月14日
ひいかちゃん:5月27日
ひむかちゃん:5月31日
美樹ちゃん:4月3日
美代子ちゃん:5月3日
祐子ちゃん:5月24日
東子と朝子:4月21日
「「えっ?!」」 方々から驚きの声があがる。
「12ヶ月にまんべんなくバラけるのが自然なはずなのに……こんなに集まることって、あるのかな?」 東子が考えて当然な疑問をぶつける。
(私、誕生日、早い方だって勝手に思ってたけど、まさかの一番最後?! だって5月生まれだよ? あり得ないよ……) ひむかは、背中にゾッとするものを感じる。
「あっ、あっ、ごめんなさい! 楽しいパーティーの最後に変な話、してしまって……まさか、こんな結果が出るなんて思わずに、何気なく尋ねてたから……」
東子と朝子の家を後にするクラスメイトたちは、プレゼントを抱えつつ、一様にキツネにつままれたような顔になっていた。
物語の根幹にかかわる事柄を一つ提示しました。
物語後半でこの事柄を思い出してもらえるよう、インパクトを残すことが出来たかな。