2-3 名前で呼び合う街
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
翌日。 授業は1コマ50分、授業と授業の間は10分ある。
(中学の時より5分長くなっただけなのになぁ……) 授業が凄く長くなったように感じるひむか。
英語の授業を受ける準備をしていると、 「ひむか、今更こんなこと言うの、変かもしれんけど…」 と、隣の席の、委員長になった俊明が声をかけてくる。
「えっ? どうしたの? 俊明君」
「さすがに高校生になっても女子を名前で呼ぶの、こっ恥ずかしい気がしてな。 女子は男子を名前で呼ぶの、抵抗とかないんか?」
「今更だなぁ……それは、たしかに……」 ひむかは少しうつむき加減になり、 「全く恥ずかしくないわけはないよ。 でも、小さい頃から、ずっとそうしてきたもん。 名前で呼んだり呼ばれたりするのが普通になってるから、特に意識はしないよ」 と答えながら、遠慮がちに俊明の顔を見た上で、 「これって、ずっと昔にこの街が決めた事だってお母さんから聞いたよ。 お母さんが子供の頃もそうだったらしいし、大人になっても名前で呼び合ってるよ。 逆に、みんなの苗字、私、知らないもん」 と、俊明に事実を確認するように語り掛ける。
この街には数十年前から、日常生活では苗字を使わず、名前でやり取りする風習があり、それが浸透している。
名前で呼び合うことによって、相手の個性を尊重する思いが生まれ、コミュニケーション障害がぐっと減って、犯罪やいじめなどの暗い話題が激減したんだそう。
苗字は結婚などの特別な場面でしか、相手に教えないのが習わしになっている。
「それは知ってるけど……やっぱ、こっ恥ずかしいな」 俊明はちょっと照れたような表情でつぶやく……彼にこういう感情が生まれている時点で、相手を貶めるような気持ちは起こらなそうだ。
昼休憩は、持参した弁当を教室で食べる派と、学食に行って食べる派に分かれる。
ひむかは教室派だけど、見渡すと女子9人だけがそのままそっくり教室に残っていて、ちょっとした女子高気分になる。
「男子ってさぁ、学食とか好きなのかなぁ。 それともここ、女子率高いから、肩身が狭くて残りにくいのかなぁ」 隣でお弁当をパクパク食べているひいかが、ひむかに声をかけてくる。
「さぁ~~。 女子には分からないよね~~。 もしかしたら、中学の時は学食なんてなかったから、新しいものに飛びつくことがカッコいい! なんて思ってたりするのかな?」 ひむかは首をかしげながらそう答え、卵焼きを口に頬張る。
「お腹がペコペコなだけだろう。 学食だったらがっつり食べられるから、じゃないの?」 それを聞いていたベリーショートの女の子がツッコんで、笑いが起こる。
ちなみに、早弁は校則で禁止されている。
下校時、ひむかから一番遠い、反対側の一番端の席に座っている女の子に声をかける。
「祐子ちゃ~~ん! いつものお店、行こうよ~~」
「ひむかちゃん! うん! 今日はこの後予定が無いから、一緒に行こ~~」 祐子は右腕を突き上げるようにして、ひむかと意気投合する。
いつものお店は、高校の正門からだと、南西方向に5分ほど歩いたところにある。
小さな店構えだけど、文房具店の看板を掲げられており、彼女たちは今までも良く利用していたのだけど、お目当ては勉強道具ではない。
「わぁ~~、可愛い! ねぇねぇ、祐子ちゃん、これ見て~~」 テンションの上がったひむかの声が聞こえてきたので、祐子はその側に駆け寄る。
根付やストラップがずらりと並んだコーナーで、食い入るようにある一点を見つめているひむかを見た祐子は、「可愛い、可愛い! ひむかちゃん、またウサギアイテム、増えちゃうよ?」 と、ひむかのテンションに合わせて喜びを分かち合う。
「うん! 高校入学記念だよ! これもリュックにぶらさげるんだ~~」 とひむかは大喜びする。
「ひむかちゃんの周りに一体何匹ウサギがいるのか、気になるよ。 私が知ってるだけでも、ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……」 と、指を折りながら、半分あきれ顔でほほえむ祐子。
結局、ひむかはそのウサギの根付を、祐子はチェーンの付いた黄色いくまのぬいぐるみを買う。
祐子は無類の黄色いくま好きなのだ。
今回はセリフを使って、この世界の設定を説明する練習をしました。
地の文で表現するより表現力が必要だなと感じました。