5-14 ラスボスⅣ
いよいよ最終エピソードです
最後まで読んで下さった読者の方々には、感謝の気持ちでいっぱいです
沢山の時間を私の小説を読むのに割いていただいて、有難うございました!!
[目の色が変わりましたね、日向。 貴女を支え、背中を押してくれた人たち……皆さんに心から感謝します。 貴女は先ほど、人間が知恵という能力を生かして種族の繫栄を目指す事を、自然の摂理に叶っていると言いました。 因果律を操作するのは、この私の能力というべきもの。 その同じ口で、それを生かす事を否定するのですか?]
((そんなの、屁理屈だ!! 貴女の持つその能力は、繁栄を目指してるもんじゃない。 確かに人間は驕り高ぶり、地球に共生する他の生きとし生けるものの存在を蔑ろにしてきた一面は否定できないよ。 でも、だからと言って、殲滅してしまおうっていうのは……それって、熊は人間に害を及ぼす虞があるから、予防的に殲滅してしまおう、って言うのと差が無いんじゃないの? 貴女の驕り高ぶりでしょ、それ))
[うふふ、驕り高ぶり、ですか……人間を殲滅する事、それは思念体の総意なのです。 自然界の繁栄のために、私は尽くしているのです。 話を進めましょう。 その呪詛によって全ての人間が消え去った地域を、順々に現世からこの五次元の世界へと切り離し、聖域化していきました。 ここは人間には認知できない場所……現世から切り離されたもの自体はもちろんの事、記憶や記録も含めた、それに関連するあらゆるものが、元から存在しないものとなるよう、因果律が書き換えられるのです]
((それで、そうやって現世から切り離された長森島は……))
[そうです。 月宮神社の本来の主祭神は長森島だったのです。 それがこの世界へと切り離された後、島が存在していた場所は海に置き換えられて大渦が出来、月宮神社の主祭神は天之御中主神という神様に入れ替えられ、関連する記憶や記録は抹消されたのです]
((なるほど、それで日向が図書室で月宮神社に関する本を借りた時、意味不明の空白があった、って事ね。 そこには本来の主祭神……長森島の事が書かれていたから、きっと))
[その通りです。 そうやって、人間の消え去った地域を聖域化する事によって、この五次元の世界で、地球を本来の自然界のあるべき姿に段階的に再構築しようとしているのです]
((長森島が現世から跡形もなく消え去った理由が、今の説明でよく分かったよ。 で、同じくこの世界に身を置く事になった貴女も、それと同じ原理で……))
[はい。 私自身も例に漏れず、です。 私に関連する記憶や記録が現世から抹消されました。 輪廻を繰り返した貴女なら、色々と思い当たる点が浮かぶはずです]
((ええ……父から忘れられ、娘の成長を側で見守っていく親の喜びを捨て、自分の足跡が世界から跡形もなく消える事を覚悟してまで……何という茨の道を選んだの、貴女……いや、お母様は))
[日向……私の事、お母様と呼んでくれるのですね……]
((ええ……ここまで貴女と話してみて、確かに、無名神と化して犯してきた行為の数々は、自然の摂理からみても大罪で、到底許されるものじゃないと思う。 けど、無名神になる前の、生前の話を聴いてると、例の不幸な出来事さえ無かったら、立派な志を持ち続けながら神職を全うする、気高い心の持ち主だったはず、って思ったの。 ところで、一つお母様に訊きたいんだけど……))
[私に訊きたい事?]
((そもそも、因果律を操作するほどの力を持ってるんだったら、夫……私のお父様が事故に遭わないようにも出来たんじゃないの?))
[冷静に考えれば、その通りでしょうね。 しかしあの頃は、そんな安定した精神状態ではなかった……それほど、亡き夫の姿は無残だったのです。 そして、今の私にはそれが出来ないのです。 私を取り巻く思念体が絶対に許さないでしょう]
((思念体が許さない、か。 貴女を取り込む機会を失い、自分たちの存在自体が危ぶまれるから……。 お母様、私に一つ、考えがあるんだけど……今から私がする事を、そこでずっと観ててほしいの。 何があっても、止めようとせずに。 お願い!!))
[……分かりました、日向。 約束しましょう]
初代の日向は、現世の日向の前に歩み寄る。
((日向、今貴方が身に付けてる衣装を、ここに来る時に着ていた衣装に着替えてほしいの。 いいかな?))
無名神に発言を封じられたままの現世の日向は、無言で頷くと、言われた通りに着替える。
((ありがとう、日向。 ではお母様、衣装を借りるね))
初代の日向は着替えていく。 その手際の良さは、先程の現世の日向のそれとは比較にならないほどで、仕上がりも完璧である。
そして、神籬の前に立ち、完璧な所作で二拝二拍手し、 ((祓え給い 清め給え 神ながら守り給い 幸え給え)) と唱えて一拝すると、 ((高天原に神留り坐す 皇親神漏岐 神漏美の命以ちて 八百萬神等を 神集へに集え賜ひ 神議りに議り賜ひて 我が皇御孫命は 豊葦原水穂國を 安國と平けく知ろし食せと 事依さし奉りき……)) と、そらで大祓詞を奏上し始める。
[あ、ああ……う、うぅ……] 無名神は苦しそうに唸りながら、頭を抱えてしゃがみこむ。
奏上し終えると、初代の日向は続いて台の上に置かれている檜扇を手に取り、浦安舞を舞い始める。
その動きには全く無駄がなく、流れるようであり、メリハリもしっかり利いている。
((お母様……)) 舞い終わった初代の日向は、うずくまっている無名神の側に歩み寄り、語り掛ける。
((今、人類の溜め込んできた穢れを祓い清めるよう願いながら、奏上させていただいたよ。 所作は貴女には遠く及ばないかもだけど……。 貴女を取り巻く思念体って、人類の穢れのようなものじゃないのかな、って思って……。 苦しかったかな……。 でも、よく耐えて見守ってくれたね……もう少しだから))
そう言うと姿勢を正し、 ((無名神よ、子供を愛し、慈しむ神よ、貴女の本来の姿を現したまえ))
と、ゆっくりと力強く唱える。
[え、えっ……う、うぅ……] 無名神は何らかの反応にもがいてるように見える。
((お母様、今、言葉によって、貴女の神性を規定したよ。 貴女の話では、人間に認知されたら、神性が制限される、って事だったよね。 これでもう貴女は思念体の呪縛を離れ、地母神の一柱として私に認知された……んじゃないかな、って))
[日向、貴女って子は……私の想定以上に成長したのですね……ありがとう。 でも、その影響で、私の力が及ばなくなり、本来の神々の大いなる意思によって、世界が組み替えられるでしょう。 私という存在もどうなるか……その行く末は分かりません。 それに全てを委ねるしかないのです]
((はい。 それは覚悟の上よ、お母様。 私はお母様の期待に応えられた、かな?))
[ええ。 それはもう、立派に。 私を救ってくれて、ありがとう。 組み替えられた世界線では、貴女の本当の母親でいたい……それはもう、叶わない夢かもしれないけれど……]
((私も……貴女の娘になって、その愛を一身に受けたい……))
初代の日向は無名神に寄り添う。
その側に、前代の日向と、現世の日向も寄り添い、裁きの時を待つのであった。
…………
「……少し立ち眩みが……歩き疲れたから、なのかな。 さっき、ひいちゃんと昼御飯、食べたばっかなのになぁ」
日向は独りつぶやきながら、周りを見渡す。
室内には蛍光灯がついていて、中央には大きなテーブルに椅子が幾つか備え付けられており、壁際にはパンフレットの類がラックに幾つもセットされている。
「ここって、休憩所だったんだ。 誰もいないなぁ。 ま、今日の神尾渓谷は私たちの貸し切りだもん、そりゃそうよね」
そうつぶやきながら、視線を部屋の突き当りの方へ向けると、立派な木製の台があり、その上にはウサギのオブジェが鎮座している。
「あ、お母様が昨日、私たちの神社が寄贈したんだよ、って言ってたのって、これね」
日向はオブジェの前で手を合わせ、 「神使さま、どうか私たち家族の運が開け、飛躍できるよう、ご助力ください」 と、願い事をつぶやく。
その時、 「1年生、集合~~!!」 と、外から女の子の声が聞こえてきた。
「きゆりちゃん、ちょっと待って! 今行くよ~~」
日向は慌てて外へと駆けだすのでした。
☆☆ーー 完 ーー☆☆
書き始めてから4ヶ月……遂に長編小説を一編書き上げるという、
生涯の目標の一つを達成する事ができました。
この経験で、小説を書く事の難しさを実感しました。
作者の視点を得られた事で、小説を読む姿勢にいい影響が生まれる事を願って、筆を置きます。




