5-11 ラスボスⅠ
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
「こ、声が聞こえる……何処からともなく……貴女は誰なの? どうして私を知ってるの?」
(この声色、忘れもしない……私が命を落とした時、今回の立ち振る舞いも失敗よ、って心に語り掛けてきたのと同じ。 遥か高みから、私を見下ろしてずっと眺めてたような、そんな異次元の存在……)
((その通りだよ。 私も数十回と聞かされた、非情な声……日向が無残に命を落とす光景を目に焼き付けられながら……))
[私は無名神……名前すら持たない、人間には誰一人として認知されていない、孤独な存在。 日向、貴女の一挙手一投足をずっと見ていました。 星月の目を借りて]
「無名神……って事は、神様、って事? でも、人間に知られてないから名前を持たないって……何だか悲しくて、可哀想な神様……」
[神の神性、つまり、神としての性質は、人間に認知されたり、信仰されたりして高まるもの。 色々な宗教に色々な神々がいるけど、持てる神性は私など足元にも及ばない。 でも、それは仕方のない事。 認知されていないからこそ、出来る事もあるのです]
「認知されてないから出来る事……何だかよく分かんないけど、言葉尻からして、あまり良い行いじゃなさそう。 こっそり悪い行いをやってるように聞こえるよ」
[なかなか手厳しい言葉を返すのですね、日向。 一面的なものの見方をすれば、悪い行いと取られる事も、違う見方をすれば、良い行いと取る者もいる……一方的な見方は、時に敵を作る……それは後でじっくり話し合うとしましょう]
(やっぱり神、だったんだね。 まだ何が言いたいのかは分からないけど、ここまでの物言いからすると、一般的には悪い行いと取られる事をしてる、って事になるよね)
「後でじっくり、かぁ。 じゃぁ、その前に何か話しておきたい事がある、って事だね」
[そうです。 話を進める前に、私もその場に姿を投影する事にしましょう。 面と向かい合わずに声だけでは、心を開いた会話などできないでしょうから]
無名神はそう告げると、神籬から再び光が溢れ、日向の目の前に黄金に輝く女性が現れる。
「私と同じ、腰まで届くロングの髪……姫カット……スラっとした綺麗な人……」
(髪型、私たちにそっくりね。 でも、私たちに無い大人の雰囲気っていうか、立ち姿に威厳を感じるよ)
[便宜上、生前の私の姿を投影しました。 これで面と向かって話し易くなるでしょう]
「生前の……って、やっぱ無名神さまは人神様、って事になるのかな。 カヌーにあった手紙に”私が遺した”って書いてあったから、文面から人間が書いたものだとは思ったけど……そういう事だったんだ」
[あの手紙は、私が生前に書き遺したもの。 今のこの場所に貴女を導くために。 そして、貴女が今着ている浦安舞の略装束も、採物も、島に渡る為に乗ってきたカヌーも、そこに積んでいた私服も、全て私のかつての所有物。 今、貴女がこうして私と会話できるのは、私所縁のものを身に付けているからなのです]
「無名神さまのそれらのものって、考えてみたら、全部普通の人には見えないものばっかり……。 どれも凄く綺麗に整えられてたから、如何に大切にしてた物だったか、って事はひしひしと伝わってきたよ。 でも、この場所に私を導くって……全然話が見えてこない……どうして無名神さまが私をここに導く事になったの?」
[そうでしょうね。 ではそろそろ話を始めましょうか。 それにはまず、貴女が今、置かれている状況から説明する必要があります。 今いるこの場所、貴女はどういう所だと認識していますか?]
「他の人たちには見えず、私にしか立ち入る事ができない……不思議過ぎて、さっぱり分からないよ。 少なくとも、普段生活してる世界とは違う、って事は分かるけど……」
[では、尋ね方を変えましょう。 貴女が普段生活している世界を、何次元の世界だと認識していますか?]
「何次元? えっと……三次元かな。 零次元が点、一次元が線、二次元が平面、三次元が空間、だったような」
[その通りです。 では、ここは何次元だと考えますか?]
「えっ?! そんなの、さっぱり分かんないよ。 それより上の次元なんて知らないもん」
[なるほど。 では、例え話を使って説明するとしましょう。 まずは四次元。 時空、つまり、三次元に時間軸の概念が加わり、時間を自由に行き来できる世界。 貴女が火雷と待ち合わせする場面を考えましょう。 『3年前の3月3日の午後3時に、ガゼボで待ち合わせしましょう』という感じで、約束しなくてはなりません。 そして、その時点には一瞬で行く事ができるのです]
「過去の時間にも自由に行き来できる世界……」
[更にその上の五次元は、並行世界……つまり、時間軸が無数にある世界なのです。 貴女が火雷と先ほどと同じ約束をしても、互いに会えなかったとしたら、それは世界線が違ったから、という事になります。 更にどの世界線かも指定する必要があります。 パラレルワールド、と言う方が理解しやすいかもしれません。 そしてここは、その五次元の世界なのです]
「並行世界……世界線……時間軸……何を言ってるのかさっぱり分かんないよ。 小説の中のフィクションの世界みたいで」
(並行世界……初代は色んな世界線でそこの日向と出会い、行動を見守ってきたんだよね。 日向が命を落とす度に、別の世界線の日向と新たに出会って……長い時間の旅を繰り返してきたんだよね)
((例の手紙にあった”長い旅を経て”っていうのは、その事を指してるのかもしれない。 でも、自分の意思では時間軸も世界線も移動できない……その意味では、四次元にも五次元にも私は居合わせてない、って事なんだろうね))
[日向、それは仕方のない事。 三次元に生きる生命体は、それ以上の高次元を認識できないものなのです。 だから、ここ五次元の世界を人間は認識できない]
「でも、私には見えるし、踏み込む事ができる……その力を与えたのは、無名神さまなのですか?」
[そう。 ある目的を持って、貴女にその力を与えました。 五次元の世界を見せる存在の力を借りながら、三次元に現存するものを全て手放した時、貴女の身体は一時的に五次元の世界へと踏み入る事が出来るようになる。 しかし、元が三次元の存在である貴女には、時間軸や世界線を自由に行き来する事は叶わないのです]
「五次元の世界を見せる存在……それがほつき、って事?」
[その通りです。 貴女が星月と名付けたその存在は、私が生み出し、貴女に巡り会う事を運命付けたもの。 貴女はどこまで星月について知っていますか?]
「以前、宮司さんから、五芒転生の秘術? とかで生まれた存在じゃないか、って聞いたけど……」
[その通りです。 月宮神社に保管されている秘文書を読み解き、そこに記された秘術を貴女に施したのは、この私。 では、それ以外に知っている事はありますか?]
(ちょ、ちょっと待って!! 月宮神社の秘文書って、宮司以外の者は目に出来ない、門外不出のものだって宮司さんは言ってたよね。 もしかして、無名神の生前って……)
((現役が言わんとしてる事は想像がつくよ。 今までのいきさつを考えると、月宮神社に深く関わる者、って考えるのが筋だと、私も思うよ))
「いえ……全く。 相変わらず、謎の存在のままです」
[では、今ここで、星月の正体を明かしましょうか。 譏滓怦繧井サ翫%縺薙↓豁」菴薙r迴セ縺励↑縺輔> ]
無名神が何やら聞き取れない言葉を発すると、日向の右肩の上に乗っていた星月から光が溢れ、目の前に2人の人型の存在が現れる。
「わわわ、私っぽい人が2人出てきた!! ど、ど、どういう事?」
[驚いたようですね。 星月の中には2人の魂が入っていたのです。 青白いオーラを放っているのが初代の日向で、薄い橙色のオーラを放っているのが、前代の日向。 これが、五芒転生の秘術の本質なのです]
「初代の私と、前代の私?! 意味が分かんないよぉ」
[初代の日向は、私が生前過ごした世界と同じ世界線の日向なのです]
「……初代……前代……。 もう私の理解を越えてるよ。 じゃぁ、私の側にずっといたのは、2人の私だったって事?」
[広い意味ではその通りです。 先程の並行世界の話を思い出しなさい。 彼女たちは貴女とは違う世界線の日向たちなのです]
日向は思考が完全にショートしている。
[初代の日向には、簡単にここに辿り着けないよう、検閲の呪法と、前代日向に先んじて話し掛けるのを禁ずる呪法をかけています。 色々な世界線の日向と、色々な体験を共有させる事により、洞察力を深め、心の飛躍的な成長を促したのです。 それらの呪法を今から解きましょう。 蜈ィ縺ヲ縺ョ蜻ェ豕輔h豸医∴蜴サ繧翫↑縺輔> ]
(なるほど、それで初代から話を切り出す事が一度も無かったんだね。 って事は、これで初代はフリーに話せるようになったのかな)
((先に現役が話し掛けてこないと、言葉を発する事ができなくて……ずっともどかしい思いをしてきたよ。 これで私も会話に参加する資格を得た、って事になるけど……))
「あ、あのーー、お二人とも、今まで側で私を見守ってくれてたんですよね。 やっぱ、女の子だったんだ~~。 今更だけど、確認できて良かったよ~~」
(日向、強い意志をもって積極的に行動する姿を、何度も右肩から見させてもらったよ。 同じ日向として、誇らしいよ)
前代日向が現世の日向に初めて声を掛ける。
((ああ。 私は色んな世界線で、何十人もの日向を見てきたけど、貴女が最高の日向だよ。 無名神の言葉を借りれば、貴女の立ち振る舞いを心から褒め称えたい、そう思うよ))
初代日向も続いて声を掛ける。
[これで役者は揃いました。 では、本題に入るとしましょう]
いよいよクライマックス突入です。
伏線を複雑にしてしまった分、書いてる自分の頭が混乱しそうです。




