2-2 変わらぬ12人
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
3階にある新1年生の教室にひむかとひいかが入ると、先に登校していたクラスメイトたちの視線がそこに集まる。
「おはよ~~、休み明けでも元気そうだね~~、二人とも」
「おいおい、入学早々からギリギリを狙ってるのか?」
時間ギリギリに姿を見せた二人に向けて、冷やかし交じりの挨拶が飛び交う。
(みんな、全然変わってないなぁ~~、ホッとするよ) ひむかは思わず口元が緩む。
「座席はまだ決まってない。みんな適当に座ってるだけだから、ひむかもひいかも空いてるところに座りなよ」 ベリーショートの女の子に声をかけられる二人。
【入学おめでとう!】 と色とりどりのチョークで書かれた黒板の前には15cmほどの高さの教壇があり、その前方に教卓があり、黒い表紙の出席簿が置かれている。
12組の机と椅子がそこを中心に半円で囲むように配置され、それぞれの机の上には真新しい教科書が積まれ、椅子には窓側から順番に番号が書かれた紙が貼られている。
二人が空いている席に座ったところで、冴先生が入ってくる。
「起立! 礼!」 男の子の太い声で号令がかかると、 「おはようございます!」 と明るい声色の挨拶が教室中に響く。
「おはようございます! はい、着席。 出欠はみなさん揃ってるのが分かったので省略します。 自己紹介は……もう良いですね? 先生も、みなさんも、中学の時と顔ぶれが変わってないんですから、お互い、良く知ってるでしょう」 生徒の顔を見渡しながら、先生はきびきびした表情で教卓の後ろから話す。
「私は今日から高校の先生です。 知っての通り、みなさんの下の学年には誰もいないのですから、みなさんが卒業した後、中学校に生徒が一人もいなくなってしまい、休校になったのです」 この話にはもう慣れっ子になっていて、クラスメイトの誰一人、驚かない。
「1年生の担任を受け持ちつつ、数学を教えることになりました。 高校で教えるのは私も初めてですから、みなさんと同じ1年生のようなものです。 今年もよろしく」 深々と先生はお辞儀する。
「では早速、座席を決めましょう。 くじ引き、でいいですね?」 先生は定番の提案をし、 「はい!」 と生徒たちはすぐに返事する。
(ずっと同じメンバーだもん、みんな仲良しだから、誰が隣でも一緒だよ) ひむかは気楽に座席を決めるくじを引く。
「はい、みなさん引き終わりましたね。 では、くじの番号と同じ番号が貼られた椅子に座り直しなさい」
(私は11番だから……入口の近くで、前から2番目だね) ひむかは自分の席を見付け、ちょこんと着席する。
「ひいかはここ……あ、ひむちゃんの隣だ、やったぁー」 ひいかは10番を引いたようだ。
ひむかの右隣には、先ほど朝の号令をかけた男の子が座る。
「俊明君が隣なんだね。 よろしくね」 とひむかは親しげに声をかけると、 「ああ、よろしくな、ひむか」 と男らしい太い声が返ってきた。
「みなさん、座席は決まりましたね。 では、すぐに講堂で入学式を行います。 移動です」 先生は先頭に立ち、生徒を誘導し始める。
(折角の晴れ舞台なのになぁ……お母さんに観てもらいたかったなぁ) ひむかは講堂への入場が始まると、寂しい気持ちになる。
講堂には教師たちと先輩たちが先に着席して待っていた。
親は誰一人見当たらない……数年前から、こういった学校行事には参列しない風潮ができてしまっている。
子供に恵まれない家庭に配慮してのことだそうだ。
先輩たちが拍手で見守る中、新入生たちは一列になって彼らの側を通り抜け、ステージの前に並べられた席に座る。
見たところ、2年生も3年生も、それぞれ50人前後。
ほどよい緊張感の中、新入生12人の入学式が始まる。
式が終わり、その余韻に浸りながら、教室に戻って役員を決める。
人数が少ないので、殆どの生徒に何かしらの役が当たることになる。
ひむかは風紀委員を推され、笑顔でそれを受ける。
(風紀委員かぁ。 みんなきっちりしてるもん、出番は無いかな) ひむかはふと、そんなのんびりしたことを考える。
ある人は立候補し、ある人は推薦され……揉めることなく役がすんなり決まる。
(中学の時もそうだったなぁ) そうひむかが思い返していると、 「今年もスカッと決まりましたね。 このチームワークがみなさんの良いところです!」 先生も満足顔だ。
「掃除は最後に全員で毎日行います。 どのように運用するかは整美委員に任せますから、その指示に従って動きなさい」
校舎は変わってもメンバーは変わらず……和やかな雰囲気の中、高校生活が始まった。
新しい登場人物を少しずつ出していくように工夫しながら書き進めていきます。