5-9 及第点のお墨付き(巫女舞・祝詞編)
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
それから、土曜日、明くる週の水曜日、土曜日と、茅金が日向の自宅に出向いて、浦安舞を指導した。
日向は回を重ねるごとに、舞の順序を覚え、細かい動作をチェックして、形が出来つつあった。
(ねぇ、初代、この浦安舞、こうやって日向が教わってる姿を見てるだけなのに、私も舞えそうな気がするの。 観た事すらないはずなのに。 この前、日向も言ってたけど、デジャブっていうのか、自分が舞ってる姿を想像できるっていうのか……不思議な感覚があるんだよなぁ)
((そうね。 正直言うと、私にもその感覚は備わってるよ。 一度観ただけでスッと頭に沁み込んでくるっていうのか、ね))
いよいよ明日は一日巫女体験に臨む……日向は風呂で念入りに身体を清潔にし、心を落ち着かせて早めに床に就き、十分に休養を取る。
翌日、早朝に家を出発した日向は単身、月宮神社へと向かう。
社務所の奥の部屋で茅金と合流し、巫女衣装への着替えを済ませると、本殿にお米とお水をお供えし、境内の清掃を済ませ、授与所の準備を見学した後に、本殿にて朝拝に臨む。
「皆さん、おはようございます、ちかねです。 今日は一日、巫女研修で一人受け入れます。 では、自己紹介をお願いします」
「はい!」 茅金に促されて、日向は隣へ進み出る。
「おはようございます。 研修で一日お世話になります、古河高校一年、ひむかです。 色々とご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうぞご指導のほど、よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします!!」」
「私は今日一日、ひむかさんに付き添って指導させていただきますので、授与所や御祈祷、イベントの準備のご奉仕は皆さんにお願いします。 では、大祓詞の奏上を行います。 宮司、よろしくお願いします」
…………
日向も、宮司や巫女たちのペースに合わせて、朗々と祝詞を読み上げる。
(凄いね、日向。 他の巫女たちとの呼吸もバッチリだし、何だか様になってるよ)
「では、これにて朝拝を終わります。 今日も一日、よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!!」」 茅金が号令をかけると、巫女一同が声を合わせて呼応する。
解散後、安土が茅金と日向を呼び止める。
「ひむかさん、さきほどの大祓詞、堂々と奏上できていましたね。 よくここまで練習しました。 十分、及第点を差し上げられます」
「えっ?! あれだけ大勢の巫女さんが同時に読み上げてたのに、私の声が分かったんですか? あはは、宮司さんの耳は凄いです」
「毎日の事ですからね。 いつもとは違う声色が入ると気付くものですよ。 では、後はちかねに任せましょう。 よろしくお願いしますね」
「はい、宮司。 では、ひむかちゃんはこっちに……きゃーーっ! また地震が!!」
茅金は余程地震が苦手なのか、慌てて本殿から出ると、頭を抱えてうずくまる。
その側に日向は駆け寄り、茅金の両肩に両手を乗せて、安心させようとする。
「あはは、恥ずかしいとこ、また見せちゃったよ。 どうも地震は苦手で……」
「私ももちろん苦手ですよ。 もう、こうなったら、一緒に怖がりましょうよ」
「あはは、ありがとう、ひむかちゃん。 ちょっと笑えて気持ちが落ち着いたわ。 じゃ、ご奉仕を始めましょ」
日向は茅金に付き従って、境内をくまなく見回って整美したり、参拝客に軽く声掛けをしたり、授与所でのお勤めを見学したりした後、神楽殿を見学する。
「ここで今日、イベントが行われるの。 昼食を摂った後、私とひむかちゃん、あと、巫女2人の4人で浦安舞を奉納するからね。 今までの練習の成果、しっかりぶつけてね。 大丈夫、迷ったら手本が3人もいるんだから。 チラ見しちゃうのも有りだからね」
「あはは、長森島での本番だと思って、なるべく自力で舞うよう、頑張ります」
昼食を社務所の奥の部屋で摂る際、茅金から食事前には 「たなつもの 百の木草も あまてらす 日の大神の めぐみえてこそ」 を、食事後には 「朝よひに 物くふごとに 豊受の 神のめぐみを 思へ世の人」 を、唱えるよう教わった日向は、その礼儀に従う。
昼食後、茅金が採物の桧扇を日向に手渡すと、 「それを持って始めるからね。 あと、千早を着て、花かんざしを挿して、準備してね。 今日は絵元結で後ろ髪をまとめるから。 私が整えてあげるね」 と言って、日向を通常の巫女衣装から、舞用の略装束へと着替えさせる。
いよいよ舞本番。
4人は神楽殿で、息の合った見事な浦安舞を披露し、舞い終わると、参拝客から盛大な拍手を浴びる。
その後、社務所の奥の部屋で通常の巫女衣装に着替える際、茅金が、 「お疲れさま。 ひむかちゃん、ばっちりだったよ。 私たちに混じってても遜色無かったんだから、ね、みんな」 と、一緒に舞った巫女たちに尋ねる。
「私、びっくりしちゃった。 ホントに舞うの、初めてだったの? 私より上手いんじゃないかって、焦ってしまったよ」 巫女の一人が心から日向の舞を褒めると、 「私もよ。 逆に教えてもらいたいくらいだった。 いっそのこと、巫女にならない?」 と、もう一人も手放しで褒める。
「あまり褒められると恥ずかしいですよぉ。 今回は初めて演奏に合わせて舞ったんですけど、全然気持ちの入りようが違うなって。 神様に捧げてるんだって思うと、細かい動きも疎かにできないなって、自分にプレッシャーをかけてしまいました」
(日向はまだまだだ、って思ってるみたいだけど、十分だよ、あれだけ舞えたら)
「ひむかちゃんの舞、もう十分及第点だよ。 私からは教えられる事はもう無いわ。 あとはご奉仕が終わる時間まで、境内を見回りまし……って、きゃーーーーっ!」
茅金が最も苦手とする地震が、またもや起こる。
既に茅金は部屋の隅でうずくまり、日向は上から覆いかぶさって寄り添っている。
「あはは……何だかひむかちゃんとは、良いコンビになりそうだわ。 もう何回目かな、こんなシチュエーション」
「憧れのちかねさんの側に寄れるんだったら、もう、何度起こってもいいかも……あ、今の無し! すいません、苦手な地震を何度も、だなんて」
「ひむかちゃん、何気に今、聞いてて恥ずかしくなる事を公言してたよ? あはは、妹みたいで可愛いけど、地震はもうごりごりだわ」
お勤め終わりの前に本殿に向かい、お米とお水をお下げして社務所に戻ってくると、安土が二人を待っていた。
「二人とも、今日はお疲れ様でした。 ひむかさん、どうでしたか、一日巫女体験は」
「はい、凄く楽しく、良い経験が出来ました。 あっ、でも、楽しいながらも、心が引き締まるような感じだったです」
「それは良かったですね。 いよいよ間近に迫りましたが、もう心配事はございませんか。 何かあれば、喜んでお手伝いしますよ」
「はい、今日の体験で自信が付きました。 本番、頑張ります! あっ!そうだ!!」
「あら、どうかしましたか、ひむかさん」
「お母さんの部屋にあったウサギのぬいぐるみ、本番の時に持って行きたいんですけど、まだ私の勉強部屋にあるんです。 それをあの崖の下の洞穴にまで、持って行っておきたいんですけど……」
「明美さんの……なるほど。 つまり、ご自宅からここまで、透明化の状態で持ち運ぶ必要があり、当日持参する事は難しいと……いや、例えばこういうのはどうでしょう。 お友達の協力が必要にはなりますが」
「えっ?! 良い案があるんですか? 是非、教えてください」
「予め、お友達に当日着ていく服を渡しておき、ひむかさんが辿り着くより前に、例の洞穴に持って行ってもらうのです。 その日は私が授与所の裏口の鍵を開けておくよう、手配をしておきましょう。 それでひむかさんはご自宅で透明化し、そのぬいぐるみを抱えて、例の洞穴に向かうのです。 そこでお友達から服を受け取り、実体化してください。 私とちかねも、お見送りをしたいと思っておりますので」
「なるほど!! ひいちゃんの協力が必要になるけど、それなら確かに往復する手間が省けるね。 ありがとうございます、宮司さん」
「では、また土曜日に。 お疲れさまでした、ひむかさん」
「じゃぁね、ひむかちゃん。 今日は一日、妹が出来たみたいで楽しかったよ。 土曜日、また会いましょ。 お疲れさま」
「お疲れさまでした。 巫女さんを体験できて、良い想い出になりました。 また土曜日に。 さようなら」
安土と茅金は、日向の後ろ姿を見えなくなるまで見送るのであった。
(私だけかな、何故かさっき、日向を見る宮司さんの目……慈愛に満ちた、まるで我が子を見守るかのような目に見えたのは)
これにて、手紙にあった全ての条件を、日向は満たしました。
次回からはいよいよ、ラスボスが登場??




