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5-6 初めての巫女衣装

前話を読んで下さった方に感謝です

今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです

 安土は奥の部屋から《神拝紙》と書かれた冊子を持ってくる。

 「これが大祓詞の全文です。 見開きでお唱えできるよう、蛇腹に折り畳まれています。 一冊、ひむかさんに授けましょう。 初穂料は私が立て替えておきますので、どうぞ」

 日向は安土から神拝紙を受け取る。

 「ありがとうございます。 字が大きいし、振り仮名もあって、使い易そうです」

 「では、まずは予備知識無しで、お唱えしてみましょうか。 私に続いて真似してみてください。 では、姿勢を正して……」

 …………

 「どうでしたか、読んでみて」

 「うーーん……何度もつっかえてしまって……読み方が違うところで何度も……全くダメでした」 日向の声のトーンは低い。

 「初めてでしたし、仕方ないでしょう。 では、ここで注意事項を幾つかお伝えします。 抑揚はあまり付けずに平たく、落ち着いてゆっくりとお唱えしてみてください。 先ほどは旧仮名遣いのところでつまづいていましたね。 はひふへほ、はよく、わいうえお、に変わるので注意してください。 迷うようなら、目立つように丸印を付けても構わないでしょう。 あと、中ほどにある 太祝詞事(ふとのりとごと)()れ、の後は、五秒間ほど間を空けてください。 理由を深く考える必要はありません」

 「平たく、落ち着いてゆっくり……分かりました。 もう一度お願いします!」

 日向は深呼吸して、自分を落ち着かせる。

 「では、もう一度お唱えしましょうか。 先ほどお伝えした、丸印を付けながらでも結構ですので。 では……」

 …………

 「はい、先程よりスムーズになりましたね。 是非、家でもお唱えしてください。 何度も繰り返すうちに、どんどん上手くなりますよ。 本番でも見ながらお唱えできるようですから、慣れればやり遂げられるでしょう」 安土は日向の両肩に手を乗せて励ます。

 「ありがとうございます、宮司さん。 頑張ってみます」


 ここで日向と火雷は、月宮神社前駅まで出歩いて、軽く昼食を摂り、再び社務所に戻ってくる。

 予告通り2時頃に現れた茅金は、安土と会話を交わした後、日向と火雷を奥の部屋へと案内する。

 「じゃぁ、ひむかちゃんにはここで着付けを覚えてもらうよ。 ひいかちゃんは見学しててね。 さっき、宮司に予備の衣装を使う許可はもらったから、今からこれはひむかちゃん専用ね」

 茅金が指差す先には、巫女衣装一式が綺麗に畳まれて置かれている。

 「わぁ~~、ありがとうございます。 袴の色以外は、向こうで観たのと同じだと思います。 早速教えてください」

 「ぐいぐい来るね~~。 じゃぁ、まずは下着姿になって。 あっ、靴下も脱いでね。 そこからスタートよ」

 「そりゃそっか。 はい、分かりました」 日向は指示された通り、服を脱ぎ始める。

 …………

 「準備オッケーだね。 ひむかちゃんをマネキン替わりにして、衣装を着せてくからね……あはは、楽しそう~~。 じゃ、まずは足袋を履く……これは簡単ね。 それから襦袢(じゅばん)を、っと。 こうやって着て、腰紐で結ぶの」

 日向は、茅金の挙動の一つ一つを注意深く目で追う。

 「次に、重ね襟ね。 赤い襟をこう……襦袢の襟とは少しずらして、ね。 で、腰紐で結ぶ。 それから、白衣を重ね着する。 こうやって……で、腰紐で結んで、伊達締めをその上に巻く、と」

 「うん、ここまでは何とか大丈夫そうです」 日向は何とか付いていっている様子。

 「ここでいよいよ袴の登場よ。 前身頃(ここ)を持って、脚を通す。 高さは……こんなもんね。 で、紐を背中側から巻いて、お腹の前でこう折り上げて、背中で蝶結び、と」

 「えっ?! 何だか、急に難しくなってきたよ……」 日向にそう言われるのを予想していたのか、茅金は動きをゆっくりにして、丁寧に着付ける。

 「今度はこの()()をここへ通して、後身頃(ここ)を腰の上まで持ち上げて、っと……後ろから紐を引っ張り出して、前でこう折り上げて、ここを通して……上下に引っ張って締めて、輪を作って蝶結びしたら、完成」

 「あわわ……ちかねさん、覚え切れないよぉ」 日向は茅金の複雑な動きに付いていけず、あたふたしている。

 「分かったわ。 じゃ、もう一度、ゆっくりするからね」 茅金は袴を一旦脱がせ、もう一度同じ手順で説明する。

 「まだしっかりとは分かってないけど……何とか付いていってます」

 (いや、これは日向、全然分かってないよ、きっと)

 「じゃぁ、先に進むよ。 最後に千早を羽織る……紐はこんな風に結んで……っと。 はい、出来上がり」

 「わわわ……指、どうやって使ったの? あやとりみたいで難しいよぉ」 日向は半分パニックに陥っている。

 「一回で覚えられなくて当然よ。 これから袴と千早を自分で着てもらうんだけど、10回繰り返すからね。 詰まっても問題なし。 記憶力を全力でぶつけてチャレンジしてみて」

 「は、はい……やってみます」 

 初回は何ヶ所も茅金に教えを乞うたり、指摘されたりしながらで四苦八苦していたが、10回目には自分独りできちんと着られるようになる。

 「やっぱり、つまづきながらでも、実際に自力で着てみる方が覚えますね」

 「そうね。 自転車に乗れるようになるのに似てるかな、なんてね。 何度も失敗しながら身体で覚えるのが一番早いと私は思うの。 スパルタっぽくてごめんね」

 (よく頑張ったなぁ、日向。 大した根性だよ)

 「あと、ゴムが残ったけど……髪を後ろにまとめるのは、どうもこれだけみたいね……確かに、奉書紙を使って髪をまとめるのは独りじゃ無理だろうし。 ひむかちゃんは髪がしっかり長いから、この位置でゴムで一本に束ねられるね」 茅金は日向の髪を手ですいて、ゴムでまとめる。

 「で、この花かんざしを頭に付けてっと。 はい、完成よ。 それにしても巫女衣装、凄く似合ってるわ。 私より可愛いなんて、許せないわね、あはは」 茅金は日向の着付けを完成させて、笑顔で全身を眺めている。

 「ひむちゃん、凄い似合ってる! まるで、巫女さんになるために生まれてきたんじゃない、ってくらい」

 「もう、二人ともぉ。 そんなに似合ってるかな? 鏡で見てみてもいい?」

 日向は部屋の隅にある、身だしなみチェック用の立ち鏡の前で、自分の姿を確かめる。

 「わぁ~~、私、巫女の衣装を着てるよ~~、夢みたい。 似合ってるって言ってくれて、ホントに嬉しいよ」

 「これで衣装はバッチリだね。 あとは忘れないように、まめに復習するのよ。 イメトレでも良いけど、ここに来て本物を着るのがベストだね」

 「はい! きちんと反復します。 ここに来れば、また着れるんですね。 嬉しいなぁ」


 「で、舞だけど……これはそう簡単にはいかないわ。 割と長いの……10分くらい。 それだけの動作を覚えなきゃいけないからね」

 「10分ですか?! 私、自信無いなぁ……」

 「そんな弱気じゃダメ。 さっきみたいに、気持ちだけでもぐいぐい来ないと。 じゃぁ、採物から説明するかな。 これが桧扇(ひおうぎ)で、これが鉾先鈴(ほこさきすず)。 扇はこう持って……開く時はこう。 で、鈴はここを親指以外の四本の指で握って、鳴らす時は親指の方へ引き込む感じ。 五色の紐を鈴緒って言うんだけど、緑が上になるように心掛けながら、反対の手で持つ。 やってみて」

 日向は扇と鈴を交互に持って、感触を確かめる。

 実際に鈴を鳴らしてみると、シャン、と綺麗な音色が響き渡る。

 「うん、なかなか筋が良いね。 って言うか、初めてとは思えないなぁ。 経験、ホントに無いよね?」

 「はい、全くです。 でも、舞はデジャブを感じるっていうか、観た事がある気がするんです、不思議な事に」

 「うーーん……つくづく不思議な子ね、ひむかちゃんって。 もうこんな時間だから、今日はここまでね。 舞の練習、始めておきたかったなぁ……」

 「また来ます。 来週の日曜日に」 日向がそう答えると、 「でも、3週間くらいしか無いんでしょ……そんなペースで練習して出来るようになるほど、甘くないわ」 と、茅金の方が気持ちが焦っているように見える。

 そこへ、安土が部屋に入ってくる。

 「ちかね、そろそろお勤めが終わる時間ですよ。 惜しいかもしれませんが、今日はここで終わってください」

 「はい、宮司。 って事だから、今日覚えた事はしっかり家で復習して身に付けてね。 舞の練習には全面的に協力するからね、私。 こんな事を言うの、変かもしれないけど、そうする事が神の思し召しのように感じるの」

 「神の思し召し、かぁ。 私もそれに応える事が使命だと思って頑張ります。 今日は宮司さんもちかねさんも有難うございました」 日向は深々と頭を下げる。

 「はい。 ひむかさんが使命を果たされるために、手伝える事があれば喜んでさせていただきます。 では、帰り道、お気を付けて」

 「はい、さようなら」 日向は二人に手を振って、別れを告げる。

 「ひいちゃん、朝からずーーっと付き合ってくれてありがとう。 私の事ばっかで、見学ばっかさせて、退屈させてしまって……」

 「違うよ、ひむちゃん。 ひいかは自分から望んで、ひむちゃんの側にいるんだから、謝るのはダメだよ。 こうする事が使命だ、って気がしてるから」

 二人はお喋りをしながら、ゆっくりと帰途につくのであった。

”然るべき時”に向けての準備を着々と進めさせてます。

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