5-2 明美と検討会
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
月宮神社から帰ってくるなり、日向は夕食もほどほどに勉強部屋に閉じ籠る。
長森島で観てきたものを、記憶が薄れないうちに絵日記帳に描き出しておくために。
(イラストを見る限り、さすがに覚え切れなかったみたいね)
((絵を描きなれてるのならまだしも、日向はあまり得意じゃないからね。 特徴の捉え方が曖昧で、ボヤっとした感じなのは仕方ないよ))
それらにコメントも付け加えていく。
見開き7ページ目:輪っか
・境内の真ん中で見付けた、深緑の草で編まれた輪っか。
・人がくぐれそうな大きさ。
見開き8ページ目:衣装
・袴は紫色で、三着の服も綺麗に畳まれて置かれてる。
・足袋、白い細い紐が三本、白い太い紐、紅い紐、ゴムも一緒に畳まれて置かれてる。
見開き9ページ目:小道具
・台座の上にかんざし、扇、鈴、冊子が置かれてる。
・かんざしは花が象られてて凄く豪華。
・鈴は剣みたいな形をしてて、五色の紐が付いてる。
・冊子は”おおはらえのことば”っていうタイトルが付いてる。 振り仮名付きだけど難しそう。
「よしっ、とりあえず、ここまで描き出しておけばいいかな」 日向はひとまず作業を切り上げ、リビングに出て、明美に声を掛ける。
「お母さん、さっきは帰るなり部屋に閉じ籠っちゃってごめんね。 今日観てきたものを覚えてるうちに描き出しておきたくて……。 一段落がついたから、話、聞いてもらってもいいかな」
「鉄は熱いうちに打て、とも言うからね。 先にしておきたい事があるなら、優先していいのよ。 で、お母さんに聞かせてくれるのね、今日体験した事を」
「うん。 お母さんと記憶のすり合わせをしながら、絵日記帳の考察欄を埋めつつ、頭の中を整理したいの」
「分かったわ。 じゃぁ、進行はひむかに任せるね」 明美は聴く態勢に入る。
日向は1ページ目から、順を追って話をまとめる事にする。
「ほつきはおそらく意思を持ってると思うの。 私の状況を理解してるかのような動きをする事があるし。 で、私に不思議な現象を見せたり、それらに触れる力を与えたり、私を透明化したりする力を持ってるとも思う」
「そうね。 不思議な力をひむかに与えてる存在よね。 ひむかだけに与えられた存在」
「私にだけ、かぁ。 あと、宮司さんが五芒転生の秘術が具現化したもの、って話をしてくれたけど……これは意味が分かんないなぁ」
「それは、ひむかからの又聞きだったけど、今は深く考えず、そういう謎めいた存在だって理解でいいんじゃないかな」
「うん。 じゃぁ、次のページにいくね。 ウサギのぬいぐるみ……今は私の勉強部屋にあるけど、元々お母さんの書斎にあったって事は、何かしらお母さんも月宮神社に関係してたんじゃないかって思うの」
「でも、お母さんはそのぬいぐるみ、心当たりが全く無いのよ。 随分昔に、何年間か月宮神社への参拝を続けた事はあったけど……思い出せないなぁ」
「そっかぁ……これも不思議な現象の一つだって事に、きっと意味があると思うの。 もう一度島に渡る時が来れば、持って行ってもいい?」
「逆に持って行ってほしい。 お母さんもこの件の何らかに関わってるとしたら、是非知りたいから」
「うん、ありがとう。 じゃぁ、次は舟だね。 これは5ページ目にもあるから、一緒に考察するね。 棗海岸でみづるさんに出会った時に、この舟がカナディアンカヌーだって分かったのは、お母さんも知ってるよね」
「うん。 ま、その場にいたからね」
「で、今日、宮司さんに協力してもらって、透明化して詳しく中を調べたら、衣類一式と手紙があったの」
「そう、あづちさん、力添えしてくれたんだね。 で、絵には無いけど、衣類一式ってどんなだったの?」
「うん。 下着とソックス、水色のボウタイブラウス、デニムのワイドパンツ、ローヒールのローファー、カーキー色のロングカーディガンが置かれてた。 どれも私にピッタリのサイズ」
「へぇ、ひむかが着ないような衣装だけど、結構オシャレだね。 誰が用意したのか不思議だけど」
「そう思うよね。 手紙を書いた人が準備したみたい。 あっ、絵を描こうかな、って思ったけど、止めたの。 文章で書いても伝わるかな、って思って」
「お母さんも、文章で何となく想像がついたわ。 で、手紙は?」
「あっ、それなんだけど……正確な文章は覚えてないけど、私宛っぽくて……。 難題を乗り越えてよく辿り着いたね、とか、周りの人々に助けられてるのを忘れるな、とか、上から目線なの。 で、この衣装を身に付けて、カヌーで島へ渡れって。 然るべき時に、然るべき場所で、然るべき衣装で、然るべき所作をもって呼び出し、論破しなさい、だったかな」
「……何だかひむか、神様か何かに試されてるふうに取れるよ、それ。 でも、論破って何だろう。 ひむか、何か心当たりあるの?」
「全く……私にそんな能力、無いと思うんだけど……。 あと、然るべきが連発するとこがあるけど、これは後で検討したいなぁ」
「そうね。 この手紙については、まだまだ謎だらけね。 もっと話を聞かせて。 次は?」
「うん。 島について、だね。 これも2ページ分あるから、まとめて考察しようかな。 お母さんが桜島みたい、って言った島ね」
「あっ、そうそう、丁度、桜島の絵葉書がお母さんの書斎にあるよ」
明美は書斎から持ってきて、日向に見せる。
「なるほどぉ、ホントによく似てるよ。 でもこの島の名前、長森島っていうんだって。 さっきの手紙にそう書いてた。 今日はこの島にカヌーで渡ったの」
「長森島……うーーん……聞いた事ないけど、まるで違和感のない名前ね」
「うん。 それで、山道は一本道で、ひたすら登ったの。 2時間弱位、かな。 途中、水飲み場があったけど、それ以外は何にも無くて……。 最後に神社があったの」
「凄い登山……頑張ったね。 水飲み場が見付かって良かったわ。 で、神社って?」
「月宮神社奥宮、だったと思う」
(良かった~~、日向、あの時は軽く流してたから、記憶に留めてないのかと思ったよ)
「えっ?! 月宮神社奥宮? って事は、それ、あづちさんに尋ねてみたら? きっと何か知ってるはずよ」
「あっ、そうか! 神社の名前、同じだもんね。 分かった、そうするよ。 で、神社に辿り着いたら、そこには人がくぐれそうな大きさの、深緑の草で編まれた輪っかがあって……」
「うーーん……これ、何時だったか、神社で観た事あるような。 夏だったかな、冬だったかな……。 これもあづちさんなら知ってるかもね」
「うん。 で、参拝した後、本殿の中に入ったの。 入りなさいって感じで勝手に扉が開いたから……。 そこに、こんな感じの装束とか、小道具とかがあったの」 日向は絵日記の8ページ目と9ページ目を明美に見せる。
「袴は緋色じゃないんだね。 あづちさんのに似てるような……。 でも、これはきっと巫女さんの衣装だと思う。 小道具はお母さんにはさっぱり分からないなぁ。 舞に使うものだとは思うけど……。 冊子はどうも、祝詞が書かれてるみたいね。 これらもあづちさんに尋ねた方が良さそうね」
「そうだよね。 結局、神社に関係するものは、神社の人に訊くのが一番だよね。 よしっ、ありがとう、お母さん。 あと、もう一つだけ。 さっきの然るべき、のところ。 お母さんはどう思う?」
「うーーん……然るべき場所、っていうのはその奥宮で、然るべき衣装、っていうのは奥宮に置いてあった衣装じゃないのかなぁ。 然るべき時は……それらしいヒントが何処かにありそうだけど……。 然るべき所作となると……神社での所作は、あづちさんに頼るのが一番かもね」
「なるほど、うん、ありがとう。 今度、宮司さんに尋ねる事がいっぱいできちゃったなぁ」
日向はそうつぶやきながらも、満足げに勉強部屋に戻る。
(日向、すっきり頭の中を整理できたみたいね。 私の出る幕、無いよ)
((現役、もしかすると……今回が最後の並行世界の旅になるかも。 私が今まで観てきた歴代の日向の、ベストチョイスばっかりでここまで進んできてるから))
(初代……転生を繰り返す長い時間の旅も、いよいよ大詰め、って事なの?)
((……現役の介入が、日向の進む道にかなり大きな影響力を与えたんだよ。 歴代の中で、最高の星月だと思う。 ありがとう))
今エピソードは、いわゆる回想です。
こういう回も終盤にはあっていいのかな、って。




