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5-1 長森島、上陸

前話を読んで下さった方に感謝です

今話から第五章(最終章)で、起承転結の「結」の開始……いよいよ物語はクライマックスです

引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです

 波が立っていない”海の上の道”から逸れないように、日向はカヌーを慎重に操縦しながら島へ向かう。

 (あれっぽっちの短時間で、よくここまで上手くカヌーを操れるようになったよね)

 ((島に渡りたい! っていう目標が、日向のモチベーションを押し上げたんだろうね))

 漕ぎ始めて30分……カヌーは長森島の麓、石がゴロゴロと点在する砂浜に着岸する。

 「ふぅ……」 日向は一息ついてからカヌーを降り、上陸すると、砂浜にそれを引き上げる。

 (こちら側から月宮神社を眺めると、随分、遠くまで来たんだなぁって感じるよ。 3kmほど、かな)

 ((そのくらいだね。 波が立ってない所を通った分、スムーズに辿り着けたんだろうね))

 日向は小休止をとると、上り勾配の山道を、小刻みに呼吸しながら歩き始める。

 「ふぅ、ふぅ……」

 (山道は割と手が入ってて、歩けるようになってるね。 でも、何だろう、周りの木々を吹き抜けてくる風が、唸りをあげてるように感じるよ)

 ((道を外れると、容赦ない自然の脅威を感じそうだね))

 ひたすら続く上り勾配……何度も休憩を挟んで呼吸を整えながら、日向は少しずつ、しかし着実に歩を進めていく。

 「はぁ、はぁ……」

 (山道の両側に背の高い木々が迫ってて、視界が開けてる場所が無いから、景色がずっと同じで、同じ場所を堂々巡りしてるような感覚に陥る……こりゃ日向、辛いね)

 登り始めて1時間ほど経っただろうか、漸く視界が開けている場所を見付け、そこにあるベンチに日向は腰を下ろす。

 「はぁ~~。 海があんな下に……だいぶ高いとこまで登ってきたなぁ、私。 ふわぁ~~ぁ、っと」 日向は、ベンチの上に身体を横たえ、大きく深呼吸をする。

 「水、飲みたいなぁ……喉、渇いたよ」

 不思議な現象以外のものは持ち込めないと悟り、水筒は持参していない。

 「どこまで登ればいいのかなぁ……目的地、分かんないから不安だよ」

 (そうだよ。 どこを目指せばいいのか分からないもんね……。 何とか励ましてあげられないかな……よしっ!)

 星月は日向の右手の甲まで歩くと、そこでクルクルっと回転してみせる。

 「あっ! 私、ほつきが側にいるの、すっかり忘れてたよ。 私を励ましてくれてるんだよね、きっと」

 (よしよし。 ちょっと元気を取り戻してくれたみたいだね。 頑張れ!)

 再び上り勾配を進むと、20分ほど歩いた頃だろうか、日向は道案内の看板を見付ける。

 「えっと、月宮神社奥宮まで、あと五百メートル、かぁ。 手紙にあった”然るべき場所”っぽい気がする。 よし、そこを目指して頑張ろう!」

 (それっぽい場所だね。 良かったぁ、日向、目的地が定まって、元気を取り戻したよ。 でも、日向は軽く流しちゃったけど……)

 ((ん? どうしたんだい、現役))

 (うん……月宮神社奥宮、っていうのが凄く引っかかって。 それなら本宮の宮司さんがその存在を知らないなんてあり得ない、って思わない?)

 ((その通りだね。 菴輔b縺ョ縺九↓繧医▲縺ヲ縲∝ウカ縺ョ蟄伜惠繧帝國阡ス縺輔l縺溽オ先棡 そうなってるんだと思う))

 (あっ……でも、初代はその訳に心当たりがあるんだね)

 そういう会話を星月の内部で交わしている間に、日向は”湧き水(飲めます)”という木製の立札を見付け、そこに置かれている柄杓を使って水を飲んでいた。  


 そして、道案内の通り、目の前に、所々朱色の塗装が剥がれかけている鳥居が現れる。

 「ふぅ……やっと着いたよ。 えっと……ここまでかかったのは……2時間半くらい、なのかな。 暗くなる前に帰るには……あまりゆっくりしてられないなぁ」

 (時計も持ち込めないもんなぁ。 でも日向、そこまで考えられるくらいの冷静さは保ってるんだね)

 「あれは何だろう……輪っかのような。 草で編んでるみたいだけど」 鳥居をくぐって境内に入るや否や、日向はそれを見付けて声を上げる。

 (私も初めて見るよ。 人がくぐれそうな。 それにしてもあんなの、誰が組んで、誰が手入れしてるんだろう……)

 手水舎を脇に見付けて手と口を清め、本殿で作法通りに2度お辞儀をし、2度拍手をして手を合わせる。

 「お賽銭、持って来れませんでした。 (ゆる)してください」

 お辞儀をして顔を上げると、本殿の中へ通じる扉が独りでに開く。

 「わわわ……か、勝手に開いた?! これって、中に入りなさい、って事、かな」

 (ここは常識が通用しない場所かも。 何が起こっても不思議じゃない、って考えないと)

 日向は恐る恐る本殿の中に踏み入る。

 中は普段使っている教室ほどの広さの空間があり、床には一面、綺麗に塗装が施された木材が敷き詰められている。

 奥には脚の長い台の上に、白いギザギザの紙が垂れ下がった、葉の付いた枝が置かれている。

 「わぁ~~、何か(おそ)れ多い場所に足を踏み入れてるような気がするよぉ。 ヒノキの香りが凄いし……。 私、どうすれば……。 あれっ、あそこに畳まれてるのは……巫女の装束かな」

 日向は近くに寄り、手に取って確かめてみる。

 「袴は緋色じゃなくて、宮司さんが履いてる色に似てるなぁ。 あと、白衣と足袋と白い細い紐が三本、白い太い紐、紅い紐にゴム……白衣とは別にもう二着、服があるけど……この一着はこの前、舞を観た時に巫女さんが着てたのと似てるような……」

 (これ、巫女さんの衣装一式っぽい気がする。 どうやって着こなしてるのかは全く知らないけど……)

 別の隅には、台座の上に()()()()と扇、五色の紐が付いた鈴、そして、難しい詞が書かれた冊子が置かれている。

 「これもこの前、巫女さんの舞を観た時に使ってたような……でも、あんまり分からないなぁ。 冊子はっと……おお、はらえの、ことば? たかまのはらにかむづまります? 振り仮名が付いてるけど、漢字だらけで訳が分かんないよぉ。 問題は……」 日向は深く考え込むように、床に座り込む。

 「ここで観た事を、どこまで覚えて帰れるか、だよ。 今までは観ながらスケッチ出来たけど、今回は……ここにあるものを持ち出すなんて、何だか罰が当たりそうだし……。 一つ一つ、丁寧に目に焼き付けるしかない、か」

 (そうだよ、筆記用具も持ち込めないんだもん。 これは悪戦苦闘しそう……手伝ってあげる事もできないし……頑張れ、って祈る事しか)

 ((よくここにあるものを持ち出すのを思い止まったね))

 (初代、って事は、持ち出すとやっぱり……)

 ((答えは言えないけど、この立ち振る舞いが正解だよ))

 日向は一つ一つを手に取り、空中に絵を描くようにしながら、必至に頭にイメージを叩き込もうとしている。

 その作業に打ち込む事、30分……。

 「うん。 何とかイメトレは出来たかな。 そろそろ帰らないと時間が……」

 日向は本殿を後にすると、後方で、独りでに扉が閉まる気配を感じる。

 帰路を急ぐ日向……今度は果てしない下り勾配が続くが、一度通った道であり、一本道だと分かっているのもあって、足取りも力強く、迷いがなく、速い。

 (きゆりちゃんから教わった山道の歩き方、役に立ってるね。 何とか時間に間に合いそうだよ)


 日向は月宮神社の崖の下に辿り着くと、カヌーを岩の上に引き上げ、洞穴に戻る。

 「ひいちゃん、戻ってきたよ。 あっ、体育座りして眠っちゃってる……ずっと私の帰りを待っててくれたんだね」

 火雷の側で、着ていた服を全て脱いで綺麗に畳み、元の服を着始める。

 「さっきまで着てた服は、この洞穴の中に置いててもいいよね」

 着衣が全て整ったところで、火雷の側に寄り、優しく声を掛ける。

 「ひいちゃん、ずっと待っててくれてありがとう。 私、無事、帰ってきたよ」

 火雷は日向の声に気付き、仮眠から目を覚ますと、 「ひむちゃ~~ん、良かったぁ~~、無事に帰ってこれたんだね。 ひいか、ずっと祈ってたよ。 とにかく疲れたでしょ、今日はもう帰りましょ」 と安堵の声を漏らす。

 「うん。 でも、今すぐにでも向こうで観てきた事、絵日記帳に描き留めておきたいの。 今日一日、貸してほしいんだけど、いいかな?」

 「あっ、そっかぁ。 観ながら描けなかったって事だもんね。 うん。 はい、これ」 火雷は絵日記帳を日向に手渡す。

 「ありがとう。 少しでも詳しく描き残すよ。 詳しい話はまた後日、って事で」

 「うん。 頑張って。 お話、楽しみにしてるよ。 じゃぁ、そろそろ授与所に向かいましょ。 ちかねさんが待ってるはずだから」

 夕陽が射す中、二人は洞穴を後にする。

現世のものは島に持ち込めない、っていう設定を覚えておかないと。


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