2-1 高校生デビュー
前話を読んで下さった方に感謝です
今話から第二章で、主人公交代です。引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
トントントントン……
ジューーーーッ……
ドアの向こうから、包丁が小気味良くまな板をたたく音と、フライパンの上で水分が跳ねる音が聞こえてくる。
毎朝、この音でひむかは目を覚ます。
窓際の壁に平行に並べられたベッドに横たわりながら、窓の向こうの朝日を確認する。
天井にある窓は、雲一つない青空を映し出している。
(今日も良い天気だなぁー) ひと伸びしてから身体を起こし、さっと着替えを済ませて、ドアを開ける。
「おはよー、お母さん」 ひむかが挨拶すると、 「おはよー、ひむか」 と、明美が挨拶を返す。
「わぁー、今日も美味しそうー」 明美特製のモーニングセットを前に、ワクワクが止まらない。
「しっかり食べて、今日も元気にいってらっしゃいね」
「はーい! いただきまーす!」
「ひむか、今日から高校生だねー。 お母さん、嬉しいわぁ」 明美は、美味しそうに手料理を食べるひむかを、優しい眼差しで見守りながら語り掛ける。
「うん、いつも有難う、お母さん。 でも、中学の時の制服と同じだと、なんか新鮮さが無いなぁー」 ブラウスの上に赤いネクタイとブレザー、そして、膝丈のスカート……この3年間、ずっとこの服装で中学校に通ってきた。
「あははー、たしかに。 でも、人間、中身が大事だから。 制服は変わらなくても、高校生らしく振舞えるよう、心は成長しないとね」
(お母さん、痛いところ突くー、手厳しいなぁー) ひむかは苦笑いする。
「ごちそうさま! じゃ、学校、行ってくるよ」
「あ、ちょっと玄関で待ってて、いつもの儀式をするからー」
6つの扉で6つの部屋に繋がっている、家の中心にあるリビングから、南向きの小部屋になっている玄関へ抜けて、明美を待つ。
「おまたせー。 じゃ……」 明美はひむかと向かい合う。
「今日も良い一日になりますように!」 二人で声を合わせ、目をつぶってお互いの額を合わせる……こうして今日も、新しい一日がスタートする。
家から学校までは徒歩で向かう。
背丈の低い草を縫って伸びる、なだらかに下る坂を、10分ほど歩くと三叉路に出る。
ここを右に曲がって、5分ほど歩いたところにベンチ付きのガゼボがあり、そこで家から持ってきた小説を読みながら人を待つ。
ほどなく、遠くから女の子の姿が近付いてくるのが見える。
「ひむちゃーん! おはよー!」 ぶんぶん腕を振り回して挨拶する彼女を見て 「ひいちゃーーん! 腕がもげるよぉー」 とおっかなびっくり挨拶を返すひむか。
「高校になっても一緒だねー ひいか、嬉しいよー」
「でもでも、喜びすぎ! 肩が心配になるよ」
(ひいちゃんは今日も元気いっぱいだなぁ) ひむかは笑いをこらえながら、ひいかに声をかける。
「じゃ、学校に行こー!」
ここからは左手に崖を見ながら、10分ほど坂を下ると街の入り口に。
さらに、平坦な舗装された道を5分ほど歩いたところで、今日から通う高校が見えてくる。
「校舎、大きいねー。 私たちの人数を考えたら、もったいないよねー」 ひむかは校舎を見上げるようにしてつぶやく。
「だねー」 ひいかも同感しているようだ。
校門をくぐったところで、 「はいはい、ひむかさんも、ひいかさんも、教室に急いで!」 と注意される。
「あれっ?! 冴先生!! どうしてここに?」 ぽかんとした表情でひいかが尋ねると、 「詳しい話は後で。 とにかく急ぎなさい」 と二人の背中を押しながら冴は警告する。
キーンコーンカーンコーン……予鈴が鳴り響き、慌てて二人で校舎に駆け込むと、 「こらー! 校舎の中は走らない!」 と背中から冴の鋭い声が飛んでくるのだった。
ここから学園ものの書き方、沢山の登場人物の操り方を勉強していこうと思います。