4-20 いざ、隠された島へ
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
日曜日の早朝、日向は火雷を連れ立って、月宮神社へと向かう。
(この急勾配な上りの石段、日向にとって3回目だけど、日頃の早歩きの成果が出始めてるのかな、随分スムーズに歩けるようになってきてるね)
((そうだね。 この世界の日向は、向上心があるというか、根気強いというか……))
神社の朝は早く、二人が境内に着くと、既に巫女たちが竹箒を手に、掃き掃除をしている。
「ひいちゃん、今日はここに目的を持って来たの。 まずは宮司さんに会いたいんだけど……」
「うん。 いよいよ島に渡りたい、って事よね。 ひむちゃん、決意に満ちてるっていうか、動きがきびきびしてるな、って感じてたから」 火雷は日向の後ろで、しっかり付き従っている。
(そっか……いよいよ決意を固めたんだね。 私の時は散々に終わったけど、今回は……)
((貴女の助力が無ければ、ここまで日向は来れたかったんだよ、現役))
二人は程なく、本殿の中に安土の姿を見掛けるが、朝のお勤めをしている最中で、とても話し掛けられない。
「邪魔にならないよう、向こうの隅で見守ってみようかな。 向こうから声を掛けてくれるのを待つよ」 日向は火雷に向かって小声でつぶやく。
安土は巫女を伴って、祝詞のようなものを朗々を読み上げている。
「うーーん……昔の詞みたいね。 何を言ってるのか、さっぱり分かんないよ」
「神様に朝の挨拶、してるのかなぁ」
「そんなものかもね」
やがて、お勤めを終えた安土が本殿から出てきて、そんな会話をしていた二人に気付き、声を掛けてくる。
「ああ、貴女たちは……朝早くから、ようこそお参りくださいました。 先ほどからお勤めを聴き入っておられたようですが、興味がおありなのですか?」
「お早うございます。 あはは……詞が難しくて、何を言ってるのかさっぱり……」 日向は正直な感想を述べる。
「そうですね。 先ほどお唱えしたのは、”大祓詞”という祝詞ですよ。 神様に奏上する事で、穢れを祓い、心身を浄化するのです」
「祝詞だったんですね。 私には詞がほとんど聞き取れませんでした……。 ところで、今日は宮司さんに用事があって。 一段落着いたところで時間を割いていただけないでしょうか」 安土を気遣って、日向は控えめにお願いする。
「朝はするべき事が多く、随分とお待たせする事になるかもしれませんが、落ち着いたら必ずお声掛けしますので、それまで境内を見て回っていてください」 そう言うと、安土は石段を上っていった。
本殿を参拝したり、撫でウサギや、参道に点在するウサギの石像たちを眺めたり、海を眺めながら火雷と話し合ったりして過ごすこと2時間……安土が日向たちを見付け、社務所に誘導する。
「随分長い時間、私を待ってくださったんですね。 それだけ大切な用事がある、という事でしょうか」
「はい。 今から話す事を、どうか、信じてほしいのです」 日向は真っ直ぐな眼差しを安土に向けて訴える。
「貴女の目から真剣さがひしひしと伝わってきています。 どんな話をされても信じましょう」
「ありがとうございます。 では……覚えてますか、崖の下に舟が見えるっていう話」
「はい、もちろん。 インパクトのある話でしたからね」
「今日はもう一つ、話さなきゃいけない事があるんです。 私、透明人間になれるんです。 その状態になると、私にしか見えない不思議な現象に触れるようになる、って事も先日知りました。 崖の下には舟があり、海の向こうには島が見えてます。 その舟を使って、島に渡りたいのです。 舟の漕ぎ方は昨日、みっちり鍛えてもらいました。 それで……」 ここで日向は少し言葉を詰まらせる。
「はい。 五芒転生の秘術を施された貴女の事……身の上に何が起こっているのか、私たちには計り知れないものもあるのでしょう。 出来るだけ協力致しましょう」 日向を落ち着かせるように、安土は優しく語り掛ける。
「はい。 その……透明人間になる方法なんですけど……は、恥ずかしい事に、裸になる事、なんです。 何処ででも出来る事じゃなくて……その場所を提供して欲しいのです」
「なるほど……となると……人目に全くつかない所でないといけませんね」 安土は暫く思案した後、 「あ、あそこなら……どうぞ、私に付いてきてください」 と、二人を誘導したのは、授与所の裏の扉を抜け、舟を越えた先の、海に面した洞穴の中。
「ふぇ~~、確かにここなら人目につかないかもだけど……明かりが無いんですね」
「そこなんです。 活動時間が日中に限られる、という事になりますが……。 あと、もう一つ問題点があります。 ここが授与所の奥にある、という事です」
「あっ、戻ってきた時に、授与所を通る必要がある、って事ですね」
「はい。 その時にどうやって授与所に入るのか、なのです。 普段は施錠されていますから。 うーーん……これは、一つ手を打たないといけないですね。 ひむかさん、一つ、条件を飲んでいただけないでしょうか」
「は、はい。 私に出来る事なら何でも」 日向は少し身構える。
「巫女のちかねにも、先ほど話していただいた話を伝えたいのです。 彼女は他の巫女よりずっと信心深いので、神懸かった貴女の事を理解してもらい、協力を得ようと思うのです。 今日は彼女を授与所に配置しますので、お戻りになられましたら、裏の扉をノックしてください」
「それなら問題ないです。 忙しいところ、色々と手を煩わせてしまって……ご助力、ありがとうございます」 日向は深々と頭を下げる。
「では。 神々の御加護がありますように」 そう言い残して、安土はその場を去っていった。
「いよいよね、ひむちゃん。 ひいか、ここでずっと待ってるよ。 絶対、無事に戻ってきてね」
「うん。 絶対約束するよ。 私にしか出来ない使命だと思って、最後までやり遂げるよ」 そう言うと、日向は全ての衣服を脱いで、火雷の目の前から姿を消す。
火雷は日向が脱いだ衣服を見守るように、ずっと見詰めている。
カヌーまで戻ると、日向は全てのものに触れるかどうかを試し始める。
「うん。 カヌーも、パドルもしっかり触れるね。 この服も、封筒も。 あっ、ここでこの服を着始めて、もし実体化したら……大変な事になっちゃうから、さっきの洞穴に持って行って着てみよっと」
(日向、随分独り言が多いね。 聞いてくれる人、いないのに……。 ま、その分、何を考えてるのかが分かっていいんだけど……)
((おそらく、孤独を紛らわせるために、意識的にやってるんじゃないかな。 そうやって精神の落ち着きを保とうとしてるんだと思うよ))
再び洞穴に戻ると、火雷は先ほどと同じ姿勢で、日向が脱いだ衣服を見守り続けている。
「ひいちゃん……」 その様子を横目に見て、恐る恐る下着とソックスを身に着けてみる。
「わわ、サイズ、どれもぴったりだよ。 肌触りもいいし。 ひいちゃ~~ん!! うん、全く気付いてない、見えてないね」
透明化が継続している事を確認してから、水色のトップスを着る。
「これ、ボウタイブラウスってやつだよね。 着た事ないなぁ。 割とタイが長くて太いから、蝶結びも大きく出来そう。 私に無いセンスだよ」
続いて、デニムのボトムスを着る。
「デニムのワイドパンツ……私、ほとんどスカートだから、これも斬新だなぁ。 でも、こっちの方が山道を歩くのには向いてそう、かな」
更に、ローファーを履く。
「柔らかいし、幅広でローヒールだけど……これで山道、かぁ。 でも、きゆりちゃんから教わった歩き方をすれば……靴擦れを起こさないように、踵が靴から浮き上がらないようにして歩かないと」
最後に、カーキー色のロングカーディガンを羽織る。
「ホント、私に無いファッションセンスだよ。 一体誰のだろう……」
着替えを済ませ、火雷に手を振って、再びカヌーに戻る。
「それで、次は、この封筒の中身を調べないと」
白い封筒を改めると、三つ折りに畳まれた便箋が一枚入っており、それを取り出して声に出して読む。
この手紙を読んでいる、愛しい貴女へ
様々な難題を乗り越え、長い旅を経て、よくここまで辿り着きました
現世の貴女の立ち振る舞いを、心より褒め称えます
現世の貴女、決して、周りの人々の助力に支えられている事を忘れないでください
周りの人々の情の深さに背中を押され、今があるのです
貴女はその姿を、しっかりと目に焼き付けるのです
現世の貴女は、私が遺した衣装を身に付け、私が遺したカヌーを使って長森島へ渡り、
然るべき時に、然るべき場所で、然るべき衣装で、然るべき所作をもって、私を呼び出すのです
そして、今までに得た、貴女の数多の経験を武器に、私を論破するのです
私はそれを待ち望んでいるのです
「私……試されてるんだ、この人に……はるかな高みから。 ここに私が来るのも予定通り、って事なのかな。 待ち望まれてるんだったら、必ずこの人を呼び出してみせるよ。 でも……論破って、私に何を期待してるんだろう」
日向は手紙を読んだ後、カヌーの船尾を、海へ向かって力一杯押し込む。
「あれっ?! 思ってたより軽いよ、このカヌー!!」
太陽が真南で燦燦と輝く中、水鶴に教わった通りにパドルを構え、日向は長森島へ向かってカヌーを漕ぎ出す。
(漸くこの日が……私の無念を晴らしてほしいな。 それにしても、全てが仕組まれてるかのような感じを受ける文章だったけど……)
((ええ、そう感じるね。 私たちも試されてるのかもね))
(ところでこの手紙、”貴女”と”現世の貴女”とが出てくるけど、全部日向の事を指してるのかなぁ……。 私は”貴女”は初代を指しているんじゃ、って思うんだけど……。 ”長い旅”っていう言葉が日向に馴染まない気がして)
((正直言うと、この場面には過去、何度か立ち会ってて、その度に考えるんだけど……現役の言うとおりかもしれないね。 数多の日向の、周りの人々の立ち振る舞いを、目に焼き付けるように……そして、それをもって議論を戦わせるように、って、私に向かって言ってるのかもね))
今話をもって、第四章終了です。
ここまでで約10万文字……何とか目標を超える事ができました。
いよいよ次話より最終章に入ります。




