4-19 及第点のお墨付き(カヌー編)
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
時間があっという間に過ぎ、三人とも食事をする手が止まり、会話も次第に緩やかになる。
そのタイミングで日向が、可愛いリボンでラッピングが施された正方形の包み紙を、リュックから取り出す。
「ひいちゃん、誕生日の記念に、これを受け取って。 今の私の精一杯をぶつけてみたの」
「えっ?! な、何が入ってるのかな? ここで開けてみてもいい?」 日向が頷くのを見て、火雷は包みを開ける。
「わぁ~~。 これ、ひむちゃんとひいかのツーショット似顔絵色紙? 嬉しい! ありがとう!! それにしても絵、上手くなったよね」 心から喜んでいる火雷を見て、 「良かった~~、絵、ダメ出しされたらどうしようって、ドキドキしちゃったよ」 と、日向はホッと胸をなでおろしているようだ。
「早速、ひいかの部屋にこれ、飾っちゃおっかなーー」
「も~~ぉ、恥ずかしいよぉ~~。 大切にしてくれるんだね。 嬉しいな」
会が始まって3時間……何時の間にか日が暮れかけており、それに気付いた日向はお暇を告げる。
「今日はお招きいただいて、最高の思い出になりました。 おばさま、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ、ひいか共々、凄く楽しい時間を過ごせたわ。 また是非、遊びに来てね」
「ひいかも最高の思い出とプレゼントを貰えて、今日は良い夢見れそうだよ。 何かお告げが聞けるかなぁ」
「あはは。 良い夢が見れるようにって、祈ってるよ。 じゃぁ、そろそろ帰るね」
「はい。 気を付けて家まで帰ってね。 じゃぁ、まだ早いけど、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい、おばさま、ひいちゃん」 日向は火雷の家を後にする。
木曜日の朝、いつものようにガゼボで火雷と落ち合うと、日向はリボンでラッピングされた正方形の包み紙がその右手に握られているのに気付く。
「おはよう、ひいちゃん……って、それって、もしかして?!」
「おはよう、ひむちゃん。 そ、お返しのプレゼント。 ひいかも気合い入れて描いたよ。 誕生日おめでとう。 受け取ってね」
日向は火雷から包み紙を受け取り、早速開けてみると、火雷にプレゼントしたのとは構図を全く変えた、ツーショットのイラスト色紙が。
「わぁ~~、ありがとう! やっぱ、絵のセンスが私とはレベルが違うなぁ。 私も勉強部屋にこれ、飾っちゃおっかなーー」
「うん。 ずっとずーっと大切にしてね」
翌日の帰り道、日向は火雷にガゼボで相談を持ち掛ける。
「明日、学校が終わったら、棗海岸に行こうって思ってるの。 みづるさんに会って、カヌーの漕ぎ方を教えてもらおうかな、って」
「良い案だとは思うけど……アポなしで行って、みづるさんに会えるの?」 火雷は当然の疑問をぶつける。
「うーーん……そこなんだけど、イチかバチかなの。 会えなかったらその時は仕方がないって、割り切って行ってみようって思ってるの」
「わぁ、意外だよ。 ひむちゃんも、行き当たりばったりな行動をとる事、あるんだね。 ひいかも一緒に行きたいとこだけど……明日、予定があるんだぁ……」 火雷は心から残念そうな表情を浮かべる。
「そっかぁ、仕方ないよね、こんな直前じゃ。 あっ、あの絵日記帳、明日一日貸してほしいな。 みづるさんに見せたいページがあって」
「もちろん、オッケーだよ。 後で渡すね。 最大限、活用してね」
「ありがとう、借りるね。 あと、日曜日はひいちゃん、予定はどう? 朝から神社に行こうって思ってるんだけど……」
「日曜日なら予定は空いてるよ。 朝からだね、分かったよ」
土曜日の放課後、日向は単身、電車に乗って棗海岸に向かう。
海岸に着くや否や、 「えっと、みづるさんは……いた! みづるさ~~ん!!」 日向は波打ち際に泊まっているカヌーをメンテナンスしている水鶴を見付け、叫びながら駆けていく。
「あら、貴女は確か、ひむか、だったわね。 今日は突然どうしたの? 私、そろそろ練習を切り上げようって思ってたところなの」
「突然声を掛けてすいません。 カヌーの漕ぎ方を教えてもらいたくて、行き当たりばったりで来ちゃったんだけど、練習を切り上げるのなら無理ですよね……」 日向はしょぼんとする。
「確かにそうなんだけど、考えようによっては、これからの時間、手が空いてるとも言えるわ。 折角ここまで来たひむかを、何もさせずに帰す訳にはいかないわ」 水鶴はやれやれといった表情を浮かべる。
「えっ、こんな無理をお願いしてしまってもいいんですか? ご迷惑じゃなければ、是非、お願いしますっ!」
「あらあら、そこまで深々とお辞儀されちゃ、受けるしかないわね。 じゃぁ、どうぞ、カヌーに乗って」
水鶴は日向をカヌーに乗せて、沖まで漕ぎ出すと、レクチャーを始める。
「じゃぁ、一人での漕ぎ方を教えるわ。 まず、パドルを持って。 左手は上方のグリップを、右手はブレードの近くをそれぞれ握って、船体の右側を漕ぐの。 まずは自分の思うように漕いでみて」
日向は言われた通りに構え、前方から後方に力を籠めつつ、何度か漕ぐ。
「あれれ? ちょっとずつカヌーの方向が曲がっていってる……。 これじゃ、クルクル回ってしまいそう」
慌てる日向を見て、ここぞとばかりに水鶴はアドバイスを加える。
「そう。 その漕ぎ方だと、どんどん進路が曲がってしまうわ。 そこで、テクニックを使うの。 Jストローク、よ」
「じぇい、すとろーく?」
「そう。 パドルを後方まで漕ぎ進めた後、手首を捻って外側に少しブレードを押し出すの。 その動きを船体の左側でやると、丁度Jのように見えるから、そう名付けられてるわ。 じゃぁ、手本を見せるから、私の後にやってみて」
日向は見よう見まねでやってみる。
「そうよ。 でも、最初にやってた、ただ前後に掻くだけの漕ぎ方は、真っすぐ進む時は悪だけど、進路を変えて進む時は役立つわ。 初心者のうちは、その組み合わせで十分。 あと、パドルを腕の力だけで漕いでるわね。 それだとすぐ疲れちゃうわ。 体幹を使って、身体を捻じるようにして漕いでみて」
日向は言われた通り、身体を捻じるよう意識して漕ぐ。
「そう、その調子だわ。 それを今日は徹底的に身に付くまで練習するといいわ。 修正するところがあればその都度アドバイスするから、思うように漕いでみて」
日向は何度も動きを確認しながら、身体に覚え込ませるように漕ぐ。
「うん、筋はいいわね。 ところで、何故そんなにカヌーを漕ぎたいの? 何となく急いでるようにも見えるんだけど」
水鶴にそう尋ねられると、日向はリュックから絵日記帳を取り出し、カヌーのイラストと、島のイラストを見せる。
「私、この島に渡りたいんです。 信じてもらえないかもだけど、この島、私にしか見えません。 そこに、私に与えられた使命みたいなのを感じるんです。 カヌーはそこへ渡るために用意されてるように思えて、それで……」
「にわかには信じられない話だけど、私は信じるわ。 なるほど、イラストを見る限り、島までは結構距離がありそうね。 だとすると、何としても今教えた漕ぎ方の基礎を、完全に身に付ける必要があるわね。 分かったわ。 今日はもう少し付き合う事にする。 お墨付きが出せるくらいにまでは、ね」
それから2時間ほどレッスンを続け……日がだいぶ西に傾いた頃、水鶴は及第点のお墨付きを出す。
「よく頑張ったわね。 私が教えられるのは、ひとまずはここまでだわ。 また、教わりたい事が出てきたら声を掛けて。 ひむかはもう立派な私の弟子、だからね」 水鶴は日向の左肩を軽く叩いて、労をねぎらう。
「今日は突然押しかけてご無理をお願いしたのに、ここまで熱心に付き合ってくださって、ありがとうございました! 教えてもらった事をしっかり身体に覚え込ませて、必ず生かします」
日向がJストロークを駆使して波打ち際まで戻ってきたその時……。
「わわわ、地面が揺れてる?! 地震、ですよね、これ」
「そうね、間違いないわ。 地震なんてもう何年も遭ってないのに……珍しいわね」
次エピソードで、長い第四章を完結させる予定です。




