4-16 五芒転生の秘術
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
「じゃぁ、本殿にお参りに行こ!」 火雷が日向の手を引く。
「わわ、分かったよぉ~~」
手水舎で両手と口を清めてから本殿に着くと、先日、明美から教わった作法通りに、二人ともしっかりと参拝する。
(二人とも、参拝の作法がすっかりサマになってる。 他のどの参拝客よりも)
((これだけしっかり参拝出来てるなら、神様が願いを聴いてくれそうだね))
「お願い、聴いてくれるかな、神様」 火雷はつぶやく。
「心から願えば聴いてくれるよ、きっと。 日頃の感謝も忘れずに伝えたよね」
参拝の後、先日、不思議な現象の舟が見えた場所を見下ろすと、まだそこに同じ状態で泊まっている。
「結局、あの舟には近付けないのかなぁ。 降りる道が見付からないし」 日向が残念そうにつぶやく。
「折角、不思議な現象を目の前にしてるのに……何とかして近付けないかなぁ。 例えば、この神社の責任者……この前お会いした宮司さんに相談してみる、とか。 不思議なものが見える、なんて言っても、到底信じてもらえないかもだけど……」
「うーーん……普通に考えたら変な話だもんなぁ。 しかも、宮司さんとは、この前一度会っただけ……私たちの突拍子もない話なんて、聞いてくれないよ、きっと」
「ま、相手にされなければ、仕方ないって諦めるしかないよ。 まずは、声を掛けてみようよ」
消極的になっている日向の背中を押すように、火雷は社務所に向かおうと、参道を歩き始める。
すると、向こうから偶然、宮司の安土が歩いてくるのが目に入る。
(何ていいタイミングなの! まるで見計らったかのような……)
「早速、神様がチャンスをくれたのかも。 ちょっと、声掛けてみて、ひむちゃん」
「う、うん。 ……あのぉ……すいません、宮司さん」 火雷に気圧されて、日向が安土にかけた声は細々としている。
「おや、お早うございます。 貴女は明美さんの娘さんのひむかさん、ですね」
「えっ?! 私の顔と名前を覚えてくださってたんですか。 ちょっとびっくりしました」 そうは言いながらも、日向はホッとしたような表情を浮かべている。
「はい、しっかり覚えていますよ。 お隣の彼女は、先日ご一緒されていたのは覚えているのですが、まだお名前をお伺いしていませんでしたね」
「はい。 ひいかです。 ひむちゃんとは高校の同級生です。 よろしくお願いします」
「なるほど、同級生、ですか。 お名前も似ているんですね。 お二方とも、当神社へようこそお参りくださいました。 それで……私にお声掛けされたのは?」 安土は、声を掛けてきた日向を見ながら尋ねる。
「あ、はい。 突拍子もない事で、信じてもらえるか……崖の下にある平らな岩の上に、カヌーが泊まってるのが見えるんです。 ただ、それは私にしか見えなくて……」
「ほぅ、ひむかさんにだけ見えるカヌー、ですか。 平らな岩の上とは、何処の事を指すのでしょう」
日向と火雷は、眼下に奇岩が見て取れる屋外スペースに安土を案内する。
「あの下の平らな岩です」 日向は下方に向けて指をさす。
「うむ……カヌー、私にも全く見えませんね……。 それでは、ひむかさんには一体どんな風に見えているのでしょうか」
安土がそう日向に尋ねると、火雷はリュックから絵日記帳を取り出し、 「ひむちゃんはカヌー以外にも、他の人に見えないものが幾つか見えるらしいんです」 と言いながらページをめくり始める。
最初の見開きのページを開いた瞬間、安土は驚いた表情を見せる。
「こ、これは……これが見える、って言うんですか?!」 そこには星月の姿が描かれているのだが……。
(冷静な宮司がここまで取り乱すとは……星月について、余程の事を知ってるのかな。 ひいちゃんがいきなりカヌーのページを見せるんじゃなく、最初から順々に見せたってところが、思わぬ結果を招いたね……)
((……)) 初代は何も語らないでいる。
「はい。 今も右肩の上に乗ってて、薄だいだい色に光ってます」 日向は、自分の右肩を見やりながら返事する。
「……すいません、手を止めさせてしまいました。 他のも見せてもらえますか」
火雷は、今までに記録した4つの不思議な現象を、安土に順々に見せていく。
「”ウサギのぬいぐるみ”というタイトルが付いているイラストは、当神社に鎮座まします”撫でウサギ”にそっくりですね。 でも、関連性は分かり兼ねますが。 カヌーはよくは分かりませんが、最後の……山、ですか? これは他のものと比べるとスケールが桁違いで、私たちが見えない方が不思議なほどですね。 先ほど少し取り乱しましたが、最初に見せていただいた星形のもの、これについては、私に少し心当たりがあります、が……」
「あっ、私はほつきって名付けたんですけど、この子について何かご存じなんですか」
「はい……とは申しましたが、到底信じられるものではありません。 心当たりがあるのは、私がこの神社の宮司をしており、先祖代々の秘文書を受け継いでいるからなのです」
「ひぶん、しょ?」 安土の話を聞いても、日向の反応は鈍い。
「秘文書なので、世に広まる事はありません。 ただ、ひむかさんがそのような事情を知らないにもかかわらず、秘文書にある通りに言い当てたという事は……本来は当然、口外できる事柄ではないのですが……直面している本人には知る権利があるでしょう。 絶対口外しない、と約束できますか?」 そう言って、安土は厳しい視線を日向に向ける。
「はい。 ここで聞いた話は口外しません。 この絵日記帳にも記しません」 日向は誓いを立てる。
「分かりました。 ひいかさんも、約束できるなら隣で聞く事を許しましょう」 今度は同じ視線を火雷にも向ける。
「はい。 必ず守ります」 火雷も誓いを立てる。
「分かりました。 では……この星形の存在について記されているのは、当神社が保管する、門外不出の秘文書の中。 いにしえの昔に用いられたと伝わる、”五芒転生の秘術”なのです」
「ごぼう……てんせいの、ひじゅつ?」 日向は聞きなれない言葉をなぞるように口に出す。
「はい。 五芒とは五芒星の事で、今、イラストで見せていただいた、星形を指します。 そしてそれは、精霊、天使、悪魔と言った、五次元の存在との繋がりを意味し、主に秘術の儀式などに利用されたそうです。 我々人間の願いとは、三次元の生物として生きるためのものですが、更に強力な欲望を叶えるために用いられたと。 自分の努力以外の、強大な存在の力を借りて欲望を叶えるわけですから、当然、用いる者はそれ相応の代償を差し出す必要があります」
「ごじげん? ぎしき?? 私、そんな事、考えた事もないし、全く縁も無いんだけど……」 日向は安土の話を、全く理解が追い付いていない様子で聞いている。
「ひむかさんは自分の与り知らないところで、その秘術を施された、と私は考えます。 何者かが自分の欲望を叶え、代償を差し出し、ひむかさんに秘術を施した、と申し上げたいのですが、この話にはそもそも矛盾があるのです。 何者も、門外不出の秘文書について知る術はないはずなのです」
「えっと……何者かが私に秘術を施すって……そもそも、どうして私なの?」
「それは私にも全く想像がつきません。 今の話、現実の常識とはあまりにかけ離れていて、ひむかさんも到底受け入れられないでしょう」
日向はごくんと唾をのみ込み、うなずく。
「もし、私の話が現実に目の前で起こっているのなら、それを起こせるのは秘文書の存在を知り、私ですら知らない秘術の作法を知る者。 そんな者がいるとは到底思えないのです。 しかし、ひむかさんが目にしている、ほつきという存在は、恐らくこの五芒転生の秘術が具現化したもの、としか考えられないのです」
(五芒転生の秘術……転生、っていう部分には触れなかったから、詳しくは分からないけど、日向が何度も転生を繰り返していくのは、何者かにそういう儀式を施されたから、って事ね。 ん? もし、転生について宮司さんが触れてくれたら、日向は星月の正体を知る事になるんじゃないだろうか……)
((……)) 初代は沈黙を続けている。
星月という存在の謎を一部開示しました。
ちょっとオカルトっぽいテイストを入れました。




