4-15 登山のコツ
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
翌日、学校での昼休憩時間。
昼食を摂った後、日向は木柚梨の所へ。
「きゆりちゃん、昨日、急な坂道をスイスイ上り下りするにはトレーニングとコツが必要だから教えようか、って言ってくれたけど……」
「おう、ひむか。 ほんとに乗り気なんだな。 分かった。 じゃぁ……ちょっと廊下に出て。 で、普段通りの歩き方で10歩、歩いてもらおうか」
二人は廊下に出て、木柚梨が見守る中、日向は自然な歩き方で10歩歩いてみせる。
「ふむ、なるほど。 平地では確かにその歩き方でいいけど、登山ではダメだ」
「えーーっ! そうなの?!」
「ああ。 今のひむかの歩き方は、つま先で蹴って、踵で着地してる。 ま、それが普通なんだが、登山では疲れ易くなるし、特に下り局面ではスリップしやすくなる。 ベストなのは、靴底全体でベタっと着地する、フラット歩行だな」 木柚梨は日向に実演して見せる。
「ベタっと着地? 何だか違和感があるような……」
「慣れないうちはな。 そして、前かがみもダメだ。 股関節の柔軟性が落ちてしまうからな」
「たしかに……前に進まなきゃ、って気持ちが、前かがみにさせてる気がするよ」
「じゃぁ、教室に戻って、教壇の前に来て」 木柚梨の指示通り、日向は教壇の下に立つ。
「実際の登山の話をするよ。 上り局面では、前足をベタっと接地したら、足首の関節を柔軟に使って、膝を前に出して重心を前に押し出すと、後足を上げて片足立ちになっても、バランスを崩しにくくなる」 木柚梨は教壇の段差を使って実演する。
「逆に下り局面では、歩幅は小さめを意識して。 後足の真上に腰を残すイメージでな」 木柚梨が実演する隣で、日向は反復練習をしている。
「歩くコツは差し当たり、そんなとこだな。 そこを意識して、今日の帰り道から、早速フラット歩行を始めてみるといい」
「うん、分かったよ。 早速やってみる」
「で、トレーニング方法を教えてほしい、って事だな。 まずは手始めに、大腿四頭筋やハムストリングス……あっ、太ももの前と後ろの筋肉をそういうんだが、それらを鍛えるのに、スプリットスクワットをやってもらおうか」 そう言いながら、木柚梨は教壇の上に立つ。
「手を腰に当て、背筋を真っ直ぐに保ちながら、脚を前後に開き、後ろ足の膝を地面すれすれまで落とすようにしゃがみこむ。 はい、やってみて」 木柚梨が手本を見せ、真似するように促す。
「んぐぐぐぐ……こ、こうかな」 日向の脚はぐらぐらと揺れている。
「そうだな。 それを反復する。 筋力が付いてくれば、ぐらぐらも減ってくるから心配するな」
「うん。 根気強く始めてみるよ」
「あと、普通は膝を傷めないよう、前足のつま先より前に膝が出ないようにやるんだが、さっき、上り局面でのコツで、膝を前に出して重心を前に押し出すって言っただろう。 そこで使う筋肉も鍛えないとだめだから、無理のない程度に、そうだな……何回かに一回は、膝をつま先の前にちょっとだけ出すのを混ぜて鍛えてほしい」
「うん。 無理のない程度に、だね」
「それを毎日続けて、ぐらぐらが無くなって安定してきたら、より実践に近い動きを取り入れた、ランジっていう運動に変えていく。 前に一歩踏み出す動きや、後ろに一歩下がる動きを入れながら、スプリットスクワットをするんだ。 時々、私に成果を見せてくれ」
「分かったよ。 アドバイス、ありがとう、きゆりちゃん」
更にその翌日、学校にて。
「ひむちゃん、私たちの誕生日、来週だよね。 ひいかが日曜日で、ひむちゃんが木曜日」 隣の席の火雷が日向に声を掛ける。
「そっかぁ、もうすぐだね、今年の誕生日」
「最近、ひむちゃんの家にばっかお邪魔してるから、今度はひいかの家で二人の誕生日会、っていうのはどうかな」
「ひいちゃんの家?! 招待してくれるの? そりゃ、嬉しいよ。 行くの初めてだし」
「そう、この歳になるまで、一回もひいかの家に招待した事なかったな、って。 実は、ママにはもう相談したんだーー。 もちろん大歓迎だよ、だって。 でも、その前に一つ、行きたい所があるんだ。 一昨日、一緒にお出掛けしたばっかだから、さすがにまたお出掛けって嫌かなぁ……」 火雷は遠慮がちに尋ねる。
「ううん、私は全然平気。 毎週でも大歓迎だよ。 一体、何処に行きたいの?」
「うん……」 火雷は少し間を置いた後、 「この前行ったばっかだけど、月宮神社に」 と答える。
「お誕生日に神社にお参り、かぁ。 それもいいね!」
「ホントに? 嬉しいよ~~。 ひいか、誕生日を機に、気持ちを入れ替えたいな、って」 火雷の表情がパッと明るくなる。
「何だか意気込みを感じるなぁ。 うん、分かった! 行こ! 誕生日会の件と合わせて、お母さんに相談してみるよ」
「いいの? ひいかのわがままだけど……付き合ってくれて嬉しい! ありがとう、ひむちゃん!」
その夜、リビングで日向は明美にその件について相談する。
「ひむかの為に色々と尽くしてくれてるんだから、そのお礼も兼ねて、ひいかちゃんの希望、聞いてあげなさい」
「ありがとう、お母さん。 楽しんでくるよ」 日向は許しをもらえてワクワクしている。
「気を付けて行ってくるのよ。 しっかり準備してね」 そう言って、明美は立ち上がる。
日曜日の朝、日向と火雷は、先日と同じ参道を通って、月宮神社に向かう。
「そう言えば、この前からひむちゃん、歩き方変えてるよね。 何っていうか、ベタベタ歩いてるような……」
「やっぱ、ひいちゃんは観察眼が鋭いなぁ。 きゆりちゃんに登山する時の歩き方を教えてもらったの。 背筋を真っ直ぐ、っていうのもね」
「へぇ~~、ひいかもそれ、真似していい?」
「もちろん。 ま、ただの受け売りなんだけどね」
神社に到着すると、何やらイベントが開催されているようで、社務所の隣にある舞台で、舞が披露されているところだった。
三人の巫女が、手に扇を持ち、綺麗な髪飾りを付け、パリッとした衣装をまとって、和風な演奏をバックに舞っている。
「ゆったりしてて、優雅な舞だなぁ。 境内で見る巫女さんの落ち着いたたたずまいとは違った魅力を感じるよ」 日向はその動きに見惚れている。
「ほんと、見てると神聖な気持ちになるよ。 何だか早速、誕生日をお祝いされてる感じ」
「うん。 神様に祝福されてるような感じがするよ。 ひいちゃん、誕生日おめでとう!」
「うん、ありがとう。 ひいか、一足先に16歳になったよ」
「私もすぐ追いかけるからね。 でも……」
「でも?! ひむちゃん、どうしたの?」 火雷は軽く首をかしげて日向を見る。
「私、この舞と音楽、何処かで見たり聞いたりしたような……デジャヴなのかな……。 全く初めてなはずなんだけどなぁ」
「この前、神社に来るの初めてだ、って言ってたよね。 そんな機会……あっ、そう言えば宮司さんが、ほんの小さな頃にお会いした事がある、みたいな事は言ってたけど……」
「うーーん……。 でも、私自身、その当時の事は全く覚えてないからなぁ。 何ていうのかなぁ……本能にすりこまれてる、っていうのか……」
「ひむちゃん、変な事言ってるよ?」 怪訝そうな顔をする火雷の隣で、日向は舞を熱心に眺めているのだった。
前話も今話も、主人公が全く登場しないなんて……こんな事、あっていいのだろうか。
ストーリーに介入する必要が無かった、と判断してやってください(笑)。




