4-13 存在が……消えた?!
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
水鶴は日向と火雷を乗せたカヌーを、波打ち際と島の中間点の辺りまで小遊覧させた後、再び波打ち際まで戻ってくる。
「ありがとうございました! 乗り心地も、そよ風も、凄く快適で楽しかったです」 日向がそう言って頭を下げると、火雷もそれに倣う。
「楽しんでくれて良かった。 マリンスポーツに興味を持ってくれて、競技者の私も嬉しいわ」 水鶴は日向たちを満足させる事ができて、達成感を感じているようだ。
「あのっ、みづるさん、またここに来てもいいですか?」 日向が尋ねると、 「そうね、私の手が空いてる時なら、声を掛けてくれれば付き合えるかもしれないわ」 と、水鶴は前向きに答える。
日向は嬉しさのあまり、 「今度は、カヌーを漕いでみたいです。 その時はよろしくお願いします。 では、また」 と、ちょっと強引なお願いをしつつ、頭を下げる。
「あの、ひいかもまたカヌーに乗りたいです。 また、よろしくお願いします」 火雷は冷静に頭を下げる。
「うん、分かったわ、二人とも。 またね、ひむか、ひいか」 水鶴は右手を挙げて、二人に別れを告げる。
日向と火雷は、ベンチに座って、ずっとこちらを眺めていた明美の方へと駆けていく。
「お母さん、カヌー体験、楽しかったよ~~。 今日は乗ってるだけだったけど、今度は実際に漕いでみたいなぁ」
「あらら、早歩きといい、カヌーといい、ひむかが身体を動かす事に興味を持つなんてねぇ」 明美は少し驚きながらも、嬉しそうな表情を見せる。
「じゃぁ、そろそろ温泉に向かうとしますか」
棗海岸駅から西方面に一駅……棗温泉駅に降り立つ三人。
ここは砂蒸し風呂で有名で、遠くからの観光客も多いが、今日は比較的空いている。
温泉施設は駅から徒歩3分。
三人は受付を済ませ、階下にある脱衣所へ向かう。
(ねぇ、初代、ここでも私、ちょっと試してみたい事があるの。 私の時もそうだったけど、日向は風呂に入る時は、服を脱ぐ前に必ず星月を解放するよね。 それは、星月が男の子かもしれない、っていう思いがあるからなんだけど、もし女の子だよ、って伝えられたら、日向の行動に何か変化が与えられるのかな、って)
((……おーーっ、このタイミングでそこに思い至るとは、ホントに現役は勘が鋭いっていうか……))
(えっ?! その言い方、初代はどう変化するのか知ってるのね)
((……あっ! ちょっと口が滑っちゃったかな。 でも、現役が自発的に発案した後だったから、検閲には引っかからなかったでしょ。 やってみなよ))
(うん! 何だか、凄くやる気が出てきたよ!)
日向が星月をロッカーの中に降ろそうと、右腕を伸ばしてしまう前に、星月は行動を起こす。
「あわわ、またほつきが動き出したよ。 何か、今度は凄く動きが大きい~~。 右肩から左肩をビシバシ往復しだしたよ。 これは……」
日向の隣で上着を脱ぎ始めていた火雷は、 「また何かを伝えようとしてるのかな、ほつきさん。 さっき、海岸ではああして、ああだったから……もしかして、イヤイヤしてるんじゃないかな」 と、想像した答えを日向に返す。
「えっ?! イヤイヤしてるの、これ? って事は、降ろされたくない、と。 でも、ほつきの目の前で服を脱ぐのは嫌だよ~~。 だって、男の子かもしれないもん」
(ほら、きた。 ひいちゃん、どうか私のアピール、上手く感じ取って!!)
「わわわ、さっきより往復するスピードが上がったよ。 これは、ひいちゃん的に考えると、全力イヤイヤなのかな?」 日向がちょっと自力で考えてみる。
「うーーん……そうかもしれないけど……じゃぁ、言い方を変えて尋ねてみるね。 ほつきさんって、女の子なのかな?」 日向の肩の辺りを見ながら、火雷が話し掛ける。
(おーーっ、さすがひいちゃん、分かってくれるぅ)
「星月がクルクル回り出したよ。 これは……」
「さっき、海岸でも同じ動きしてたよね。 あの時はああだったから……きっと、そうそう! って事じゃない?」
「へぇ~~、ほつきって女の子なの? ホントにそうなら、私の右手の上に行って、そこでクルクル回ってみてよ」
(日向、私を試してる?! 動き回るの、凄くエネルギーを使うんだからね~~。 でも、ここは頑張りどころだから!)
「わぁ~~、ホントに右手の上でクルクル回りだしたよ! 凄い、私、ほつきと会話が出来たみたい!!」 日向は嬉々として、星月に話し掛ける。
「って事は、ほつきは肩から離れたくない、風呂に付いていきたい、って事を言いたいのね? ……分かったよ。 恥ずかしいけど」
日向は星月を右肩に乗せたまま、服を脱ぎ始める。
(じゃ、私は目的も果たせた事だし、右肩に戻ろうかな。 動き回って、凄く疲れたよ……)
上下の着衣を脱ぎ、下着も脱ぎ、靴下も脱いだ時……隣で浴衣への着替えを済ませ、日向を待っていた火雷が、びっくりした表情で日向の方を見ている。
「えっ?! えーーっ! ひむちゃん? ひむちゃーーん!!」
「何、何?! どうしたの、ひいちゃん、そんなにびっくりして。 目の前でそんな大声出されたら、私もびっくりするよ」
「何処? 何処に行ったの?!」 火雷は両腕を日向の方に向けてぶんぶん振り回し始める。
「きゃーーっ、ひいちゃん、危ないよーー、そんなぶんぶん腕を……って、あれっ? 腕が私の身体の中をすり抜けてるっ!! な、何、これ!!」
日向も、火雷を落ち着かせようと、両腕で彼女の身体を抱え込もうとするが、触れる事が出来ない。
「おばさまーーーー!」 浴衣への着替えを早々に済ませ、先に外に向かっていった明美の所へ、火雷は走り出して行ってしまった。
「ひいちゃん、完全にパニクってたけど、一体何が起こったっていうの? それも気になるけど、ほつき……ほつきの重みを肩に感じるよ。 って事は……」 日向は独り言を言いながらも、星月をそっと触ろうとする。
「さ、触れる! ほつきに触れるよ!!」
(えっ?! これってどういう事?! 星月が実体化した、って事?)
((大きな難題を乗り越えたんだよ、現役は。 星月を解放せずに、日向が現世に存在するものを全て手放した時、この現象が起きる事を遂に見出したんだよ))
(ちょっとした思い付きだったのに……こんな大きな謎が隠されてたなんて)
日向は星月を肩に乗せたまま浴衣をまとう。
「あれっ?! ほつきの重みを感じなくなった気がする」 またも日向は独り言を言いながらも、星月をそっと触ろうとする。
「あれっ、触れない……もう、訳が分かんないよ……」
気を取り直して、大きめのタオルを手に外へ出て、火雷たちの後を追う。
物語は大きな局面に差し掛かりました。
性的な表現を規約にかからない程度に控えるよう意識しました。




